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ササキビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ササキビ
Setaria viridis
Setaria palmifolia:ハワイ・マカワオ森林保護区
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
階級なし : ツユクサ類 Commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
亜科 : キビ亜科 Panicoideae
: キビ連 Paniceae
: エノコログサ属 Setaria
: ササキビ S. palmifolia
学名
Setaria palmifolia
(Willd.) Stapf (1914)
和名
ササキビ
英名
Palm grass

ササキビ(笹黍、学名Setaria palmifolia (Willd.) Stapf (1914) )はイネ科の植物の1つ。イネ科としては幅広くてヤシのように縦襞の多い大きな葉を持つ。

特徴

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株立ち状に生える多年生草本[1]は斜めに立ち、高さ60~180cmに達し、まばらにを着ける。葉身は全体としては披針形で長さ30~60cm、幅3~7cm程で、多数の縦襞があって折れ曲がり、その様子はシュロの葉などを思わせる。葉鞘はその背面に竜骨があり、いぼ状に剛毛が生える。葉舌は三日月型で、基部は紙質で先端部は毛になっていて長さ1~2mm。

花期は8~9月[2]。円錐花序はエノコログサのように密集して穂状になることはなく、側枝は斜めに開いて長く伸び[3]、まばらに小穂を付ける。花序は大きくて長さ40cmに達し、個々の枝の先端は小穂を越えて伸び、剛毛状となっており、これがエノコログサなどの穂を包むように突き出す刺毛にあたる。なお初島(1975)は花序の構成について第1次側枝から生じてそれに圧着する短い枝に小穂が密生しており、全体としては中断のある複総状花序である、としている[3]

小穂は楕円状披針形で長さ3~4mm。緑色をしている[2]。第1包頴は卵形で小穂の長さの1/3~1/2程度、3~5本の脈がある。第2包頴は卵形で小穂の約半分の長さがあり、第2小花の背面が半分見えており、5~7脈がある。またこれら包頴と第1小花の護頴はその縁が半透明になっている。第1小花の護頴は5本の脈があり、先端は小さく突き出して尖っている。これに対する内頴は護頴の半分の長さで2脈があり、第1小花はこれらを残して退化しており、雄しべも雌しべも存在しない[2]。第2小花の護頴と内頴は革質で質が硬く、光沢があって不規則な皺がある。またそれぞれの先端は小さく突き出して終わる。葯は長さ1.4mm。第2小花の護頴はその両端が内側に曲がって第2小花を抱え、果実が成熟した状態でもそれを抱え、纏まって脱落する[2]

和名は笹黍で、葉が笹のように幅広いこと、小穂が黍に似ることによるが、その葉は笹より遙かに大きい。英名は Palm grass であり、これは葉に襞があってヤシ類を思わせることに依る[2]

分布と生育環境

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タイプ産地タイで、西アフリカからアジアに掛けての熱帯に広く分布し、日本では九州南部から琉球列島で知られ、また中央アメリカオーストラリアにも移入している[2]。なお初島(1975)では本種の琉球列島における分布を沖縄島石垣島西表島のみとしている[3]。茨木他(2020)でも同様でこれに更に奄美大島が追加されている。いずれにしても各島に広く見られるというものではないようである。

林の中に生える[2]。山裾の川岸や山沿いの道ばたなどでやや湿気のあるところに見られることが多い、普通に見られる植物である[4]

分類・類似種など

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エノコログサ属には世界に約100種、日本には外来種を含めて10種ほどがある[5]。日本ではエノコログサ S. viridis がごく普通に見られ、またいわゆる猫じゃらしとして一般にも広く知られた種となっているが、本属にはこれに似た姿のものも多いものの、かなり見かけの異なるものも含まれている。本種はエノコログサとはとても似付かない姿をしている方である。共通するのは小穂の構造と共に円錐花序を作ること、その枝に不実の棘を生じることである。エノコログサでは円錐花序の側枝がごく短縮しているためにそう見えないだけで、その点では大きな違いは無い。不実の棘に関してはエノコログサではこの棘、刺毛とも言うが、これが1つの小穂ごとにその基部から数本出るのに対し、本種では複数の小穂のつく枝の先端だけがその形を取る。

それ以上に独特なのはその葉であり、イネ科の中でも幅広く、またその表面にヤシ類を思わせる縦襞がある点、日本では他に以下の種以外に例がない[2]。 本種とよく似ているものには日本では以下のものがある。

  • S. plicata コササキビ

この種は本種に似て幅広く襞の多い葉とまばらに小穂を付ける穂を持つが、遙かに小さくて葉幅が3cm以下、また穂は枝が広がらず全体に細くなっている[6]。この種もその分布域は九州南部から琉球列島に掛けてと、そして東南アジアからネパールに亘る。

  • S. barbata ヒメササキビ

この種は沖縄、小笠原に帰化している[7]

人間との関係

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日本では特に取り上げるべきものはない。

マレシアの各地において、本種の新芽は甘みのある素材として食用にされ、またその葉はよほど古くなっていない限りはにとって栄養豊かな飼料となる[8]。またインドネシアでは出産の後にこれを食べ、おそらくは悪露母乳の分泌を進めるために用いられ、またインドでは煎じ薬の要素の一つに使われ、生理不順などの際に使われる。また緩和剤利尿剤としても使われる。

北アメリカでは植栽される例があるという[3]。観賞用に栽培される[2]

中国名を台風草といい、台湾ではこの葉を取って横襞を数え、その年の台風の襲来数を占うという[9]

脚注

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出典

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  1. ^ 以下、主として牧野原著(2017),p.442
  2. ^ a b c d e f g h i 長田(1993),p.596
  3. ^ a b c d 初島(1975),p.680
  4. ^ 池原(1979),p.239
  5. ^ 大橋他編(2016),p.95-97
  6. ^ 以下も茨木他(2020),p.52
  7. ^ この辺りの記述が曖昧なのは1つには大橋他編(2017)の記述が不足しているためである。何しろ種の検索表が不完全で、取り上げられている種のかなりのものがそこに位置づけられておらず、その位置づけられていない種に本種と類似の種が全部含まれており、また本種とそれに類するものについては単独の記述ではなく、同属でやはり穂がまばらに広がるイヌアワ S. chondrachne の項の中で短く触れているだけなので、種の区別点などが読み取れない。現時点で一番リファレンスとされるはずの位置にある図鑑としてはあり得ない怠慢と言いたい。もう1つ、初島(1975)ではこの群の学名や和名が現在の状況との間に齟齬があり、容易に判断できない状態にある。
  8. ^ 以下もSaw et al.(1988)
  9. ^ 牧野原著(2017),p.442

参考文献

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  • 長田武正、『日本イネ科植物図譜(増補版)』、(1993)、(平凡社)
  • 大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 2 イネ科~イラクサ科』、(2016)、平凡社
  • 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
  • 茨木靖他、『南のイネ科ハンドブック』、(2020)、文一総合出版
  • 初島住彦、『琉球植物誌』追加・訂正版、(1975)、 沖縄生物教育研究会
  • 池原直樹、『沖縄植物野外活用図鑑 第6巻 山地の植物』、(1979)、新星図書出版
  • Saw L. G. et al. 1988. Notes on the Setaria palmifolia Group (Gramineae) in Malesia. Floribunda 1(6) :p.21-24.