ジアンチャンゴサウルス
ジアンチャンゴサウルス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ジアンチャンゴサウルスのホロタイプ標本
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前期白亜紀 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Jianchangosaurus Pu et al., 2013 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Jianchangosaurus yixianensis Pu et al., 2013 |
ジアンチャンゴサウルス(学名:Jianchangosaurus)は、中華人民共和国遼寧省に分布する下部白亜系義県層で化石が産出した、テリジノサウルス類に属する獣脚類の恐竜の属[1][2]。日本産のフクイベナートルが系統解析の結果テリジノサウルス類の最も基盤的な位置に置かれる[3]まで、ユタ州産のファルカリウスに次いで基盤的、すなわちアジア域において最も基盤的なテリジノサウルス類であった[1]。テリジノサウルス類の植物食性への適応が早期に生じていたことを示唆したほか、同じくテリジノサウルス類であるベイピアオサウルスとの共存を示唆し、またベイピアオサウルスと同様に羽毛を持っていたことが判明している[1]。タイプ種はジアンチャンゴサウルス・イシアネンシス(Jianchangosaurus yixianensis)[1][2]。
発見と命名
[編集]ジアンチャンゴサウルスのホロタイプ標本41HIII-0308Aは下部白亜系バレミアン階にあたる熱河層群義県層で産出し、中国・遼寧省葫芦島市建昌県で発見された[4]。河南地質博物館が購入したこの標本はほぼ全身が揃った幼若個体のものであり、頭蓋骨と下顎も保存されていた[4]。
2010年から河南地質博物館・北海道大学総合博物館・中国科学院地質研究所は共同研究を開始[2]。ホロタイプ標本に基づき、Pu et al. (2013)が新属新種Jianchangosaurus yixianensisを命名した[4]。属名は標本の発見地である県にちなみ、タイプ種の種小名は化石を保存していた義県層に由来する[4]。
特徴
[編集]ジアンチャンゴサウルスのホロタイプ標本41HIII-0308Aは幼若個体のほぼ完全な骨格出あり、尾椎の遠位部のみを欠損している。臀部での高さは約1メートル、全長は約2メートルと推定されている[4]。グレゴリー・ポールの推定によれば、体重は約20キログラムである[5]。
本属には5個の仙椎が存在しており、基盤的なテリジノサウルス類と共通する。上腕骨は約158.5ミリメートルで、肩甲骨と比較して7%短い。尺骨は約124.3ミリメートルで、上腕骨長の78%に相当する。これは基盤的テリジノサウルス類のファルカリウスに見られる比率77%に近い。恥骨は座骨よりも20%長く、鳥類や鳥盤類と異なり前腹側に突出する。脛骨は約31.6センチメートルで、約20.6センチメートルの大腿骨の1.5倍の長さを持つ。この比率はテリジノサウルス類の中でも高く、恐竜における走行適応と見られている[6][4]。
標徴的な解剖学的特徴
[編集]Pu et al. (2013)はジアンチャンゴサウルスの記相において、複数の形態形質の特異的な組み合わせを用いている[4]。具体的には、27本の密な上顎骨歯、上顎骨・鼻骨・涙骨で形成されていてかつ境界の大部分を鼻骨が形成する前眼窩窓、前眼窩窓の形成に寄与しない頬骨、歯骨の前端に位置する短い正中離開、唇側が凹で舌側が凸な歯骨歯(前側から6番目の歯を除く)、発達したhypapophysesを持たない前側胴椎、楕円形の断面を持ちかつ関節面の幅と高さが等しい前側の尾椎椎体、関節面の腹側に弱い屈筋結節を持つ弱く湾曲する前肢末節骨、上下に低くかつ長く伸びる腸骨、寛骨臼の縁に合流する孔を取り巻く1本の陵、広く接触するpubic apronがある[4]。
頭蓋骨と歯
[編集]頭蓋骨は全体的に保存が良い。保存されていない部位は涙骨の腹側と頬骨の後側、方形骨の前縁、上角骨の前側で、後眼窩骨の保存が悪い。上顎骨歯は27本で、歯骨歯はおよそ25本から28本とされる。しかし研究者の観察によれば上顎の先端部に位置する前上顎骨には歯が存在せず、角鞘に覆われていたのと仮説が立てられている。これは前上顎骨の外側面の口側の縁に沿って一連の孔が存在することからも支持される[4]。下顎の先端部は下側に向いており、上顎に存在する角鞘と合わせて食餌を摘まむことに機能した。頭蓋骨長は約23センチメートルで、大腿骨よりも10%長く、ベイピアオサウルスと共通しない。本属の頭蓋骨に派生的な特徴が存在することは、植物食性への適応を強く示唆するものである[4]。
歯冠は頭蓋骨の後方ほど小型である。上顎の歯では外側の表面が凸であるのに対し、下顎の歯では外側の表面が凹である。これは鳥脚類や角竜類と同様に咬合時に応力を最大化することで植物の繊維を切断することに長けていた可能性がある[4]。
羽毛の印象
[編集]ジアンチャンゴサウルスの化石にはelongate broad filamentous feathersと記載された原始的な羽毛の痕跡が存在しており[4]、共同研究者の1人である小林快次はこれを日本語で「長広繊維状羽毛」と呼称している[1][2]。羽毛の幅は2 - 3ミリメートルで原始的な羽毛にしては幅広く、また長さは10センチメートル程度に及んだ[1][2]。ベイピアオサウルスの羽毛が約45°の角度で生えていたのに対し、ジアンチャンゴサウルスの羽毛の角度はほぼ直角であった[1]。こうした羽毛は視覚的なディスプレイに用いられた可能性がある[4]。
個体成長段階
[編集]唯一知られているジアンチャンゴサウルスの標本は幼若個体のものである。未成熟個体であることを裏付ける形態学的証拠は、全ての頸椎・胴椎・頸肋・仙椎椎体において神経弓と椎体との間の縫合線が開いている(すなわち癒合していない)ことである。これに加えてPu et al. (2013)は、他の基盤的テリジノサウルス類でも同様であることに触れつつ、肩甲骨と烏口骨が癒合していないことも未成熟個体の根拠になりうるものとしている[4]。
Cau (2024)はジアンチャンゴサウルスを区別する形質状態が個体発生に応じて変化しうるものであると判断し、ジアンチャンゴサウルスを同時代のベイピアオサウルスのジュニアシノニムと考え、本属の有効性を疑問視した[7]。
分類
[編集]原始的なファルカリウスやベイピアオサウルスと同様に、ジアンチャンゴサウルスは基盤的なテリジノサウルス類に分類された。系統解析からは、ファルカリウスよりも派生的でベイピアオサウルスよりも基盤的であることが示唆された。本属は既知の範囲内で唯一楕円形の尾椎椎体を持つことが知られているテリジノサウルス類である[4]。
左のクラドグラムはPu et al. (2013)[4]、右のクラドグラムはHartman et al. (2019)に基づく[8]。
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なおHattori et al. (2021)で行われた系統解析では、日本のフクイベナートルがテリジノサウルス類で最も基盤的な位置に置かれた[3]。Hattori et al. (2021)の解析の内群にはジアンチャンゴサウルスも含まれており、ファルカリウスよりも派生的なジアンチャンゴサウルスはアジアで最も基盤的なテリジノサウルス類の座をフクイベナートルに譲ることになった[9]。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g 『中国遼寧省で奇妙な構造を持つ恐竜を発見』(プレスリリース)北海道大学、2013年5月29日 。2024年4月24日閲覧。
- ^ a b c d e 小林快次「鳥類の起源は植物食か肉食か?」『化学と生物』第52巻第2号、2014年、127-130頁、doi:10.1271/kagakutoseibutsu.52.127。
- ^ a b “フクイベナートルの新たな研究成果について”. 福井県立恐竜博物館 (2022年2月17日). 2024年4月24日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Pu, H.; Kobayashi, Y.; Lü, J.; Xu, L.; Wu, Y.; Chang, H.; Zhang, J.; Jia, S. (2013). Claessens, Leon. ed. “An Unusual Basal Therizinosaur Dinosaur with an Ornithischian Dental Arrangement from Northeastern China”. PLOS ONE 8 (5): e63423. Bibcode: 2013PLoSO...863423P. doi:10.1371/journal.pone.0063423. PMC 3667168. PMID 23734177 .
- ^ Paul, G. S. (2016). The Princeton Field Guide to Dinosaurs (2nd ed.). Princeton, New Jersey: Princeton University Press. pp. 162−168. ISBN 9780691167664
- ^ Coombs, W. P. Jr (1978). “Theoretical aspects of cursorial adaptations in dinosaurs”. The Quarterly Review of Biology 53 (4): 393–418. doi:10.1086/410790.
- ^ Cau, Andrea (2024). “A Unified Framework for Predatory Dinosaur Macroevolution”. Bollettino della Società Paleontologica Italiana 63: 1-19. doi:10.4435/BSPI.2024.08 .
- ^ Hartman, S.; Mortimer, M.; Wahl, W. R.; Lomax, D. R.; Lippincott, J.; Lovelace, D. M. (2019). “A new paravian dinosaur from the Late Jurassic of North America supports a late acquisition of avian flight”. PeerJ 7: e7247. doi:10.7717/peerj.7247. PMC 6626525. PMID 31333906 .
- ^ Soki HATTORI、Soichiro KAWABE、Takuya IMAI、Masateru SHIBATA、Kazunori MIYATA、Xing XU、Yoichi AZUMA「OSTEOLOGY OF FUKUIVENATOR PARADOXUS:A BIZARRE MANIRAPTORAN THEROPOD FROM THE EARLY CRETACEOUS OF FUKUI, JAPAN」『福井県立恐竜博物館紀要』第20号、2021年、1-82頁。