ねずみ (落語)
『ねずみ』は、古典落語の演目。別題に『甚五郎の鼠』(じんごろうのねずみ)[1]。左甚五郎が登場する噺の1つであり、三井の大黒の噺より約10年後を舞台とする[1]。元は浪曲師・2代目広沢菊春の浪曲であったが、3代目桂三木助が「加賀の千代」と交換して演じたのが始まりとされる。また三木助は、当初は別題にある「甚五郎の鼠」で演じた後、「ねずみ」に改めた[1]。
あらすじ
[編集]奥州仙台の宿場町。ある旅人が、宿引きの子供に誘われて「鼠屋」という宿に泊まる。そこはとても貧乏で布団も飯もろくになく、腰の立たない主と11歳の子供の二人だけでやっているという貧しい宿だった。旅人がふと店の来歴を主の宇兵衛に尋ねると、実は彼は元々向かいにある「虎屋」という大きな宿の主人だったが、5年前に妻に先立たれ、迎えた後妻は腰を悪くした宇兵衛とその子に辛く当たり、番頭とつるんで虎屋を乗っ取ってしまったという。追い出された宇兵衛は物置小屋を仕立ててなんとか宿をこしらえ、その物置に棲んでいたネズミにちなんで現在の鼠屋を構えたのだった。
これを聞いた旅人は自らが名匠と知られる左甚五郎であることを明かし、木片からネズミを彫り出すと、店の繁盛を願ってそれを店先に置いてやり、宿を去っていった。彼が彫り出した精巧な木彫りのネズミはまるで生きているかのように動き回り、この噂が広まると、このネズミの木彫りが見たい客で鼠屋は繁盛するようになる。やがて鼠屋に泊まればご利益があるという噂も立ち、またたく間に鼠屋は虎屋に匹敵するほどの店構えとなる。
一方の虎屋は、前の主人を追い出した悪行が吹聴されたこともあり、客足が途絶えていく。虎屋の主人は鼠屋に対抗して、仙台の巨匠・飯田丹下に虎を彫らせることにした。しかし、飯田は始めは断り気味だったが、因縁ある左甚五郎の名前に考えを変え、負けたくない気持ちで虎を彫り上げた。そして、虎屋がそれを鼠屋のネズミを見下ろすようにして店先に飾ると、途端にネズミは動かなくなってしまった。
しばらくして、それを知った左甚五郎が再び鼠屋を訪れる。自分が彫ったネズミは、虎に怯えたように顔を伏せ、じっとして動かなくなっていた。しかし甚五郎には、虎屋の店先の虎の彫刻はとても出来損ないに見えた。顔はひどく恨みが含まれている目を持っていて、額に虎を示す王の字の模様もない。甚五郎は、ネズミに「なぜあんな出来損ないの虎に怯えるのか」と尋ねた。すると、ネズミは答えた。
「え、あれ虎だったの? 猫かと思ってた」
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 東大落語会 1994, pp. 354, 『ねずみ』.
参考文献
[編集]- 東大落語会 (1994), 落語事典 増補 (改訂版 ed.), 青蛙房, ISBN 4-7905-0576-6
関連項目
[編集]左甚五郎を主人公とする落語の演目