カルタン幾何学 [ 注 1] (かるたんきかがく)(英 : Cartan geometry )とは、微分幾何学 における概念で、多様体 の各点における「一次近似 」がクラインの幾何学とみなせるものの事である。カルタンの幾何学はクラインの幾何学とリーマン幾何学 を包括する幾何学概念として提案された。
以下、本項では特に断りがない限り、単に多様体 、関数 、バンドル 等といった場合はC∞ 級のものを考える。また特に断りがない限りベクトル空間は実数体上のものを考える。
カルタン幾何学の背景にあるのはクライン のエルランゲン・プログラム である。エルランゲン・プログラムは、当時「幾何学 」、例えばユークリッド幾何学 、双曲幾何学 、球面幾何学 、射影幾何学 等が乱立していた状況に対し、それらを統一する手法を提案したものであり、今日の言葉で言えば、これらはいずれも等質空間 の概念を使う事で統一的に記述できる事を示した。
すなわちクラインの意味での幾何学 (以下単にクライン幾何学 と呼ぶ)とは、リー群 G とその閉部分リー群H の組
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
を等質空間
M
=
G
/
H
{\displaystyle M=G/H}
上に「幾何学を保つ」変換群G が作用しており、X 上の一点の等方部分群 がH であるとみなしたものである。
しかしエルランゲン・プログラムには、当時すでに知られていたリーマン幾何学 が記述できない、という限界があった。実際リーマン多様体 は等質空間にはなっていないので、エルランゲン・プログラムでは記述できない。
カルタンの意味での幾何学 (以下単にカルタン幾何学 と呼ぶ)は上記の事情を背景に、クラインの幾何学とリーマン幾何学を包含する形で定義された幾何学概念である[ 1] :
多様体自身にクライン幾何学の構造が入れば、すなわち
M
=
G
/
H
{\displaystyle M=G/H}
であれば、M の各点の接ベクトル空間は自然に
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
と同型になる。ここで
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
はそれぞれG 、H のリー代数 である。
そこでちょうどリーマン幾何学の「一次近似」である接ベクトル空間 がユークリッド幾何学になっているように、カルタン幾何学では、多様体M の「一次近似」である接ベクトル空間に、クライン幾何学
G
/
H
{\displaystyle G/H}
の「一次近似」である
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
を対応させる。このとき、多様体M には等質空間
G
/
H
{\displaystyle G/H}
をモデル空間 とするカルタンの幾何学の構造が入っている、という。
しかしあくまで「一次近似」がクラインの幾何学と等しいだけなので、実際にはカルタン幾何学はクライン幾何学とはズレる。このズレを図るのがの曲率 である。
滑りとねじれのない転がし
カルタン幾何学を導入するもう一つの動機が滑りとねじれのない転がし である。これはm 次元のリーマン多様体をm 次元平面上「滑ったり」、「捻れたり」する事なく「転がした」ときにできる軌跡に関する研究である。
この軌跡はユークリッド幾何学をモデルにするカルタン幾何学を使うことで定式化が可能であり、曲線の発展 という。ユークリッド幾何学はm 次元 平面 上の幾何学であるので、m 次元平面上の軌跡 になるが、一般のクライン幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするカルタン幾何学の発展は、
M
=
G
/
H
{\displaystyle M=G/H}
上の軌跡となる。
本節では[ 2] を参考に、2次元ユークリッド幾何学をモデルとするカルタン幾何学を直観的に説明する。
E
2
{\displaystyle \mathbb {E} ^{2}}
を2次元ユークリッド空間とし、
I
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{2})}
を
E
2
{\displaystyle \mathbb {E} ^{2}}
の合同変換群 とする。すなわち
I
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{2})}
は
A
∈
O
(
2
)
{\displaystyle A\in O(2)}
と
b
∈
R
2
{\displaystyle b\in \mathbb {R} ^{2}}
を使って
x
↦
A
x
+
b
{\displaystyle x\mapsto Ax+b}
と書ける変換 全体の集合 である。
E
2
{\displaystyle \mathbb {E} ^{2}}
は
I
s
o
(
E
2
)
/
O
(
2
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{2})/O(2)}
と同一視できる。
M を2次元多様体 とし、M 上に人が一人立っているとする。人が立っている場所を
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
とし、人の前方向をx 軸、左方向をy 軸とすると、接ベクトル空間の基底
e
x
,
e
y
∈
T
u
M
{\displaystyle e_{x},e_{y}\in T_{u}M}
が定義できる。M はユークリッド空間をモデルにしているので、その人は自分の近傍をユークリッド空間だと思っている。
T
u
M
{\displaystyle T_{u}M}
の正規直交基底 全体の集合を
F
u
(
M
)
{\displaystyle F_{u}(M)}
とし、
F
(
M
)
=
∪
u
∈
M
F
u
(
M
)
{\displaystyle F(M)=\cup _{u\in M}F_{u}(M)}
とすると、
F
(
M
)
{\displaystyle F(M)}
は自然にM 上の
O
(
2
)
{\displaystyle O(2)}
-主バンドル とみなせる。以上の議論から、
F
(
M
)
{\displaystyle F(M)}
の元は、M 上にいる人(とその向き)であるとみなせる[ 注 2] 。
M 上にいる人を
(
e
x
,
e
y
)
∈
F
u
(
M
)
{\displaystyle (e_{x},e_{y})\in F_{u}(M)}
と表すとき、その人がM 上の位置(=u )を変えずに向きだけを「無限小 だけ」変えた場合、その向きの変化を表す速度ベクトル は
T
F
u
(
M
)
{\displaystyle TF_{u}(M)}
の元とみなせるが、これは人の向きを変えた回転変換 の微分 なので、回転変換群
O
(
2
)
{\displaystyle O(2)}
の無限小変換群(=
O
(
2
)
{\displaystyle O(2)}
に対応するリー代数 )である
o
(
2
)
{\displaystyle {\mathfrak {o}}(2)}
の元であるともみなせる。
すなわち、
T
F
u
(
M
)
{\displaystyle TF_{u}(M)}
の元を
o
(
2
)
{\displaystyle {\mathfrak {o}}(2)}
の元と対応させる事ができる:
T
F
u
(
M
)
→
o
(
2
)
{\displaystyle TF_{u}(M)\to {\mathfrak {o}}(2)}
また人がM 上の位置u から無限小だけ歩いた場合は、歩いたことによる
(
e
x
,
e
y
)
∈
F
u
(
M
)
{\displaystyle (e_{x},e_{y})\in F_{u}(M)}
の変化の速度ベクトルは
T
u
F
(
M
)
{\displaystyle T_{u}F(M)}
の元とみなせるが、その人は自分がユークリッド空間を歩いているのだと理解しているので、速度ベクトルを
I
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{2})}
の無限小変換群(=
I
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{2})}
のリー代数)である
i
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle {\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{2})}
の元であるとみなす。すなわち
T
u
F
(
M
)
{\displaystyle T_{u}F(M)}
の元を
i
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle {\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{2})}
と対応付けて考える。
結局、ユークリッド幾何学をモデルとするカルタン幾何学とは、M 上の
O
(
2
)
{\displaystyle O(2)}
-主バンドル
F
(
M
)
{\displaystyle F(M)}
で、ファイバー ごとの線形写像
ω
:
T
F
(
M
)
→
i
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle \omega ~:~TF(M)\to {\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{2})}
を持ち、各
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
に対し、u のファイバー
F
u
(
M
)
{\displaystyle F_{u}(M)}
の接バンドル
T
F
u
(
M
)
{\displaystyle TF_{u}(M)}
へのω の制限が
ω
(
T
F
u
(
M
)
)
∈
o
(
2
)
{\displaystyle \omega (TF_{u}(M))\in {\mathfrak {o}}(2)}
を満たすもので「性質の良いもの」(後述)である。
本節ではカルタン幾何学の定式化に必要となる用語を定義する。
G をリー群とし、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
をそのリー代数 とし、さらにN をG が右から作用する多様体(例えばG -主バンドル
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
の全空間P )とする。
なお、N がG -主バンドル
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
の全空間P の場合には
A
_
p
{\displaystyle {\underline {A}}_{p}}
は垂直部分空間
V
p
{\displaystyle {\mathcal {V}}_{p}}
の元である事が容易に示せる。
定義 (リー群の随伴表現) ― G をリー群とし
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
をそのリー代数とする。このとき、G の線形表現
A
d
:
G
→
G
L
(
g
)
{\displaystyle \mathrm {Ad} ~:~G\to \mathrm {GL} ({\mathfrak {g}})}
を
g
∈
G
{\displaystyle g\in G}
に対し、
A
d
(
g
)
:
d
h
d
t
(
0
)
∈
g
↦
d
d
t
g
h
(
t
)
g
−
1
|
t
=
0
∈
g
{\displaystyle \mathrm {Ad} (g)~:~{\tfrac {dh}{dt}}(0)\in {\mathfrak {g}}\mapsto \left.{\tfrac {d}{dt}}gh(t)g^{-1}\right|_{t=0}\in {\mathfrak {g}}}
により定義し、Ad をG の随伴表現 (英 : adjoint representation )という[ 5] 。
ここで
G
L
(
g
)
{\displaystyle \mathrm {GL} ({\mathfrak {g}})}
は
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
上の線形同型全体のなすリー群である。随伴表現の定義は
h
(
t
)
{\displaystyle h(t)}
の取り方によらずwell-defninedである。
クライン幾何学の構造を調べる準備としてモーレー・カルタン形式を導入する。
モーレー・カルタン形式は以下を満たす[ 6] :
定理 ―
(
R
g
)
∗
ω
G
=
A
d
(
g
−
1
)
ω
G
{\displaystyle (R_{g})^{*}\omega ^{G}=\mathrm {Ad} (g^{-1})\omega ^{G}}
d
ω
G
+
1
2
[
ω
G
,
ω
G
]
=
0
{\displaystyle d\omega ^{G}+{1 \over 2}[\omega ^{G},\omega ^{G}]=0}
ここで
[
⋅
,
⋅
]
{\displaystyle [\cdot ,\cdot ]}
は
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
上のリー括弧であり、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値1-形式α 、β に対し、
[
α
,
β
]
(
X
,
Y
)
:=
[
α
(
X
)
,
β
(
Y
)
]
−
[
α
(
Y
)
,
β
(
X
)
]
{\displaystyle [\alpha ,\beta ](X,Y):=[\alpha (X),\beta (Y)]-[\alpha (Y),\beta (X)]}
である。
上記の2式のうち下のものをモーレー・カルタンの方程式 [ 7] (英 : Maurer-Cartan equation )、もしくはリー群G の構造方程式 [ 8] (英 : structure equation )という。
リー群G とその閉部分リー群の組
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
で
G
/
H
{\displaystyle G/H}
が連結になるもの をクライン幾何学 、もしくは(カルタン幾何学のモデルになるので)モデル幾何学 (英 : model geometry )という[ 9] [ 10] 。
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデル幾何学とし、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
をそれぞれG 、H のリー代数とする。
ω をH -主バンドル
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
のカルタン接続 (英 : Cartan connection )という。また紛れがなければM の事をカルタン幾何学 という[ 12] 。
3つの条件の直観的な意味を説明する。
1つ目の条件は、
T
p
P
{\displaystyle T_{p}P}
と
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
が同一視できる事を意味しており、前述した直観的説明 のように、モデルがユークリッド幾何学であれば、M にいる人は、自分の近傍がユークリッド空間であるとみなしているので、人の動きの速度ベクトルの集合
T
p
P
{\displaystyle T_{p}P}
が、無限小変換全体
g
=
i
s
o
(
E
2
)
{\displaystyle {\mathfrak {g}}={\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{2})}
で記述可能である事を要請するのは自然である。
2つ目の条件は、各
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
に対し、ω が同型写像
A
∈
h
↦
A
_
∈
T
p
P
p
{\displaystyle A\in {\mathfrak {h}}\mapsto {\underline {A}}\in T_{p}P_{p}}
の逆写像である事を要請している。
A
_
{\displaystyle {\underline {A}}}
は
A
∈
h
{\displaystyle A\in {\mathfrak {h}}}
が
P
p
{\displaystyle P_{p}}
に定める無限小変換なので、前述した直観的説明 からこれは自然な要請である。なお、この2つ目の条件から特に直観的説明 のところで登場した以下の要件が従う:
ω
(
T
P
u
)
∈
h
{\displaystyle \omega (TP_{u})\in {\mathfrak {h}}}
3つ目の条件は、前述した直観的説明 から
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
にいる人は自分の近傍がモデル幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
に似ているとみなしているので、
h
∈
H
{\displaystyle h\in H}
を右から乗じれば、
g
=
T
e
G
{\displaystyle {\mathfrak {g}}=T_{e}G}
の元は
T
h
G
{\displaystyle T_{h}G}
に移動してしまうので、左からも
h
−
1
{\displaystyle h^{-1}}
を乗じて
g
=
T
e
G
{\displaystyle {\mathfrak {g}}=T_{e}G}
に戻す随伴表現
A
d
(
h
−
1
)
{\displaystyle \mathrm {Ad} (h^{-1})}
を作用させたものと等しくなる事を要請する。
なお、
ω
:
T
p
P
→
∼
g
{\displaystyle \omega ~:~T_{p}P{\overset {\sim }{\to }}{\mathfrak {g}}}
は同型 なので、M 上定義できるカルタン幾何学には
dim
g
=
dim
h
+
dim
M
{\displaystyle \dim {\mathfrak {g}}=\dim {\mathfrak {h}}+\dim M}
という制約が課せられる事になる。
カルタン接続の定義は主バンドルの接続 (主接続)の接続形式 の定義とよく似ているが、両者は似て非なる概念であり、H -主バンドルの主接続の接続形式 はH のリー代数
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
に値を取るが、カルタン接続はG のリー代数
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に値を取っている。しかし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデル幾何学とする多様体M 上のカルタン幾何学とするとき、H -主バンドル
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
上定義されたカルタン接続
ω
:
T
P
→
g
{\displaystyle \omega ~:~TP\to {\mathfrak {g}}}
は、自然に
Q
:=
P
×
H
G
→
M
{\displaystyle Q:=P\times _{H}G\to M}
というG -主バンドル上の
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値1-形式
ω
¯
:
T
Q
→
g
{\displaystyle {\bar {\omega }}~:~TQ\to {\mathfrak {g}}}
に拡張する事ができ[ 14] 、
ω
¯
{\displaystyle {\bar {\omega }}}
はG -主バンドル
Q
→
M
{\displaystyle Q\to M}
の接続形式である[ 14] 。逆に
Q
→
M
{\displaystyle Q\to M}
を任意のG -主バンドルとし、
ω
¯
{\displaystyle {\bar {\omega }}}
をQ 上定義された接続形式とするとき、
Q
→
M
{\displaystyle Q\to M}
のH -部分バンドル
φ
:
P
→
Q
{\displaystyle \varphi ~:~P\to Q}
で
φ
∗
(
T
P
)
∩
ker
ω
=
{
0
}
{\displaystyle \varphi _{*}(TP)\cap \ker \omega =\{0\}}
であり、しかも
dim
G
=
dim
P
{\displaystyle \dim G=\dim P}
であればω のTP への制限はP 上のカルタン接続になる[ 15] 。
なお、モデル幾何学が「簡約可能」という条件を満たす場合は、上記のものとは別の形の関係性をカルタン接続と主接続は満たす。詳細は後述 する。
定義から分かるように、カルタン幾何学の定義は
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
、およびH には依存しているが、G には直接依存していない。これは
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
、およびH はM 上のカルタン幾何学の局所的な 構造を定めるのに対し、G はクライン幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
の大域的な 構造を定めるものであるため、G が不要である事による。
リー代数
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G は一意ではなく[ 注 4] 、これが原因で大域的な構造を定めるG はカルタン幾何学の定義に必須でないばかりか、一部の定理ではG を(
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応する)別のリー群に取り替える必要が生じてしまう。
そこでG に直接言及せず、
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
を使ったカルタン幾何学の定式化も導入する。そのために以下の定義をする:
以下、特に断りがなければ、
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が効果的である事を仮定する[ 注 6] 。ここで
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が効果的 であるとは、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
に含まれる
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
のイデアルが
{
0
}
{\displaystyle \{0\}}
のみである事を意味する。G 、H を
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
、
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
に対応するリー群とすると、
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が効果的である事は、
X
=
G
/
H
{\displaystyle X=G/H}
、
K
:=
{
g
∈
G
∣
∀
x
∈
X
:
g
x
=
x
}
{\displaystyle K:=\{g\in G\mid \forall x\in X~:~gx=x\}}
とするとき、K が離散群 になる事と同値である[ 18] 。
定義 (無限小クライン幾何学によるカルタン幾何学の定義) ―
M を多様体とし、
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とし、
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
をH -主バンドルとし、
ω をクライン幾何学によるカルタン幾何学の定義 の条件を満たすP 上の
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値1-形式とする。
このとき、組
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
をH を伴う
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
をモデルとするM 上のカルタン幾何学 (英 : Cartan geometry on M modeled on
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
with H )という[ 12] 。
本節ではカルタン幾何学の最も簡単な例として、クライン幾何学のカルタン幾何学としての構造を調べる。
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をクライン幾何学とし、
M
=
G
/
H
{\displaystyle M=G/H}
とし、
u
0
=
[
e
]
{\displaystyle u_{0}=[e]}
とする。ここで
[
e
]
{\displaystyle [e]}
はG の単位元e の同値類である。このとき
π
:
g
∈
G
↦
g
u
0
∈
M
{\displaystyle \pi ~:~g\in G\mapsto gu_{0}\in M}
は自然にH -主バンドルとみなせる。G 上のモーレー・カルタン形式
ω
G
{\displaystyle \omega ^{G}}
がカルタン接続の定義を満たす事を示せるので、
(
π
,
G
,
μ
)
{\displaystyle (\pi ,G,\mu )}
は
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするカルタン幾何学になる。
局所クライン幾何学とその上のカルタン幾何学[ 編集 ]
リー群G とその閉部分リー群の組
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
を考える[ 注 7] 。G の離散部分群
Γ
{\displaystyle \Gamma }
で、
G
/
H
{\displaystyle G/H}
へのG からの作用
G
↷
G
/
H
{\displaystyle G\curvearrowright G/H}
の
Γ
{\displaystyle \Gamma }
への制限
Γ
↷
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \curvearrowright G/H}
が効果的なものを考える(
Γ
↷
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \curvearrowright G/H}
が効果的な事は
Γ
∩
H
=
{
e
}
{\displaystyle \Gamma \cap H=\{e\}}
である事と同値である)。このとき、
Γ
↷
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \curvearrowright G/H}
による商集合
M
=
Γ
∖
G
/
H
{\displaystyle M=\Gamma \backslash G/H}
を考える。M が連結なとき、
(
G
,
H
,
Γ
)
{\displaystyle (G,H,\Gamma )}
を局所クライン幾何学 (英 : locally Klein geometry )という[ 20] 。
局所クライン幾何学M 上に以下のようにカルタン幾何学を定義できる。まず
Γ
↷
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \curvearrowright G/H}
が効果的なので
P
=
Γ
∖
G
{\displaystyle P=\Gamma \backslash G}
とすると、商写像
π
:
P
=
Γ
∖
G
→
M
=
Γ
∖
G
/
H
{\displaystyle \pi ~:~P=\Gamma \backslash G\to M=\Gamma \backslash G/H}
には自然にH -主バンドルの構造が入る[ 注 8] 。またG 上のモーレー・カルタン形式
ω
G
{\displaystyle \omega ^{G}}
はその定義より左不変なので、商写像
q
:
G
→
Γ
∖
G
{\displaystyle q~:~G\to \Gamma \backslash G}
に対し
π
∗
(
ω
Γ
∖
G
)
=
ω
G
{\displaystyle \pi ^{*}(\omega ^{\Gamma \backslash G})=\omega ^{G}}
を満たす一意な
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値1-形式を
ω
Γ
∖
G
{\displaystyle \omega ^{\Gamma \backslash G}}
とする事で、
P
=
Γ
∖
G
{\displaystyle P=\Gamma \backslash G}
にカルタン接続
ω
Γ
∖
G
{\displaystyle \omega ^{\Gamma \backslash G}}
がwell-definedされ、
M
=
Γ
∖
G
/
H
{\displaystyle M=\Gamma \backslash G/H}
上に
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
Γ
∖
G
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega ^{\Gamma \backslash G})}
が定義できる[ 20] 。
2つのカルタン幾何学の間の(局所的および大域的な)同型概念を以下のように定義する:
定義 ―
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とし、M1 、M2 を多様体とし、
(
π
1
,
P
1
,
ω
1
)
{\displaystyle (\pi _{1},P_{1},\omega _{1})}
、
(
π
2
,
P
2
,
ω
2
)
{\displaystyle (\pi _{2},P_{2},\omega _{2})}
をそれぞれ
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とするM1 、M2 上のカルタン幾何学とする。
バンドル写像
(
f
,
f
~
)
:
(
M
1
,
P
1
)
→
(
M
2
,
P
2
)
{\displaystyle (f,{\tilde {f}})~:~(M_{1},P_{1})\to (M_{2},P_{2})}
で
f
:
M
1
→
M
2
{\displaystyle f~:~M_{1}\to M_{2}}
がはめ込みであり、
f
~
:
M
~
1
→
M
~
2
{\displaystyle {\tilde {f}}~:~{\tilde {M}}_{1}\to {\tilde {M}}_{2}}
による
ω
2
{\displaystyle \omega _{2}}
の引き戻しが
f
∗
(
ω
2
)
=
ω
1
{\displaystyle f^{*}(\omega _{2})=\omega _{1}}
となるものをカルタン幾何学間の局所幾何学的同型 (英 : local geometric isomorphism )という[ 21] 。とくにf が(可微分)同相写像であれば、
(
f
,
f
~
)
{\displaystyle (f,{\tilde {f}})}
を幾何学的同型 (英 : geometric isomorphism )という[ 21] 。
任意の
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
に対して
ω
:
T
p
P
→
∼
g
{\displaystyle \omega ~:~T_{p}P{\overset {\sim }{\to }}{\mathfrak {g}}}
は同型写像であるので、TP はω により
T
P
≈
P
×
g
{\displaystyle TP\approx P\times {\mathfrak {g}}}
という同一視ができ、TP はベクトルバンドル として自明である。
よって特に
A
∈
g
{\displaystyle A\in {\mathfrak {g}}}
を各
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
に対してω の逆写像でTp P に移すことで、TP 上のベクトル場 を作る事ができる。
定数ベクトル場を用いると、以下の「普遍共変微分」を定義できる:
定義 (普遍共変微分) ―
V をベクトル空間とし、
f
:
P
→
V
{\displaystyle f~:~P\to V}
を(滑らかな)写像とする。このとき、f にベクトル場
ω
−
1
(
A
)
{\displaystyle \omega ^{-1}(A)}
(は接ベクトル空間の元なので自然に微分作用素 とみなしたもの)を作用させた
D
A
f
:=
ω
−
1
(
A
)
f
{\displaystyle D_{A}f:=\omega ^{-1}(A)f}
をf のA による普遍共変微分 [訳語疑問点 ] (英 : universal covariant derivative )という[ 23] 。
モデル幾何学が「簡約可能」という条件を満たす場合は、普遍共変微分は通常の共変微分 を導く。これについては後述 。
本節ではカルタン幾何学が定義された多様体の接バンドルの構造を調べる。そのために以下の定義をする。
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とするM 上のカルタン幾何学とする。
A
d
{\displaystyle \mathrm {Ad} }
はH の
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
への作用を定義するが、
A
d
{\displaystyle \mathrm {Ad} }
の
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
への制限は
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
上の随伴表現 である(ので
A
d
{\displaystyle \mathrm {Ad} }
は
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
を保つ)ことから、
A
d
{\displaystyle \mathrm {Ad} }
はH の
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
への作用を誘導する。またH はH -主バンドルP に作用していたので、これの作用により、ベクトルバンドル
P
×
H
,
A
d
g
/
h
{\displaystyle P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
を定義できる。実はこのベクトルバンドルは接バンドルと同型である:
定理 (接バンドルと無限小クライン幾何学の関係 ) ― ベクトルバンドルとしての同型
P
×
H
,
A
d
g
/
h
≈
T
M
{\displaystyle P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx TM}
が成立する[ 24] 。
具体的には写像
[
(
p
,
[
A
]
)
]
∈
P
×
H
,
A
d
g
/
h
↦
π
∗
(
ω
p
−
1
(
A
)
)
∈
T
M
{\displaystyle [(p,[A])]\in P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\mapsto \pi _{*}(\omega _{p}{}^{-1}(A))\in TM}
はwell-defined であり、ベクトルバンドルとしての同型写像である[ 24] 。ここで
ω
p
−
1
(
A
)
{\displaystyle \omega _{p}{}^{-1}(A)}
は同型写像
ω
p
:
T
p
P
→
∼
g
{\displaystyle \omega _{p}~:~T_{p}P{\overset {\sim }{\to }}{\mathfrak {g}}}
の逆写像
ω
p
−
1
{\displaystyle \omega _{p}{}^{-1}}
で
A
∈
g
{\displaystyle A\in {\mathfrak {g}}}
を
T
p
P
{\displaystyle T_{p}P}
に移したものである。
クライン幾何学をカルタン幾何学とみなした場合、カルタン接続はモーレー・カルタン形式ωG と等しいので、カルタン接続は構造方程式
d
ω
G
+
1
2
[
ω
G
,
ω
G
]
=
0
{\displaystyle d\omega ^{G}+{1 \over 2}[\omega ^{G},\omega ^{G}]=0}
を満たすが、一般のカルタン幾何学は構造方程式を満たすとは限らない。そこで以下の量を考える:
定義 (曲率) ―
カルタン接続ω を持つ多様体M 上のカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
に対し、P 上の
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値2-形式
Ω
:=
d
ω
+
1
2
[
ω
,
ω
]
{\displaystyle \Omega :=d\omega +{1 \over 2}[\omega ,\omega ]}
をカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
の曲率 (英 : curvature )という[ 12] 。
Ω は(局所)クライン幾何学からのズレを表す量であると解釈でき、明らかにクライン幾何学や局所クライン幾何学の曲率 は恒等的に0である。
曲率は以下を満たす:
定理 (カルタン接続のビアンキ恒等式 ) ― カルタン接続ω とその曲率Ω は下記の恒等式(ビアンキ恒等式 、英 : Bianchi identity )を満たす[ 25] :
d
Ω
=
[
Ω
,
ω
]
{\displaystyle d\Omega =[\Omega ,\omega ]}
点
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
のファイバーPu にはH が単純推移的に 作用するので、
p
∈
P
u
{\displaystyle p\in P_{u}}
をfixして、
h
∈
H
↦
p
h
∈
P
u
{\displaystyle h\in H\mapsto ph\in P_{u}}
によりH とPu を同一視すると、TPu 上にモーレー・カルタン形式ωH が定義できる。しかもωH は
p
∈
P
u
{\displaystyle p\in P_{u}}
の取り方に依存しないことも容易に証明できる。実は曲率のPu への制限はωH に一致する。
なお、実はv 、w の少なくとも一方がTp Pu に属していれば、
Ω
p
(
v
,
w
)
=
0
{\displaystyle \Omega _{p}(v,w)=0}
である事が知られている[ 26] 。よって特に次が成立する:
このΩ' は次節で導入する曲率関数を用いる事で具体的に記述できる。
ω
p
T
p
P
→
∼
g
{\displaystyle \omega _{p}T_{p}P{\overset {\sim }{\to }}{\mathfrak {g}}}
が同型写像 であったことから、写像の合成
∧
2
g
→
∼
∧
2
T
p
P
→
Ω
g
{\displaystyle \wedge ^{2}{\mathfrak {g}}{\overset {\sim }{\to }}\wedge ^{2}T_{p}P{\overset {\Omega }{\to }}{\mathfrak {g}}}
を定義できる。またすでに述べたようにv 、w の少なくとも一方がTp Pu に属していれば、
Ω
p
(
v
,
w
)
=
0
{\displaystyle \Omega _{p}(v,w)=0}
である事が知られている[ 26] 事から、この写像は
∧
2
g
/
h
{\displaystyle \wedge ^{2}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
上の写像をwell-definedに誘導する。
曲率
Ω
:
∧
2
T
p
P
≈
∧
2
g
→
g
{\displaystyle \Omega ~:~\wedge ^{2}T_{p}P\approx \wedge ^{2}{\mathfrak {g}}\to {\mathfrak {g}}}
がM 上の
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-値2-形式Ω' を誘導する事を前に見た 。このΩ' は曲率関数を使って以下のように書き表す事ができる。
Ω
:
⋀
2
T
p
P
≈
⋀
2
g
→
g
π
∗
↓
↻
↓
↻
|
|
Ω
′
:
⋀
2
T
π
(
p
)
M
≈
⋀
2
g
/
h
→
K
p
g
{\displaystyle {\begin{array}{cccccc}\Omega ~:~&\bigwedge ^{2}T_{p}P&\approx &\bigwedge ^{2}{\mathfrak {g}}&\to &{\mathfrak {g}}\\&\pi _{*}\downarrow &\circlearrowright &\downarrow &\circlearrowright &||\\\Omega '~:~&\bigwedge ^{2}T_{\pi (p)}M&\approx &\bigwedge ^{2}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}&{\overset {K_{p}}{\to }}&{\mathfrak {g}}\end{array}}}
さらに以下の定義をする:
モデル幾何学がアフィン幾何学である場合は、この捩率はアフィン接続の捩率テンソル に一致する。詳細は後述。
本節の目標は、商写像
ρ
:
g
→
g
/
h
{\displaystyle \rho ~:~{\mathfrak {g}}\to {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
とカルタン接続の合成
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
の幾何学的意味を説明する事である。
まず、
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
は以下のように特徴づける事ができる:
上記の特徴付けから、
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
の幾何学的意味は同型
P
×
H
g
/
h
→
∼
T
M
{\displaystyle P\times _{H}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}{\overset {\sim }{\to }}TM}
に関係しているので、この同型の幾何学的意味を見る。
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
にベクトル空間としての基底
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
をfixし、同型
P
×
H
,
A
d
g
/
h
→
∼
T
M
{\displaystyle P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}{\overset {\sim }{\to }}TM}
による
[
p
,
e
i
]
{\displaystyle [p,e_{i}]}
の像を
e
i
p
{\displaystyle e_{i}^{p}}
とすると、
e
p
:=
(
e
1
p
,
…
,
e
m
p
)
{\displaystyle e^{p}:=(e_{1}^{p},\ldots ,e_{m}^{p})}
は
T
π
(
p
)
M
{\displaystyle T_{\pi (p)}M}
の基底をなす。
よって特に、
F
:=
{
e
p
∣
p
∈
P
}
{\displaystyle F:=\{e^{p}\mid p\in P\}}
とすると、F はM 上のフレームバンドル (英語版 ) (=各点のファイバーがTM の基底からなるバンドル)になる[ 28] 。
一般には対応
p
∈
P
↦
e
p
∈
F
{\displaystyle p\in P\mapsto e^{p}\in F}
は全単射 ではないが、
P
×
H
,
A
d
g
/
h
{\displaystyle P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
の定義から、カルタン幾何学が下記の意味で「一階」であれば、この写像は全単射になる:
定義 ―
随伴表現
A
d
:
H
→
G
L
(
g
/
h
)
{\displaystyle \mathrm {Ad} ~:~H\to \mathrm {GL} ({\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}})}
が忠実なとき、クライン幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
(および
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルに持つカルタン幾何学)は一階 [訳語疑問点 ] (英 : first order )であるといい、そうでないとき高階 [訳語疑問点 ] (英 : higher order )であるという[ 29] 。
以上の準備のもと、
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
を幾何学的に意味付ける:
定理 (
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
の解釈 ) ― 記号を上と同様に取り、カルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
が一階であるとする。このとき、
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
の基底
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
で
g
/
h
≈
R
m
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx \mathbb {R} ^{m}}
という同一視を行うと、
v
∈
T
p
P
≈
T
e
p
F
{\displaystyle v\in T_{p}P\approx T_{e^{p}}F}
に対し、
ρ
∘
ω
(
v
)
∈
g
/
h
≈
R
m
{\displaystyle \rho \circ \omega (v)\in {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx \mathbb {R} ^{m}}
は基底
e
p
=
(
e
1
p
,
…
,
e
m
p
)
{\displaystyle e^{p}=(e_{1}^{p},\ldots ,e_{m}^{p})}
で
π
(
v
)
{\displaystyle \pi (v)}
を成分表示したときの係数
t
(
v
1
,
…
,
v
m
)
∈
R
m
{\displaystyle {}^{t}(v^{1},\ldots ,v^{m})\in \mathbb {R} ^{m}}
を対応させる
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
値1-形式であるとみなせる[ 28] [ 注 11] 。
上記のような、
v
∈
T
e
F
{\displaystyle v\in T_{e}F}
に
π
∗
(
v
)
=
v
i
e
i
{\displaystyle \pi _{*}(v)=v^{i}e_{i}}
となる
t
(
v
1
,
…
,
v
m
)
{\displaystyle {}^{t}(v^{1},\ldots ,v^{m})}
を対応させる
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
-値1-形式をフレームバンドル上の標準形式 (英 : canonical form )という[ 30] 。上述の定理はカルタン幾何学が一階であれば
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
は標準形式として意味づけられる事を保証する。
簡約可能なモデル幾何学に対するカルタン幾何学[ 編集 ]
本節ではモデル幾何学
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
が「簡約可能」という性質を満たす場合にが対するカルタン幾何学の性質を見る。具体的にはモデル幾何学がユークリッド幾何学やアフィン幾何学の場合には簡約可能になる。
まず簡約可能性を定義する:
なお、
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
の取り方は一意とは限らないので注意されたい。
G が2つのリー群の半直積
G
=
H
⋉
B
{\displaystyle G=H\ltimes B}
で書けている場合は、G 、H に対応するモデル幾何学
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
は、B のリー代数を
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
として選ぶ事で簡約可能である[ 33] 。
よって特にユークリッド幾何学 の等長変換群
I
s
o
(
E
m
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})}
は直交群
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
と平行移動のなす群の半直積で書けるので対応するモデル幾何学は簡約可能である。アフィン幾何学 も同様である。
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学にする多様体M 上のカルタン幾何学とする。モデル幾何学
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
が、
h
⊕
b
=
g
{\displaystyle {\mathfrak {h}}\oplus {\mathfrak {b}}={\mathfrak {g}}}
と簡約可能なとき、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元は
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
の元と
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
の元の和で一意に表現できるので、カルタン接続
ω
:
T
P
→
g
{\displaystyle \omega ~:~TP\to {\mathfrak {g}}}
も
ω
=
ω
h
+
ω
b
{\displaystyle \omega =\omega _{\mathfrak {h}}+\omega _{\mathfrak {b}}}
のように「
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
部分」と「
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
部分」の和で書ける。この分解を用いると、カルタン接続と主接続の接続形式との関係性を以下のように記述できる:
したがって、簡約可能なモデル幾何学の場合にはカルタン接続から主接続の接続形式
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
が得られることになる。
一方、
ω
b
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}}
は
b
⊂
g
→
ρ
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {b}}\subset {\mathfrak {g}}{\overset {\rho }{\to }}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
により
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
を
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
と同一視すると、
ω
b
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}}
は
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
と同一視でき、前述のように(カルタン幾何学が一階であれば)
ρ
∘
ω
{\displaystyle \rho \circ \omega }
は標準形式であるとみなせる。
したがって分解
ω
=
ω
h
+
ω
b
{\displaystyle \omega =\omega _{\mathrm {h} }+\omega _{\mathrm {b} }}
はカルタン接続
ω
{\displaystyle \omega }
を接続形式
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
と標準形式
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
に分解するものであるが、実は逆に接続形式と標準形式からカルタン接続を復元できる:
前述 した、カルタン接続から接続形式と標準形式とに分解する定理とは丁度「逆写像 」の関係にあり、簡約可能で一階の場合はカルタン接続は接続形式と標準形式との組と1対1に対応する[ 34] 。
モデル幾何学が簡約可能である場合、上述したようにカルタン接続ω から定義される
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
はH -主バンドルP の接続形式になる。ベクトル空間V 上のH の線形表現
γ
:
H
→
G
L
(
V
)
{\displaystyle \gamma ~:~H\to \mathrm {GL} (V)}
があれば、ベクトルバンドルとしての接続(Koszul接続) の一般論から、接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
はM 上のベクトルバンドル
E
:=
P
×
H
,
γ
V
{\displaystyle E:=P\times _{H,\gamma }V}
にKoszul接続を定める[ 35] 。
よって特に、接バンドルは
T
M
≈
P
×
H
,
A
d
g
/
h
{\displaystyle TM\approx P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
と書けたので、
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
はTM 上のKoszul接続、すなわちアフィン接続 ∇ を定める。
このことから分かるようにモデル幾何学がアフィン幾何学でなくても 、簡約可能でありさえすればアフィン接続を誘導する。
しかし特にモデル幾何学がアフィン幾何学であれば、アフィン変換群 G の
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
上の随伴表現は
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
上のアフィン変換になる事を示す事ができ、この意味において
T
M
≈
P
×
H
,
A
d
g
/
h
{\displaystyle TM\approx P\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
はアフィン空間
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
のバンドルとなる。後述 するように、この事実が例えばモデルがユークリッド幾何学の場合には重要になる。
γ
:
H
→
G
L
(
V
)
{\displaystyle \gamma ~:~H\to \mathrm {GL} (V)}
をベクトル空間V 上のH の線形表現 とし、
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
がM 上のベクトルバンドル
E
:=
P
×
H
,
γ
V
{\displaystyle E:=P\times _{H,\gamma }V}
に定めるKoszul接続を∇ とする。
E の切断s と
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
に対し、
s
π
(
p
)
=
[
p
,
f
s
(
p
)
]
∈
P
×
H
,
γ
V
=
E
{\displaystyle s_{\pi (p)}=[p,f_{s}(p)]\in P\times _{H,\gamma }V=E}
となる
f
s
(
p
)
{\displaystyle f_{s}(p)}
が一意に存在し、fs はP からV への関数
f
s
:
P
→
V
{\displaystyle f_{s}~:~P\to V}
とみなせる。
上記のように
D
ω
b
(
X
~
)
f
s
{\displaystyle D_{\omega _{\mathfrak {b}}({\tilde {X}})}f_{s}}
はKoszul接続
∇
X
s
{\displaystyle \nabla {}_{X}s}
と関係するが、それに対し
D
ω
h
(
X
~
)
f
s
{\displaystyle D_{\omega _{\mathfrak {h}}({\tilde {X}})}f_{s}}
の方は自明なものになってしまう:
本節ではモデル幾何学
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
が
g
=
h
+
b
{\displaystyle {\mathfrak {g}}={\mathfrak {h}}+{\mathfrak {b}}}
と簡約可能でしかも
[
b
,
b
]
⊂
b
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]\subset {\mathfrak {b}}}
となっている場合、すなわち
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
として
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の部分リー代数になっているものを取れる場合に対し、曲率の「
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
部分」と「
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
部分」を具体的に書き表す。
先に進む前にこの条件を満たすモデル幾何学の具体例を述べる。例えば
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G が2つのリー群の半直積
G
=
H
⋉
B
{\displaystyle G=H\ltimes B}
で書けている場合に、
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
としてB のリー代数を取れば上述の条件を満たす。特に、モデル幾何学がアフィン幾何学である場合は、アフィン変換群
A
f
f
m
{\displaystyle \mathrm {Aff} _{m}}
は線形変換
G
L
m
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{m}(\mathbb {R} )}
と平行移動のなす群
B
=
R
m
{\displaystyle B=\mathbb {R} ^{m}}
の半直積で書け、しかも
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
をB のリー代数とすると、
[
b
,
b
]
=
{
0
}
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]=\{0\}}
というより強い条件が成立する。モデル幾何学がユークリッド幾何学の場合も同様である。
曲率Ω は
g
=
h
+
b
{\displaystyle {\mathfrak {g}}={\mathfrak {h}}+{\mathfrak {b}}}
に値を取るので、曲率を
Ω
=
Ω
h
+
Ω
b
{\displaystyle \Omega =\Omega _{\mathfrak {h}}+\Omega _{\mathfrak {b}}}
と「
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
部分」
Ω
h
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {h}}}
と「
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
部分」
Ω
b
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {b}}}
に分解する。商写像
b
⊂
g
→
ρ
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {b}}\subset {\mathfrak {g}}{\overset {\rho }{\to }}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
が同型になることから、
b
≈
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {b}}\approx {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
という同一視をすると、
Ω
b
≈
ρ
(
Ω
)
=
τ
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {b}}\approx \rho (\Omega )=\tau }
と
Ω
b
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {b}}}
がカルタン幾何学の捩率
τ
=
ρ
(
Ω
)
{\displaystyle \tau =\rho (\Omega )}
に対応する事が分かる。
とくにアフィン幾何学をモデルとするカルタン幾何学の場合、
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
はアフィン変換群
A
f
f
m
=
G
L
m
(
R
)
⋉
R
m
{\displaystyle \mathrm {Aff} _{m}=\mathrm {GL} _{m}(\mathbb {R} )\ltimes \mathbb {R} ^{m}}
の並進部分である
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
に対応するリー代数であるので、アフィン幾何学をモデルとする場合、捩率とは並進に関する曲率 であるとみなせる。
曲率の定義から、
Ω
=
d
ω
+
1
2
[
ω
,
ω
]
{\displaystyle \Omega =d\omega +{1 \over 2}[\omega ,\omega ]}
=
d
ω
h
+
d
ω
b
+
1
2
[
ω
h
,
ω
h
]
+
[
ω
h
,
ω
b
]
+
1
2
[
ω
b
,
ω
b
]
{\displaystyle =d\omega _{\mathfrak {h}}+d\omega _{\mathfrak {b}}+{1 \over 2}[\omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {h}}]+[\omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {b}}]+{1 \over 2}[\omega _{\mathfrak {b}},\omega _{\mathfrak {b}}]}
が成立するので、仮定
[
b
,
b
]
⊂
b
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]\subset {\mathfrak {b}}}
を使うと以下が成立する事が分かる:
定理 (分解した場合の構造方程式 ) ―
Ω
h
=
d
ω
h
+
1
2
[
ω
h
,
ω
h
]
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {h}}=d\omega _{\mathfrak {h}}+{1 \over 2}[\omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {h}}]}
τ
≈
Ω
b
=
d
ω
b
+
[
ω
h
,
ω
b
]
+
1
2
[
ω
b
,
ω
b
]
{\displaystyle \tau \approx \Omega _{\mathfrak {b}}=d\omega _{\mathfrak {b}}+[\omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {b}}]+{1 \over 2}[\omega _{\mathfrak {b}},\omega _{\mathfrak {b}}]}
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
が接続形式に対応している事 から、上記の定理の1つ目の式は、接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
が定義する主接続に対する第二構造方程式 である事がわかる。よって特に、
Ω
h
{\displaystyle \Omega _{\mathfrak {h}}}
は主接続の曲率形式 である事がわかる。したがって
一方2本目の式において
ω
b
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}}
は
T
P
→
ω
g
→
g
/
h
≈
b
{\displaystyle TP{\overset {\omega }{\to }}{\mathfrak {g}}\to {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx {\mathfrak {b}}}
に一致し、標準形式θ として解釈 できるので、モデル幾何学がアフィン幾何学である場合のように
[
b
,
b
]
=
{
0
}
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]=\{0\}}
であれば、2本目の式は
τ
≈
d
θ
+
[
ω
h
,
θ
]
{\displaystyle \tau \approx d\theta +[\omega _{\mathfrak {h}},\theta ]}
となり、第一構造方程式 に対応している事が分かる。よってこの場合の捩率は接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
がTM によって定まる主接続の捩率テンソル に一致する。
前述したカルタン接続のビアンキ恒等式
d
Ω
=
[
Ω
,
ω
]
{\displaystyle d\Omega =[\Omega ,\omega ]}
を「
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
部分」と「
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
部分」に分解することで以下の定理が結論づけられる:
定理 (分解した場合のビアンキ恒等式 ) ―
d
Ω
g
=
[
Ω
g
,
ω
g
]
{\displaystyle d\Omega _{\mathfrak {g}}=[\Omega _{\mathfrak {g}},\omega _{\mathfrak {g}}]}
d
τ
≈
d
Ω
b
=
[
τ
,
ω
h
]
+
[
Ω
h
,
ω
b
]
+
[
Ω
h
,
ω
h
]
{\displaystyle d\tau \approx d\Omega _{\mathfrak {b}}=[\tau ,\omega _{\mathfrak {h}}]+[\Omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {b}}]+[\Omega _{\mathfrak {h}},\omega _{\mathfrak {h}}]}
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
が接続形式に対応している事 から、上記の定理の1本目の式は接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
が定義する主接続に関する第二ビアンキ恒等式 である。
一方、2本目の式は、構造方程式の場合 と同様、モデル幾何学がアフィン幾何学のように
[
b
,
b
]
=
{
0
}
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]=\{0\}}
を満たせば、
d
τ
≈
[
τ
,
ω
h
]
+
[
Ω
h
,
θ
]
{\displaystyle d\tau \approx [\tau ,\omega _{\mathfrak {h}}]+[\Omega _{\mathfrak {h}},\theta ]}
と第一ビアンキ恒等式 に一致する。
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするM 上のカルタン幾何学とし、
φ
:
[
a
,
b
]
→
P
{\displaystyle \varphi ~:~[a,b]\to P}
を区間
[
a
,
b
]
{\displaystyle [a,b]}
上定義されたP 上の曲線とするt を[a ,b ] 上の点とすると、
T
φ
(
t
)
P
{\displaystyle T_{\varphi (t)}P}
にはカルタン接続ω により
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元が対応している。次の事実が知られている:
モーレー・カルタン形式
ω
G
{\displaystyle \omega ^{G}}
は、G 上の接ベクトルをG の作用により
g
=
T
e
G
{\displaystyle {\mathfrak {g}}=T_{e}G}
に移す変換であったので、上記の定理は
d
φ
~
d
t
(
t
)
{\displaystyle {\tfrac {d{\tilde {\varphi }}}{dt}}(t)}
がG の作用による移動を除いて
ω
(
d
φ
d
t
(
t
)
)
{\displaystyle \omega \left({\tfrac {d\varphi }{dt}}(t)\right)}
に一致する事を意味する。
上記の定理の直観的な意味を説明する。クライン幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
においてG は等質空間
G
/
H
{\displaystyle G/H}
における同型写像のなす群であったので、そのリー代数
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元は
G
/
H
{\displaystyle G/H}
上の「無限小同型変換」、すなわち同型写像の微分とみなせた。
カルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
の付与された多様体M とは「一次近似」がクライン幾何学に見える空間であり、Tp P の元vp はカルタン接続により
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元と対応しており、
ω
(
v
p
)
{\displaystyle \omega (v_{p})}
は
π
(
u
)
{\displaystyle \pi (u)}
における「無限小同型変換」を意味していた。
上記の定理は曲線
φ
{\displaystyle \varphi }
に沿って「無限小同型変換」である
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元
ω
(
d
φ
d
t
(
t
)
)
{\displaystyle \omega \left({\tfrac {d\varphi }{dt}}(t)\right)}
を束ねていくとその「積分曲線 」として同型変換であるG の元
φ
~
(
t
)
{\displaystyle {\tilde {\varphi }}(t)}
があらわれる事を意味している。
もしM が
G
/
H
{\displaystyle G/H}
そのものであれば、この同型変換
φ
~
(
t
)
{\displaystyle {\tilde {\varphi }}(t)}
は実際にM 上の同型変換になる事を後述 する。
q
:
G
→
G
/
H
{\displaystyle q~:~G\to G/H}
をG から
G
/
H
{\displaystyle G/H}
への商写像とすると、上記の補題から次が成立する:
M が連結であるとし、
u
0
∈
M
{\displaystyle u_{0}\in M}
と
π
(
p
0
)
=
u
0
{\displaystyle \pi (p_{0})=u_{0}}
を満たす
p
0
∈
P
{\displaystyle p_{0}\in P}
をfixし、
c
:
[
a
,
b
]
→
M
{\displaystyle c~:~[a,b]\to M}
をu0 を基点とするM 上の閉曲線とする。
π
(
φ
(
t
)
)
=
c
(
t
)
{\displaystyle \pi (\varphi (t))=c(t)}
を満たすP 上の閉曲線
φ
:
[
a
,
b
]
→
P
{\displaystyle \varphi ~:~[a,b]\to P}
でp0 を基点とするものとすると、前述した補題 から、
φ
{\displaystyle \varphi }
の単位元
e
∈
G
{\displaystyle e\in G}
からの発展
φ
~
:
I
→
G
{\displaystyle {\tilde {\varphi }}~:~I\to G}
の終点
φ
~
(
b
)
{\displaystyle {\tilde {\varphi }}(b)}
は
φ
{\displaystyle \varphi }
の取り方によらず等しい。そこで以下のような定義をする:
定理・定義 ― 記号を上のように取り、
Ω
(
M
,
u
0
)
{\displaystyle \Omega (M,u_{0})}
をu0 を基点とする閉曲線全体の空間 (英語版 ) とする。このとき、
Φ
p
0
:
c
∈
Ω
(
M
,
u
0
)
↦
(
φ
~
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}~:~c\in \Omega (M,u_{0})\mapsto ({\tilde {\varphi }}}
の終点
)
∈
G
{\displaystyle )\in G}
は閉曲線の結合に関して準同型 であり、
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
はG の部分群をなす。
Φ
p
0
(
c
)
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}(c)}
を閉曲線c の基点u0 のリフトp0 に関するホロノミー (英 : holonomy with respect to p0 )[ 39] といい、
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
をp0 に関するM 上のカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
のホロノミー群 (英 :
holonomy group of
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
with respect to p0 )[ 39] [ 注 17] という。
ホロノミー群は基点やそのリフトを取り替えても、共役を除いて一意に定義できる。実際、基点u0 のリフトp0 を別の点p0 h , where
h
∈
H
{\displaystyle h\in H}
に取り替えると、ホロノミーは
Φ
p
0
h
(
c
)
=
h
−
1
Φ
p
0
(
c
)
h
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}h}(c)=h^{-1}\Phi ^{p_{0}}(c)h}
を満たす[ 39] 。また基点u0 を別の基点u1 に変えると、
Φ
p
1
(
Ω
(
M
,
u
1
)
)
=
g
−
1
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
g
{\displaystyle \Phi ^{p_{1}}(\Omega (M,u_{1}))=g^{-1}\Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))g}
を満たす
g
∈
G
{\displaystyle g\in G}
が存在する[ 39] 。
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
の元のうち、0-ホモトープな閉曲線全体
Φ
0
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi _{0}^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
は
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
の正規部分群 になる[ 39] 。
Φ
0
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Phi _{0}^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
を制限ホロノミー群 (英 : restricted holonomy group )という[ 39] 。
写像
Ω
(
M
,
u
0
)
→
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
→
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
/
Φ
0
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \Omega (M,u_{0})\to \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))\to \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))/\Phi _{0}^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
は基本群
π
1
(
M
,
u
0
)
{\displaystyle \pi _{1}(M,u_{0})}
からの群準同型写像
π
1
(
M
,
u
0
)
→
Φ
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
/
Φ
0
p
0
(
Ω
(
M
,
u
0
)
)
{\displaystyle \pi _{1}(M,u_{0})\to \Phi ^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))/\Phi _{0}^{p_{0}}(\Omega (M,u_{0}))}
をwell-definedに誘導する。上記の写像をカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
のモノドロミー表現 (英 : monodromy representation of
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
)という[ 39] 。
特にクライン幾何学
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
に対し、
G
/
H
{\displaystyle G/H}
上の一般化円は、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元の1-パラメーター変換群の軌跡[ 注 18] [ 注 19] の
G
/
H
{\displaystyle G/H}
への射影である[ 39] 。よって「一般化円」という名称であるが、ユークリッド幾何学での「一般化円」は螺旋 になる事もあるので注意されたい[ 注 20]
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が
g
=
h
⊕
b
{\displaystyle {\mathfrak {g}}={\mathfrak {h}}\oplus {\mathfrak {b}}}
と簡約可能なとき、
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
に属する元のG 上の1-パラメーター変換群の軌跡[ 注 18] の
G
/
H
{\displaystyle G/H}
への射影を直線 (英 : straight line )という。
この事実を使うと、一般化円と測地線は以下のように言い換える事ができる:
前述 したように、
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が簡約可能なときは、TM 上にアフィン接続∇ が定義できるので、
∇
d
t
d
d
t
c
=
0
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{dt}}{\tfrac {d}{dt}}c=0}
となる曲線を測地線として定義する事もできる。この2つの測地線の定義は同値である。
証明
証明に入る前にまず記号を整理し、簡単な考察をする。H を構造群とする主バンドル
P
{\displaystyle P}
を、TM 上のH -フレームバンドル
F
H
{\displaystyle F_{H}}
と自然に同一視する。
各
e
∈
F
H
(
T
M
)
≈
P
{\displaystyle e\in F_{H}(TM)\approx P}
に対し、
ω
:
T
p
F
H
(
T
M
)
→
g
{\displaystyle \omega ~:~T_{p}F_{H}(TM)\to {\mathfrak {g}}}
が同型だったので、自然に
T
F
H
≈
F
H
×
g
{\displaystyle TF_{H}\approx F_{H}\times {\mathfrak {g}}}
とみなせる。これを写像
ρ
:
g
→
g
/
h
≈
b
{\displaystyle \rho ~:~{\mathfrak {g}}\to {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx {\mathfrak {b}}}
とあわせると可換図式
T
F
H
≈
F
H
×
g
π
∗
↓
↻
ρ
↓
T
M
≈
F
H
×
H
b
{\displaystyle {\begin{array}{ccc}TF_{H}&\approx &F_{H}\times {\mathfrak {g}}\\\pi _{*}\downarrow &\circlearrowright &\rho \downarrow \\TM&\approx &F_{H}\times _{H}{\mathfrak {b}}\end{array}}}
が描け、
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
にベクトル空間としての基底をfixして
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
の元を
v
=
(
v
1
,
…
,
v
m
)
{\displaystyle v=(v^{1},\ldots ,v^{m})}
と書くと、
e
=
(
e
1
,
…
,
e
m
)
∈
F
H
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{m})\in F_{H}}
とv の組
[
e
,
v
]
∈
F
H
×
H
b
{\displaystyle [e,v]\in F_{H}\times _{H}{\mathfrak {b}}}
に対応するTM の元は
∑
i
v
i
e
i
{\displaystyle \textstyle \sum _{i}v^{i}e_{i}}
である。
∇ は
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
が誘導するアフィン接続 であったので、以上のことからM 上の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上のFH の切断
e
(
t
)
=
(
e
1
(
t
)
,
…
,
e
m
(
t
)
)
{\displaystyle e(t)=(e_{1}(t),\ldots ,e_{m}(t))}
が
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
に関して平行である必要十分条件は、
e
(
t
)
=
(
e
1
(
t
)
,
…
,
e
m
(
t
)
)
{\displaystyle e(t)=(e_{1}(t),\ldots ,e_{m}(t))}
をTM の基底とみなしたとき、
e
(
t
)
=
(
e
1
(
t
)
,
…
,
e
m
(
t
)
)
{\displaystyle e(t)=(e_{1}(t),\ldots ,e_{m}(t))}
が∇ に関して平行な基底である事である。
(
⇒
{\displaystyle \Rightarrow }
)M 上の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
がカルタン幾何学における測地線の定義 を満たせば、測地線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
はなんらかの
B
∈
b
{\displaystyle B\in {\mathfrak {b}}}
となんらかの
e
=
(
e
1
,
…
,
e
m
)
∈
F
H
(
T
M
)
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{m})\in F_{H}(TM)}
を使って
c
(
t
)
=
π
(
e
(
t
)
)
{\displaystyle c(t)=\pi (e(t))}
where
e
(
t
)
=
exp
(
t
ω
−
1
(
B
)
)
(
e
)
∈
F
H
{\displaystyle e(t)=\exp(t\omega ^{-1}(B))(e)\in F_{H}}
と書けるので、前述の可換図式から
d
c
d
t
(
t
)
∈
T
M
≈
[
e
(
t
)
,
B
]
∈
F
H
×
H
b
{\displaystyle {dc \over dt}(t)\in TM\approx [e(t),B]\in F_{H}\times _{H}{\mathfrak {b}}}
である。基底
e
(
t
)
{\displaystyle e(t)}
は
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行なので、
d
c
d
t
{\displaystyle {\tfrac {dc}{dt}}}
も
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行であり、これは
∇
d
t
d
d
t
c
=
0
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{dt}}{\tfrac {d}{dt}}c=0}
となる事を意味する。
(
⇐
{\displaystyle \Leftarrow }
)M 上の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
が通常の意味での測地線、すなわち
∇
d
t
d
d
t
c
=
0
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{dt}}{\tfrac {d}{dt}}c=0}
であれば、
d
c
d
t
{\displaystyle {\tfrac {dc}{dt}}}
は
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行である。よって基底
e
(
t
)
=
(
e
1
(
t
)
,
…
,
e
m
(
t
)
)
{\displaystyle e(t)=(e_{1}(t),\ldots ,e_{m}(t))}
を
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行なように選ぶと、
d
c
d
t
(
t
)
∈
T
M
≈
[
e
(
t
)
,
B
]
∈
F
H
×
H
b
{\displaystyle {dc \over dt}(t)\in TM\approx [e(t),B]\in F_{H}\times _{H}{\mathfrak {b}}}
となる
B
∈
b
{\displaystyle B\in {\mathfrak {b}}}
が存在する。したがって
c
(
t
)
=
π
(
e
(
t
)
)
{\displaystyle c(t)=\pi (e(t))}
where
e
(
t
)
=
exp
(
t
ω
−
1
(
B
)
)
(
e
)
∈
F
H
{\displaystyle e(t)=\exp(t\omega ^{-1}(B))(e)\in F_{H}}
と書ける。
カルタン幾何学はクライン幾何学をモデルとしており、しかも(局所)クライン幾何学はカルタン幾何学として平坦 (英 : flat )、すなわち曲率が恒等的に0である事を前述した。
本章はこの逆向きについて述べる。すなわち平坦なカルタン幾何学がいかなる条件を満たせば局所クライン幾何学 と等しいかを特定するのが本章の目標である。
ダルブー導関数 の一般論から、以下が従う:
定理 ―
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
を対応するリー代数の組
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
が効果的なクライン幾何学とする。M を多様体とし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするM 上のカルタン幾何学とする。
このとき、M の普遍被覆空間
q
:
M
~
→
M
{\displaystyle q^{:}~{\tilde {M}}\to M}
に主バンドル
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
とカルタン接続ω を引き戻したものをそれぞれ
π
~
:
P
~
→
M
~
{\displaystyle {\tilde {\pi }}~:~{\tilde {P}}\to {\tilde {M}}}
、
ω
~
{\displaystyle {\tilde {\omega }}}
とする。
このとき
(
π
~
,
P
~
,
ω
~
)
{\displaystyle ({\tilde {\pi }},{\tilde {P}},{\tilde {\omega }})}
は
M
~
{\displaystyle {\tilde {M}}}
上の
(
G
,
H
)
{\displaystyle (G,H)}
をモデルとするカルタン幾何学となり、局所幾何学的同型
(
f
,
f
¯
)
:
(
M
~
,
P
~
)
→
(
G
/
H
,
G
)
{\displaystyle (f,{\bar {f}})~:~({\tilde {M}},{\tilde {P}})\to (G/H,G)}
が存在する[ 42] 。
よって特に、M の点u の十分小さい開近傍
U
{\displaystyle U}
を取り、
U
{\displaystyle U}
上に
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を制限した
(
π
|
U
,
P
U
,
ω
U
)
{\displaystyle (\pi |_{U},P_{U},\omega _{U})}
は(U の
M
~
{\displaystyle {\tilde {M}}}
へのリフトを考えることで)局所幾何学的同型
(
U
,
P
U
)
→
(
G
/
H
,
G
)
{\displaystyle (U,P_{U})\to (G/H,G)}
を持つことが分かる[ 43] 。
このように被覆空間を考えたり、あるいは各点の開近傍に制限したりすれば、平坦なカルタン幾何学がクライン幾何学に局所幾何学的同型である事を示す事ができる。しかしこれだけではM 自身が(局所)クライン幾何学と幾何学的同型になるか否かはわからない。
そこで本章ではまずM 自身が局所クライン幾何学と幾何学的同型になる条件を定式化し、次にこれらの条件を満たす平坦なカルタン幾何学が局所クライン幾何学と幾何学同型になる事を見る。
本節では平坦なカルタン幾何学が局所クライン幾何学と同型であるための条件である「幾何学的向き付け可能性 」と「完備性」を定義する。
幾何学的向きを定義するため、まず記号を導入する。M を多様体とし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とするM 上のカルタン幾何学とし、G を
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群の一つとすると、その随伴表現
A
d
:
G
→
G
L
L
i
e
(
g
)
{\displaystyle \mathrm {Ad} ~:G~\to \mathrm {GL} _{\mathrm {Lie} }({\mathfrak {g}})}
はリー群間の写像なので[ 注 21] 、対応するリー代数間の写像
a
d
:=
A
d
∗
:
g
→
g
l
L
i
e
(
g
)
{\displaystyle \mathrm {ad} :=\mathrm {Ad} _{*}~:~{\mathfrak {g}}\to {\mathfrak {gl}}_{\mathrm {Lie} }({\mathfrak {g}})}
を誘導する。ad はリー代数
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G の取り方によらずwell-definedであり、
a
d
(
A
)
(
B
)
=
[
A
,
B
]
{\displaystyle \mathrm {ad} (A)(B)=[A,B]}
が成立する[ 44] 。ad とカルタン接続の合成
a
d
∘
ω
:
T
P
→
g
l
L
i
e
(
g
)
{\displaystyle \mathrm {ad} \circ \omega ~:~TP\to {\mathfrak {gl}}_{\mathrm {Lie} }({\mathfrak {g}})}
を考え、以下の定義をする:
定理・定義 ― P が連結であれば幾何学的向き付けの定義はp に依存しない[ 45] 。P が連結なとき、幾何学的向き付け可能なH の元全体の集合を
H
o
r
{\displaystyle H_{\mathrm {or} }}
と書く[ 45] 。
ad の定義より、曲線
φ
(
t
)
{\displaystyle \varphi (t)}
がP のファイバー
P
π
(
p
)
{\displaystyle P_{\pi (p)}}
内にあれば、その発展
φ
~
(
t
)
{\displaystyle {\tilde {\varphi }}(t)}
の終点は必ず
A
d
(
h
)
{\displaystyle \mathrm {Ad} (h)}
になる。よって
H
e
{\displaystyle H_{e}}
を単位元e を含むH の連結成分 とすると
H
e
⊂
H
o
r
{\displaystyle H_{e}\subset H_{\mathrm {or} }}
が成立する。
しかし上記の定義は曲線
φ
(
t
)
{\displaystyle \varphi (t)}
がファイバー
P
π
(
p
)
{\displaystyle P_{\pi (p)}}
内に収まる事は仮定しておらず、よって一般にはH or の方がHe より大きいこともある。なお、P が連結であれば、H or はH の正規部分群 になる事が知られている[ 45] 。
定義 ― M を多様体とし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とするM 上のカルタン幾何学でP が連結であるものする[ 注 23] 。
H -バンドルP がH or -部分主バンドルを持つとき、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
は幾何学的に向き付け可能 (英 : geometrically orientable )であるという[ 46]
P のH or -部分主バンドル(もしあれば)をP の幾何学的向き (英 : geometrically orientation )という[ 46] 。
M
o
r
:=
P
/
H
o
r
{\displaystyle M_{\mathrm {or} }:=P/H_{\mathrm {or} }}
をM の幾何学的向き付け被覆 (英 : geometrically orientation cover )という[ 46] 。
H
=
H
o
r
{\displaystyle H=H_{\mathrm {or} }}
のとき、カルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
は幾何学的に向き付けられている (英 : geometrically oriented )という[ 46] 。
次が成立する:
定義 ― 局所クライン幾何学
(
G
,
H
,
Γ
)
{\displaystyle (G,H,\Gamma )}
(に定まるクライン幾何学)は、G が連結なら幾何学的向き付け可能である[ 46] [ 注 24] 。
M を多様体とし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とするM 上のカルタン幾何学とする。
定理 ― 局所クライン幾何学
(
G
,
H
,
Γ
)
{\displaystyle (G,H,\Gamma )}
(に対応するカルタン幾何学)は完備である。
完備かつ平坦で幾何学的に向き付可能なカルタン幾何学は局所クライン幾何学と幾何学的同型になる:
定義 ― M を連結な多様体とし、
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデル幾何学とし、
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
をM 上の
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
をモデルとする平坦かつ完備で幾何学的に向き付けられたカルタン幾何学とする。
このとき、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
をリー代数とする連結なリー群G でH を閉部分群 として含むものと、G の部分群Γ で局所クライン幾何学
Γ
∖
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \backslash G/H}
とその上のカルタン幾何学構造
(
Γ
∖
G
,
ω
Γ
∖
G
)
{\displaystyle (\Gamma \backslash G,\omega ^{\Gamma \backslash G})}
がM とその上のカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
と幾何学的同型になる[ 48] [ 注 21] 。
なお、すでに見たように局所クライン幾何学は平坦かつ完備であり、しかもG が連結であれば局所クライン幾何学はカルタン幾何学として向き付け可能であるので、連結なG を考える場合は、これ以上条件を減らす事はできない。
なお、G を固定すると、上述の定理が存在を保証するΓ は共役を除いて一意に定まる:
ユークリッド幾何学をモデルとするカルタン幾何学[ 編集 ]
本章ではモデル幾何学がユークリッド幾何学の場合を考える。すなわち、モデルとするクライン幾何学がユークリッド空間
E
m
{\displaystyle \mathbb {E} ^{m}}
上の等長変換群
I
s
o
(
E
m
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})}
と直交群
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
の組
(
G
,
H
)
=
(
I
s
o
(
E
m
)
,
O
(
m
)
)
{\displaystyle (G,H)=(\mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m}),O(m))}
である場合の、多様体M 上のカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
を考える。
本節では以下の定理を示す:
これを示すため、
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
の性質を調べる。
I
s
o
(
E
m
)
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})}
は随伴表現Ad により
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
に作用するが、
I
s
o
(
E
m
)
=
O
(
m
)
⋉
R
m
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})=O(m)\ltimes \mathbb {R} ^{m}}
における
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
は原点を中心とする回転として、
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
は平行移動として
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
に作用する事を簡単な計算により確かめられる。
よって
g
/
h
{\displaystyle {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
上には
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
により不変な内積
q
:
g
/
h
×
g
/
h
→
R
{\displaystyle q~:~{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\times {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\to \mathbb {R} }
が定数倍を除いて一意に定まる。前述 したように
T
M
≈
T
P
×
H
,
A
d
g
/
h
{\displaystyle TM\approx TP\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
であるので、
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
に対し、写像
φ
p
:
ξ
∈
g
/
h
→
[
(
p
,
ξ
)
]
∈
T
P
×
H
,
A
d
g
/
h
≈
T
M
{\displaystyle \varphi _{p}~:~\xi \in {\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\to [(p,\xi )]\in TP\times _{H,\mathrm {Ad} }{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}\approx TM}
が定義できる。
そこで
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
に対しTu M の計量を
p
∈
P
u
{\displaystyle p\in P_{u}}
を任意に選んで
g
u
(
v
,
w
)
:=
q
(
φ
p
−
1
(
v
)
,
φ
p
−
1
(
w
)
)
{\displaystyle g_{u}(v,w):=q(\varphi _{p}{}^{-1}(v),\varphi _{p}{}^{-1}(w))}
for
v
,
w
∈
T
u
M
{\displaystyle v,w\in T_{u}M}
により定義すると
g
u
(
v
,
w
)
{\displaystyle g_{u}(v,w)}
が
p
∈
P
u
{\displaystyle p\in P_{u}}
によらずwell-definedされる事が知られており[ 50] 、M 上にリーマン計量g が定まる。
I
s
o
(
E
m
)
=
O
(
m
)
⋉
R
m
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})=O(m)\ltimes \mathbb {R} ^{m}}
と半直積で書けるので、リー代数の組
(
g
,
h
)
=
(
i
s
o
(
E
m
)
,
o
(
m
)
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})=({\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{m}),{\mathfrak {o}}(m))}
は
b
=
R
m
{\displaystyle {\mathfrak {b}}=\mathbb {R} ^{m}}
を使って簡約可能であり、しかも
(
G
,
H
)
=
(
I
s
o
(
E
m
)
,
O
(
m
)
)
{\displaystyle (G,H)=(\mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m}),O(m))}
は一階である。
よって前述 のようにカルタン接続ω を「
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
部分」と「
b
{\displaystyle {\mathfrak {b}}}
部分」に分けて
ω
=
ω
h
+
ω
b
{\displaystyle \omega =\omega _{\mathfrak {h}}+\omega _{\mathfrak {b}}}
と書くことができ、
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
は主バンドルP 上の接続形式になり、
ω
b
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}}
が標準形式となる。逆に
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
と
ω
b
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}}
からω が復元できる事もすでに示した。
接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
がTM に誘導するアフィン接続
∇
{\displaystyle \nabla }
を定義する事ができ、
∇
{\displaystyle \nabla }
は以下を満たす:
定理 ―
∇
{\displaystyle \nabla }
は標準的な計量と両立する。すなわち前節 で定義した標準的なリーマン計量g に対し、
X
(
g
(
Y
,
Z
)
)
=
g
(
∇
X
Y
,
Z
)
+
g
(
Y
,
∇
X
Z
)
{\displaystyle X(g(Y,Z))=g(\nabla _{X}Y,Z)+g(Y,\nabla _{X}Z)}
がM 上の任意のベクトル場X 、Y 、Z に対して成立する。
略証
すでに述べた ようにTM は
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
-主バンドルP を使って
T
M
≈
P
×
H
g
/
h
{\displaystyle TM\approx P\times _{H}{\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}}}
と書け、しかもP は
O
(
m
)
{\displaystyle O(m)}
-フレームバンドルとして解釈できた ので、以下P をフレームバンドルとみなしたものをF と書く。前述した 計量の作り方から計量g はF の元を正規直交基底にする。
一方
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
は
h
=
o
(
m
)
=
{
{\displaystyle {\mathfrak {h}}={\mathfrak {o}}(m)=\{}
歪対称行列
}
{\displaystyle \}}
に値を取るので、(F に属する)正規直交基底において接続形式
ω
h
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}}
を
ω
h
=
(
ω
i
j
)
i
j
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}=(\omega ^{i}{}_{j})_{ij}}
と成分表示すると、
ω
i
j
=
−
ω
j
i
{\displaystyle \omega ^{i}{}_{j}=-\omega ^{j}{}_{i}}
が成立する。よってTM の局所的な正規直交基底
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
を取ると、
g
(
∇
X
e
j
,
e
k
)
=
∑
i
g
(
ω
i
j
(
X
)
e
i
,
e
k
)
=
∑
i
ω
i
j
(
X
)
g
(
e
i
,
e
k
)
=
ω
k
j
(
X
)
{\displaystyle g(\nabla _{X}e_{j},e_{k})=\sum _{i}g(\omega ^{i}{}_{j}(X)e_{i},e_{k})=\sum _{i}\omega ^{i}{}_{j}(X)g(e_{i},e_{k})=\omega ^{k}{}_{j}(X)}
が成立する(最後の等式は
i
=
k
{\displaystyle i=k}
のときのみ
g
(
e
i
,
e
k
)
=
1
{\displaystyle g(e_{i},e_{k})=1}
な事を使った)。よって
g
(
∇
X
e
j
,
e
k
)
+
g
(
e
j
,
∇
X
e
k
)
=
ω
k
j
(
X
)
+
ω
j
k
(
X
)
=
0
=
X
g
(
e
j
,
e
k
)
{\displaystyle g(\nabla _{X}e_{j},e_{k})+g(e_{j},\nabla _{X}e_{k})=\omega ^{k}{}_{j}(X)+\omega ^{j}{}_{k}(X)=0=Xg(e_{j},e_{k})}
が成立するので、
Y
=
e
j
{\displaystyle Y=e_{j}}
、
Z
=
e
k
{\displaystyle Z=e_{k}}
の場合に定理が示された。一般の場合は、上式から簡単な計算により従う。
しかし
∇
{\displaystyle \nabla }
の捩率は0とは限らない[ 51] 。もし
∇
{\displaystyle \nabla }
の捩率が0であれば[ 注 27] リーマン幾何学の基本定理 より、
∇
{\displaystyle \nabla }
はレヴィ・チヴィタ接続 に一致する。
以上の考察から、カルタン幾何学の立場から見るとリーマン幾何学とは、ユークリッド幾何学をモデルとするカルタン幾何学で捩率が0 のものとして(計量の定数倍を除き)特徴づけられる幾何学である。
上述のようにリーマン多様体にはユークリッド幾何学
(
G
,
H
)
=
(
I
s
o
(
E
m
)
,
O
(
m
)
)
{\displaystyle (G,H)=(\mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m}),O(m))}
をモデルとする捩れのないカルタン幾何学
(
π
,
P
,
ω
)
{\displaystyle (\pi ,P,\omega )}
の構造が入る。
滑りとねじれのない転がし(再掲)
m 次元リーマン多様体M 上に曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
を取り(図の青の線)、
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿ってM をm 次元平面
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
上を「滑ったり」「ねじれたり」することなく転がした [ 注 28] ときにできる曲線の軌跡を
c
~
(
t
)
{\displaystyle {\tilde {c}}(t)}
とする(図の紫の線)。
このとき、次が成立することが知られている:
定理 ―
記号を上述のように取る。このとき、
c
~
(
t
)
{\displaystyle {\tilde {c}}(t)}
は等質空間
G
/
H
=
I
s
o
(
E
m
)
/
O
(
m
)
≈
R
m
{\displaystyle G/H=\mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})/O(m)\approx \mathbb {R} ^{m}}
への発展に一致する[ 52] 。
また、M をm 次元平面
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
上滑りもねじれもなく転がすと、時刻t に
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
が
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
に接した瞬間に
T
c
(
t
)
M
{\displaystyle T_{c(t)}M}
が
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
に重なるので、自然に写像
φ
t
:
T
c
(
t
)
M
→
R
m
{\displaystyle \varphi _{t}~:~T_{c(t)}M\to \mathbb {R} ^{m}}
が定義できる。この写像を使うと、M のレヴィ・チヴィタ接続∇ の幾何学的意味を述べることができる:
すなわち、曲線に沿った
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
の共変微分を
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
に移したものは、
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
を移したものを通常の意味で微分したものに一致する。
よって特に以下が成立する:
^ カルタン幾何学を説明した日本語の文献が見つからなかったので、本項の専門用語はいずれも本項執筆者が暫定的に訳したものである。
^ 厳密には、M 上の人と同一視できるのは、基底が右手系 の場合だけで、左手系 の場合はその人を"左右反転"する必要があるが、以後この問題は無視する
^ この定義では
g
=
T
e
G
{\displaystyle {\mathfrak {g}}=T_{e}G}
という同一視を用いている。ここでe はG の単位元である。
^
G
~
{\displaystyle {\tilde {G}}}
をG の被覆空間 とすると、
G
~
{\displaystyle {\tilde {G}}}
とG は同型なリー代数を持つ。
^ [ 17] ではAd にこれ以上の仮定を課していないが、実際の議論ではAd が
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G の随伴表現
A
d
g
{\displaystyle \mathrm {Ad} _{\mathfrak {g}}}
の
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
への制限である事を用いているので、以下、本項でもこれを仮定する。なお、随伴表現
A
d
g
{\displaystyle \mathrm {Ad} _{\mathfrak {g}}}
は
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G の取り方に依存せずwell-definedである。
^ #Sharpe p.174によれば、この仮定は必須ではないが、この仮定を外しても特に得られるものはないとの事である。
^ クライン幾何学の定義では
G
/
H
{\displaystyle G/H}
が連結な事を仮定していたが、ここでそれは仮定しない[ 19]
^
Γ
↷
G
/
H
{\displaystyle \Gamma \curvearrowright G/H}
が効果的でないと、
G
/
H
{\displaystyle G/H}
の各ファイバーは
Γ
∖
H
{\displaystyle \Gamma \backslash H}
と同型なものになってしまうため、H -主バンドルにならない。
^ a b クライン幾何学の場合はM 上の左不変ベクトル場に相当する[ 41] 。
^ 「捩率」という言葉にはアフィン接続の「捩率」 と曲線の「捩率」 という2つの異なる意味があるが、ここでいう捩率は前者に相当するものである。アフィン接続の捩率との関係は後述 する。
^ カルタン幾何学が一階である事を利用しているのは
p
∈
P
→
e
p
∈
F
{\displaystyle p\in P\to e^{p}\in F}
の単射性を保証する部分だけであり、それ以外の部分は一階でなくても成立する。
^ なお、リー代数の分野では、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
が半単純なイデアル とアーベルなイデアルの直和で書けるときに
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
は簡約可能 であると呼ぶが、本項で挙げた定義はこの簡約可能性とは別概念である[ 31] 。なお、
a
d
:
h
→
G
L
(
g
/
h
)
{\displaystyle \mathrm {ad} ~:~{\mathfrak {h}}\to \mathrm {GL} ({\mathfrak {g}}/{\mathfrak {h}})}
が単射 で、しかも
h
{\displaystyle {\mathfrak {h}}}
がこの意味で簡約可能であれば、
(
g
,
h
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}})}
は本項の意味で簡約可能である[ 31] 。
^ なお、#Sharpe pp.364-365.は「接続形式⇒カルタン接続」の方では
[
b
,
b
]
=
0
{\displaystyle [{\mathfrak {b}},{\mathfrak {b}}]=0}
を仮定しているが、証明を読めば分かるように、実際にはこの仮定は必要ない。#Sharpe もp.362.の定理のステートメントではこの仮定に触れておらず、単なるミスと思われる。また#Sharpe もp.362.ではカルタン形式を
ω
=
(
0
0
θ
γ
)
{\displaystyle \omega ={\begin{pmatrix}0&0\\\theta &\gamma \end{pmatrix}}}
と表記しているが、この形に書けるのはユークリッド幾何学(もしくはより一般にアフィン幾何学)をモデル幾何学としている場合であり、一般の簡約可能なモデル幾何学の場合は必ずしもこの形に書けないので、ここもミスと判断した。
^ なおこの式の右辺は文献[ 35] では、X の水平リフトをY として
Y
f
s
{\displaystyle Yf_{s}}
としているが、これは本項で挙げた
D
ω
b
(
X
~
)
f
s
{\displaystyle D_{\omega _{\mathfrak {b}}({\tilde {X}})}f_{s}}
に等しい。理由は以下の通りである。まず普遍共変微分の定義より
Y
f
s
=
D
ω
(
Y
)
f
s
{\displaystyle Yf_{s}=D_{\omega (Y)}f_{s}}
であり、水平リフト(詳細は接続 (ファイバー束) を参照)とは
π
∗
(
Y
)
=
X
{\displaystyle \pi _{*}(Y)=X}
となるY の中で
ω
h
(
Y
)
=
0
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {h}}(Y)=0}
となるもののことである。
そして本項の
X
~
{\displaystyle {\tilde {X}}}
も
π
∗
(
X
~
)
=
X
{\displaystyle \pi _{*}({\tilde {X}})=X}
となり、しかも
ω
(
X
~
)
=
ω
h
(
X
~
)
+
ω
b
(
X
~
)
{\displaystyle \omega ({\tilde {X}})=\omega _{\mathfrak {h}}({\tilde {X}})+\omega _{\mathfrak {b}}({\tilde {X}})}
のうち水平成分の
ω
b
(
X
~
)
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}({\tilde {X}})}
方向のみを考えているので、
ω
b
(
X
~
)
=
ω
(
Y
)
{\displaystyle \omega _{\mathfrak {b}}({\tilde {X}})=\omega (Y)}
。以上のことから
Y
f
s
=
D
ω
(
Y
)
f
s
=
D
ω
b
(
X
)
f
s
{\displaystyle Yf_{s}=D_{\omega (Y)}f_{s}=D_{\omega _{\mathfrak {b}}(X)}f_{s}}
である。
^
なお、
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
に対し
π
(
p
)
=
u
{\displaystyle \pi (p)=u}
となるp は複数あるため、
X
~
{\displaystyle {\tilde {X}}}
としてどのp における接ベクトルを取るかの自由度があるが、どのp における接ベクトルを選んでも結果は変わらない。
^ ここでは#Sharpe p.209.にあわせて「曲線
φ
{\displaystyle \varphi }
の発展」という言い方にしたが、同書p.119.では同じ概念を「
ω
{\displaystyle \omega }
の発展」(英 : development of ω along
φ
{\displaystyle \varphi }
starting at g )という言い方をしている。前者がカルタン幾何学の説明であるのに対し、後者はダルブー導関数 の説明に関するものである事が言い方を変えている理由であると思われるので、ここでは前者の言い方を採用した。
^ 文献[ 39] では
Φ
p
0
{\displaystyle \Phi ^{p_{0}}}
の定義域をループ空間
Ω
(
M
,
u
0
)
{\displaystyle \Omega (M,u_{0})}
ではなく基本群
π
1
(
M
,
u
0
)
{\displaystyle \pi _{1}(M,u_{0})}
としているが、
Φ
{\displaystyle \Phi }
はホモトピー不変ではないので、定義域はループ空間であると判断。なお、文献[ 40] では定義域を基本群としているが、これはこの文献ではカルタン幾何学が平坦な事を仮定している為、
Φ
{\displaystyle \Phi }
がホモトピー不変になるからである。
^ a b すなわち、
g
∈
G
{\displaystyle g\in G}
と
A
∈
g
=
T
e
G
{\displaystyle A\in {\mathfrak {g}}=T_{e}G}
に対し、A を通るG 上の左不変ベクトル場
A
¯
{\displaystyle {\overline {A}}}
によるg からの1-パラメーター変換
exp
(
t
A
¯
)
(
g
)
∈
G
{\displaystyle \exp(t{\overline {A}})(g)\in G}
の軌跡の事。
^ [ 39] には「G の元の1-パラメーター変換群」とあるが1-パラメーター変換群はリー代数に対して定義するものなので「
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元の1-パラメーター変換群」の誤記と判断。
^ ユークリッド空間
E
m
{\displaystyle \mathbb {E} ^{m}}
の合同変換群
I
s
o
(
E
m
)
=
O
(
m
)
⋉
R
m
{\displaystyle \mathrm {Iso} (\mathbb {E} ^{m})=O(m)\ltimes \mathbb {R} ^{m}}
のリー代数
i
s
o
(
E
m
)
=
o
(
m
)
⋉
R
m
{\displaystyle {\mathfrak {iso}}(\mathbb {E} ^{m})={\mathfrak {o}}(m)\ltimes \mathbb {R} ^{m}}
から
A
∈
o
(
m
)
{\displaystyle A\in {\mathfrak {o}}(m)}
、
B
∈
R
m
{\displaystyle B\in \mathbb {R} ^{m}}
を選び、
A
+
B
{\displaystyle A+B}
の積分曲線の
E
m
{\displaystyle \mathbb {E} ^{m}}
への射影を考えると螺旋になる。
^ a b すでに指摘したように 、モデル幾何学
(
g
,
h
,
H
,
A
d
)
{\displaystyle ({\mathfrak {g}},{\mathfrak {h}},H,\mathrm {Ad} )}
のAd が
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
に対応するリー群G の随伴表現である事が暗に仮定されている。
^ 発展の定義はω がカルタン接続の場合に対して与えたが、一般にリー代数に値を取る1-形式に対しても同様にして発展の存在一意性を示すことができるので、「
a
d
∘
ω
{\displaystyle \mathrm {ad} \circ \omega }
に関する発展」という言葉は意味を持つ。一般の場合の定理のステートメントはダルブー導関数 の項目を参照。
^ 文献[ 46] ではP の連結を明示的には仮定していないが、P が連結ではないとH or の定義が基点に依存してしまうため、暗に仮定されていると判断した。
^ 文献[ 46] のステートメントではG の連結性を明示していないが、証明中でG の連結性を使っているため、連結性を明記した。
^ #Sharpe では、まず一般の1-形式ω に対し完備性を定義し、カルタン接続ω が完備な事をもってカルタン幾何学の完備性を定義している。ここでP 上1-形式ω が完備であるとは、以下を満たす事を言う(#Sharpe pp.69. 129):P 上の任意のベクトル場X に対し、
ω
(
X
)
|
p
{\displaystyle \omega (X)|_{p}}
が
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
によらず定数であれば、任意の
p
∈
P
{\displaystyle p\in P}
および任意の
t
∈
R
{\displaystyle t\in \mathbb {R} }
に対し
exp
(
t
X
p
)
{\displaystyle \exp(tX_{p})}
が定義可能である。ω がカルタン接続であれば、
ω
(
X
)
{\displaystyle \omega (X)}
が定数となるベクトル場とはすなわち
ω
−
1
(
A
)
{\displaystyle \omega {}^{-1}(A)}
、for
A
∈
g
{\displaystyle A\in {\mathfrak {g}}}
と書けるベクトル場の事であるので、ここで挙げた定義と一致する。なお文献[ 47] ではA が時間変化する事を許すより強い完備性の定義を採用している(が、両定義の関係については明記されていないので不明)。
^ ここでいう「定数倍を除いて一意」とは2つの計量g 、g' に対し、M の点u に依存しない 定数k が存在し、
g
u
′
=
k
g
u
{\displaystyle g'_{u}=kg_{u}}
となるという意味である。
^ ユークリッド幾何学をモデルとするカルタン幾何学の場合にカルタン幾何学の意味での捩率がKoszul接続の捩率テンソルと同一な事はすでに示した 。
^ 英語では、「捩率」はtorsion、「ねじれのない転がし」の「ねじれ」はtwistであり、両者は無関係な概念である。