ケヌズ語
ケヌズ語 クヌーズ・ヌビア語、ヌビア語ケヌズ方言、メトキ語 | |
---|---|
話される国 | エジプト |
地域 | アスワン県コム・オンボ近郊など |
民族 | ヌビア人の一派ケヌズ族 |
話者数 | 5万人(2014年)[1] |
言語系統 | |
表記体系 | アラビア文字、コプト文字、ラテン文字[1] |
言語コード | |
ISO 639-3 |
xnz |
ケヌズ語(ケヌズご、Kenuz)またはクヌーズ・ヌビア語(クヌーズ・ヌビアご、英: Kunuz Nubian)、ヌビア語ケヌズ方言(ヌビアごケヌズほうげん)、メトキ語[2](メトキご、Mattokki)とはエジプト南部のコム・オンボ近郊などで話されているヌビア諸語の一つである[1]。
分類
[編集]Lewis et al. (2015) ではヌビア諸語はナイル・サハラ語族東スーダン語派の下に位置付けられ、ケヌズ語はドンゴラウィ語(別名: Andaandi、Dongola、Dongolese)とは異なる言語であるとされている。一方Hammarström et al. (2016) ではヌビア諸語は語族扱いとされている上、ケヌズ語とドンゴラウィ語は一つの言語とされている。
音韻論
[編集]子音
[編集]ケヌズ語の子音一覧[3] | ||||||
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両唇音 | 歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 声門音 | ||
閉鎖音 | 無声 | /t/ | ([c])[4] | /k/ | ||
有声 | /b/ | /d/ | j | /ɡ/ | ||
鼻音 | /m/ | /n/ | /ɲ/ | |||
摩擦音 | f | /s/ | š | /h/ | ||
流音 | l/r | |||||
半母音 | w | y |
pは後に無声閉鎖音か無声摩擦音が続く場合のみbの異音として現れる[5]。また位置によってはjの異音として[cc][5]、nの異音としてŋ[6]、sの異音としてzが現れる場合がある[7]。
母音
[編集]前舌 | 中舌 | 後舌 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
短 | 長 | 短 | 長 | 短 | 長 | |
高 | i | iː | u | uː | ||
中 | e | eː | o | oː | ||
低 | a | aː |
強勢
[編集]強勢は基本的に最後から二番目の音節に置かれる[9]が、長母音のある節には必ず強勢が置かれ[10]、また語末に強勢のある二音節語が存在する[10]といった例外も見られる。
文法
[編集]数
[編集]単数と複数の区別が存在する[11]。複数形を表す二種類の接尾辞のうち-iは語根が子音終わりの場合に、-cciは語根が母音終わりの際に用いられる[11]。
例:
格
[編集]名詞や名詞句および代名詞には主格、対格、属格の三種類の格変化が存在する[12]。
主格および対格
[編集]接辞などの形態素が一切つかない状態で主格である事を表す[12]。
対格を表す接尾辞は大別すると-kiか-giの二種類に分けられる[4]。語根が/l/, /m/, /n/, /w/, /y/の場合には-gi、母音で終わる場合には長母音化の後に-gが接続される[13]。それ以外の場合は-kiの型が用いられるが、子音の種類によっては-tiや-ciという異形をとる[4]。
例:
属格
[編集]属格を表す接尾辞は-naもしくは-nである[15]。語順は「所有者-非修飾名詞」となる[16]。
例:
- id 〈男は〉 : idna ka 〈男の家〉[15]
-nは前後のいずれかが母音である場合に用いられる[15]。また後に続く子音が/m/、/f/、/s/、/š/、/h/のいずれかである場合、-nはその子音に同化する[17]。
代名詞
[編集]独立代名詞の主格形は以下の表の通りであり、これらも名詞同様に格変化し得る[18]。
単数 | 複数 | |
---|---|---|
一人称 | ay | ar |
二人称 | er | ir |
三人称 | ter | tir |
例:
- in id 〈この男〉; man id 〈あの男〉[20]
形容詞
[編集]例:
- id adel 〈良い男〉[22]
動詞
[編集]動詞は語根に接辞をつけることにより形成される[23]。動詞には接頭辞がつくパターン、複合語となるパターン、接尾辞がつくパターンの三種類が存在するが、接頭辞がつくパターンは他二つと比べると種類は少なめである[23]。接頭辞には進行を表すa-や未来時制を表すbi-が存在する[23]。
また、受益者格を表す接辞も存在する。-de:n-と-tir-の二種類のうち前者は話し手が利益の受け手となった場合に、後者は話者以外の他人が利益の受け手となる場合に用いられる[24]。
例:
- alle-de:n-s-u - 「私のために(~を)直してくれた」
- (グロス: 直す-受益者-過去-三人称単数)
- alle-tir-s-i - 「他人のために(~を)直してあげた」
- (グロス: 直す-受益者-過去-一人称単数)
なお-de:n-のnは後続する子音が/s/、/m/である場合に[24]、-tir-のtは直前の子音が/s/、/š/、/c/である場合にそれぞれ同じ音へと同化する[25]。
語順
[編集]例:
- id ay-gi ba:b-ki alle-de:n-s-u. - 「男は私のために扉を修理してくれた。」[28]
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h Lewis et al. (2015).
- ^ 大塚(2000)。
- ^ Abdel-Hafiz (1988:12).
- ^ a b c d Abdel-Hafiz (1988:91).
- ^ a b Abdel-Hafiz (1988:14).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:14-15).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:15).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:17).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:21).
- ^ a b Abdel-Hafiz (1988:22).
- ^ a b c d Abdel-Hafiz (1988:80).
- ^ a b Abdel-Hafiz (1988:90).
- ^ a b Abdel-Hafiz (1988:92).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:93).
- ^ a b c Abdel-Hafiz (1988:94).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:205).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:95).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:88).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:205-206).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:206).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:205,207)
- ^ Abdel-Hafiz (1988:207).
- ^ a b c Abdel-Hafiz (1988:104).
- ^ a b Abdel-Hafiz (1988:112).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:113).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:201).
- ^ Dryer (2013).
- ^ Abdel-Hafiz (1988:114).
参考文献
[編集]- Abdel-Hafiz, Ahmed Sokarno (1988). A Reference Grammar of Kunuz Nubian. State University of New York at Buffalo
- Dryer, Matthew S. (2013) "Feature 81A: Order of Subject, Object and Verb". In: Dryer, Matthew S.; Haspelmath, Martin, eds. The World Atlas of Language Structures Online. Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology
- Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Kenuzi-Dongola”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History
- "Mattokki." In Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
- 大塚和夫「ケヌズ」 綾部恒雄 監修『世界民族事典』弘文堂、2000年。ISBN 4-335-56096-6