BMW・M52エンジン
BMW・M52エンジンとは、BMWの直列6気筒DOHCエンジンの系列である。
1994年から-2000年にかけて製造された。同エンジンはE36 320iにM50エンジンの置き換えとして搭載され、2000年頃からM54エンジンに置き換わっていった。
概要
[編集]以前のM50エンジンと比較すると、M52エンジンはアルミブロックを使用していることが挙げられる。(北アメリカで生産されたものは鋳鉄ブロック(BMW・Z3を含む))基本的にはM50TUエンジンの改良型であり、M50TUエンジン同様インテークカムシャフトへの可変バルブタイミング機構 (single VANOSとBMWは呼称している)を搭載している。
1998年にM52TU ("TU=テクニカルアップデート") がリリースされ、エキゾーストカムシャフトへの可変バルブタイミング機構 (dual VANOSとBMWは呼称している)が機能として新たに追加された。他の変更としては電子制御スロットル (スロットルケーブルはバックアップとして使用)[1]、 2重長インテークマニホールド (DISAとBMWは呼称している) 、改良されたシリンダーライナーを使用している[2]。
北米ではM52エンジンをベースとしたS52エンジンがE36 M3 やZ3に搭載して1996-1999年にかけて販売された。また、このエンジンのブロックをベースにアルピナは自社でチューニングを行った。
M52エンジンとS52エンジンはWard's 10 Best Enginesに1997年から2000年までリストインしていた[3]。
モデル
[編集]エンジン
形式 |
内径 | パワー | トルク | レッド
ゾーン |
ボア | ストローク | 圧縮比 | 生産 開始年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M52B20 | 1,991 cc (121 cu in) | 110 kW (150 bhp) @ 5,900 | 190 N⋅m (140 lb⋅ft) @ 4,200 |
6,500 | 80 mm (3.1 in) | 66 mm (2.6 in) | 11.0 | 1994 |
M52TUB20 | 110 kW (148 hp) @ 5,900 |
190 N⋅m (140 lb⋅ft) @ 3,500 |
6,500 | 80 mm (3.1 in) | 66 mm (2.6 in) | 11.0 | 1998 | |
M52B25 | 2,494 cc (152 cu in) | 125 kW (168 hp) @ 5,500 |
245 N⋅m (181 lb⋅ft) @ 3,950 |
6,500 | 84 mm (3.3 in) | 75 mm (3.0 in) | 10.5 | 1995 |
M52TUB25 | 125 kW (168 hp) @ 5,500 |
245 N⋅m (181 lb⋅ft) @ 3,500 |
6,500 | 84 mm (3.3 in) | 75 mm (3.0 in) | 10.5 | 1998 | |
M52B28 | 2,793 cc (170 cu in) | 142 kW (190 hp) @ 5,300 |
280 N⋅m (210 lb⋅ft) @ 3,950 |
6,500 | 84 mm (3.3 in) | 84 mm (3.3 in) | 10.2 | 1995 |
M52TUB28 | 142 kW (190 hp) @ 5,500 |
280 N⋅m (210 lb⋅ft) @ 3,500 |
6,500 | 84 mm (3.3 in) | 84 mm (3.3 in) | 10.2 | 1998 |
M52B20
[編集]1,991 cc (121 cu in) で1994年にリリースされた。ボアは80 mm (3.1 in) 、ストロークは66 mm (2.6 in)[4]。
搭載車両:
M52TUB20
[編集]1998年リリースのテクニカルアップテート(TU)版でdual VANOSにより低回転トルクが増した。
搭載車両:
- 1998-2000 E46 320i, 320Ci
- 1998-2000 E39 520i
- 1999-2000 E36/7 Z3 2.0i
M52B25
[編集]2,494 cc (152 cu in) で1994年にリリースされた[5]。125 kW (168 hp)を発生し、ボアは84 mm (3.3 in) 、ストロークは
75 mm (3.0 in)。
搭載車両:
M52TUB25
[編集]1998年にリリースされたテクニカルアップデート(TU)版。dual VANOSにより低回転トルクが増した。
搭載車両:
- 1998-2000 E46 323i, 323ci, 325i
- 1998-2000 E39 523i
- 1998-2000 E36/7 Z3 2.3i
M52B28
[編集]2,793 cc (170 cu in) で1995年に登場した。ボアは84 mm (3.3 in)、ストロークは84 mm (3.3 in)で最高出力は142 kW (190 hp)[7]
搭載車両:
- 1995-1998 E36 328i, 328is
- 1995-1998 E39 528i
- 1995-1998 E38 728i, 728iL
- 1997-1998 E36/7 Z3 2.8
M52TUB28
[編集]1998年にリリースされたテクニカルアップデート(TU)版で、dual VANOSにより低回転トルクが増した。
搭載車両:
- 1998-2000 E46 328i, 328Ci
- 1998-2000 E36/7/8 Z3 2.8
- 1998-2000 E39 528i
- 1998-2000 E38 728i
S52
[編集]S52B30エンジンは、M52のハイパワーバージョンで、S50B30エンジンの代わりに1996-1999年にわたって北米のE36M3に使用された。S50B30ほど高出力ではなかった。鋳鉄のシリンダーブロックとアルミ製シリンダーヘッドを採用し、シングルVANOS仕様であった。排気量は3,152ccでボア・ストロークは、86.4mm×89.6mm。出力は6,000 rpmで240 hp(179 kW)、トルクは3,800 rpmで236 lb・ft(320 N・m)であった。M52からは、軽量カムシャフト、ピストンリング、バルブスプリング、排気システムが変更されている。また、当エンジンのブロックを基にアルピナは自社でチューニングを行っていた。
- 1996-1999 E36 M3(カナダおよび米国のみ)
- 1998-2000 E36 / 7/8 Z3M(カナダおよび米国のみ)
ニカシル問題(硫黄を含むガソリンによる摩耗異常)
[編集]ニカシル(Nikasil)とは、エンジン部品、主にピストン、エシリンダーライナー用の親油性の電着表面コーティングの商標で、ニッケル合金炭化ケイ素コーティングのことである。
アルミニウムブロックを採用したM52エンジンは、1990年代後半に、ガソリンに高レベルの硫黄が含まれている環境でクレームを受けた。硫黄はニカシル処理をしたシリンダーライナー等を腐食してしまい、ボアライナーの早期摩耗等で多くの初期のM52およびM60エンジンのダメージに繋がった[8][9][10]。
BMW Z3で使用しているアメリカ合衆国で製造されたM52エンジンは鋳鉄ブロックを採用しているため(M52B28を使用しているZ3を除く:同エンジンはアルミニウムブロックを採用)、ニカシル問題の影響は出ない。
高硫黄ガソリン市場向け(主に発展途上国)エンジンの最終的なニカシル問題対策は、アルミニウムブロック内のシリンダーライナーの改良で対応した[11]。 シリンダーライナーを除いて、M52エンジンの基本的なアルミニウムブロックはすべてのマーケットで同一だったものの、シリンダーライナーとボアライナーは改良をしていないものでは影響が大きかった[12][13]。
M52TUエンジン(全マーケットでアルミニウムブロックを使用) ではシリンダーライナーを改良しニカシル問題の影響は受けない。
出典
[編集]- ^ “Engine Management Systems – SIEMENS MS 42.0 Engine Control System”. pp. 51. 27 September 2015閲覧。
- ^ http://www.unixnerd.demon.co.uk/m50.html
- ^ “Wards 10 best engine”. Wardsauto.com. 2012年11月23日閲覧。
- ^ “BMW Heaven Specification Database | Engine specifications for M52 engines”. Bmwheaven.com. 2012年11月18日閲覧。
- ^ “BMW Heaven Specification Database | Engine specifications for M52 engines”. Bmwheaven.com. 2012年11月18日閲覧。
- ^ Real-OEM
- ^ “BMW 328i, 1999 E46 technical specifications 96228”. Carfolio.com. 2012年11月18日閲覧。
- ^ BMW World - Nikasil, Usautoparts.net, オリジナルの2013-11-02時点におけるアーカイブ。 2012年11月18日閲覧。
- ^ BMW Classics - http://www.bmwclassics.co.uk/about/index.html.+“BMW Classics Ezine - News, Reviews & Cars for Sale”. Bmwclassics.co.uk. 2012年11月18日閲覧。
- ^ “Engine components / basic engine - Crankcase”. bimmernut.com. 2007年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月1日閲覧。
- ^ Simon Worby, Lestac Ltd (2002年). “The BMW Nikasil issue”. lestac.co.uk. 2005年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月1日閲覧。
- ^ “BMW World - Nikasil”. Usautoparts.net. 2013年11月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年11月18日閲覧。
- ^ “BMW World - M52 Engine”. Usautoparts.net. 2012年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年11月22日閲覧。
関連項目
[編集]- BMW エンジン形式一覧
- BMW M50エンジン(前世代)
- BMW M54(次世代)