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『サマー・アポカリプス』(サマー・アポカリプス)、副題ロシュフォール家殺人事件(ロシュフォールけさつじんじけん)は、笠井潔の探偵小説。1981年に文芸雑誌『野性時代』4月号で一挙掲載され、同年10月に角川書店から書籍化された。
1970年代のパリを主要舞台に、謎の日本人青年矢吹駆(ヤブキカケル)と大学生ナディア・モガールの活躍を描いた、連作ミステリーの第2作である。今作のミステリ的趣向は、新約聖書「ヨハネの黙示録の四騎士」の記述を出処にした"見立て殺人"を題材にしている。本作以降はカケルと20世紀に活動した思想家をモデルにした人物との討論が恒例化し、20世紀思想の俯瞰図としての側面が確立される。今回のカケルとの討論相手はフランスの思想家シモーヌ・ヴェイユをモデルにした人物で、対話の域を超えた身を挺しての解答に帰結する。
事件の序奏になったのは、夜の街路で通りすがりの車からヤブキカケルに放たれた2発の銃弾だった。狙撃された日に知り合った女教師シモーヌ・リュミエールから、身の危険が迫っているので急いでパリから立ち去るよう警告されていた後の凶事で、肩を負傷したのだった。
ラルース家の事件から半年が過ぎ、連日の猛暑に疲弊するパリにもヴァカンスの季節が訪れる。ナディアと負傷の癒えたカケルは、バルべス警部の故郷ラングドック地方のシャートゥイユ村に三人で向かうことになった。カケルは以前から関心を寄せていた、異端カタリ派の調査が目的だった。
南仏財界の帝王ロシュフォール家で起った、黙示録の四騎士の記述に沿った見立て殺人。南仏を中心に拡大した中世最大のキリスト教異端カタリ派の興亡と伝説。地中海の潮音に満たされた夜の海岸で、シモーヌとカケルのあいだに交わされる現世の悪を眼前にしての信仰と懐疑をめぐる対話。真夏の陽光が降りそそぐ南仏ラングドック地方からプロヴァンス地方を舞台に響き渡るアンサンブルは、荘厳にして魁偉なオラトリオを奏でる。事件が終曲を迎えるのは、カタリ派滅亡の地モンセギュールの城跡だった。
- オーギュスト・ロシュフォール 南仏で原発建設を推進する、南仏財界の支配者
- ジェヌヴィエーヴ・ロシュフォール オーギュストの先妻、ジゼールの生母
- ニコル・ロシュフォール オーギュストの後妻
- ジゼール・ロシュフォール オーギュストの娘、ナディアの年下の友人
- シモーヌ・リュミエール 南仏セットの教師、オクシタニ解放運動活動家
- ジュリアン・リュミエール シモーヌの弟、ロシュフォール原子力産業研究所主任
- ジャン・ノディエ 死亡したジェヌヴィエーヴの従僕
- ジョゼフ・ヴァンドル ロシュフォール家の厩番
- ポール・ソネ シャートゥイユ村の神父
- シャルル・シルヴァン 大学助教授の歴史学者
- ワルター・フェスト ミュンヘンの骨董商
- フェルナン・ランベール 雑誌"南仏通信"元副編集長
- カサール ラグラネの憲兵隊長、バルべスの旧友
- ナディア・モガール パリ出身の大学生
- ジャン=ポール・バルべス パリ警視庁司法警察局警部
- 矢吹駆 謎の日本人青年
- ニコライ・イリイチ 秘密政治結社"ラモール・ルージュ"の中心人物
- 1984年6月 『アポカリプス殺人事件』解説/竹本健治 角川文庫
- 1990年12月 『天使・黙示・薔薇 笠井潔探偵小説集』(初期三作の合本) 作品社
- ^ 『天使・黙示・薔薇 笠井潔探偵小説集』作品社、1990年12月。
- ^ “カルカッソンヌ”. フランス観光開発機構. 2022年5月3日閲覧。
- ^ “サン・セルナン大聖堂”. 横断検索型の旅行検索サービスTavitt. 2022年4月27日閲覧。
- ^ 『怪奇幻想ミステリ150選』原書房、2002年6月1日。
- カタリ派 wikipredia.net 2022年6月9日閲覧