GCD整域
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(GCD環から転送)
数学の代数学における GCD整域(GCDせいいき、英: GCD domain)は、整域 R であって任意のふたつの非零元が最大公約元 (GCD) をもつという性質をもつものである[注 1]。これは R の任意のふたつの非零元が最小公倍元 (LCM) をもつといってもよい[1][注 2]。[注 3]
この文脈において、(「最大」とは言いながら)一般にGCDは唯一でないことに注意すべきである。しかし、任意の二元 a, b に対しそのGCDは、どの二つも互いに同伴、したがって単元を掛ける違いを除いて一意に決まるから、GCDの任意の一つを指す意味で gcd(a, b) と書くことに誤解の虞はないであろう。一方、二元のGCD集合を GCD(a, b) ≔ {c ∈ R | c は a と b との GCD} として定義するならば、gcd(a, b) ∈ GCD(a, b) であり、また GCD(0, 0) = {0} や GCD(1, a) = U(R)(R の単元群)などが成り立つ[2]。 LCMについても同様。
GCD整域は一意分解整域 (UFD) を次のような意味で非ネーターの場合に一般化する:
- 命題
- 整域が UFD であることと、主イデアルについての昇鎖条件を満たすGCD整域であることは同値である。
とくに、ネーター的GCD整域はUFDである。
環のクラスの包含関係に関してGCD整域は以下のような位置にある:
代数的構造 |
---|
性質
[編集]- GCD整域のすべての既約元は素元である。GCD整域は整閉で、すべての非零元はprimalである[3]。言い換えると、すべてのGCD整域はシュライアー整域である。
- GCD整域 R の元 x, y の各組に対して、x と y の GCD d と、x と y の LCM m は、dm = xy であるように選ぶことができる。あるいは別の言い方をすれば、x と y が非零元で d が x と y の任意の GCD であれば、xy/d は x と y の LCM であり、GCD と LCM を入れ替えて同様のことが成り立つ。これにより以下が言える:
- R がGCD整域であれば、多項式環 R[X1, …, Xn] もまたGCD整域であり、より一般に、群環 R[G] は任意の捩れのない可換群 G に対してGCD整域である[4]。
- R がGCD整域となるための必要十分条件は、その有限個の主イデアルの交わりが必ず主イデアルとなることである。とくに (a) ∩ (b) = (lcm(a, b)) が成り立つ。ここで lcm(a, b) は a と b との(任意の)最小公倍元である。
- GCD整域上の一変数多項式 f に対して、そのすべての係数の GCD として内容 (content) c(f) が定義できる。このとき、ガウスの補題と呼ばれる主張が以下の形でGCD整域においても有効である:
- 主張 (ガウスの補題)
- 多項式の積の容量は、多項式の容量の積に等しい: c(fg) = c(f)c(g).
例
[編集]- 一意分解整域は GCD 整域である。GCD 整域の中でも、 一意分解整域はちょうど原子整域 (atomic domain) (つまり任意の0でも単元でもないような元に対して既約元の積への少なくとも1つの分解が存在する)でもあるような整域である。
- ベズー整域(すなわちすべての有限生成イデアルが主イデアルであるような整域)は GCD 整域である。主イデアル整域(これはすべてのイデアルが主イデアル)とは違って、ベズー整域は UFD であるとは限らない。例えば整関数全体のなす環は non-atomic ベズー整域であり、他の例もたくさんある。整域がプリューファー GCD 整域であることとベズー整域であることは同値である[5]
- R が non-atomic GCD 整域であれば、R[X] は一意分解整域でなく[注 4]ベズー整域でもない[注 5]ような GCD 整域の例となる。より一般に任意の環 R[X1, …, Xn] はこれらの性質をもつ。
- 可換モノイド環 R[X; S] がGCD整域となる必要十分条件は、R がGCD整域で S がねじれのない消約的 GCD半群となることである、ここに、GCD半群とは、半群 S であって S の任意の二元 a, b に対し(加法的に書けば)(a + S) ∩ (b + S) = c + S となる c がとれるという性質を持つものを言う。特に G がアーベル群ならば、R[X; G] がGCD整域となる必要十分条件は、R がGCD整域で G にねじれがないことである[6]。
注
[編集]注釈
[編集]- ^ 非零元全体がGCD閉集合 (Weisstein, Eric W. "GCD-Closed Set". mathworld.wolfram.com (英語).)
- ^ このGCDの存在とLCMの存在の同値性は、完備束に関する同様の性質の系ではない。実際、GCD整域 R に対し後述の R/∼ は完備束になるとは限らない。
- ^ ここでいう最大や最小は整除関係による順序に関するものであって、その意味で零元 0 は除外して考えるのが自然だが、0 をも含めて GCD や LCM を定義する場合もある。例えば gcd(0,a) ≔ a や lcm(0, a) ≔ 0 など約束する。
- ^ non-atomic なので
- ^ X と R の非可逆非零元 a は 1 を含まないイデアルを生成するが、それにも関わらず 1 は X と a の GCD であるので
出典
[編集]- ^ Chapman 2000, p. 479.
- ^ GCD domain - PlanetMath.
- ^ proof that a GCD domain is integrally closed - PlanetMath.
- ^ Gilmer 1984, p. 172.
- ^ Ali & Smith 2003, p. 84—"It is easy to see that an integral domain is a Prüfer GCD-domain if and only if it is a Bezout domain, and that a Prüfer domain need not be a GCD-domain."
- ^ Gilmer & Parker 1973.
参考文献
[編集]- Ali, Majid M.; Smith, David J. (2003), “Generalized GCD rings. II”, Beiträge zur Algebra und Geometrie 44 (1): 75–98, MR1990985.
- Chapman, Scott T. (2000). Glaz, Sarah. ed. Non-Noetherian Commutative Ring Theory. Mathematics and Its Applications. Springer. ISBN 0-7923-6492-9
- Gilmer, Robert W. (1984), Commutative semigroup rings, University of Chicago Press
- Gilmer, Robert; Parker, Tom (1973), “Divisibility Properties in Semigroup Rings”, Michigan Mathematical Journal 22 (1): 65–86, MR342635