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インドニシキヘビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インドニシキヘビ
保全状況評価[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
亜目 : ヘビ亜目 Serpentes
: ニシキヘビ科 Pythonidae
: ニシキヘビ属 Python
: インドニシキヘビ P. molurus
学名
Python molurus
(Linnaeus, 1758)[3]
シノニム
  • Boa molura Linnaeus, 1758
  • Boa ordinata Schneider, 1801
  • Boa cinerae Schneider, 1801
  • Boa castanea Schneider, 1801
  • Boa albicans Schneider, 1801
  • Boa orbiculata Schneider, 1801
  • Coluber boaeformis Shaw, 1802
  • Python bora Daudin, 1803
  • Python tigris Daudin, 1803
  • Python ordinatus Daudin, 1803
  • Python javanicus Kuhl, 1820
  • Python jamesonii Gray, 1842
  • Python (Asterophis) tigris Fitzinger, 1843
英名
Indian python
black-tailed python[4]
Indian rock python
Asian rock python[5][6]
分布域

インドニシキヘビ[7](学名:Python molurus)は、インド亜大陸東南アジア熱帯亜熱帯地域に生息する大型のニシキヘビの一種[8]。テンジクニシキヘビとも呼ばれる[7]。近縁のビルマニシキヘビよりは小型だが、それでもヘビの中では最大級である。一般的にビルマニシキヘビよりも体色が薄く、体長は通常3 mを超える[9]

分類

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スリランカの個体群は独特な模様を持ち、セイロンニシキヘビ[7](スリランカニシキヘビ)[10] P. m. pimbura Deraniyagala、1945 という亜種とする場合もある。ビルマニシキヘビP. bivittatus)はインドニシキヘビの亜種とされていたが、2009年に形態的・地理的に異なるとして、独立種とされた[11]

形態

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頭部のピット器官

インドニシキヘビの体色は白から黄色がかった色で、斑点模様の色は黄褐色から暗褐色まで様々である。地形や生息地によって異なり、西ガーツ山脈アッサム州の丘陵林では体色が暗く、デカン高原東ガーツ山脈では明るい[12]。本種を含むニシキヘビは無毒である。

大陸の個体群は通常全長3 mほどに成長する[9][12]。1990年にケオラデオ国立公園で行われた研究による値で、個体群の25%が全長2.7 - 3.3 mであった。そのうち2個体は、ほぼ3.6 mに達した[13]。雌の方が大型化することが知られている[7]

ビルマニシキヘビとの混同、大きさの誇張、引き伸ばされた皮膚といった要因により、最大体長は不明である。パキスタンで採集された、公式に最長の標本は、全長4.6 m、体重52 kgであった。パキスタンでは、インドニシキヘビは一般的に全長2.4 - 3.0 mに達する[14]。全長6 m近い記録もあるが、疑わしい[7]

ビルマニシキヘビとは、体側面にある斑点の中央に明るい部分が存在すること、頭の側面に赤みがかった色またはピンク色の明るい縞模様があること、頭部の斑点はぼやけること、上唇板が眼に接すること、通常は明るい茶色、赤茶色、黄茶色、灰茶色であること、湿地や草原に生息するビルマニシキヘビとは異なり、通常は乾燥した場所を好むことで見分けられる[15]

分布と生息地

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ヒマラヤ山脈以南のインド亜大陸のほぼ全域に生息しており、ネパール南部、ブータンスリランカパキスタン南東部、バングラデシュ、おそらくミャンマー北部にも分布する[16]草原沼地湿地、岩山、森林渓谷など、様々な生息地に適応しているが、安定した水源を必要とする[17]。哺乳類の放棄した巣穴、木の洞、密集した水葦、マングローブの茂みなどに隠れる[12]。幼蛇時には樹上棲傾向が強いが、成長に伴いほぼ完全に地上棲となる。

生態

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動きが遅く性質も狂暴でないため、刺激されても暴れることは稀[10]。体をまっすぐに動かし、肋骨を使って移動する。大型個体は水中に留まることが多いが[10]、通常は岸近くに留まる。

摂餌

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インドニシキヘビは完全な肉食性で、哺乳類鳥類爬虫類両生類を食べるが、特に哺乳類を好む[18]。野生化ではシカを捕食し、ヤギなどの家畜を襲うこともあり、ヒョウを捕食した例もある[7]。獲物を見つけると活動を開始し、尾を震わせながら前進し、口を開けて突進する。生きた獲物は締め付けて殺す。獲物に1周か2周巻き付いて動きを止める。獲物は呼吸できずに大人しくなり、その後頭から飲み込まれる。大きな獲物を食べた後は動こうとしない。無理やり動くと、獲物の硬い部分が体内を傷つける可能性がある。そのため、一部の個体は攻撃されると食事を吐き出す。大量に食べた後は数週間絶食することがあり、記録されている最長期間は2年である。顎の骨が繋がっていないため、自分の直径よりも大きな獲物を飲み込むことができる。鋸のような歯により、獲物を口から逃がさない。

繁殖

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卵生で、雌は最大100個の卵を産み、孵化まで保護する[17]。筋肉の収縮によって体温を周囲温度よりも高くし、卵を温める[19]。孵化したばかりの幼蛇は全長45 - 60cmで、成長速度は速い[17]。インドでは、放置された卵や孵化したばかりの幼蛇を育てるため、温度の制御されたチャンバーを使用した人工孵化法が開発された[20]

人間との関係

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生息地の喪失、革製品目的の乱獲、保全活動の欠如により個体数が減少しており、2010年から2020年の10年間で個体数が約30%減少した可能性があるため、 IUCNのレッドリストでは近危急種に分類されている[1]。2017年に発表された研究では、フロリダに外来種として侵入したビルマニシキヘビはインドニシキヘビとの雑種であることが示された[21]。ワシントン条約の付属書Iに指定されており、国際取引が制限されているうえ、日本では動物愛護法により特定動物に指定されており、現状新規飼育は難しい[10]

画像

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脚注

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  1. ^ a b Aengals, A.; Das, A.; Mohapatra, P.; Srinivasulu, C.; Srinivasulu, B.; Shankar, G. & Murthy, B.H.C. (2021). Python molurus. IUCN Red List of Threatened Species 2021: e.T58894358A1945283. https://www.iucnredlist.org/species/58894358/1945283 29 June 2024閲覧。. 
  2. ^ Appendices | CITES”. cites.org. 2024年7月1日閲覧。
  3. ^ Linnaeus, C. (1758). Coluber molurus. Systema naturae per regna tria naturae: secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis. 1 (Tenth reformed ed.). Holmiae: Laurentii Salvii. p. 225. https://archive.org/details/carolilinnisys00linn/page/225 
  4. ^ Ditmars, R. L. (1933). Reptiles of the World (Revised ed.). The MacMillan Company 
  5. ^ Walls, J. G. (1998). The Living Pythons. T. F. H. Publications. pp. 131–142. ISBN 0-7938-0467-1 
  6. ^ O'Shea, M. (2007). Boas and Pythons of the World. New Holland Publishers. pp. 80–87. ISBN 978-1-84537-544-7 
  7. ^ a b c d e f 『大蛇全書』278 - 279頁
  8. ^ McDiarmid, R. W.; Campbell, J. A.; Touré, T. (1999). “Python”. Snake Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference. Volume 1. Washington, DC: Herpetologists' League. ISBN 1893777014 
  9. ^ a b Wall, F. (1912). “A popular treatise on the common Indian snakes – The Indian Python”. Journal of the Bombay Natural History Society 21: 447–476. https://archive.org/details/populartreatiseo00wall. 
  10. ^ a b c d 『ディスカバリー 生き物・再発見 ヘビ大図鑑 ボア・ニシキヘビ編』182頁
  11. ^ Jacobs, H.J.; Auliya, M.; Böhme, W. (2009). “On the taxonomy of the Burmese Python, Python molurus bivittatus KUHL, 1820, specifically on the Sulawesi population”. Sauria 31 (3): 5–11. 
  12. ^ a b c Whitaker, R. (2006). Common Indian Snakes – A Field Guide (revised ed.). The Macmillan Company of India Limited. pp. 6–9. ISBN 9781403929556 
  13. ^ Bhupathy, S. (1990). “Blotch structure in individual identification of the Indian Python (Python molurus molurus) and its possible usage in population estimation”. Journal of the Bombay Natural History Society 87 (3): 399–404. 
  14. ^ Minton, S. A. (1966). “A contribution to the herpetology of West Pakistan”. Bulletin of the American Museum of Natural History 134 (2): 117–118. hdl:2246/1129. http://digitallibrary.amnh.org/dspace/handle/2246/1129. 
  15. ^ Mark O'Shea — The quest species — Indian rock python & Burmese rock python
  16. ^ Whitaker, R.; Captain, A. (2004). Snakes of India. The field guide. Chennai, India: Draco Books. pp. 3, 12, 78–81. ISBN 81-901873-0-9 
  17. ^ a b c Mehrtens, J. M. (1987). Living Snakes of the World in Color. New York: Sterling Publishers. ISBN 0-8069-6460-X. https://archive.org/details/livingsnakesofwo00mehr 
  18. ^ Python molurus (Indian Python)”. Animal Diversity Web. 2024年7月1日閲覧。
  19. ^ Hutchison, V. H.; Dowling, H. G. & Vinegar, A. (1966). “Thermoregulation in a Brooding Female Indian Python, Python molurus bivittatus”. Science 151 (3711): 694–695. Bibcode1966Sci...151..694H. doi:10.1126/science.151.3711.694. PMID 5908075. 
  20. ^ Balakrishnan, P-; Sajeev, T.V.; Bindu, T.N. (2010). “Artificial incubation, hatching and release of the Indian Rock Python Python molurus (Linnaeus, 1758), in Nilambur, Kerala”. Reptile Rap 10: 24–27. オリジナルの2018-08-27時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180827220044/http://www.tropicalecology.in/pdf/Python%20molurus_incubation_Peroth%20Balakrishnan%20et%20al_Reptile%20Rap%202010.pdf 2014年10月25日閲覧。. 
  21. ^ Hunter, Margaret E.; Johnson, Nathan A.; Smith, Brian J.; Davis, Michelle C.; Butterfield, John S. S.; Snow, Ray W.; Hart, Kristen M. (2017-08-02). “Cytonuclear discordance in the Florida Everglades invasive Burmese python (Python bivittatus) population reveals possible hybridization with the Indian python (P. molurus)”. Ecology and Evolution 8 (17): 9034–9047. doi:10.1002/ece3.4423. PMC 6157680. PMID 30271564. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6157680/. 

参考文献

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  • 田原義太慶『大蛇全書』グラフィック社、2022年3月25日。ISBN 978-4-7661-3558-9 
  • 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ヘビ大図鑑 ボア・ニシキヘビ編』誠文堂新光社、2020年7月18日。ISBN 978-4-416-62030-4 
  • 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、143頁。
  • 『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、95頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』、小学館、2004年、117頁。
  • ロブ・ダン 著、高橋洋 訳『心臓の科学史 古代の『発見』から現代の最新医療まで』青土社、2016年5月、393-396頁。ISBN 978-4-7917-6922-3 
  • 山田和久『爬虫・両生類ビジュアルガイド ヘビ』、誠文堂新光社、2005年、75-76頁。

関連項目

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