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シダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Atlas Cedar(アトラスシダー、マツ科ヒマラヤスギ属)

シダー英語: cedarあるいは シダーウッド英語: cedar wood)は、針葉樹を中心とする広い範囲の樹木を指す概念。ラテン語ギリシア語由来の英語。綴り上のeは長音の/iː/であり、したがって標準的な仮名転写としては「シーダー」。このほか、「セダー」ともいう。語源についてはヒマラヤスギ属#語源を参照。

本来はヒマラヤスギ属マツ科)を指すものである。英語圏において類似の樹木にも cedar の名が付けられた結果、植物学的な分類と必ずしも一致していない。 cedar の日本語への翻訳に際しては「杉(スギ)」に置換することがある。日本ではスギと呼んでいない樹木がある。これら cedar の幅広い用法は、日本における杉と松という用語の広がりとの相似性について別途研究があるとよい。

cedar と呼ぶ樹木には材木精油(エッセンシャルオイル)として利用されるものもある。日本では「シダー」「シダーウッド」とカタカナで呼ぶことがある。

英語における「cedar」

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ヒマラヤスギの葉

Cedar は、厳密にはマツ目マツ科ヒマラヤスギ属 (Cedrus) を意味する。一見類似の樹木や、「香りの強さ」という共通の特徴を持つ樹木にも一般名称として cedar の名が付けられた。これらは植物学的な分類によって行われたものではないため、ヒマラヤスギ属以外にも、名称に cedar を含む樹種が多い。レッドシダーホワイトシダーに関しても同様である。このため「シダー」は、ヒノキ科スギ属ヒノキ属ビャクシン属など広い範囲の針葉樹や、一部の広葉樹をも指すこととなった。

以下の表では、英語圏において cedar の名で呼ばれる植物について、言語的要素に着目して英語名・学名・日本語名について列記する。「日本語名」には標準和名のほか、通俗名・流通名も含む。植物学的な記述については各項目を参照されたい。

植物学的分類 英語名 学名 日本語名
マツ科 ヒマラヤスギ属
Cedrus
Deodar Cedar
Himalayan Cedar
Cedrus deodara ヒマラヤスギ
ヒマラヤシーダー
Lebanon Cedar Cedrus libani レバノンスギ
レバノンシーダー
Atlas Cedar Cedrus atlantica アトラススギ
アトラスシーダー
Cyprus Cedar Cedrus brevifolia キプロススギ
キプロスシーダー
ヒノキ科 スギ属
Cryptomeria
Japanese Cedar Cryptomeria japonica スギ
Widdringtonia Clanwilliam Cedar
Clanwilliam Cypress
Widdringtonia cedarbergensis
Willowmore Cedar
Willowmore Cypress
Widdringtonia schwarzii
Austrocedrus Chilean Cedar
Chilean Incense-cedar
Cordilleran Cypress
Austrocedrus chilensis チリーヒバ
チリ・インセンスシーダー
Libocedrus New Zealand Cedar Libocedrus bidwillii
クロベ属
Thuja
Western Red Cedar Thuja plicata ベイスギ(米杉)
アメリカネズコ
レッドシダー
ウエスタンレッドシーダー
Eastern White Cedar
Northern White Cedar
Eastern Arborvitae
Thuja occidentalis ニオイヒバ
ヒノキ属
Chamaecyparis
Atlantic White cedar
Atlantic White Cypress
Chamaecyparis thyoides ヌマヒノキ
ヌマヒバ
Port Orford cedar
Lawson's Cypress
Chamaecyparis lawsoniana ローソンヒノキ
ベイヒ(米檜)
ポートオーフォードシーダー
ローソンサイプレス
ショウナンボク属
(オニヒバ属)
Calocedrus
Incense Cedar Calocedrus (一般名)インセンスシーダー
California Incense-cedar Calocedrus decurrens オニヒバ
Taiwan Incense-cedar Calocedrus formosana ショウナンボク(肖楠木)
Chinese Incense-cedar Calocedrus macrolepis ショウナンボク
イトスギ属
Cupressus
Mexican White Cedar Cupressus lusitanica メキシコイトスギ
Yellow Cedar
Alaska Yellow Cedar
Cupressus nootkatensis
(Chamaecyparis nootkatensis)
(Xanthocyparis nootkatensis)
イエローシーダー
アラスカシーダー
アラスカヒノキ
ベイヒバ
ビャクシン属
Juniperus
Pencil Cedar
Eastern Red cedar
Eastern Juniper
Juniperus virginiana エンピツビャクシン
レッドシダー
シダーバージニア
Bermuda cedar
Bermuda juniper
Juniperus bermudiana バミューダビャクシン
Mountain Cedar
Ashe Juniper
Juniperus ashei マウンテンシダー
Prickly Cedar
Spanish Cedar
Prickly Juniper
Cade Juniper
Juniperus oxycedrus ケードネズ
センダン科 センダン属
Melia
Ceylon Cedar
White Cedar
Melia azedarach センダン
チャンチン属
Cedrela
Spanish Cedar
Cigar-box cedar
Cedrela odorata スパニッシュシダー
シガーボックスシダー
ニシインドチャンチン
Toona Australian Red Cedar
Indian Mahogany
Toona ciliata オーストラリアチャンチン
スリアナ科 スリアナ属
Suriana
Bay Cedar Suriana maritima スリアナ
イチイ科
イヌガヤ科
カヤ属
Torreya
Stinking Cedar
Stinking Yew
Florida Torreya
Torreya taxifolia フロリダガヤ

日本語の「スギ」と「cedar」

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日本のスギ(杉,Cryptomeria japonica)は、英語で Japanese Cedar と訳されることが多い。スギ(ヒノキ科スギ属もしくはスギ科)は本来の Cedar であるヒマラヤスギ属には属さないので、植物学的な分類とは相違した名称である。日本のスギについて言及する場合、日本語の Sugi を併記した方が混同は少ない。

またここから、日本では Cedar の英語名を持つ樹種を日本語で「スギ」と訳すことが慣例となった。マツ科に属する本来の Cedar (Himalayan Cedar)に和名として「ヒマラヤスギ」が与えられたのをはじめ、 ヒマラヤスギ属の Lebanon Cedar に「レバノンスギ」が、またヒノキ科クロベ属の Western Red Cedar に「ベイスギ」が与えられたのはこのためである。

一般的な英和辞典には語釈として「ヒマラヤスギ」「スギ」が挙げられる程度であるため、 Cedar と呼ばれる樹木にはヒマラヤスギ属に属さず、またスギと近縁でもないものが多く含まれることが看過される。たとえば小説 Snow Falling on Cedars が映画化されて日本で公開された際、タイトルが『ヒマラヤ杉に降る雪』と訳されたが、作品の舞台(アメリカ西北部)で樹林をなしているのは Western Red Cedar(アメリカネズコ,別名ベイスギ)であり、ヒマラヤスギは自生しておらず、誤訳である。

「シダー」と呼ばれるもの

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木材

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アコースティック・ギターの材料の木材として使われる「シダー」は、ベイスギ(Western Red Cedar, Thuja plicata、ヒノキ科クロベ属)である。

精油

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精油(エッセンシャルオイル)において「シダー」「シダーウッド」とされるものには2種類ある。

1つは「ホワイトシダー」「シダーアトラス」などとも呼ばれるアトラスシダー(Atlas Cedar, Cedrus atlantica, マツ科ヒマラヤスギ属)である。

もう1つは「レッドシダー」「シダーバージニア」などとも呼ばれるエンピツビャクシン(Eastern Red Cedar, Juniperus virginiana, ヒノキ科ビャクシン属)である。

避妊

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紀元前ギリシアの哲学者アリストテレスは、著書『動物誌』で、西洋スギ(シーダー)の油を子宮の中に入れて避妊の効果があるものの例の1つとしてあげている[1]

脚注

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  1. ^ 福田和彦『世界性風俗じてん』 (河出書房新社、1987年3月)

関連項目

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