コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

PSR B1509-58

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
PSR B1509-58
PSR B1509-58周辺の画像。チャンドラが観測したX線(黄金色)と、WISEが観測した赤外線(RGB)の画像を重ねたもの。出典: NASA / CXC / SAO(X線); NASA / JPL-Caltech(赤外線)[1]
PSR B1509-58周辺の画像。チャンドラが観測したX線(黄金色)と、WISEが観測した赤外線(RGB)の画像を重ねたもの。出典: NASA / CXC / SAO(X線); NASA / JPL-Caltech(赤外線)[1]
星座 コンパス座
見かけの等級 (mv) 22[2]
分類 パルサー
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  15h 13m 55.52s[3]
赤緯 (Dec, δ) −59° 08′ 08.8″[3]
距離 17,000 ± 5,000 光年[注 1]
(5.2 ± 1.4 キロパーセク[4]
物理的性質
自転周期 150 ミリ[5]
他のカタログでの名称
コンパス座パルサー, 2E 3389, 1RXS J151354.6-590815[3]
Template (ノート 解説) ■Project

PSR B1509-58は、コンパス座にある若くて高エネルギーの回転駆動型パルサーである。回転の減速率が大きく、磁場が非常に強いパルサーであるとみられる[6]。周囲には、とても明るく形状の特徴的なパルサー星雲が広がっていることで知られる[7]

特徴

[編集]

PSR B1509-58は、1982年アインシュタイン衛星によって、超新星残骸MSH 15-52の内のX線源を観測する中で発見された[5]。発見後、すぐに電波でも確認され、後にガンマ線も検出されている[8][9]。PSR B1509-58は、周囲にある超新星残骸MSH 15-52と一緒に存在していると考えられる。水素原子吸収線の観測から、MSH 15-52は地球との距離およそ1万7,000光年の位置にあるとわかっているので、PSR B1509-58もこの位置にあるとみられる[4]

PSR B1509-58のパルス周期は、約150ミリ秒で、大体1秒間に7回のパルスが観測される[5]。PSR B1509-58のパルスは、周期の時間変化率がとても大きく、1秒あたり1.5×10−12秒くらい減速している。この周期とその変化率から、PSR B1509-58の周囲にできる双極磁場の強さは、1.5×1013Gに及ぶとみられる[6]。また、この変化率から推定した、パルサーの年齢は、およそ1,700となる[10]

PSR B1509-58は、その年齢と位置からして、185年の超新星によってできた中性子星である可能性が指摘されている[11]。しかし、西暦185年にパルサーが誕生したものと仮定した場合、減速パラメータが実際に測定されたものと一致せず、複雑な減速過程を考えなければならなくなる[10]。一般的には、SN 185の痕跡となる超新星残骸としては、RCW 86(MSH 14-63)が最有力候補とされる[12]

周辺構造

[編集]
チャンドラが観測したPSR B1509-58及びHII領域RCW 89のX線を、エネルギー毎に赤、緑、青に着色して合成した画像。出典: NASA / CXC / SAO / P. Slane[7]

PSR B1509-58の周囲には、X線で明るいパルサー星雲が広がっており、チャンドラ衛星によって様々な観測が行われている。パルサー星雲は、およそ150光年の大きさに広がっており、複雑な構造をもっている[7]。PSR B1509-58から南東に向かっては、4程度にわたって、ジェットが伸びている[13]。また、北側には、PSR B1509-58からの離角が10程と30秒程の位置に、円形の一部であるかのような形状の弧がみられ、内側の弧はパルサー風の末端衝撃波面に相当するのではないかと考えられる[13][14]。また、弧の間には小さなこぶ状のパルサー星雲もみられ、パルサーから出た物質の流れの中の乱流によってできた構造ではないかとみられる[15]。更に、弧よりも北側には、南東側のジェットと対を成すような帯状のパルサー星雲もあり、10分離れた位置にあるHII領域RCW 89に接している。RCW 89は、この北西側のジェットから得たエネルギーによって輝いているのではないかと考えられる[16]。北西に伸びるパルサー星雲は、複雑な形状をしていて「手」のような形にみえることから、「神の手」などと呼ばれることもある[17]

ギャラリー

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 距離(光年)は、距離(パーセク)× 3.26より計算。

出典

[編集]
  1. ^ Illusions in the Cosmic Clouds”. NASA (2014年10月23日). 2018年9月14日閲覧。
  2. ^ Caraveo, P. A.; Mereghetti, S.; Bignami, G. F. (1994-03), “An Optical Counterpart for PSR 1509-58”, Astrophysical Journal Letters 423: L125-L126, Bibcode1994ApJ...423L.125C, doi:10.1086/187252 
  3. ^ a b c PSR B1509-58 -- Pulsar”. SIMBAD. CDS. 2018年9月14日閲覧。
  4. ^ a b Gaensler, B. M.; et al. (1999-05), “SNR G320.4-01.2 and PSR B1509-58: new radio observations of a complex interacting system”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 305 (3): 724-736, Bibcode1999MNRAS.305..724G, doi:10.1046/j.1365-8711.1999.02500.x 
  5. ^ a b c Seward, F. D.; Harnden, F. R., Jr. (1982-05-15), “A new, fast X-ray pulsar in the supernova remnant MSH 15-52”, Astrophysical Journal 256: L45-L47, Bibcode1982ApJ...256L..45S, doi:10.1086/183793 
  6. ^ a b Livingstone, Margaret A.; Kaspi, Victoria M. (2011-11), “Long-term X-Ray Monitoring of the Young Pulsar PSR B1509-58”, Astrophysical Journal 742 (1): 31, Bibcode2011ApJ...742...31L, doi:10.1088/0004-637X/742/1/31 
  7. ^ a b c d e f PSR B1509-58: A Young Pulsar Shows its Hand”. CXC (2009年4月3日). 2018年9月14日閲覧。
  8. ^ Manchester, R. N.; Tuohy, I. R.; Damico, N. (1982-11-15), “Discovery of radio pulsations from the X-ray pulsar in the supernova remnant G320.4-1.2”, Astrophysical Journal 262: L31-L33, Bibcode1982ApJ...262L..31M, doi:10.1086/183906 
  9. ^ Ulmer, M. P.; et al. (1993-11), “Gamma-Ray and Radio Observations of PSR B1509-58”, Astrophysical Journal 417: 738-741, Bibcode1993ApJ...417..738U, doi:10.1086/173353 
  10. ^ a b Kaspi, V. M.; et al. (1994-02), “On the spin-down of PSR B1509-58”, Astrophysical Journal 422 (2): L83-L86, Bibcode1994ApJ...422L..83K, doi:10.1086/187218 
  11. ^ Thorsett, S. E. (1992-04-23), “Identification of the pulsar PSR1509 - 58 with the 'guest star' of AD 185”, Nature 356 (6371): 690-691, Bibcode1992Natur.356..690T, doi:10.1038/356690a0 
  12. ^ Green, David A.; Stephenson, F. Richard (2003), “Historical Supernovae”, in Weiler, K., Supernovae and Gamma-Ray Bursters, Lecture Notes in Physics, 598, pp. 7-19, Bibcode2003LNP...598....7G, doi:10.1007/3-540-45863-8_2 
  13. ^ a b Gaensler, B. M.; et al. (2002-04), “Chandra Imaging of the X-Ray Nebula Powered by Pulsar B1509-58”, Astrophysical Journal 569 (2): 878-893, Bibcode2002ApJ...569..878G, doi:10.1086/339354 
  14. ^ Yatsu, Yoichi; et al. (2009-02), “Discovery of the Inner Ring around PSR B1509-58”, Publications of the Astronomical Society of Japan 61 (1): 129-135, Bibcode2009PASJ...61..129Y, doi:10.1093/pasj/61.1.129 
  15. ^ DeLaney, T.; et al. (2006-04), “Time Variability in the X-Ray Nebula Powered by Pulsar B1509-58”, Astrophysical Journal 640 (2): 929-940, Bibcode2006ApJ...640..929D, doi:10.1086/500189 
  16. ^ Yatsu, Y.; et al. (2005-09), “Chandra Observation of the Interaction between the Hot Plasma Nebula RCW 89 and the Pulsar Jet of PSR B1509-58”, Astrophysical Journal 631 (1): 312-319, Bibcode2005ApJ...631..312Y, doi:10.1086/432590 
  17. ^ High-Energy X-ray View of 'Hand of God'”. NASA (2014年1月10日). 2018年9月14日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]

座標: 星図 15h 13m 55.52s, −59° 08′ 08.8″