なのはな (漫画)
『なのはな』は、萩尾望都による日本の短編漫画作品、および本作品を表題作とする短編集。
漫画雑誌『月刊フラワーズ』(小学館)2011年8月号に『ここではない★どこか』シリーズの1編として短編作品「なのはな」が掲載された。東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を題材として、原発事故後のフクシマで生きる少女と、チェルノブイリの少女との交流を描いた作品である。
続編に『なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』』がある。
2018年12月15日、本作と『なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』』により、萩尾は第3回マンガ郷いわて特別賞を受賞した[1]。
概要
[編集]本作は、東日本大震災と原発事故に向き合った作品としていち早く発表されたことから、各方面で話題を呼んだ[2][3]。
地震と津波で多くの人の命が失われ、さらに福島で原子力発電所の事故が起こり大きなショックと不安に胸のザワザワ感が止まらなくなった萩尾は、しばらく何も手がつかなくなってしまった。そのとき、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故により放射性物質で汚染された土壌をきれいにするために菜の花や麦を植えているということを聞き、たくさんの菜の花が咲く話を描きたい、それが希望になればいいと思って描いたのが本作である[4]。
本作の続編「なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』」は、放射性物質を擬人化したSF3部作(「プルート夫人」[5]「雨の夜 -ウラノス伯爵-」[6]「サロメ20XX」[7])と合わせて本作を単行本化する際、主人公の少女の「その後」を、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』と『ひかりの素足』とのコラボで描き下ろした作品である[4]。
2013年、上述の単行本『なのはな』および萩尾の全作品は、第12回センス・オブ・ジェンダー賞生涯功労賞を受賞した[8]。
2018年、「なのはな」と「なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』」により、震災からの復興と岩手県の文化振興に貢献したことが評価され、第3回マンガ郷いわて特別賞を受賞した[1]。
あらすじ
[編集]なのはな
[編集]大好きだった祖母を津波で失った小学6年生のナホは、原発事故後のフクシマで不安と祖母を失った悲しみや喪失感を抱きながら暮らしている。そんなある日、チェルノブイリ原子力発電所事故後、土壌の汚染を除去するためにひまわりや菜の花、ライ麦などを植えているという話を聞く。その夜ナホは、チェルノブイリの写真で見た少女が、祖母が使っていた種まき器で菜の花の種を植えている夢を見る…。
なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』
[編集]ジョバンニとカンパネルラとがふしぎな汽車に乗っていく『銀河鉄道の夜』を読んだナホは、兄の学(がく)と一緒に、現実混じりの「銀河鉄道」[9]に乗っている夢を見る。そこで祖母と再会し、うれしさに涙を流すナホは、カンパネルラ駅[10]でいったん下車したあと再び汽車に乗り遠くへ行こうとする祖母を必死に引きとめようとするが…。
主な登場人物
[編集]- 阿部 ナホ
- 「梅の村」に住んでいた。転居はしたものの、原発事故後もフクシマで暮らす少女。小学6年生。
- 阿部 学(がく)
- ナホの兄。中学生。
- ナホの父
- 仙台出身の入り婿。震災前は牛を飼っていた。
- 阿部 トミコ
- ナホの母。仙台の大学に通い、そこでナホの父と知り合った。
- じいちゃん
- ナホの祖父。ばーちゃん(ナホの祖母)が死んだことを現実として受け入れておらず、いつか帰ってくるものと思い込んでいる。
- 阿部 スミヨ(ばーちゃん)
- ナホの祖母。津波で流された。ナホの夢の中でチェルノブイリで暮らしている。
- 石田 音寿(おんじゅ)
- 「梅の村」出身のシンガー。地元でお祭りがあると聞いて、そこで「アララ」の歌[11]を唄おうと戻ってきた。
- 藤川さん
- ばーちゃんの友達。看護師。ウクライナやベラルーシの病院にいたことがあり、ナホにチェルノブイリで土壌の汚染を除去するために菜の花などの植物を植えている話をする。
- チェルノブイリの少女
- ナホの夢の中に現れる少女。
単行本
[編集]- 『萩尾望都作品集 なのはな』(小学館、FLOWER COMICS SPECIAL) 2012年3月12日初版発行 ISBN 978-4-09-179135-1
- 収載作品 「なのはな」、「プルート夫人」、「雨の夜 -ウラノス伯爵-」、「サロメ20XX」、「なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』」
- 『新装版 萩尾望都作品集 なのはな』(小学館、FLOWER COMICS SPECIAL) 2016年3月15日初版発行 ISBN 978-4-09-138381-5
- 収載作品 「なのはな」、「プルート夫人」、「雨の夜 -ウラノス伯爵-」、「サロメ20XX」、「なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』」、「福島ドライヴ」[12]
舞台
[編集]男性だけの劇団Studio Life、倉田淳の脚本・演出により2019年舞台化[13]。
キャスト
[編集]К(クークラ) | Ц(ツヴェート) | |
---|---|---|
ナホ | 松本慎也 | 関戸博一 |
学(ナホの兄) | 宇佐見輝 | 千葉健玖 |
父 | 船戸慎士 | |
母 | 仲原裕之 | |
じーちゃん | 倉本徹 | |
ばーちゃん | 若林健吾 | |
女の子 | 伊藤清之 | 松本慎也 |
先生 | 鈴木宏明 | 牛島祥太 |
生徒1 | 千葉健玖 | 宇佐見輝 |
生徒2 | 牛島祥太 | 鈴木宏明 |
藤川さん | 藤原啓児 | |
石田 音寿 | 明石隼汰(客演) |
スタッフ
[編集]- 原作 : 萩尾望都『なのはな』(小学館刊)
- 脚本・演出 : 倉田淳
- 舞台美術 : 乘峯雅寛
- 舞台監督 : 倉本徹
- 照明 : 日下靖順 (ASG)
- 音響 : 竹下亮 (OFFICE my on)
- 衣裳 : 竹内陽子
- ヘアメイク : MUU
- 映像 : 佐京充 (SPIN-OFF)
- 挿入歌作曲 : 明石隼汰
- 演出助手 : 宮本紗也加
- 制作 : Studio Life / 米田基
- 協力 : 小学館 / style office
- 助成(東京公演) : 文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会
脚注
[編集]- ^ a b “いわてマンガ大賞・マンガ郷いわて表彰式 特別賞受賞 萩尾さん 知事と記念トーク”. Iwanichi OnLine (岩手日日新聞社). (2018年12月16日) 2023年10月14日閲覧。
- ^ 「なのはな」とSFによる原発3部作の1作目の「プルート夫人」について、2011年11月1日付『毎日新聞(夕刊)』に「萩尾望都さんが描く原発」の見出しで、東日本大震災と福島原発事故に触発された作品を相次いで発表したという記事が掲載されている。
- ^ 「なのはな」と、SFによる原発3部作(「プルート夫人」「雨の夜 -ウラノス伯爵-」「サロメ20XX」)について、2012年1月31日付『東京新聞』に「漫画家・萩尾望都さんの思い 原発に向き合う 手探り進むしかない」の見出しの記事が掲載されている。
- ^ a b 『萩尾望都作品集 なのはな』(小学館) あとがき「なのはなと…」参照。
- ^ 『月刊フラワーズ』(小学館)2011年10月号に『ここではない★どこか』シリーズの1編として掲載。「プルート」はプルトニウムを意味する。
- ^ 『月刊フラワーズ』(小学館)2012年2月号に『ここではない★どこか』シリーズの1編として掲載。「ウラノス」はウランを意味する。
- ^ 『月刊フラワーズ』(小学館)2012年3月号に『ここではない★どこか』シリーズの1編として掲載。
- ^ “2012年度 第12回Sense of Gender賞”. ジェンダーSF研究会. 2016年4月6日閲覧。
- ^ 現実の常磐線と「銀河鉄道」が入り混じっているため、沿線風景に除染のための調査を行う人たちが描かれている。なお、父親が常磐線のことを「ジョバンニ線」と言った(あるいは『銀河鉄道の夜』を読んでいたナホにはそう聞こえた)ことから、夢の中で学は「銀河鉄道」が走る路線を「ジョバンニ線」と呼んでいる。
- ^ 岩手県に「カンパネルラ田野畑駅」というニックネームの駅(田野畑駅)がある。
- ^ 「アララ」は、ICRP(国際放射線防護委員会)が示す放射線の被曝線量のリスクと量についての原則「合理的に達成できるだけ低く」 (as low as reasonably Achievable) の頭文字「ALARA」をもじったもの。
- ^ 『ビッグコミック』(小学館)2013年21号に掲載。挿入歌として甲斐よしひろ作詞・作曲「立川ドライヴ」が歌われている。
- ^ “Studio Life公演 萩尾望都 原作 脚本・演出 倉田淳 なのはな”. 2019年4月12日閲覧。