JIS X 0212
JIS X 0212は、JIS X 0208:1983に含まれない文字を集めた、6067字の符号化文字集合を規定する日本産業規格 (JIS) である。規格名称は「情報交換用漢字符号-補助漢字」である。1990年10月1日に制定され、JIS X 0208と組み合わせて利用される。JIS補助漢字の通称がある。
収録文字
[編集]次の通りである。一般に、非漢字をも含めて補助漢字と呼ぶ。
- 特殊文字 - 21文字
- 記述記号 - 2文字
- 単位記号 - 1文字
- 一般記号 - 7文字
- ダイアクリティカルマーク - 11文字
- アルファベット - 245文字
- ダイアクリティカルマーク付きギリシアアルファベット - 21文字
- キリル系アルファベット - 26文字
- ラテン系アルファベット - 27文字
- ダイアクリティカルマーク付きラテンアルファベット - 171文字
- 漢字 - 5801文字
JIS X 0212の制定には国文学研究資料館(当時)の田嶋一夫が大きく関与して、国文学研究資料館の書誌データベース構築における研究成果に基づいた文字選定を行っており、学問研究向きの文字集合となっている。ただ、収録された漢字の中には由来の不明確なものもある。また、「〆」の字はJIS X 0208にも含まれているが、それとは大きく異なる例示字形で16区17点に漢字として収録(乄)している。
Unicodeは制定時にJIS X 0212を原規格の一つとしたため、補助漢字を全て含んでいる。よってUnicodeベースのシステムではフォントさえあれば補助漢字を利用できる。ほかにEUC-JP、ISO-2022-JP-2、ISO-2022-JP-1の符号化方式でも利用できる。しかしShift_JISでは符号化方式の制約により利用できず、Shift_JISでも利用できる設計の拡張文字集合として2000年にJIS X 0213が制定されることになる。
JIS X 0213との関係
[編集]JIS X 0213は第3水準および第4水準の文字として定められ、この制定により、JIS X 0212はJIS X 0213よりも下位の位置づけとなり、JIS X 0213を使用することが推奨されるようになった。その後の公的規格などにおいてもJIS X 0212ではなくJIS X 0213を使うことを推奨するものが増えている。2004年にはJIS X 0213:2004が制定されJIS X 0212に含まれる一部のグリフも変更されたが、JIS X 0212は過去の規格ということで、JIS X 0213に含まれていない文字は変更されなかった。
JIS X 0213:2004とJIS X 0212:1990で字形が異なる文字
[編集]JIS X 0213:2004とJIS X 0212:1990で字形が異なる文字を以下に示す[1](JIS X 0212:1990の字形はAdobe-Japan1-6文字コレクションに含まれるグリフと一致するものは漢字異体字セレクタ(IVS)を使用したうえで凸版文久明朝・游明朝体・源ノ明朝を指定し、一致しないものは画像を使用した。IVSに対応しない環境や、グリフの実装が異なるフォントでは正確な字形が再現されない)。住基統一文字では別のコードポイントで収録している[2]。
JIS X 0212とJIS X 0213でUCS符号が一致しない文字
[編集]「『JIS X 0213 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合』附属書11 3.2 JIS X 0212からの索引」において、JIS X 0212とJIS X 0213の対応が規定されている。「3.3 JIS X 0221からの索引」にはUCS符号との対応が規定されている。以下のようにUCSの符号が異なるものが存在する。[1]
JIS X 0212→UCS | JIS X 0213→UCS | 備考 |
---|---|---|
坥(U+5765) | 坦(U+5766) | |
怚(U+601A) | 怛(U+601B) | |
柦(U+67E6) | 柤(U+67E4) | |
巹(U+5DF9) | 卺(U+537A) | |
圮(U+572E) | 圯(U+572F) | |
攺(U+653A) | 改(U+6539) | |
玆(U+7386) | 茲(U+8332) | |
杮(U+676E) | 柿(U+67FF) | 杮(こけら)(画数8画)を柿(かき)(画数9画)に対応(包摂) |
昷(U+6637) | 𥁕(U+25055) | |
彐(U+5F50) | 彑(U+5F51) | |
瘦(U+7626) | 痩(U+75E9) | JIS X 0213:2004 (追加10文字の中の一つと対応させず、従来の異体字に対応) |
繫(U+7E6B) | 繋(U+7E4B) | JIS X 0213:2004 (追加10文字の中の一つと対応させず、従来の異体字に対応) |
乄(U+4E44) | 〆(U+3006) | JIS包摂基準に基づかないもの |
Đ(U+0110) | Ð(U+00D0) | JIS包摂基準に基づかないもの(Đ,Ð) |
フォントの対応
[編集]市販の日本語フォントでは、Adobe-Japan1-6以降に準拠したOpenType Pr6/Pr6Nフォントがサポートしている[3]。
フリーフォントでは源ノ角ゴシック、源ノ明朝、VLゴシックなどが対応している。
Windowsでは古くから対応フォントが用意されており、Windows 98からすでに標準でバンドルされているMS ゴシックやMS 明朝が対応している。Windows Vista以降のシステムフォントであるメイリオは、Vista発売当初のバージョン (5.00) では対応していなかったが、Windows 7に搭載されているバージョン (6.02) で対応するようになった。Windows 10が搭載する游明朝と游ゴシックの文字セットは、2019年以降Adobe-Japan1-7を含む[4]のでPr6N相当である。
macOSにおいては、OS X Mavericksで追加された游明朝体と游ゴシック体がPr6Nフォントであり[4]、macOS Sierra以降でFont Bookから追加ダウンロードできる凸版文久明朝、凸版文久ゴシックもPr6Nフォントである。iOSでは、iOS 14の時点で標準搭載日本語フォントがAdobe-Japan1-5相当のヒラギノProNに限られるため、JIS X 0212の文字・例示字形には正しく表示することができないものがある。
参考文献
[編集]- 『印刷産業の情報処理高速化に関する調査研究報告書』日本機械工業連合会・日本印刷産業連合会〈日機連高度化 62-11〉、1988年6月。
- 田嶋一夫「JIS漢字補助集合案の設定と今後の課題」『情報処理学会研究報告』第89巻第13号、情報処理学会、1989年、1-6ページ。
- 『JIS X 0212-1990 情報交換用漢字符号-補助漢字』日本規格協会、1990年。
- 内田富雄「JIS X 0212(情報交換用漢字符号-補助漢字)の制定」『標準化ジャーナル』第20巻第11号、日本規格協会、1990年、6-11ページ。
- 真堂彬、プロビット『JIS補助漢字 フォント NEC PC-9800シリーズ対応』エーアイ出版、1992年5月。ISBN 4-87193-158-7。
- Shift_JIS環境で外字機能を使用して補助漢字を利用できるようにするデータが入ったフロッピーディスクが添付されている。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ a b 漢字データベースプロジェクト JIS X 0212
- ^ 安岡孝一、「住民基本台帳ネットワーク統一文字とその問題点」『情報管理』 2012年 55巻 11号 p.826-832, doi:10.1241/johokanri.55.826
- ^ Adobe-Japan1-6の2つのフォント | フォント用語集 | 文字の手帖 | 株式会社モリサワ
- ^ a b OS搭載の游書体一覧PDF - 字游工房 2019/7/17
外部リンク
[編集]- JIS X 0212:1990「情報交換用漢字符号-補助漢字」(日本産業標準調査会、経済産業省)