カニクサ属
カニクサ属 | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類(PPG I 2016) | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||
Lygodium Sw. (1801) nom. cons. | ||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||
Lygodium scandens (L.) Sw. | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
climbing fern[1] |
カニクサ属 Lygodium は、薄嚢シダ類フサシダ目に属する大葉シダ植物の1属。1枚の葉が先端で無限成長することで、蔓性になるシダ類である[2]。
コープランドの分類体系 (1947) などではフサシダ科 Schizaeaceae に分類されていたが、Christenhusz et al. (2011) や PPG I 分類体系 (2016)、海老原 (2016) などでは単型科のカニクサ科 Lygodiaceae に置かれる[3]。
系統関係
[編集]カニクサ科はフサシダ科、アネミア科とともにフサシダ目を構成する[1]。フサシダ目は属ごとに多様な形態を持つが、胞子嚢が葉の背軸面に単生し、先端付近に環帯がある形質を共有する[4]。
フサシダ目 |
| ||||||||||||
Schizaeales |
形態
[編集]生活型は地上生で、葉が蔓状になる[1]。被子植物の一般的な蔓はシュートであるが、カニクサ属の蔓は1枚の葉である[5]。
根茎は地下を匍匐して伸び、その表面に硬い有節毛が生えるが、鱗片はない[1][2][6]。径は細く、二又分枝を行う[1]。茎や根は原生中心柱を持つ[1][7]。また背腹性を持つ[1]。
葉は茎の背面から1列並んで生じる[1]。地上に出た葉は無限成長して数メートル以上にも伸び、他物に巻き付いて這い上がる[2][6][1][8][注釈 1]。葉の先端に無限成長する葉頂端幹細胞が存在する[5]。これが数年にわたって分裂を続ける[9]。中軸から分岐する一次羽軸は短く、先端が成長をやめて休止芽となる[2][6]。休止芽は毛に覆われ、左右1対の羽片を付ける[2][6]。
芽の左右に突き出す小羽片は更に分かれて羽状や掌状に裂片をつけ、叉状や網状にもなる[6]。カニクサでは小羽片が2回羽状複生するため、1枚の葉は4回羽状複生する[10]。イリオモテシャミセンヅルでは羽片が単羽状裂し[2]、1枚の葉全体は3回羽状複生する[10]。葉脈は遊離するか、網状となる[1][2]。
葉は部分二形を示し、1つの栄養葉の中で裂片の形が変化する[1]。胞子嚢を付けない小羽片は全縁から鋸歯縁、または深く切れ込む[2]。胞子嚢をつける小羽片は辺縁に小裂片がある[2]。
多くの薄嚢シダ類とは異なり明瞭な胞子嚢群は形成せず、胞子嚢は小裂片(最終裂片)の裏面の脈端に1個ずつ、2列に並んで生じる[2][1][8]。
胞子嚢は洋梨型[2](左右非対称の卵形[1])で、短い柄がある[2][1]。包膜は欠くが辺縁が反転してできた偽包膜と呼ばれる弁に覆われる[2][1][11]。環帯は先端のすぐ下に位置し(頂端性)[1][12]、胞子嚢は縦に裂開する[8]。胞子は四面体型[2]。
配偶体は地上生で緑色をしており、扁平な心臓型の前葉体である[2][8]。
種
[編集]世界の熱帯域を中心として約40種が知られる[13][14][2][4]。日本にはカニクサ、イリオモテシャミセンヅルの2種(と1変種)が分布する[14][1][2]。以下、Hassler (2024) による種のリストを示す。
また、カニクサ属は Reed (1947) により Odontopteris、Gisopteris、Eu-Lygodium などの亜属に分けられていたが、これは系統を反映していない[4]。
- カニクサ科 Lygodiaceae M.Roem. (1840)
- カニクサ属 Lygodium Sw. (1800)
- Lygodium altum (C.B.Clarke) Alderw. (1909)
- Lygodium articulatum A.Rich. (1832)
- Lygodium auriculatum (Willd.) Alston (1959)
- Lygodium boivinii Kuhn (1868)
- Lygodium borneense Alderw. (1915)
- Lygodium circinnatum (Burm.fil.) Sw. (1806)
- Lygodium cubense Kunth (1815)
- Lygodium dimorphum Copel. (1911)
- Lygodium flexuosum (L.) Sw. (1801)
- Lygodium heterodoxum Kunze (1849)
- Lygodium hians E.Fourn. (1873)
- Lygodium japonicum (Thunb.) Sw. (1801) カニクサ
- Lygodium kerstenii Kuhn (1867)
- Lygodium lanceolatum Desv. (1811)
- Lygodium longifolium (Willd.) Sw. (1803)
- Lygodium merrillii Copel. (1907)
- Lygodium microphyllum (Cav.) R.Br. (1810) イリオモテシャミセンヅル
- Lygodium oligostachyum (Willd.) Desv. (1827)
- Lygodium palmatum (Bernh.) Sw. (1806)
- Lygodium polystachyum Wall. ex T.Moore (1859)
- Lygodium radiatum Prantl (1881)
- Lygodium reticulatum Schkuhr (1809)
- Lygodium salicifolium C.Presl (1845)
- Lygodium smithianum C.Presl ex Kuhn (1868)
- Lygodium trifurcatum Baker (1868)
- Lygodium venustum Sw. (1803)
- Lygodium versteegii Christ (1909)
- Lygodium volubile Sw. (1803)
- Lygodium yunnanense Ching (1959)
- Lygodium ×fayae Jermy & T.G.Walker (1985) (Lygodium venustum × volubile)
- Lygodium ×lancetillanum L.D.Gómez (1980)(Lygodium heterodoxum × venustum)
化石記録
[編集]中生代後期白亜紀[4]または新生代古第三紀[1]以降、カニクサ属の大型化石が知られている。
後期白亜紀には Lygodium creataceum、Lygodium bierhorstiana などの種が報告されており、古第三紀からは Lygodium kaulfussi、Lygodium skottsbergii、Lygodium dinmorphyllum などが見つかっている[4]。始新世には世界中に広く分布していた[15][注釈 2]。胞子嚢を付けた最初の確実な化石記録は日本の中新世から見つかっている[4][17]。
利用
[編集]カニクサの葉は乾燥させて胞子を取り、海金沙と呼ばれる利尿薬として用いられる[14][1][2]。イリオモテシャミセンヅルの胞子もカニクサと同様、利尿剤として用いることもある[2]。イリオモテシャミセンヅルの葉を虫刺されなどの民間薬として用いることもある[2]。
また、カニクサの蔓状の葉は中軸を用いて編み籠の材料に用いられた[2][14]。また、葉が祭の時の飾りに用いられることもある[2]。沖縄県では、ガンシナと呼ばれる鉢巻にナガバカニクサを用いる[18]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 実際には数メートル以上伸びることはなく、有限成長性なのか何らかの障害により成長が止まるのかは明らかになっていない[5]。
- ^ 例えば、Lygodium kaulfussi はアメリカ合衆国ワイオミング州のブリジャー層 (Bridger Formation) 上部始新統から産出している[16]
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 海老原 2016, p. 331.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 岩槻 1992, p. 81.
- ^ 海老原 2016, pp. 26–27.
- ^ a b c d e f Wikström et al. 2002, pp. 35–50.
- ^ a b c 長谷部 2020, p. 147.
- ^ a b c d e 田川 1959, p. 38.
- ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 270.
- ^ a b c d ギフォード & フォスター 2002, p. 308.
- ^ 長谷部 2020, p. 146.
- ^ a b 海老原 2016, p. 333.
- ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 260.
- ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 266.
- ^ PPG I 2016, p. 574.
- ^ a b c d 西田 1997, p. 74.
- ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 309.
- ^ Manchester & Zavada 1987, pp. 392–399.
- ^ Matsuo 1963.
- ^ 新里 & 芝 2017, pp. 55–63.
参考文献
[編集]- Christenhusz first1=M.J.M., X.-C.; Zhang; Schneider, H. (2011). “A linear sequence of extant families and genera of lycophytes and ferns”. Phytotaxa 19: 7–54. ISSN 1179-3155.
- Murtaza, Ghulam; Syed Abdul Majid; Rehana Asghar (2004). “Morpho-palynological Studies on the Climbing Ferm Lygodium japonicum”. Asian Journal of Plant Sciences 3 (6): 728–730. doi:10.3923/ajps.2004.728.730.
- Hassler, Michael (2004 - 2024). “World Ferns. Synonymic Checklist and Distribution of Ferns and Lycophytes of the World. Version 24.7; last update July 18th, 2024.”. Worldplants. 2024年7月26日閲覧。
- Manchester, Steven R.; Zavada, Michael S. (1987). “Lygodium Foliage with Intact Sorophores from the Eocene of Wyoming”. Botanical Gazette 148 (3): 392–399. doi:10.1086/337668.
- Matsuo, H. (1963). “The Notonakajima flora of Noto peninsula”. In The collaborating association to commemorate the 80th anniversary of the Geological Survey of Japan. Tertiary Floras of Japan. Miocene Floras. Tokyo: Geological Survey of Japan. pp. 219–243.
- PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563–603. doi:10.1111/jse.12229.
- Reed, C.F. (1947). “The phylogeny and ontogeny of the Pteropsida I. Schizaeales”. Bol. Soc. Broter. II 21: 71–197.
- Wikström, N.; Kenrick, P.; Vogel, J.C. (2002). Schizaeaceae A Phylogenetic Approach. 119. pp. 35–50.
- 岩槻邦男『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年2月4日。ISBN 9784582535068。
- 海老原淳『日本産シダ植物標準図鑑1』日本シダの会 企画・協力、学研プラス、2016年7月15日、344頁。ISBN 978-4-05-405356-4。
- アーネスト M. ギフォード、エイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰、鈴木武、植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日。ISBN 4-8299-2160-9。
- 新里孝和; 芝正巳 (2017). “沖縄・伊平屋村田名のウンジャミ祭祀の祭祀樹木としてのガジュマル”. 琉球大学農学部学術報告 64: 55–63. ISSN 0370-4246 .
- 田川基二『原色日本羊歯植物図鑑』保育社〈保育社の原色図鑑〉、1959年10月1日。ISBN 4586300248。
- 西田治文「フサシダ科」『朝日百科 植物の世界[12] シダ植物・コケ植物・地衣類・藻類・植物の形態』岩槻邦男、大場秀章、清水建美、堀田満、ギリアン・プランス、ピーター・レーヴン 監修、朝日新聞社、1997年10月1日、73–74頁。
- 長谷部光泰『陸上植物の形態と進化』裳華房、2020年7月1日。ISBN 978-4785358716。
外部リンク
[編集]- ウィキメディア・コモンズには、カニクサ属に関するカテゴリがあります。