グローバル戦闘航空プログラム
グローバル戦闘航空プログラム(英: Global Combat Air Programme、略称:GCAP)は、日本・イギリス・イタリアによる第6世代ジェット戦闘機共同開発プログラムである[1]。イギリス空軍とイタリア空軍が運用中のユーロファイター タイフーンと、航空自衛隊のF-2を置き換えることを目的としている。
2035年までの配備開始を目指しており、共同開発を管理する国際機関「GIGO」(ジャイゴ)の設立条約が2023年に署名された[1]。計画が発表されたのは2022年12月19日である[2]。
開発経緯
[編集]背景
[編集]イギリスは、2018年7月に発表した国防省の「戦闘航空戦略」において、将来戦闘航空システムの一環として、2030年代後半から退役が予定されているユーロファイター タイフーンの後継機(BAE システムズ・テンペスト)の開発を決定した。
イタリアは、2019年9月、イギリスのテンペスト計画に参加することを表明。2020年12月、イギリス・イタリア・スウェーデンは、テンペストの共同開発に関する3カ国間覚書に署名した。
日本は、2018年に策定した中期防衛力整備計画(31中期防)でF-2戦闘機の後継として日本主導の戦闘機開発を決定、2020年に三菱重工が開発主体に選定されF-X計画を始動させた[3]。2020年12月、防衛省は技術開発を支援する海外企業として、アメリカ合衆国のロッキード・マーティンを選定する方針を示したが、 2022年5月、開発支援企業を英国のBAEシステムズへ変更する意向が明らかにされた[4][5]。
共同開発計画
[編集]開発コストを削減する手段として、両方の戦闘機プロジェクトを統合する議論は、早くも2017年から始まっていた[6]。 2022年7月19日、イギリス政府は日本とイタリアと次期戦闘機の開発で協力を強化すると発表[7]。2022年8月14日、日本の複数の政府関係者も、日英の次期戦闘機開発計画を統合し共通機体を開発する方向で最終調整に入ったと明らかにした[8]。9月には、BAEシステムズ・テンペストの開発計画でイギリスと協力関係にあり、F-35を運用するイタリアの参加が検討されていると報じられた[要出典]。
2022年12月9日、日英伊政府は、グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)というプロジェクトの名のもとに、日本の次期戦闘機開発計画と英伊で進行中であったBAE システムズ・テンペスト開発計画を統合し、共通の戦闘機を共同開発し配備することを発表した[2]。
2023年12月14日、共同開発のための機関であるGCAP政府間機関(GIGO,GCAP International Government Organisation)の設立条約(グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)政府間機関の設立に関する条約、GIGO設立条約)に署名がなされた[9]。2024年6月5日までに日本の国会両院での承認が得られた[10]。国際機関は2024年度中に英国に設置し、初代トップには日本人が就任する[11]。また開発の中核となる三菱重工業・BAEシステムズ・レオナルド社も政府間組織からの発注に基づき、機体の設計や製造などを担う共同企業体(JV)を立ち上げ、本社機能をイギリスに、初代トップはイタリア人が就任する方向である。なお政府間組織とJVそれぞれのトップは、数年ごとに3カ国が交代で務める。人事と本部の所在地で、形式上は3カ国のバランスを取ったが、両組織の本部が英国に置かれることで日本政府が掲げる「日本主導の開発」が後退するとの指摘もある[12]。
2024年12月13日、日本の日本航空機産業振興株式会社(JAIEC)、イギリスのBAEシステムズ社、イタリアのレオナルド社(Leonardo)は、日英伊3か国共同の次期戦闘機プログラム(GCAP)のための共同事業体として、新たな合弁会社の設立について合意したことを発表した[13]。合弁会社は、日英伊の3ヵ国に共同チームを配置して運営を行い、GIGOとの連携の取りやすさから本社はイギリスに置き、初代社長はイタリアから出る予定となっている。なお、合弁会社の株式は各国が33.3%で保有する事とされた[14]。
関連報道
[編集]イギリスの防衛政策見直し
[編集]2024年7月19日、スカイニュースなど複数の英メディアが、GCAPが、キア・スターマー政権による防衛政策見直しの対象になると報じた。開発費への懸念が政府内で浮上しており、ポラード国防担当閣外相は、開発計画を「非常に重要」と説明したうえで「防衛政策の見直しで何が起こるか予断するのは不適切だ」と述べた[15]。 2024年11月18日、 イギリスのキア・スターマー首相が日伊と共同で進めている「次期戦闘機」開発計画にゴーサインを出したことが2024年11月8日、イギリスメディアで報じられた。しかし、GCAP及びFCASに使う予算が1億3000万ポンド削減されており、今後に影響を与える可能性があると報道された[16]。
新たな参加国の可能性
[編集]2023年8月11日、英紙『フィナンシャル・タイムズ』は、サウジアラビアがGCAPへの参画を望んでおり、英伊両国は前向きだが、日本は参加国が増えることにより協議が長引くこと、同国への人道上の懸念などから反対していると報じた[17]。同紙によれば、7月に岸田文雄内閣総理大臣がサウジを訪問した際、サウジ側からこの希望は伝達されていたとのことである[18]。
2023年11月2日、英『タイムズ』は、ドイツが独仏西による次期戦闘機開発計画FCAS/SCAFを破棄し、GCAPに参加することを検討していると報じた[19]。
開発状況
[編集]契約企業
[編集]共同開発であるため日英伊の企業が参加している。
- イギリスはBAEシステムズを主契約者としてロールス・ロイスがエンジンを、レオナルド S.p.Aが電子機器を、MBDA UKがミサイルを担当する。
- 日本は三菱重工が主契約者となりIHIがエンジンを、三菱電機が電子機器を担当する。
- イタリアはレオナルド S.p.Aが主契約者となりアヴィオ・エアロがエンジンを、MBDAがミサイルを担当する。
スケジュール
[編集]2024年に各企業、各国の詳細な開発、費用分担を決定し、2030年に初号機の製造、2035年に初号機が納入される予定である[20]。
各国の取り組み
[編集]イギリス
[編集]イギリスはGCAPにおける戦闘機開発の技術リスクを低減するとして独自に戦闘機技術の実証機を開発している。実証機はEJ200双発を動力とする機体であり、ステルス技術とウェポンベイを実証する。直接実用戦闘機につながるものではないとされる。2027年までの初飛行を目標としている[21][22]。2023年6月には模擬機首を用いた射出座席やインテークダクト、模擬ウェポンベイの試験の様子が報道された。
日本
[編集]本計画発表と同時に、防衛省とアメリカ国防総省は、次期戦闘機を補完する自律型システムに関する具体的な協力を始めると発表した[23]。自律型支援システムとは戦闘機と組み合わせて使うロイヤル・ウイングマン無人機を指す。防衛省は「自律向上型戦闘支援無人機の機能性能及び運用上の効果に関する研究試作」において2025年度までに試作品を研究・開発し、2026年度以降に実際の機体開発に着手、2035年度をめどに配備を目指している[24][25]。
2023年10月25日、 米豪首脳会談で日本を含めた3か国で無人航空機の技術に関する協力を模索すると合意した[26]。ロイヤルウイングマン無人機ではオーストラリアのATS計画MQ-28Aゴーストバットが世界で最も先行しており、日本が本計画に参画する可能性が指摘されている[27][28]。
関連項目
[編集]- 次世代航空支配(Next Generation Air Dominance、NGAD)- アメリカ空軍の第6世代ジェット戦闘機開発計画
- F/A-XX - アメリカ海軍の第6世代ジェット戦闘機開発計画
- F-X (航空自衛隊)#F-2の代替
- X-2 (航空機・日本) - 開発にはX-2での技術が活かされている
- i3 FIGHTER - 2010年に防衛省が発表したコンセプト
- XF9 (エンジン) - 搭載予定のエンジンのベースとなる
- BAE システムズ・テンペスト - 英国の次世代戦闘機計画
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b 「戦闘機 機関設立へ署名/日英伊防衛相 共同開発を管理」『読売新聞』朝刊2023年12月15日(政治面)2023年12月23日閲覧
- ^ a b Grylls, George (2023年11月9日). “Rishi Sunak hails deal with Japan and Italy to build new fighter jet” (英語). ISSN 0140-0460 2023年11月9日閲覧。
- ^ “次期戦闘機、三菱重工と正式契約 防衛相”. 日本経済新聞 (2020年10月30日). 2023年12月3日閲覧。
- ^ “F2後継機は日米で開発…ロッキード社、三菱重工を技術支援”. 読売新聞オンライン (2020年12月11日). 2023年12月3日閲覧。
- ^ “次期戦闘機、日米→日英共同開発に転換する理由”. 東洋経済オンライン (2022年5月17日). 2023年12月3日閲覧。
- ^ Gady, Franz-Stefan. “Japan and UK to Collaborate on Advanced Stealth Fighter Jet” (英語). thediplomat.com. 2023年12月2日閲覧。
- ^ “日英伊が次期戦闘機開発で協力 年末までに具体策”. 日本経済新聞 (2022年7月20日). 2023年12月2日閲覧。
- ^ “空自の次期戦闘機、イギリスと共通機体で開発…輸出視野に防衛装備移転3原則の改定検討”. 読売新聞オンライン (2022年8月14日). 2023年12月2日閲覧。
- ^ 日本国外務省 (令和6年3月18日). “グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)政府間機関の設立に関する条約”. 2024年6月9日閲覧。
- ^ 衆議院 (2024年6月5日). “条約 第213回国会 1 グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)政府間機関の設立に関する条約の締結について承認を求めるの件”. 2024年6月9日閲覧。
- ^ 産経新聞 (2024年6月5日). “次期戦闘機開発の条約承認 日英伊で機関設立 新設の国際機関トップは日本人に”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年8月15日閲覧。
- ^ “日英伊の次期戦闘機開発、初代トップは日本人 本部はイギリスに設置”. 朝日新聞デジタル (2023年9月26日). 2023年12月3日閲覧。
- ^ “次期戦闘機プログラムに新たな一歩 日英伊の合弁会社設立へ”. Jディフェンスニュース(自衛隊・防衛省のニュース) (2024年12月16日). 2024年12月20日閲覧。
- ^ “JAIEC・BAE・レオナルドが合弁会社の設立合意 – 旅行業界・航空業界 最新情報 − 航空新聞社”. 2024年12月20日閲覧。
- ^ “日本・イギリス・イタリアの次期戦闘機、スターマー政権で「見直し対象」 英報道”. 日本経済新聞 (2024年7月20日). 2024年8月15日閲覧。
- ^ “英国「日伊との次期戦闘機開発は、やりま……す!!」ひとまず懸念解消 今後の方針は?”. 乗りものニュース (2024年11月15日). 2024年12月20日閲覧。
- ^ “Saudi Arabia pushes to join fighter jet project with UK, Italy and Japan”. www.ft.com. 2023年12月3日閲覧。
- ^ “日英伊による次期戦闘機共同開発協力へのサウジアラビアの参画打診:日本はどう対応すべきか?”. 笹川平和財団. 2023年12月3日閲覧。
- ^ Berlin, Oliver Moody (2024年8月15日). “Germany may abandon €100bn fighter jet project with France” (英語). www.thetimes.com. 2024年8月15日閲覧。
- ^ 「日英伊、次期戦闘機の共同開発で合意 2035年に配備開始」『Reuters』2022年12月9日。2023年11月12日閲覧。
- ^ “U.K, Japan, Italy seek to hasten next-gen fighter jet roll out” (英語). Nikkei Asia. 2023年11月28日閲覧。
- ^ Hoyle, Craig. “UK reveals rapid progress on sixth-generation fighter demonstrator effort” (英語). Flight Global. 2023年11月28日閲覧。
- ^ “次期戦闘機の共同開発について”. 防衛省・自衛隊. 2023年12月3日閲覧。
- ^ “自律向上型戦闘支援無人機の機能性能及び運用上の効果に関する研究試作”. 防衛省. 2023年12月3日閲覧。
- ^ “戦闘機支援の無人機開発 日米、防空網強化へ技術協力”. 日本経済新聞 (2022年6月3日). 2023年12月2日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2023年10月26日). “米豪首脳会談 中国を念頭に安全保障分野の協力強化を確認”. NHKニュース. 2023年12月2日閲覧。
- ^ “日英伊が共同開発する次期戦闘機GCAPを発表(JSF) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2023年12月2日閲覧。
- ^ “空自「次期戦闘機」の相棒、「ボーイングの無人機」が有力か? 米豪の激推し機 日本の出る幕は”. 乗りものニュース (2023年11月19日). 2023年12月2日閲覧。