Elektronika MK-61
Elektronika MK-61 (ロシア語: Электроника МК-61) は、1983年から1994年までの間にソ連で製造されたRPNプログラム電卓である。[1][2] 当初の販売価格は85ルーブルであった。[3]
Elektronika MK-61は、15本のデータメモリ[4]と105ステップのプログラムメモリ[5]を備えたプログラム電卓である。4レベルのスタックとLastXレジスタを備えたRPN電卓でもある。 間接指定機能が豊富であり、しかも内部コードの半数超を間接指定命令で占めており、間接指定機能を重視していることが窺える。[6]しかしながら、間接指定時のデータメモリの直交性は考慮されていない。(特徴の項を参照)
概要
[編集]- スタック
- スタックレベル: 4レベル(X、Y、Z及びT)[8]
- スタック操作機能: 「В↑」(ヒューレット・パッカード社(以下「HP」と略す)の電卓における「ENTER↑」に相当)、「⇔」(HP電卓の「X<>Y」に相当)、「↑○↓」(HP電卓の「R↓」に相当)[9]
- データメモリ
- 数学機能
- プログラム
- プログラムメモリ: 105ステップ[5]
- プログラム機能: 無条件ジャンプ「БП」[12]、条件ジャンプ(「X<0」,「X=0」,「X≧0」,「X≠0」)[13]、ループ支援(RG0用「L0」,RG1用「L1」,RG2用「L2」,RG3用「L3」)[14](プログラム例の項を参照)、サブルーチンコール「ПП」[15]、サブルーチンからのリターン「В/0」[16]、停止「С/П」[17]、など
- プログラム編集機能: プログラム編集モード移行「ПРГ」、実行モード移行「АВТ」[18]、ステップ進む(FST)「→ШГ」、ステップ戻る(BST)「←ШГ」[19]、など
- プログラム実行機能: 先頭アドレス00へ移動「В/0」[20]、実行・中断「С/П」[17]
- プログラムアドレス指定: 絶対アドレス。先頭のアドレスが「00」であり、最後が104であるが、100から104までのアドレスは「-0」、「-4」等と表示される。[21][22]
- ハードウェア
- スライドスイッチ: 2個。左側が電源スイッチで、右側が角度単位指定スイッチ(Р:ラジアン、ГРД:グラード、Г:度)となっている。[24]
- 入力装置: 30キー(写真参照)。キーストロークが浅く、キーを押した感覚はほとんどないものを使用している。シフトキーが2個あり、第1シフトキーが「F」、第2シフトキーが「К」となっている。[4]「К」キーは間接指定にも用いる。
- 表示装置: VFD 12桁。表示桁の配置は、左から、仮数の負号用1桁、仮数用8桁、指数の負号などに使用する1桁、指数用2桁となっている。仮数負号桁と指数負号桁には数字は表示できない。従って、数字用だけであれば10桁である。
- 電源: А-316(単三形)電池3本[25] 又は 専用ACアダプタД2-10М(D2-10M)(220V50Hz専用)[5]
- メモリの揮発性: スタック、データメモリ、プログラムの記憶域は、全て揮発性である。
特徴
[編集]データメモリと間接指定時の動作
[編集]MK-61は15本の汎用データメモリレジスタを備えているが、間接指定時の動作にはレジスタ毎に下表の通り差異がある。[26]
レジスタ 名 |
レジスタ 番号 |
レジスタ コード[22] |
押下 キー |
間接指定時の動作 |
---|---|---|---|---|
RG0 | 0 | 0 | 0 | デクリメント後アドレス評価 または[27] アドレス評価後デクリメント[28] |
RG1 | 1 | 1 | 1 | |
RG2 | 2 | 2 | 2 | |
RG3 | 3 | 3 | 3 | |
RG4 | 4 | 4 | 4 | インクリメント後アドレス評価 |
RG5 | 5 | 5 | 5 | |
RG6 | 6 | 6 | 6 | |
RG7 | 7 | 7 | 7 | アドレス評価のみ |
RG8 | 8 | 8 | 8 | |
RG9 | 9 | 9 | 9 | |
RGa | 10 | - | . | |
RGb | 11 | L | /-/ | |
RGc | 12 | [ | ВП | |
RGd | 13 | Г | СХ | |
RGe | 14 | E | В↑ |
(間接指定のプログラム例)[29]
プログラム アドレス |
キー入力 | 命令 コード[22] |
説明 |
---|---|---|---|
00 | 「4」 | 04 | 4を置数 |
01 | 「В↑」 | 0E | ENTER↑ |
02 | 「К」「БП」「3」 | 83 | RG3の内容をデクリメント後、RG3の値のアドレスへジャンプ |
03 | 「F」「√」 | 21 | 平方根 |
04 | 「2」 | 02 | 2を置数 |
05 | 「+」 | 10 | 加算 |
06 | 「К」「БП」「4」 | 84 | RG4の内容をインクリメント後、RG4の値のアドレスへジャンプ |
07 | 「+」 | 10 | 加算 |
08 | 「3」 | 03 | 3を置数 |
09 | 「×」 | 12 | 乗算 |
10 | 「К」「БП」「a」 | 8- [21] | RGaの値のアドレスへジャンプ |
11 | 「-」 | 11 | 減算 |
12 | 「С/П」 | 50 | 停止 |
プログラム実行前に
「5」「X→П」「3」 |
「7」「X→П」「4」 |
「1」「2」「X→П」「a」 |
として、RG3に5を、RG4に7を、RGaに12を入れておく。
「В/0」(プログラムの先頭アドレス00に移動)、「С/П」(プログラム実行)を押してプログラムを実行すると
18 |
という結果が表示される。これは、(4+2)×3の演算結果である[30]が、上記のプログラムを見ても なかなか わかりにくい。
アドレス02の間接ジャンプでは、実行前にRG3に入れた値の「05」ではなく、デクリメントされた「04」のアドレスへジャンプしている。 同様に、アドレス06の間接ジャンプでは、実行前にRG4に入れた値の「07」ではなく、インクリメントされた「08」のアドレスへジャンプしている。 ただし、アドレス10の間接ジャンプでは、RGaの値「12」のアドレスにそのままジャンプしている。
その結果、アドレス「03」「07」「11」のコマンドは飛ばされて実行されないことになる。
演算・関数
[編集]1. 「max」は、スタックXとスタックYのうち値の大きい方を返す演算(アリティが2の最大値関数)である[31]が、以下の注意点がある。
- スタックXとスタックYの少なくとも一方がゼロである場合はゼロが返される。オペランドの片方がゼロで、もう片方が正数である場合には、返される値ゼロは最大値ではない。
- 返された値はスタックXに上書きされるだけで、スタックの下降はしない。スタックYに演算前のオペランドの片方が残っている。
2. 「xy」は、冪乗(累乗)演算である[32]が、HP電卓の「yx」とはオペランドの順番が逆となっている。[33]
プログラム例
[編集]2 以上 69 以下の指定した整数の階乗を計算するプログラムの例を示す。
プログラム アドレス |
キー入力 | 命令 コード[22] |
説明 | スタック |
---|---|---|---|---|
00 | 「X→П」「0」 | 40 | スタックXの値をRG0にストア | - |
01 | 「1」 | 01 | 1を置数 | 上昇 |
02 | 「П→X」「0」 | 60 | RG0の値をリコール | 上昇 |
03 | 「×」 | 12 | 乗算 | 下降 |
04 | 「F」「L0」 | 5Г [21] | RG0の値が 2<=RG0 ならば、RG0をデクリメントし、命令の2バイト目で指定されたアドレス(ここでは02)へジャンプする。 RG0の値が 1<=RG0<2 の範囲ならば次の命令のアドレス(ここでは06)へ進む。[34] |
- |
05 | 「0」「2」 | 02 | ||
06 | 「С/П」 | 50 | 停止 | - |
「ПРГ」でプログラム編集モードに入り、上記プログラムを入力する。「АВТ」で実行モードに戻り、計算したい数値を、例えば、
6 |
などと入力し、「В/0」で先頭アドレス00へ移動し、「С/П」でプログラムを実行すると、暫く[35]して、結果が、
720 |
のように表示される。
ギャラリー
[編集]-
裏面
-
ロシア語マニュアル [38]
-
メイン基板(表)
-
メイン基板(裏)と電源基板(表)
-
電源基板(裏)
-
回路図
脚注
[編集]- ^ РУКОВОДСТВО ПО ЭКСПЛУАТАЦИИ МК 61 МИКРОКАЛЬКУЛЯТОР (ロシア語マニュアル 21ページ簡約版) Электроника, 1993年 - ロシア語マニュアルの写真の右側
- ^ РУКОВОДСТВО ПО ЭКСПЛУАТАЦИИ МК 61 МИКРОКАЛЬКУЛЯТОР (ロシア語マニュアル 174ページ詳細版 889-30000) Электроника - ロシア語マニュアルの写真の左側
- ^ ギャラリーにある裏面の写真を参照。写真の電卓は1993年1月製造のものであるが、「ЦЕНА 85РУБ」 (価格 85ルーブル) と記載がある。この記載は後から印刷や刻印をしたものではなく、製造時に最初から成形されている。
- ^ a b c 簡約版 P2
- ^ a b c d 簡約版 P1
- ^ 詳細版 P89-P95
- ^ 簡約版 P4
- ^ 詳細版 P61-P74
- ^ 詳細版 P63-P65
- ^ a b 詳細版 P74-P80
- ^ 詳細版 P80-P82
- ^ 詳細版 P110-P111
- ^ 詳細版 P111-P112
- ^ 詳細版 P139-P142
- ^ 詳細版 P113-P114
- ^ 詳細版 P114
- ^ a b 詳細版 P107-P109
- ^ 詳細版 P109
- ^ 詳細版 P105-P106
- ^ 詳細版 P103
- ^ a b c 16進数字の「a」,「b」,「c」,「d」,「e」,「f」の代替表示は「-」,「L」,「[」,「Г」,「E」,(無点灯)となっている
- ^ a b c d 詳細版 P84
- ^ 詳細版 P114-P136
- ^ 簡約版 P3
- ^ 簡約版 P9
- ^ 詳細版 P114-P119
- ^ 後述の「間接指定のプログラム例」を見ると「デクリメント後アドレス評価」と考えられるが、階乗の「プログラム例」を見ると「アドレス評価後デクリメント」と考えられる。難しい電卓である。
- ^ 「アドレス評価後デクリメント」動作をする ― という記述がある文献も存在する。“Elektronika MK-61 User Guide”. Vintage Electronic Calculator Manuals. 2021年4月23日閲覧。
- ^ 詳細版 P116
- ^ 詳細版 P117
- ^ 詳細版 P52
- ^ 詳細版 P51-P52
- ^ 対数機能と冪乗機能を1つのキーで共用している機種ではRPN電卓でなくとも冪乗機能を「xy」としている場合がある。このような機種(例えば、CASIO fx-20)では、まず X の置数後「ln/xy」を押すと、 lnX の計算が行われ結果を表示する(これで、 lnX の機能は完了)。この後 Y を置数し「=」を押すと lnX の計算結果に Y を乗じ、その結果に対し指数関数を計算し表示する。即ち、 XY=eln(XY)=e(lnX)×Y である。
- ^ RG0の値が RG0<1 の場合は、動作は不定となる。実際は特定の値には特定の動作が対応するのであるが、そのアルゴリズムが不明であるため、不定な動作に見える。
- ^ 入力「6」の出力「720」が表示されるまで6秒ほど、入力「69」の出力「1.7112245 98」が表示されるまで65秒ほどかかった。
- ^ 左のMK-61は1993年1月製造機で、右のMK-61は1993年12月製造機である。キートップの文字などに若干の違いが見られる。
- ^ 左のMK-61はアドレス04の入力プロンプト状態となっていて、アドレス03、02、01の命令コードが「01」、「02」、「03」と表示されている。右のMK-61も同様にアドレス08の入力プロンプト状態となっていて、アドレス07、06、05の命令コードが「05」、「06」、「07」と表示されている。
- ^ 詳細版(左)と簡約版(右)とで同じ表紙を使用している。