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イブン・バウワーブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イブン・バウワーブによるクルアーンの装飾写本(チェスター・ビーティ図書館蔵)。ヒジュラ暦391年(西暦1000/1001年)制作於バグダード。装丁。

イブン・バウワーブアラビア語: ابن البواب‎, ラテン文字転写: Ibn al-Bawwāb)は、10世紀後半から11世紀前半にかけて、バグダード装飾写本の制作に従事した筆耕者(カーティブ)、造本職人[1][2]。中世イスラーム世界を代表する能筆家、三筆の一人にその名が挙げられる(残る二人は、イブン・ムクラヤークート・ムスタアスィミー[2][3]イブン・スィトリーIbn al-Sitrī)とも呼ばれる。

名前

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「イブン・バウワーブ」あるいは「イブン・スィトリー」のクンヤで呼ばれることの多いこの人物の名前は、イスムがアリー・ブン・ヒラール・ブン・アブドゥルアズィーズといい、クンヤがアブル・ハサンという(アラビア語: أبو الحسن علي بن هلال بن عبد العزيز‎, ラテン文字転写: ʿAbū al-Ḥasan ʿAlī b. Hilāl b. ʿAbd al-ʿAzīz[1]。なお、ibn al-Bawwāb のカナ表記については、アラビア語の発音規則を反映させるか、定冠詞と後続の名詞の分かち書きをするか、定冠詞の表記を省略するかなどのスタイルの違いにより、イブン・アル=バウワーブ、イブヌル・バウワーブ、イブヌ=ル=バウワーブ、イブン・バウワーブなどの表記ゆれがある。また、Ibn al-Sitrīにも、イブン・アッ=スィトリー、イブヌッ・スィトリー/シトリー、イブヌ=ッ=スィトリー/シトリー、イブン・スィトリー/シトリーなどの表記ゆれがある。

人物像

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「イブン・バウワーブ」は、父親の職業に由来する通り名(nomen professionis)と解されている[1]。「バウワーブ」はアラビア語で「門番」を意味するため、「イブン・バウワーブ」は文字通りには「門番の息子」を意味し、そのため、イブン・バウワーブは貧しい家に生まれたものと推測されている[1]。にもかかわらず高度な教育を受け、イスラーム法学に通じ、クルアーンの暗誦もできた[1]佐藤次高が指摘するところによると、中世イスラーム社会は生まれた身分が低く、たとえ奴隷であっても、本人に才能があれば活躍できる社会であった[4]

イブン・バウワーブによるクルアーンの装飾写本(チェスター・ビーティ図書館蔵)。ヒジュラ暦391年(西暦1000/1001年)制作於バグダード。右ページ上から三分の一のあたりから「夜章」が始まり、左ページから「朝章」が記載されている。

イブン・バウワーブは、イブン・ムクラの弟子の一人、ムハンマド・ブン・アサド(Muḥammad ibn Asad)に影響を受けて、カリグラフィーに興味を持った[1]。そして、ムハンマド・ブン・サムサマーニー(Muḥammad ibn Samsamānī)の下で修行した[1]。サムサマーニーもやはり、イブン・ムクラの弟子の一人である[1]。イブン・バウワーブは、クルアーン写本を生涯で64セット作成した[1]。そのうちの1セットが現存しており、装飾の施された1000ページ余りがダブリンチェスター・ビーティ図書館において見ることができる[3]

イブン・バウワーブが後の世に及ぼした重要性は、アラビア書道の発展への寄与にあると考えられる。彼の書はイブン・ムクラの弟子たちの影響を受けている。彼はイブン・ムクラのアイデアに芸術的要素を吹き込むことで、「均整のとれた書法」( al-ḫaṭṭ al-manṣūb )を完成させた。イブン・バウワーブは、当時存在したあらゆる書法を扱ったが、その中でもとりわけ、ナスフ体ムハッカク体の書法が高く評価されている。彼の流派は、没後も13世紀まで続いた。

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i "Ibn al-Bawwāb". Encyclopaedia Britannica. 2017年9月5日閲覧
  2. ^ a b the History of Islamic Calligraphy”. Asian Art Education. 2017年9月5日閲覧。
  3. ^ a b The Qur'an Collection”. Chester Beatty Library. 2017年9月5日閲覧。
  4. ^ 佐藤, 次高『世界の歴史8(イスラーム世界の興隆)』中央公論新社中公文庫〉、2008年11月1日。ISBN 978-4122050792  第5章

参考文献

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  • Nassar Mansour: Sacred Script: Muhaqqaq in Islamic Calligraphy. (Kapitel Muḥaqqaq: The work of Ibn al-Bawwāb and Yāqūt al-Musta’ṣimī.) I. B. Tauris 2011. ISBN 1848854390
  • D. S. Rice: The Unique Ibn al-Bawwab Manuscript. Dublin: Emery Walker 1955.
  • J. Sourdel-Thomine: Ibn al-Bawwāb. In: Encyclopaedia of Islam, Second Edition. ISBN 9789004161214

関連項目

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