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ウルシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウルシ属から転送)
ウルシ
Toxicodendron vernicifluum
Toxicodendron vernicifluum(2009年8月2日)
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : 真正バラ類II Eurosids II
: ムクロジ目 Sapindales
: ウルシ科 Anacardiaceae
: ウルシ属 Toxicodendron
: ウルシ T. vernicifluum
学名
Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F.A.Barkley (1940)[1]
シノニム
和名
ウルシ(漆)
英名
lacquer tree、Chinese lacquer、
Japanese lacquer-tree、varnish tree、
Japanese lacquer tree

ウルシ(漆[4]学名: Toxicodendron vernicifluum: Lacquer tree) は、ウルシ科ウルシ属落葉低木ないし高木和名の由来は、紅葉する葉の美しさから「うるわしの木」と言ったのがウルシになったという説がある[5]中国名は漆[1]

特徴

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樹高3 - 10メートル (m) 以上になり、太さは樹齢が高いもので直径1 m以上にもなる[4]。幹は真っ直ぐで、高いものになると20 mほどになる[6]。樹冠は均整がとれた形であるが、60年ほど経過した老木にもなると枝がまばらになる[6]雌雄異株樹皮灰白色

奇数羽状複葉で、形か楕円形の小葉は3 - 9対からなり、秋には紅葉する[4]。葉の裏側には毛がある[6]

は6月ごろ、葉腋黄緑色小花を多数総状につける。

果実はゆがんだ扁平の核果で、エンドウ豆ほどの大きさでしわがあり[6]、10月ごろ成熟して黄褐色となる。近似種のヤマウルシと比較して果実に毛が無い。

分布・生育地

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アジア中国中部が原産地とされる[6]。標高3000 mまでの山地や丘陵地の森に自生する[6]中国朝鮮日本を採取するため古くから広く栽培されていた。特に渓谷沿いなど比較的湿潤な環境に植栽されることが多く、野生化した個体も見られる[7]

日本には5000年ほど前に中国経由で渡来したという説がある[8][6][9][10]。しかし、中国より古い時代の漆器が日本の縄文時代の遺跡から発掘されており、また自然木と考えられるウルシも縄文時代より日本各地で出土していることから[11]、中国から持ち込まれたのではなく、日本国内に元々自生していた可能性も考えられる。また、採取法の違いなどから、日本の漆器を独自のものとする説もある。1984年福井県若狭町鳥浜貝塚で出土した木片を、2011年東北大学が調査したところ、およそ1万2600年前のものであることが報告されているが、これがいまのところ最古のウルシである[12][13]

利用

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古くから、樹皮を傷つけて生漆を採り、果実は乾かした後に絞って木蝋を採ることができる商品作物として知られており、江戸時代には広島藩などで大規模な植林が行われていた記録が残る[14]北海道網走にあるウルシ林は、幕末の探検家、松浦武四郎アイヌの人々に漆塗りを伝えようとの考えで植えたものが伝わったといわれる[4]

塗料としてのは、塗りが美しいばかりではなく、保ちがよく劣化しにくい長所がある[4]。寒い地方のものが漆としての品質が優れるとされ、津軽塗会津塗などが有名である[4]。日本の漆工芸は17世紀に非常に重要な産業になったため、1868年の明治維新まで、樹液を採取するウルシの木はすべて登録制となっていた[6]。現代の日本の漆工芸で使用する生漆(きうるし)の大部分は、中国からの輸入に頼っている[6]。漆塗りに使う樹液の採取方法は、夏至ごろにウルシの樹皮に幾筋も平行な傷をつけ、にじみ出てきた黄色い樹液を掻き取る「漆掻き」という作業が行われる[6]。1本の木から採れる樹液の量は、1年間で250 cc程度で、中国では2、3年採取したら木を休ませる[6]。日本では、10年ほど育てたウルシの木から数か月かけて樹液を採り尽くし、木を伐採してしまう「殺し掻き」が主流である[6]。伐採されたウルシは、切り株から生えたひこばえを10年かけて再び育てて樹液を採取する[6]。採取されたウルシの樹液から不純物を取り除き、熱処理して、煤や金属粉などを混ぜて塗料とし、素地となる木や竹、紙などに塗り重ねて乾燥させて研磨する工程を何度も繰り返すことで、透明感があり硬くて耐水性のある表面を形成する[6]

は、耐湿性があり、黄色で挽き物細工にする。

若い新芽の部分は食べることができ、味噌汁天ぷらにすると美味しく食べられるとも言われるが、後述するようにウルシかぶれが発生する事が考えられるので、食べない方が無難である。

また、「東医宝鑑」においてはウルシを材料とした漢方薬や、薬効に関しての記述があり、本書では固形化したウルシの樹液をじっくり煎って粉末にしたものを「乾漆」として漢方薬の材料として記載している。 このことから、古くからウルシはそれがもたらす薬効が期待され、医学の面でも利用があったといえる。

中国の雲南省怒江では[15]、実の30%を占める油を食用にする[16]。アレルゲンが含まれているためリスクがあるが[17]、2つの方法で克服している。ひとつは加工で、もうひとつは体質である。加工とはまず漆の実を粉砕し、煮詰めてアレルゲンを揮発させる方法である[18]。このあと圧搾し油を得る[19]。このようにして得たウルシの油には蝋の成分も含まれるため、47度以下で凝固するが、これは保存に有利となり、1年はもつ[20]。体質は長い歴史の中で現地の人々が環境に適応し、耐性を得たものである[21]

ウルシかぶれ

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本種をはじめ、近縁種はアレルギー接触性皮膚炎[注釈 1](いわゆる「ウルシかぶれ」)を起こしやすいことで有名である。これは、ウルシオールという物質によるものである[6]。液体のウルシオールは激しいかぶれを引き起こし[22]、人によってはウルシに触れなくとも、近くを通っただけでかぶれを起こすといわれている。また、ウルシオールの蒸気でさえ、数か月も残る痒みを引き起こすといわれる[22]山火事などでウルシなどの木が燃えた場合、そのを吸い込むと気管支内部がかぶれて呼吸困難となり、非常に危険である。なお、ウルシオールは硬化してしまえば安全であるので、漆器に食品を貯蔵しても問題はない[22]

即身仏とウルシ

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日本の東北地方では、密教の僧侶が即身仏となって悟りを開くためウルシが使われたといわれる[22]。即身仏とは僧侶がミイラ化したもので、即身仏となるためには数年をかけて食物の摂取量を徐々に減らしていき、植物の種子や根、樹皮だけを食べて痩せていき、最後にウルシの樹液から作った茶を飲んで自身をミイラ化させていくのだという[22]。死亡から3年後に墓が開かれるが、まれに遺体が腐敗や分解されずに残っていると、即身仏と見なされる[22]。この風習は自殺幇助であるとして19世紀末に法律で禁止されたが、日本のいくつかの寺院には、現代でも良好な保存状態を保つ即身仏が安置されている[22]

ウルシ属

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ウルシ属(ウルシぞく、学名: Toxicodendron)は、ウルシ科の一つ。学名は「毒のある木」を意味する[6]

脚注

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注釈

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  1. ^ アレルギー反応であって、ウルシオール自体が「毒性分」であるわけではない。

出典

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F.A.Barkley ウルシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus verniciflua Stokes ウルシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus vernicifera DC. ウルシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月14日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 辻井達一 2006, p. 115.
  5. ^ 辻井達一 2006, p. 117.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p ドローリ 2019, p. 131.
  7. ^ 『樹に咲く花2』山と渓谷社、2000年10月25日、280-281頁。 
  8. ^ 辻井達一 2006, p. 114.
  9. ^ 平岡裕一郎, 花岡創, 平尾知士, 渡辺敦史「DNAマーカーを利用して栽培樹木の起源を探る:ウルシやハゼノキは移入種か?」『日本森林学会大会発表データベース』第123回日本森林学会大会第0号、日本森林学会、2011年、M05-M05、doi:10.11519/jfsc.123.0.M05.0NAID 130005047773 
  10. ^ 渡辺敦史, 田村美帆, 泉湧一郎, 山口莉未, 井城泰一, 田端雅進「DNAマーカーを利用した日本に現存するウルシ林の遺伝的多様性評価」『日本森林学会誌』第101巻第6号、日本森林学会、2019年、298-304頁、doi:10.4005/jjfs.101.298ISSN 1349-8509NAID 130007793895 
  11. ^ 鈴木三男, 能城修一, 小林和貴「鳥浜貝塚から出土したウルシ材の年代」『植生史研究』第21巻第2号、日本植生史学会、2012年10月、67-71頁、doi:10.34596/hisbot.21.2_67ISSN 0915-003XNAID 40019477294 
  12. ^ 2011年11月6日、第26回日本植生史学会大会で東北大学の鈴木三男教授らのグループが発表
  13. ^ 1万2600万年前のウルシ展示 県立若狭歴史民俗資料館 社会 福井のニュース”. 福井新聞 (2011年10月14日). 2012年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月9日閲覧。
  14. ^ 「第三章 城下町と近郊農村の産業」『広島市史 第三巻 社会経済編』pp224 昭和34年8月15日 広島市役所
  15. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。1:30-。
  16. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。2:30-。
  17. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。2:55-。
  18. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。3:18-。
  19. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。3:43-
  20. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。4:23-
  21. ^ 美味の起源 - Netflix、「漆油」。11:55-。
  22. ^ a b c d e f g ドローリ 2019, p. 132.

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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