シナノキ属
シナノキ属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Tilia L.[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
シナノキ属(科の木属、級の木属)[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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シナノキ属(シナノキぞく、学名:Tilia、和名漢字表記:科の木属、級の木属)はアオイ科(APG植物分類体系[3])の属の一つ。旧分類ではシナノキ科[2][4]とされていた。
イギリスではlime treeと呼ばれるが、ライム(lime)とは関係ない。別名としてはリンデン(linden)、北米の種はバスウッド(basswood)と呼ばれる[5]。
特徴
[編集]落葉高木。葉は互生し、葉先は細くとがり、基部はゆがみ、縁に鋭い鋸歯がある。しばしば葉や茎には星状毛がある。托葉は膜質になり、早く落ちる。葉と葉身の境が明確な葉柄がある。葉柄の基部の側方から集散花序を伸ばし、花をつける。狭長楕円形の総苞葉が目立ち、総苞葉の中部以下が花序の軸と合着し、果期に果序が落下する際には、合着した総苞葉とともに枝から離れるため、総苞葉がプロペラとなって種子散布に役立つ[4]。
花は両性。萼片は5個。花弁は5個。雄蕊は多数あり離生する。花弁の内側に、ふつう5個の仮雄蕊がある[4]。子房は5室あり、各々に2個の胚珠がある[6]。花柱は細く伸び、柱頭は浅く5裂する。果実は球状または楕円形の堅果になり、裂開しないで中に1-2個の種子が入る[4]。
分布
[編集]北半球の温帯に分布し、約30種知られ[4][7]、日本にはシナノキなど数種分布する。
種
[編集]日本に分布する種
[編集]- ブンゴボダイジュ Tilia chinensis Maxim. var. intonsa (E.H.Wilson) Y.C.Hsu et R.Zhuge - 日本では、大分県の山地にまれに生育する[8]。
- シナノキ Tilia japonica (Miq.) Simonk. - 日本固有種。北海道、本州、九州に分布し、山地に生育する[4]。
- シコクシナノキ(ケナシシナノキ) Tilia japonica (Miq.) Simonk. var. leiocarpa Nakai - 四国の山地に生育する[4]。
- ヘラノキ Tilia kiusiana Makino et Shiras. - 本州の紀伊半島・中国地方、四国、九州に分布し、山地に生育する[4]。
- マンシュウボダイジュ Tilia mandshurica Rupr. et Maxim. var. mandshurica - 環境省の絶滅危惧IA類(CR) に選定されている。日本では、岡山県、広島県、山口県に分布し、高地の谷間などの冷涼地にまれに生育する[9]。日本以外では、朝鮮半島、中国大陸(北部、東北部)に分布する[4]。
- オオバボダイジュ Tilia maximowicziana Shiras. - 北海道、本州の東北地方、北陸地方、関東地方北部に分布し、山地に生育する[4]。
- モイワボダイジュ Tilia maximowicziana Shiras. var. yesoana (Nakai) Tatew. - 北海道、本州の東北地方に分布し、山地に生育する。ときに本州中部地方北部にも見られる[4]。
- ボダイジュ Tilia miqueliana Maxim. - 中国原産で、日本ではよく社寺に植栽されている[4]。
- ノジリボダイジュ Tilia × noziricola Hisauti - シナノキとオオバボダイジュの交雑種と考えられ、長野県と新潟県に見られる[4]。
上記以外の主な種
[編集]- アメリカシナノキ Tilia americana L.
- アムールシナノキ Tilia amurensis Rupr. var. amurensis
- フユボダイジュ Tilia cordata Mill.
- タケシマシナノキ Tilia insularis Nakai
- モウコシナノキ Tilia mongolica Maxim.
- ナツボダイジュ(ヨウシュボダイジュ、セイヨウボダイジュ) Tilia platyphyllos Scop.
- セイヨウシナノキ Tilia × europaea L.(シノニム:Tilia × vulgaris Hayne)[11](別名:リンデン)
名前の由来
[編集]属名の Tilia は、ボダイジュに対するラテン語古名。語源は ptilon「翼」で、翼状の総苞葉が花序の軸と合着している様子から[12]。属名の Tilia は繊維を意味するギリシア語 tilos とする説もある[13]。ボダイジュ(菩提樹)は中国原産のシナノキ属の樹種で、日本にもたらされたとき寺院に植えられて日本での「菩提樹」になった[7]。
シナはアイヌ語の「結ぶ、縛る」を由来とする[13]。シナの呼び名について、牧野富太郎は『日本植物図鑑』で、結ぶ、縛る、括るという意味のアイヌ語から来たものと解説しているが、知里真志保によると、アイヌ民族がロープの材料として重用したシナノキの内皮・繊維を nipes あるいは si-nipes とよび、ニは「木」、ペシは「もぎ取った裂片」、シは「本当の」を意味する言葉であり、シナノキの繊維素材が最も優れたことを示した言葉であるという[7]。
逸話
[編集]古代ローマの詩人オウィディウスの神話集変身物語の中に登場するバウキスとピレモン夫妻の逸話にこの菩提樹(linden)が登場する。
バウキスとピレモンは愛し合っている夫婦。どちらか一方が死んだときは、死を共にしたいと願っていた。ある朝目覚めると、二人とも頭から葉っぱが生えており、二人は最後の日が来たことを悟る。次第に人間の姿が消え、大きな木へ変身していった。妻のバウキスは菩提樹に、夫のピレモンはオークの木になった。この二種類の樹木は相思相愛の象徴とされている[14]。
用途
[編集]ヨーロッパでは古くから街路樹や公園樹として用いられており、広く親しまれている[7]。有名なところではドイツのベルリンにある目抜き通りウインター・デン・リンデンで、街路樹の名がそのまま街路名になっている[7]。
蜂蜜
[編集]香りの良い蜂蜜の蜜源として知られる。北海道では、シナノキTilia japonicaはニセアカシアと並び主要な蜜源となっている[15]。
木材
[編集]材は合板、彫刻材、箱材などにする[13]。
ヨーロッパでは、フユボダイジュ、ナツボダイジュ、セイヨウシナノキがリンデン材として木材に使われる。心材から辺材にかけて変わらない明るい色を持つ。これらの材は、柔らかく簡単に加工できることから主に楽器や盾、匙などの家事用の道具、彫刻に利用される。聖人の彫像用途で多用される事から「lignum sacrum」(ラテン語で「聖なる木」の意)と考えられていた[16][17]。
薬用
[編集]セイヨウシナノキの乾燥させた花は、やや甘く粘着性があり、果実もやや甘い粘液を出す。この乾燥させた花は、ハーブティーとして飲まれる。花、葉、木、および木炭は、薬用目的で使用される。花の有効成分には、酸化防止剤として作用するフラボノイドや揮発性オイルが含まれ、植物には収れん作用をもつタンニンも含まれている[18]。
リンデンの花は風邪、咳、発熱、感染症、炎症、高血圧、頭痛(特に片頭痛)、利尿薬(尿生成増加)、鎮痙薬(消化管に沿った平滑筋痙攣の軽減)鎮静剤として利用される[19]。伝統的なオーストリア医学でのシナノキ種の花の茶は、呼吸の病気や風邪、発熱の治療に効果があるとしている[20]。新しい研究によると、花には肝臓保護作用もある可能性が示されている[21]。
木材は、肝臓および胆嚢疾患、蜂巣炎(皮膚および周囲の軟部組織の炎症)に使用される。 木炭は、腸障害を治療するために摂取され、下脚の潰瘍や潰瘍などの浮腫や感染症を治療するために局所的に使用されている[18]。
食用
[編集]関連項目
[編集]- ティルマン・リーメンシュナイダー:木材の彫刻家
- ホワイトパイン:リンデン材と同様に彫刻向きの木材
脚注
[編集]- ^ Tilia Flora of China
- ^ a b 『樹に咲く花(離弁花 2)山溪ハンディ図鑑4』p.534
- ^ 大場『植物分類表』pp.162-164
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 『日本の野生植物 木本II』pp.65-67
- ^ "Tilia". Natural Resources Conservation Service PLANTS Database. USDA. 2015年12月10日閲覧。
- ^ 『原色日本植物図鑑 木本I(改訂版)』p.232
- ^ a b c d e 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、247–249頁。ISBN 4-12-101238-0。
- ^ レッドレータヅックおおいた
- ^ レッドデータブックやまぐち
- ^ 『新牧野日本植物圖鑑』pp.429-430
- ^ Tilia × europaea The Plant List
- ^ 『新牧野日本植物圖鑑』p.1313
- ^ a b c 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 シナノキ(コトバンク)
- ^ 瀧井康勝『366日 誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、215頁。
- ^ 真坂一彦, 佐藤孝弘, 棚橋生子, 「養蜂業による樹木蜜源の利用実態 -北海道における多様性と地域性-」『日本森林学会誌』 95巻 1号 2013年 p.15-22, doi:10.4005/jjfs.95.15
- ^ 植物に現れた独逸趣味の研究 527 ページ
- ^ 森と樹木と人間の物語: ヨーロッパなどに伝わる民話・神話を集めて 480p
- ^ a b Bradley P., ed. (1992). British Herbal Compendium. Vol.1: 142–144. British Herbal Medicine Association, Dorset (Great Britain)
- ^ Coleta, M; Campos, M. G.; Cotrim, M. D.; Proença Da Cunha, A (2001). “Comparative evaluation of Melissa officinalis L., Tilia europaea L., Passiflora edulis Sims. And Hypericum perforatum L. In the elevated plus maze anxiety test”. Pharmacopsychiatry 34 Suppl 1: S20–1. doi:10.1055/s-2001-15460. PMID 11518069.
- ^ Vogl, Sylvia; Picker, Paolo; Mihaly-Bison, Judit; Fakhrudin, Nanang; Atanasov, Atanas G.; Heiss, Elke H.; Wawrosch, Christoph; Reznicek, Gottfried et al. (2013). “Ethnopharmacological in vitro studies on Austria's folk medicine—An unexplored lore in vitro anti-inflammatory activities of 71 Austrian traditional herbal drugs”. Journal of Ethnopharmacology 149 (3): 750–71. doi:10.1016/j.jep.2013.06.007. PMC 3791396. PMID 23770053 .
- ^ Matsuda, Hisashi; Ninomiya, Kiyofumi; Shimoda, Hiroshi; Yoshikawa, Masayuki (2002). “Hepatoprotective principles from the flowers of Tilia argentea (Linden): Structure requirements of tiliroside and mechanisms of action”. Bioorganic & Medicinal Chemistry 10 (3): 707–712. doi:10.1016/S0968-0896(01)00321-2.
- ^ “Tilia cordata Small Leaved Lime, Littleleaf linden”. PFAF Plant Database. 2017年3月4日閲覧。
- ^ “Tilia americana American Basswood, Carolina basswood, Basswood, AmericanBasswood, American Linden”. PFAF Plant Database. 2017年3月4日閲覧。
参考文献
[編集]- 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 木本I(改訂版)』、1971年、保育社
- 佐竹義輔他編『日本の野生植物 木本II』、1989年、平凡社
- 茂木透、太田和夫、崎尾均他『樹に咲く花(離弁花 2)山溪ハンディ図鑑4』、2000年、山と溪谷社
- 牧野富太郎原著、大橋広好・邑田仁・岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』、2008年、北隆館
- 大場秀章編著『植物分類表(初版第3刷訂正入)』、2011年、アボック社
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList),( 2015年8月27日).
- Tilia Flora of China
- レッドレータヅックおおいた
- レッドデータブックやまぐち
- Tilia × europaea The Plant List