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EMドライブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
EMドライブの実験装置

EMドライブ: EM-driveelectromagnetic drive)は、イギリス航空宇宙技術者のロジャー・ショーヤー (Roger Shawyer) が考案した宇宙機の推進方法[1]ロケットエンジンなどの既存の推進機関とは異なり、推進剤なしで推力を生み出すとされた[1]。EMドライブは、サテライト・プロパルジョン・リサーチ社[2]により2001年に発表された[3]Radio frequency resonant cavity thruster無線周波数共振空洞推進器)とも。しかし後の追試の結果、EMドライブの推力とされたものは外部の力を誤検出したものであったと結論されている[4]

概要

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EMドライブは、マイクロ波を円錐形の[要出典]鏡の密閉容器内で反射させるという機構からなるシステムである[1]。EMドライブの原理では、既存のロケットエンジンイオンエンジンが推進剤を噴射する反作用で加速するのとは異なり、推進剤を用いず推進力が得られるとされていた[1]。これは、太陽電池などで電力を確保できれば、半永久的に加速が続けられることを意味しており、実現するのであれば画期的な推進機関になると考えられた[1]

一方で、外部とのやり取りをせずに推進力を得られるという主張に対しては、当初から運動量保存の法則に反しているとの激しい批判も寄せられていた[5]永久機関や異星人の宇宙船、反重力装置などの疑似科学の一種だとする科学者も多く、英国政府の援助も早期に打ち切りとなっていた[5]

2016年、推力発生のメカニズムにウンルー効果が関わっているのでないかという仮説が提案された[6][7]。ただし、この仮説は光子が質量を持ち、真空中の光速が変化するとする仮定に立脚しているため、主流科学とは大きく乖離していた[6]

複数の研究機関が追試を試み、推力が観測されたと報告されたこともあったが、最終的にドイツドレスデン工科大学での追試により、EMドライブの推力とされたものは外部の力を誤検知したものだったことが確認され、終焉を迎えた[4]

検証実験

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EMドライブの追試は、複数の研究機関により試みられた。

中国での追試

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中国の西北工業大学の研究チームは2010年、2.5 kW の電力を使用したシステムで720 mN の推力を生み出すことに成功したと発表した[8][3]

2016年12月、Yue Chenは、中国科技日報の記者に、チームが同地で5年間の資金調達を受けEMドライブを軌道上でテストを行っていたと語った。Chenは、プロトタイプの推力は「マイクロニュートン〜ミリニュートン」のレベルであり、決定的な実験結果を得るために少なくとも100-1000mNまでスケールアップしなければならないと指摘した。それにもかかわらず、彼の目標はドライブの検証を完遂し、その技術を「できるだけ早く」衛星技術の分野で利用できるようにすることだと述べた。[9][10][11][12][13]

米国での追試

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2014年、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のイーグルワークス・チームは、西北工業大学と同様のエンジンで実験を行った結果、中国チームによる報告の一万分の一以下ではあるが、30〜50 μNの推力が発生したことを発表した[14][1]。2015年には、真空チェンバー内でも推力が発生したことが報道されている[15][3]。2016年11月改めてNASAが発表した報告によると1.2±0.1mN/kWの推力を生じるとされている[16][17]

2016年11月、International Business Timesは、米国政府がボーイングX-37BのEMドライブ版をテストしていると報道した。[18][19]

ドイツでの追試

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一方で、2018年5月に発表されたドイツドレスデン工科大学による追試結果では、同じくEMドライブから4 µNの推力が観測されたものの、EMドライブの向きを90度変えても、またEMドライブを稼働させず実験装置のみを起動させた状態でも同じ推力が観測されてしまったことが報告されている。研究チームはこの結果について、EMドライブの推力とされてきたものは、地球の磁場と電源ケーブルの電磁相互作用によって生じた力ではないかと分析している。[20][21]

ドレスデン工科大学ではその後も研究が続けられ、2021年にはエンジンの熱による装置の歪みでNASAの追試で発生した推力も再現できたことと、そして観測装置の改善によりその推力が発生しなくなったことを発表した[4]

脚注

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  1. ^ a b c d e f 「ありえない」半永久エンジン、NASAの研究で動く”. ギズモード (2014年8月4日). 2015年6月14日閲覧。
  2. ^ : Satellite Propulsion Research Ltd (SPR)
  3. ^ a b c NASA: 推進剤を必要としない宇宙船用新推進機関の実験に成功”. businessnewsline (2015年5月). 2015年6月14日閲覧。
  4. ^ a b c Scientists Just Killed the EmDrive” (英語). Popular Mechanic (2021年3月31日). 2021年4月5日閲覧。
  5. ^ a b 中国の研究者チーム、「不可能」とされてきた電磁推進の成功を主張”. WIRED (2008年9月29日). 2015年6月14日閲覧。
  6. ^ a b The Curious Link Between the Fly-By Anomaly and the “Impossible” EmDrive Thruster”. MIT Technology Review. 2016年10月4日閲覧。
  7. ^ Mcculloch, M. E. (2015). “Testing quantised inertia on the emdrive”. EPL (Europhysics Letters) 111 (6): 60005. arXiv:1604.03449. doi:10.1209/0295-5075/111/60005. 
  8. ^ Yang Juan; Yang Le; Zhu Yu; Ma Nan (12 2010). “Applying Method of Reference 2 to Effectively Calculating Performance of Microwave Radiation Thruster” (PDF). Journal of Northwestern Polytechnical University (Satellite Propulsion Research Ltd.) 28 (6). http://www.emdrive.com/NWPU2010translation.pdf. 
  9. ^ Russon, Mary-Ann (13 December 2016). “EmDrive: Chinese space agency to put controversial tech onto satellites 'as soon as possible'”. International Business Times. http://www.ibtimes.co.uk/emdrive-chinese-space-agency-put-controversial-tech-onto-satellites-soon-possible-1596328 15 December 2016閲覧。 
  10. ^ Russon, Mary-Ann (14 December 2016). “EmDrive: These are the problems China must fix to make microwave thrusters work on satellites”. International Business Times. http://www.ibtimes.co.uk/emdrive-these-are-problems-china-must-fix-make-microwave-thrusters-work-satellites-1596487 15 December 2016閲覧。 
  11. ^ 操秀英 (11 December 2016), “电磁驱动:天方夜谭还是重大突破 我国正开展关键技术攻关,争取5年内实现工程应用” (Chinese), Science and Technology Daily, http://digitalpaper.stdaily.com/http_www.kjrb.com/kjrb/html/2016-12/11/content_357004.htm 15 December 2016閲覧。 
  12. ^ Yan, Li (21 December 2016). “Mars could be getting closer and closer, if this science isn’t m”. China News Service (中国新闻社). http://www.ecns.cn/2016/12-21/238503.shtml 21 December 2016閲覧。 
  13. ^ EmDrive: China Claims Success With This "Reactionless" Engine for Space Travel”. popsci.com. Popular Science (December 20, 2016). 21 December 2016閲覧。
  14. ^ Anomalous Thrust Production from an RF Test Device Measured on a Low-Thrust Torsion Pendulum”. アメリカ航空宇宙局 (2014年7月28日). 2015年11月9日閲覧。
  15. ^ Evaluating NASA’s Futuristic EM Drive”. NASASpaceFlight.com (2015年4月29日). 2015年11月9日閲覧。
  16. ^ MATT BURGESS; MAYUMI HIRAI , HIROKO GOHARA/GALILEO (2016年11月25日). “常識破りの推進システム「EMドライヴ」は実現可能:NASA研究チーム発表”. WIRED. 2017年2月1日閲覧。
  17. ^ White, Harold; March, Paul; Lawrence, James; Vera, Jerry; Sylvester, Andre; Brady, David; Bailey, Paul (17 Nov 2016). “Measurement of Impulsive Thrust from a Closed Radio-Frequency Cavity in Vacuum”. Journal of Propulsion and Power: 1–12. doi:10.2514/1.B36120. ISSN 0748-4658. https://doi.org/10.2514/1.B36120. 
  18. ^ Russon, Mary-Ann (7 November 2016). “Space race revealed: US and China test futuristic EmDrive on Tiangong-2 and mysterious X-37B plane”. International Business Times. http://www.ibtimes.co.uk/space-race-revealed-us-china-test-futuristic-emdrive-tiangong-2-mysterious-x-37b-plane-1590289 15 December 2016閲覧。 
  19. ^ Weinhoffer, Michael (14 November 2016). “USAF X-37B: America's Secret Unmanned Space Shuttle”. The Avion Newspaper. http://theavion.com/usaf-x-37b-americas-secret-unmanned-space-shuttle/ 15 December 2016閲覧。 
  20. ^ 燃料いらずの夢の宇宙エンジン、第三者が初の検証”. ナショナルジオグラフィック (2018年5月25日). 2018年5月29日閲覧。
  21. ^ The SpaceDrive Project - First Results on EMDrive and Mach-Effect Thrusters”. ResearchGate (2018年5月). 2018年5月29日閲覧。

関連項目

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