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アナストロゾール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アナストロゾール
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Arimidex, Aremed, others[3]
Drugs.com monograph
MedlinePlus a696018
ライセンス US Daily Med:リンク
胎児危険度分類
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能Unknown (but well-absorbed in animals)[4]
血漿タンパク結合40%[5][6]
代謝Liver ( - 85%) (N-dealkylation, hydroxylation, glucuronidation)[5][4][6]
半減期40–50 hours[5][4][6]
排泄Urine (11%)[5][4][6]
データベースID
CAS番号
120511-73-1 チェック
ATCコード L02BG03 (WHO)
PubChem CID: 2187
IUPHAR/BPS英語版 5137
DrugBank DB01217 チェック
ChemSpider 2102 チェック
UNII 2Z07MYW1AZ チェック
KEGG D00960  チェック
ChEBI CHEBI:2704 チェック
ChEMBL CHEMBL1399 チェック
別名 Anastrazole; anastrozol; ICI-D1033; ZD-1033
化学的データ
化学式C17H19N5
分子量293.37 g·mol−1
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アナストロゾール(Anastrozole)は、アリミデックス(Arimidex)などの商品名で販売されている、乳癌の治療に用いられる医薬品の一つである[7][2]。具体的には、エストロゲン受容体陽性乳癌の治療に用いられる[2]。また、乳癌のリスクが高い人の予防にも用いられる[2](非承認用法)。投与法は経口である[2]

アナストロゾールの一般的な副作用には、ほてり気分変動関節痛吐き気、などがあげられる[2][7]。重度の副作用には、心臓病のリスク増加や骨粗鬆症などがあげられる[2]妊娠中の人への投与は、胎児に害を及ぼす可能性がある[2]。アナストロゾールは、アロマターゼ阻害薬に属する医薬品である[2]。作用機序は、体内でのエストロゲン生成を阻害し、抗エストロゲン効果を示す[2]

アナストロゾールは1987年に特許認可され、1995年に医薬品としての使用が承認された[8][9]世界保健機関の必須医薬品リストに収載されている[10]。アナストロゾールは後発医薬品として入手できる[2]

効能・効果

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作用機序

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乳癌の約7割はエストロゲン受容体陽性であり[11]エストロゲンの存在下で増殖する。閉経後女性では、エストロゲンの生成はアロマターゼに因るアンドロゲンの芳香族化が主な経路となるので[12]、アロマターゼを阻害することでエストロゲンの供給を絶つと、腫瘍の増殖が抑制される。

アナストロゾールは、アロマターゼに可逆的に結合し、競合的阻害作用により、末梢組織(卵巣外)におけるアンドロゲンからエストロゲンへの変換を阻害する[13]。本薬は、ヒトにおいて、1mg/日の投与で96.7% - 97.3%、10mg/日の投与で98.1%のアロマターゼ阻害作用を示すことが確認されている[5][4]。そのため、アナストロゾールでアロマターゼを最大限に抑制するためには、1mg/日が最小の投与量であると考えられる[5]。このアロマターゼ活性の低下により、閉経後の女性ではエストラジオール濃度が少なくとも85%低下する[5]。コルチコステロイドおよびその他の副腎皮質ステロイドの濃度はアナストロゾールの影響を受けない[5]

副作用

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重大な副作用は、下記の通りである[14]

  • 皮膚粘膜眼症候群(0.1%未満)
  • アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹(0.1%未満)
  • 肝機能障害、黄疸(0.1%未満)
  • 間質性肺炎(0.1%未満)
  • 血栓塞栓症(0.1%未満)

相互作用

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アナストロゾールの、シトクロムP450酵素であるCYP1A2CYP2A6CYP2D6CYP2C8CYP2C9CYP2C19に対する阻害作用は臨床的に無視できる程度であると思われる[5][4][6][7]。そのため、アナストロゾールとシトクロムP450の基質との薬物相互作用は起こりにくいと考えられる[6]。2003年現在、アナストロゾールによる臨床的に重要な薬物相互作用は報告されていない[5]

アナストロゾールは、タモキシフェンやその主要代謝物であるN-デスメチルタモキシフェンの薬物動態に影響を与えない[5][4]。しかし、タモキシフェンはアナストロゾールの定常状態のAUC英語版を27%減少させることが判っている[5][4]。だが、アナストロゾールとタモキシフェンの両方を投与した群では、アナストロゾール単独投与群と比較してエストラジオール濃度に有意差はなく、アナストロゾール濃度の低下は臨床的に重要ではないと考えられている[6]

薬物動態

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アナストロゾールのヒトでのバイオアベイラビリティーは不明であるが、動物では十分に吸収されることが知られている[4][7]。アナストロゾールの吸収は、ヒトでは1 - 20mg/日の用量範囲で直線的であり、繰り返し投与しても変化はない[5][6][7]。 食事はアナストロゾールの吸収の程度に大きな影響を与えない[6][7]。アナストロゾールは投与後中央値で3時間後に最高血中濃度に達するが、2 - 12時間と幅がある[4][6]。アナストロゾールの連続投与後7 - 10日以内に定常状態に達し、初回投与時の3.5倍に蓄積される[5][4][6]。しかし、エストラジオールの最大抑制は投与後3 - 4日以内に生じる[5]

レトロゾールボロゾールとは異なり、血液脳関門でのP糖蛋白質によるアナストロゾールの積極的な汲み出し英語版により、齧歯類ではアナストロゾールの中枢神経系への浸透が制限される[15][16][17]。そのため、アナストロゾールはヒトでは末梢選択性を持つ可能性があるが、まだ確認されていない[17]。いずれにせよ、エストラジオールは末梢で合成されて血液脳関門を容易に通過して中枢神経系に到達するので、アナストロゾールは中枢神経系のエストラジオール濃度をある程度低下させることが予想される。アナストロゾールの血漿タンパク結合率は40%である[5][6]

アナストロゾールの代謝は、N-脱アルキル化水酸化グルクロン酸抱合によるものである[5]。アロマターゼの阻害は、代謝物よりもアナストロゾール自体によるものであり、循環している主な代謝物は不活性である[7]。アナストロゾールの排泄半減期は40 - 50時間(1.7 - 2.1日)である[5][4][6]ため、1日1回の投与が可能である[6]。本剤は主に肝臓での代謝により排泄されるが(83 - 85%)、未変化体の腎臓からの排泄もある(11%)[5][4][6]。アナストロゾールは主に尿中に排泄されるが、便中にもわずかに排泄される[6]

出典

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  1. ^ anastrozole”. Chemical Entities of Biological Interest (ChEBI). European Molecular Biology Laboratory. 2011年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ2011年8月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k Anastrozole”. The American Society of Health-System Pharmacists. 21 December 2016時点のオリジナルよりアーカイブ8 December 2016閲覧。
  3. ^ Anastrozole”. 31 July 2019閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m “Clinical pharmacokinetics of aromatase inhibitors and inactivators”. Clinical Pharmacokinetics 42 (7): 619–31. (2003). doi:10.2165/00003088-200342070-00002. PMID 12844324. 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s “Pharmacokinetics of third-generation aromatase inhibitors”. Seminars in Oncology 30 (4 Suppl 14): 23–32. (August 2003). doi:10.1016/S0093-7754(03)00305-1. PMID 14513434. 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p “Anastrozole: a review of its use in postmenopausal women with early-stage breast cancer”. Drugs 68 (9): 1319–40. (2008). doi:10.2165/00003495-200868090-00007. PMID 18547136. 
  7. ^ a b c d e f g Highlights of Prescribing Information Anastrozole”. FDA. 31 July 2019閲覧。
  8. ^ Fischer, Janos; Ganellin, C. Robin (2006) (英語). Analogue-based Drug Discovery. John Wiley & Sons. p. 516. ISBN 9783527607495. オリジナルの2016-12-20時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161220163842/https://books.google.ca/books?id=FjKfqkaKkAAC&pg=PA516 
  9. ^ “The relevance of preclinical models to the treatment of postmenopausal breast cancer”. Oncology 54 Suppl 2 (2): 6–10. (1997). doi:10.1159/000227748. PMID 9394853. 
  10. ^ World Health Organization model list of essential medicines: 21st list 2019. Geneva: World Health Organization. (2019). hdl:10665/325771. WHO/MVP/EMP/IAU/2019.06. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO 
  11. ^ 乳がんにおけるホルモン療法の効果と予後を左右するメカニズムを発見 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構”. www.amed.go.jp. 2021年5月12日閲覧。
  12. ^ 日経メディカル処方薬事典. “アロマターゼ阻害薬の解説|日経メディカル処方薬事典”. 日経メディカル処方薬事典. 2021年5月12日閲覧。
  13. ^ “Sources of estrogen and their importance”. The Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology 86 (3–5): 225–30. (September 2003). doi:10.1016/S0960-0760(03)00360-1. PMID 14623515. 
  14. ^ アリミデックス錠1mg 添付文書”. www.info.pmda.go.jp. PMDA. 2021年5月12日閲覧。
  15. ^ “Developmental therapeutics for patients with breast cancer and central nervous system metastasis: current landscape and future perspectives”. Annals of Oncology 28 (1): 44–56. (January 2017). doi:10.1093/annonc/mdw532. PMC 7360139. PMID 28177431. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7360139/. 
  16. ^ “Estradiol for the mitigation of adverse effects of androgen deprivation therapy”. Endocrine-Related Cancer 24 (8): R297–R313. (August 2017). doi:10.1530/ERC-17-0153. PMID 28667081. 
  17. ^ a b “Investigation of the effect of active efflux at the blood-brain barrier on the distribution of nonsteroidal aromatase inhibitors in the central nervous system”. Journal of Pharmaceutical Sciences 102 (9): 3309–19. (September 2013). doi:10.1002/jps.23600. PMID 23712697.