アマミトゲネズミ
アマミトゲネズミ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アマミトゲネズミ Tokudaia osimensis
奄美野生生物保護センター展示の剥製 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Tokudaia osimensis (Abe, 1933)[2][3][4] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Rattus jerdon osimensis Abe, 1933[5]
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アマミトゲネズミ[3][6] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Amami spiny rat Ryukyu spiny rat[1] |
アマミトゲネズミ(奄美棘鼠、Tokudaia osimensis)は、齧歯目ネズミ科トゲネズミ属に分類される齧歯類。
分布
[編集]模式標本の産地(模式産地)は住用村(現・奄美市住用町)[4]。奄美大島南東部に多いが、北東部の龍郷町にも隔離分布する[2][3]。
形態
[編集]体長8.9 - 16センチメートル[3]。尾長6.1 - 13.5センチメートル[3]。背面は黒や橙がかった黄褐色、腹面は灰白色[3]。
口蓋孔は上顎第2臼歯の中央部か、より前方にある[2]。後足長24.5 - 33ミリメートル[3]。染色体数は2n=25で[3]、性染色体はXO型[2][3][5][6][7]。Y染色体はX染色体に転座したか、SRY遺伝子なども含め消失したと推定されている[3][8][9]。
背中の被毛が棘状になっているが、固さは他の毛より少しかたい程度[10]。
分類
[編集]以前はトゲネズミ属はトゲネズミTokudaia osimensisのみで構成されていた[7]。1943年に沖縄島にも分布するとされ、1946年には沖縄島の個体群が亜種として記載された[7]。1977年に徳之島にも分布するとされた[2]。1989年に奄美大島、沖縄島、徳之島の各個体群では染色体数、沖縄島では性染色体の型も異なることから、それぞれ別種であることが示唆された[5][7]。1993年には沖縄島の亜種とされていた個体群に対し、独立種オキナワトゲネズミとして分割する説が提唱された[7]。2006年に徳之島の個体群を頭蓋骨や毛皮の標本の比較から、各計測値がより大型であるとして独立種トクノシマトゲネズミとして分割する説が提唱された[11]。ミトコンドリアDNAの制限酵素切断型、リボソームDNAの分子系統学的解析からトクノシマトゲネズミとは6,000,000 - 2,000,000年前に分化したと推定されている[7]。
種内ではミトコンドリアDNA制御領域の全長を用いた解析では、ハプロタイプ多様度はやや高いものの塩基多様度は低いと推定されている[8]。12のハプロタイプに分かれると推定され、中間のハプロタイプが消失していることから、過去に何らかの原因でボトルネックが生じ現在までに回復したと推定されている[12]。
生態
[編集]イジュやウラジロガシ、スダジイからなる常緑広葉樹林に生息する[3]。夜行性[3]。234.46平方メートルの行動圏内で生活し、オス同士では行動圏が重複することは少なくメス同士では重複することが多い[3]。1日あたり平均20.07メートルを移動する[3]。
食性は雑食で、スダジイの果実、サツマイモ、アリなどを食べる[2]。捕食者はハブが挙げられるが、ハブに対しジャンプで攻撃をかわす、体を低くし毛を逆立てる姿勢を行う[3]。1959 - 1964年に行われたハブの捕食調査では哺乳類796例(765匹 82.5 %をクマネズミ、ドブネズミが占める)のうち、本種は3例のみだったとする報告例がある[3]。
繁殖形態は胎生。10 - 12月に1 - 7頭の幼獣を産んだ例がある[2][3]。
人間との関係
[編集]1950年代からの山地開発・森林伐採による生息地の破壊、ノイヌやノネコ、フイリマングースによる捕食などにより生息数は減少していた[2][3][6]。2004 - 2005年、2010年の捕獲調査、2005年以降の環境省のマングース防除事業に伴う調査でも生息地での継続的な生息が確認できている[8]。マングースの駆除により生息環境は安定し個体群は回復傾向にあると推定されている[3][8]。また、森林伐採や都市化による環境収容力の変化をアマミトゲネズミ、ケナガネズミ、外来種クマネズミの3種で比較した結果、アマミトゲネズミやケナガネズミの保護のためには、伐採など人為的影響をできるだけ小さくすることが重要であることが示された[13]。
日本ではトゲネズミとして1972年に国の天然記念物に指定されている[2][3]。
環境省と日本動物園水族館協会は2017年、野生の個体を動物園で飼育して繁殖を目指す「生息域外保全事業」に着手。同年1月に捕獲されたアマミトゲネズミは埼玉県こども動物自然公園、恩賜上野動物園、宮崎市フェニックス自然動物園の3施設に移され[14]、このうち宮崎市フェニックス自然動物園が2018年9月15日に繁殖を確認したと同年10月に発表した[15]。
これに先立って、日本の宮崎大学で4年以上の長期飼育に成功した例がある[16]。
出典
[編集]- ^ a b Ishii, N. & Kaneko, Y. 2008. Tokudaia osimensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T21973A9342342. doi:10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T21973A9342342.en, Downloaded on 28 October 2015.
- ^ a b c d e f g h i j 金子之史 「アマミトゲネズミ」「日本産ネズミ科検索表」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修 東海大学出版会、2008年、132、171頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 金子之史 「アマミトゲネズミ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、51-52頁。
- ^ a b Guys G. Musser and Michael D. Carleton, "Tokudaia osimensis". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 2, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, p. 1513.
- ^ a b c d e 金子之史・村上興正 「シリーズ 日本の哺乳類 種名検討編、日本産齧歯類(野鼠及び家鼠)の分類学史的検討」『哺乳類科学』 1996年 36巻 1号 p.109-128, doi:10.11238/mammalianscience.36.109
- ^ a b c 遠藤秀紀 「アマミトゲネズミ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、70、163頁。
- ^ a b c d e f 土屋公幸・若菜茂晴・鈴木仁・服部正策・林良博 「トゲネズミの分類学的研究 I. 遺伝的分化」『国立科学博物館専報』第22巻、国立科学博物館、1989年、227-234頁, NAID 40001376407
- ^ a b c d 城ヶ原貴通、山田文雄、村田知慧、黒岩麻里、越本知大、三谷匡、「トゲネズミ研究の最近 (2)」 日本哺乳類学会 『哺乳類科学』 2011年 51巻 1号 p.154-158, doi:10.11238/mammalianscience.51.154
- ^ Y染色体なしでなぜオスに? 奄美大島のトゲネズミの謎、明らかに(朝日新聞2022年12月4日掲載記事)
- ^ “【金沢動物園だより】奄美大島だけに暮らすなぞだらけのネズミ「アマミトゲネズミ」を調査中! どのようなネズミか分かっていることを報告するよ!|地球にやさしい子ども達を育む環境教育メディア”. www.ecochil.net. 2023年6月17日閲覧。
- ^ Hideki Endo and Kimiyuki Tsuchiya, "A new species of Ryukyu spiny rat, Tokudaia (Muridae: Rodentia), from Tokunoshima Island, Kagoshima Prefecture, Japan" Mammal Study, 2006 Volume 31, Issue 1, Pages 47-57, doi:10.3106/1348-6160(2006)31[47:ANSORS]2.0.CO;2
- ^ 城ヶ原貴通、山田文雄、越本知大、黒岩麻里、木戸文香、中家雅隆、望月春佳、村田知慧、三谷匡、「トゲネズミ研究の最近3 ~琉球諸島哺乳類保全の次世代を担う者達~」日本哺乳類学会 『哺乳類科学』2013年 53巻 1号 p.170-173, doi:10.11238/mammalianscience.53.170
- ^ Keita Fukasawa, Tadashi Miyashita, Takuma Hashimoto, Masaya Tatara and Shintaro Abe 2013 Differential population responses of native and alien rodents to an invasive predator, habitat alteration and plant masting. Proceedings of the Royal Society B 280(1773):20132075 DOI:10.1098/rspb.2013.2075
- ^ トゲネズミ類生息域外保全事業について 環境省 報道発表資料(2017年2月17日)2018年11月26日閲覧。
- ^ 国内希少野生動植物種「アマミトゲネズミ」の繁殖を初めて確認! 宮崎市フェニックス自然動物園 動物園だより:NO.352(2017年10月23日)2018年11月26日閲覧。
- ^ 篠原明男、山田文雄、樫村敦、阿部愼太郎、坂本信介、森田哲夫、越本知大, 「絶滅危惧種アマミトゲネズミTokudaia osimensisの実験室環境における長期飼育」日本哺乳類学会 『哺乳類科学』 2013年 53巻 2号 p.335-344, doi:10.11238/mammalianscience.53.335