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Wikipedia:識別可能な人物の写真の利用方針

この文書は、識別可能な人物を被写体とする画像をウィキペディア日本語版で取り扱う場合の留意事項を、主に被写体である人物との関係で生じうる法的リスク回避の観点からまとめたものです。

はじめに

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人物の写真を扱う際には、被写体の法的権利に留意しなければなりません。人は誰でも、みだりにその容貌や姿態を撮影されたり公表されたりしない権利を持っています。この権利(「肖像権」と呼ばれています)は、世界中の多くの法域で認められているもので、例えば、英語圏の国々ではプライバシー権の一形態、日本の判例・学説上は人格権に基づく権利とされています。

被写体の人物に認められる肖像権は、写真を撮影した人が持つ著作権とは別のものです。著作権者は、著作権の放棄やフリーライセンスの許諾によって自分の作品をフリーコンテントにすることができますが、被写体の人物が持つ権利を制限したり処分したりすることはできません。著作権上フリーなコンテントであっても、肖像権によって写真の使用が制限されることがありえます。

肖像権によって人物写真の使用が制限されるということは、人物の写真を使ってはいけないという意味ではありません。被写体の肖像権が法的な保護を受ける一方で、写真を撮影し公表する人の表現の自由も、民主主義の根幹をなす重要な基本的人権として最大限尊重されるべきです。肖像権と表現の自由は互いに衝突・矛盾するものですから、それぞれの法制度において、対立する法益を比較衡量の上、調整が図られています。

どこまでが正当な表現行為で、どこからが肖像権の違法な侵害になるのかは、国ごとに基準が異なります。例えば英米法系の国々では、一般的に、私的な場所で撮影された写真の公表には被写体の同意が必要ですが、公共の場所で撮影された写真の公表には被写体の同意がなくても良いとされています。一方、日本を含む多くの国々では、公共の場所で撮影された写真の公表にも被写体の同意が必要とされています。それぞれの国においてどのような場合に同意が必要とされているかについては、以下の解説の他、ウィキメディア・コモンズの解説を参照して下さい。

人物の写真をウィキペディアにアップロードする場合、少なくとも以下の国の法が問題になります。

  1. 写真が撮影された国
  2. 写真がアップロードされた時にアップロード者がいた国
  3. アメリカ合衆国(ウィキメディア財団とそのサーバーの所在地)

このうち1つでも当該写真のアップロードを違法、もしくはたぶん違法とする国があるなら、その写真はウィキペディアにアップロードしてはいけません(人物写真をウィキメディア・コモンズにアップロードする場合も、基本的に同じ基準が適用されます)。

更に、日本語版ウィキペディアでは編集者の大部分が日本在住ですから、共同作業の便宜上、日本法でもアップロードが適法であることが要求されます。また、日本語版ウィキペディアの記事等で人物写真を使用する場合は、その編集を行なった時に編集者がいた国と日本の法に照らして、その写真の使い方が適法でなければいけません。適法にアップロードされた写真であっても、使い方次第では名誉毀損やパブリシティ権侵害等の法的問題になりうるので、注意が必要です。

日本法における注意点

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上述の通り、日本語版ウィキペディアにおける人物写真の使用に際しては、少なくとも日本とアメリカ合衆国の法を考慮する必要があります。以下の節では、この二国のうちでより厳しい基準を取っている日本法における注意点を解説します。(アメリカ合衆国の法についてはこちら 、日本やアメリカ以外の国で撮影やアップロードを行う場合に考慮が必要な第三国の法については、こちらのウィキメディア・コモンズの解説を参照して下さい。)

人格権としての肖像権

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日本には肖像権について明文で規定した法律はありません。しかし、判例や学説は、憲法第13条の幸福追求権利を根拠として、肖像権を認めています。

憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。 — 昭和44年12月24日最高裁大法廷判決[1]
人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する・・・
また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。 — 平成17年11月10日最高裁第一小法廷判決[2]

しかし、社会の正当な関心事については、被写体の承諾を得ない写真の撮影や公表が、違法性のない表現行為として認められる場合もあります。

表現の自由と肖像権の侵害との調整においては、プライバシー侵害と同様に、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権の侵害とはならないと解すべきである。 — 平成12年2月29日大阪高裁判決[3]
肖像写真の公表が,それ自体において又は文章表現と相まって,言論,出版その他の表現の自由の行使として行われることもあり,このような場合においては,民主主義社会において重要な人権の1つである表現の自由との均衡上,当該表現行為が公共の利害に関する事項に係り,公益を図る目的をもってなされ,これにより公表された内容がその表現目的に照らして相当であるという要件を満たすときは違法性が阻却されると解すべきである。 — 平成15年4月24日東京地裁判決[4]
もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。 — 平成17年11月10日最高裁第一小法廷判決[2]

財産権としての肖像権 (パブリシティ権)

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一般的に、社会の正当な関心の対象となる著名人や、自ら大衆の関心を集める職業を選択した芸能人等については、肖像権の保護が制限されるとされています。

ところで、右に述べたような人格的利益に関する一般理論は、その主体が映画・舞台の俳優、歌手その他の芸能人、プロスポーツ選手等(以下「俳優等」という。)大衆との接触を職業とする者である場合には多少の修正を要するものと考えられる。 何故ならば、前記のような人格的利益は、・・・人が自己の氏名や肖像の公開を望まないという感情を尊重し、保護することを主旨とするものであるが、俳優等の職業を選択した者は、もともと自己の氏名や肖像が大衆の前に公開されることを包括的に許諾したものであって、右のような人格的利益の保護は大幅に制限されると解し得る余地があるからである。・・・俳優等が自己の氏名や肖像の権限なき使用により精神的苦痛を被ったことを理由として損害賠償を求め得るのは、その使用の方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定されるものというべきである。 — 昭和51年6月29日東京地方裁判所判決[5]
もっとも,著名人は,自らが社会的に著名な存在となった結果として,必然的に一般人に比してより社会の正当な関心事の対象となりやすいものであって,正当な報道,評論,社会事象の紹介等のためにその氏名・肖像が利用される必要もあり,言論,出版,報道等の表現の自由の保障という憲法上の要請からして,また,そうといわないまでも,自らの氏名・肖像を第三者が喧伝などすることでその著名の程度が増幅してその社会的な存在が確立されていくという社会的に著名な存在に至る過程からして,著名人がその氏名・肖像を排他的に支配する権利も制限され,あるいは,第三者による利用を許容しなければならない場合があることはやむを得ないということができ・・・ — 平成21年8月27日知的財産高等裁判所判決[6]
肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。 — 平成24年2月2日最高裁第一小法廷判決[7]

一方で、肖像に顧客吸引力を持つ著名人には、肖像から生じる経済的利益・価値を排他的に支配する権利が認められています。このような権利をパブリシティ権と言います。

しかしながら、俳優等は、右のように人格的利益の保護が減縮される一方で、一般市井人がその氏名及び肖像について通常有していない利益を保護しているといいうる。すなわち、俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品等の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有しているのである。ここでは、氏名や肖像が、(一)で述べたような人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することになり(右利益は、当然に不法行為法によって保護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、右経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられる場合が多いといわなければならない。 — 昭和51年6月29日東京地方裁判所判決[5]

どのような場合にパブリシティ権の違法な侵害となるかについて、最高裁は以下のような基準を示しています。

肖像等を無断で使用する行為は,(1)肖像等それ自体を独立して鑑 賞の対象となる商品等として使用し,(2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,(3)肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。 — 平成24年2月2日最高裁第一小法廷判決[7]

基本方針

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  • 識別可能な一般私人を被写体とする写真は、原則として、本人の同意なくアップロードしてはいけません。
  • 公人や著名人を被写体とする写真は、以下の条件を全て満たす場合、本人の同意がなくてもアップロードできます。
    • 盗撮、隠し撮り等、不公正な方法で撮影されたものではないこと
    • 写真の内容が被写体の名誉や社会的評価を不当に貶めたり、被写体のプライバシーを不当に侵害したりするものではないこと
    • その写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となり得るものではないこと
  • ウイキペディアやコモンズへのアップロードが適法であっても、その写真の使い方次第では、被写体の権利を違法に侵害する結果となることがあります。ウイキペディアの記事等において識別可能な人物の写真を使用する際には、写真のキャプションや記事の記述内容と相まって被写体の名誉を毀損したり、プライバシー権、パブリシティ権等を侵害したりすることがないように留意しなければなりません。

脚注

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  1. ^ 最高裁判所大法廷判決  昭和44年12月24日  刑集 第23巻12号1625頁、昭和40(あ)1187、『公務執行妨害、傷害』。
  2. ^ a b 最高裁判所第一小法廷判決  平成17年11月10日  民集 第59巻9号2428頁、平成15(受)281、『 損害賠償請求事件』。
  3. ^ 大阪高等裁判所判決  平成12年2月29日  、平成11(ネ)2327、『 損害賠償請求控訴事件』。
  4. ^ 東京地方裁判所判決  平成15年4月24日  、平成14(ワ)18096、『 謝罪広告等請求事件』。
  5. ^ a b 東京地方裁判所判決  昭和 51 年 6 月 29 日  判時 817 号 23 頁、判タ 339 号 136 頁、[1]、『 損害賠償請求事件』。
  6. ^ 知的財産高等裁判所判決  平成21年8月27日  、平成20(ネ)10063、『 損害賠償請求控訴事件』。
  7. ^ a b 最高裁判所第一小法廷判決  平成24年2月2日  、平成21(受)2056、『 損害賠償請求事件』。

関連する方針・ガイドライン

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