カルネアデスの板
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カルネアデスの板(カルネアデスのいた、Plank of Carneades)は、古代ギリシアの哲学者、カルネアデスが出したといわれる思考実験の問題。カルネアデスの舟板(カルネアデスのふないた)ともいう。
概要
[編集]舞台は紀元前2世紀のギリシア。一隻の船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。一人の男が命からがら、壊れた船の板切れにすがりついた。するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。しかし、二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、後から来た者を突き飛ばして水死させてしまった。その後、救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが、罪に問われることはなかった。
緊急避難の例として、現代でもしばしば引用される寓話である。現代の日本の法律では、刑法第37条の「緊急避難」に該当すれば、この男は罪に問われないが、その行為によって守られた法益と侵害された法益のバランスによっては、過剰避難と捉えられる場合もある。
典拠
[編集]この物語を伝える現存唯一の資料は、4世紀のラクタンティウス『神的教理』第5巻の正義論を扱う箇所である[1]。同箇所は、おそらく前1世紀のキケロ『国家について』第3巻に伝えられた物語を下敷きにしているが、『国家について』は断片的にしか現存しておらず、当該部分は散逸している[1]。しかし当該部分の前後は現存している[1]。そこからの推測によれば、カルネアデスが前2世紀に外交使節としてローマを訪れた際、正義に対する懐疑論としてこの物語を披露し、哲学という学問をまだ知らなかったローマ人たちに衝撃を与えた[1]。
作品
[編集]小説
[編集]- ミステリーでは法廷物で引用されることが多々あり、中でも有名なのが松本清張の『カルネアデスの舟板』である。
- トム・ゴドウィンのSF小説『冷たい方程式』は、このテーマのSF作品の中でも最も注目に値する作品であるといわれている。具体的には「ギリギリの燃料しか積んでいない宇宙船に密航者がいた。この宇宙船は疫病のワクチンを運んでいるが、密航者を放棄しなければ燃料が足りない。多くの患者を救うために密航者を宇宙空間に放棄すべきか?」というもの(詳細は『SFマガジン・ベスト1 冷たい方程式』(ハヤカワ文庫、1980年)巻末の伊藤典夫による解説を参照)。
- 『ぼくらの ~alternative~ 』の1巻の後半にて、カルネアデスの板の意味が会話に出てくる。
アニメ
[編集]- デイヴィッドプロダクション制作のテレビアニメ『サクラダリセット』第24話において、主人公の浅井ケイが浦地正宗にカルネアデスの板について尋ねる場面がある。
- ガイナックス製作のOVA『トップをねらえ!』第6話では、「人類と地球を存続させるために銀河系中心部を消滅させる」という内容の、カルネアデスの板から名前が取られた「カルネアデス計画」の発動が描かれている。
- ufotable製作のアニメ『GODEATER』において、フェンリル極東支部長室に、カルネアデスの板を描いた絵画がある。支部長ヨハネス・フォン・シックザールは自身の画策する「ロケットを用いて一部の人間が地球を脱出し、終末捕食による地球の浄化が終わり次第帰還、新しく文明を築く」という「アーク計画」に対する決意としてこの絵を飾っており、「今生きている人間を犠牲に人類という種を救う」と語っている。
コミック
[編集]- 星野之宣の初期SF短編『カルネアデス計画』の中で「カルネアデスの舟板」についての詳しい説明がある。作品の内容は、パラレルワールドにある2つの地球が同一空間上に出現してしまったため、一方の進歩した科学力を持つ地球人類は、自らが助かるためにもう一方の地球を破壊するという話。
- 『金田一少年の事件簿』悲恋湖伝説殺人事件では、事件の3年前に起こった船の沈没事故にて、犯人の恋人はボートに乗せてもらえず死亡。彼女をボートに乗せることを拒んだ人物の回想や事件の真相解明時に「カルネアデスの板」への言及がある。
- 『続・少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート』第28話「彼方よ永遠に……! 炎に消えた名探偵(前編)」にて「カルネアデスの板」への言及がある。敵となる犯罪プランナーが、消防士である主人公の父親を人質にした子どもを用いて罠にかける場面において、その罠で人質(子ども)か消防士(主人公の父)のどちらかが生き残れる局面を演出し「カルネアデスの板」を例に出した。その際に「カルネアデスの板」について「消防士や警官のような他人を守ることを職業にしている人間にはそれは適用されない」[2]と言及している。