コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

オーストラリアワニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ジョンストンワニから転送)
オーストラリアワニ
生息年代: 更新世現世, 2.6–0 Ma[1]
保全状況評価[2]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
: クロコダイル科 Crocodylidae
: クロコダイル属 Crocodylus
: オーストラリアワニ C. johnstoni
学名
Crocodylus johnstoni
Krefft1873
シノニム[4][5]
  • Crocodilus johnsoni
    Krefft, 1873
  • Crocodilus (Philas) johnstoni
    Gray, 1874
  • Philas johnstoni
    Wells & Wellington, 1984
  • Crocodylus johnstoni
    Cogger, 2000
英名
freshwater crocodile
Australian freshwater crocodile
Johnston's crocodile
freshie
分布

オーストラリアワニ(濠太剌利鰐、Crocodylus johnstoni)はクロコダイル属に分類されるワニの一種。別名ジョンストンワニゴウシュウワニ[6]。危険を感じると走って(ギャロップで)逃げ去ることで有名である[7]オーストラリア北部に分布し、はるかに大型のイリエワニとは異なり、性質はおとなしいが、防衛のために噛みつくことがある。

分類

[編集]

1873年にジェラード・クレフト英語版によって記載され[8]、本種の標本を送ったロバート・アーサー・ジョンストン英語版への献名として命名した[5][9]。しかしクレフトは綴りを誤り、本種の学名は長年 C. johnsoni とされていた。その後名前の正しい綴りが判明し、種小名が更新されたが、未だに両方の学名が存在している。国際動物命名規約によれば、johnstoni が正式な学名である[4][10][11]

進化と系統

[編集]

クロコダイル属はおそらくアフリカを起源とし、東南アジアアメリカ大陸へと広がったが[12]オーストラリアアジアを起源とする説もある[13]。クロコダイル属は近縁種である絶滅したマダガスカルのヴォアイ英語版から、約2500万年前の漸新世中新世の境界付近で分岐した[12]

以下は2018年の年代測定に基づく系統樹である。形態学的、分子学的、地層学的データが同時に使用されている[14]。また2021年のヴォアイのDNAを使用したゲノム研究も参考とした[12]

クロコダイル亜科英語版

ヴォアイ英語版

クロコダイル属

Crocodylus anthropophagus

Crocodylus thorbjarnarsoni

Crocodylus palaeindicus

Crocodylus Tirari Desert†

アジア‑オーストラリア系統

オーストラリアワニ

ニューギニアワニ

フィリピンワニ

イリエワニ

シャムワニ

ヌマワニ

アフリカ‑新大陸系統

Crocodylus checchiai

Crocodylus falconensis

ニシアフリカワニ

ナイルワニ

新大陸系統

グアテマラワニ

キューバワニ

オリノコワニ

アメリカワニ

形態

[編集]
頭部

比較的小型のクロコダイルで、雄は全長2.3-3.0mに達し、アーガイル湖英語版キャサリン渓谷などの地域では、全長4mの個体も確認されている[6]。雌は全長2.1mに達する[4]。地域によっては小型で、雄は全長170cm、雌は全長70cmで性成熟する場合もあり、餌などが原因と考えられている[6]。雄の体重は通常70kg前後で、大型個体は100kgを超える。雌の体重は40kg程度である[15]。口吻は細長く基部の2-3倍で、コブや皮膚の隆起はない。歯は比較的小さい。体色は明るい茶色で、体と尾には暗い縞模様が入る。縞模様は首の付近で途切れる。個体によっては鼻先にもはっきりとした縞模様や斑点がある。幼体は黄褐色で、黒褐色の斑点が散らばる[6]。体の鱗は比較的大きく、背中の鱗板は幅広く密集している。後頭部に並ぶ鱗(後頭鱗板)、頚部に並ぶ鱗(頸鱗板)は共に4枚ずつある。脇腹と脚の外側は、丸みを帯びた小石のような鱗に覆われている[4]。前肢には水掻きがないが、後肢では水掻きが発達している。

分布と生息地

[編集]

西オーストラリア州北東部、クイーンズランド州北西部、ノーザンテリトリー北部に分布する。淡水湿地、三日月湖河川、湖沼に生息する[6]。イリエワニが生息しない場所でも見られ、カカドゥ国立公園の断崖や、キャサリン渓谷などの乾燥した岩の多い場所からも知られている。海水への耐性もあり[16]、低地の三日月湖など、汽水域に進出してイリエワニと共存することもあるが、基本的には避けている[6]

2013年5月、通常の分布域から数百キロ南にあるバーズビル英語版付近の河川で目撃された。洪水により南に流されたか、捨てられた可能性があるという[17]タウンズビルを流れるロス川では、数十年にわたって本種の群れが繰り返し目撃されている[18]。洪水によって多くの個体がロス川流​​域に流されたという見解が有力である。実際に2019年1月、タウンズビル水害に襲われた際には、冠水に乗じてオーストラリアワニが市街地へ侵入する可能性が危惧された[19]

生態と行動

[編集]
日光浴

移動

[編集]

ワニの中では俊敏で、体を持ち上げて短距離であれば飛び跳ねるようにして走る。その速度は最高で時速16km程度にもなり、丸太のような障害物も軽々と飛び越えてしまう[7]。こうしたギャロップ走法には、身体の柔軟性が関係しているようで、バウンド時の力を利用して歩幅が大きくなったりしている[20]。これはオコジョチーターのような敏捷な哺乳類の一部と共通しており、今は絶滅した陸棲ワニ類(セベクスなど)の身体能力を探る手がかりでもある。

食性と天敵

[編集]

食性は動物食で、主に魚類、その他にも小型哺乳類昆虫類甲殻類等を捕食する[6]。成長の度合いによって食餌は変化し、全長60cm以下の幼体の頃は無脊椎動物カエルなどを積極的に狙う一方で、大きくなるとそれらよりも魚、カメヘビなどに狙いを切り替える。鳥類や中-大型哺乳類のような大型動物は、イリエワニなどによって消費されてしまうため、小型動物を主食にしている[21]。また身体が大きくなるにつれて、陸上よりも水辺の動物を餌にする割合が高くなる[22]。同様の変化は他のワニ類(例えば南米の種)でも知られている[23]。浅瀬で待ち伏せを行い、魚や昆虫が近距離に来るのを待ち、横向きに攻撃して捕える。ワラビーや水鳥などの大型の獲物は、イリエワニと同様に忍び寄って捕らえることもある[6]

天敵としてはイリエワニや卵を捕食するオオトカゲが挙げられる。またオリーブニシキヘビ英語版によって丸呑みにされた例も報告されている[24][25]

繁殖と成長

[編集]

巣は水辺に掘られた深さ12-20cmほどの穴で、雌は7-9月に4-20個の卵を産む。基本的に母親は巣を守るが、巣を離れて孵化の時期に戻る場合もある[6]。11-12月に孵化し、孵化の1-5日前には卵の中の幼体が鳴き始める。これにより兄弟の孵化を誘発し、親は鳴き声を聞いて巣を掘り起こす。またこの際に母親以外の雌が孵化を手伝うこともある。幼体が巣から出てくると、親は口で幼体を拾い上げ、水辺に運ぶ。また親は口の中で卵を噛んだり動かしたりして孵化を助けることもある[26]。10-15年で性成熟し、野生化での寿命は50年以上と推定される[6]

人間との関係

[編集]

人間を獲物として襲うことはないが、噛みつくことはある。おそらく人間を獲物と誤認したものと思われる[27][28]。本種に触れたり、近づきすぎたりしたときに、防御のために攻撃された事例もある[29]。本種による死亡事故は発生していない[29]。一緒に泳いでいるときに噛まれた事例、研究中に噛まれた事例が数件報告されている。カカドゥ国立公園のバラマンディ渓谷でも襲撃が記録され、被害者の男性は水中でワニの真上を通り過ぎており、泳いで逃げたが軽傷を負った。一般的に本種と一緒に泳ぐことは、怒らせない限り安全であると考えられている[30]。アーガイル湖でも襲撃が発生している[31]。1970年代までは革製品に利用されていた[2]

脅威と保全

[編集]

最近までオーストラリア北部の特にイリエワニがいない乾燥した内陸部や標高の高い地域などでは一般的であった。しかし外来種オオヒキガエルを誤って捕食し、耐性がないために死亡する事例が多く発生している[32][33]ダーウィンなどの地域では、住血吸虫科Griphobilharzia amoena寄生されている[34]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ Rio, J. P. & Mannion, P. D. (2021). “Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem”. PeerJ 9: e12094. doi:10.7717/peerj.12094. PMC 8428266. PMID 34567843. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/. 
  2. ^ a b Isberg, S.; Balaguera-Reina, S.A.; Ross, J.P. (2017). Crocodylus johnstoni. IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T46589A3010118. doi:10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T46589A3010118.en. https://www.iucnredlist.org/species/46589/3010118 2024年11月25日閲覧。. 
  3. ^ Appendices CITES”. cites.org. 2024年11月25日閲覧。
  4. ^ a b c d Crocodilian Species List, Crocodylus johnstoni (KREFFT, 1873)”. Adam Britton. 2022年11月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月25日閲覧。
  5. ^ a b Crocodylus johnstoni KREFFT, 1873”. The Reptile Database. 2024年11月25日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ワニ大図鑑』誠文堂新光社、2023年4月15日、153-154頁。ISBN 978-4-416-52371-1 
  7. ^ a b Galloping in Crocodylus johnstoni-a reflection of terrestrial activity? (GRAHAME JW Webb:1982)
  8. ^ Crocodylus johnsoni Krefft 1873 (crocodile)”. PBDB. 2024年11月26日閲覧。
  9. ^ Beolens, Bo; Watkins, Michael; Grayson, Michael (2011). "Crocodylus johnstoni", p. 136 in The Eponym Dictionary of Reptiles. Baltimore: Johns Hopkins University Press. ISBN 978-1-4214-0135-5
  10. ^ International Commission on Zoological Nomenclature”. www.iczn.org. 2024年11月26日閲覧。
  11. ^ Cogger H (1983). Reptiles and Amphibians of Australia. Reed 
  12. ^ a b c Hekkala, E.; Gatesy, J.; Narechania, A.; Meredith, R.; Russello, M.; Aardema, M. L.; Jensen, E.; Montanari, S. et al. (2021-04-27). “Paleogenomics illuminates the evolutionary history of the extinct Holocene "horned" crocodile of Madagascar, Voay robustus” (英語). Communications Biology 4 (1): 505. doi:10.1038/s42003-021-02017-0. ISSN 2399-3642. PMC 8079395. PMID 33907305. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8079395/. 
  13. ^ Oaks, Jamie R. (2011). “A time-calibrated species tree of Crocodylia reveals a recent radiation of the true crocodiles”. Evolution 65 (11): 3285–3297. doi:10.1111/j.1558-5646.2011.01373.x. PMID 22023592. 
  14. ^ Michael S. Y. Lee; Adam M. Yates (27 June 2018). “Tip-dating and homoplasy: reconciling the shallow molecular divergences of modern gharials with their long fossil”. Proceedings of the Royal Society B 285 (1881). doi:10.1098/rspb.2018.1071. PMC 6030529. PMID 30051855. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6030529/. 
  15. ^ 26 fresh water crocodiles hatched at Vandalur zoo - Times of India”. The Times of India. 2013年5月17日時点のオリジナルよりアーカイブ2024年11月26日閲覧。
  16. ^ Mazzotti, Frank J.; Dunson, William A. (August 1989). “Osmoregulation in Crocodilians”. American Zoologist 29 (3): 903–920. doi:10.1093/icb/29.3.903. https://crocdoc.ifas.ufl.edu/publications/articles/mazzottidunson1989.pdf. 
  17. ^ Crocodile turns up in river near Birdsville”. Australian Broadcasting Corporation (2013年5月23日). 2024年11月26日閲覧。
  18. ^ “'Scared the crap out of each other': Freshwater croc that attacked woman accidentally hit with oar” (英語). ABC News. (2022年2月28日). https://www.abc.net.au/news/2022-02-28/freshwater-crocodile-attack-north-queensland-ross-river/100867318 2024年11月26日閲覧。 
  19. ^ 「100年に1度」の洪水で2万世帯に浸水危機、ワニやヘビも街へ”. CNN (2019年2月4日). 2019年2月10日閲覧。
  20. ^ Asymmetrical gaits of juvenile Crocodylus johnstoni, galloping Australian crocodiles(S Renous, J‐P Gasc:2002)
  21. ^ Ontogenetic dietary partitioning by Crocodylus johnstoni during the dry season(Anton D Tucker:1996)
  22. ^ Crocodylus johnstoni in the McKinlay River Area, NTI Variation in the diet, and a new method of assessing the relative importance of prey. (GJW Webb:1982)
  23. ^ Food habits, ontogenetic dietary partitioning and observations of foraging behaviour of Morelet's crocodile (Crocodylus moreletii) in northern Belize(Steven G Platt:2006)
  24. ^ “Snake eats crocodile in battle at Australian lake”. The Daily Telegraph. (2014年3月6日). オリジナルの2014年3月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140306123301/http://www.telegraph.co.uk/travel/destinations/australiaandpacific/australia/10672439/Snake-eats-crocodile-in-battle-at-Australian-lake.html 
  25. ^ See a python swallow an Australian freshwater crocodile whole”. Australian Geographic (2020年7月16日). 2024年11月26日閲覧。
  26. ^ Somaweera, Ruchira; Shine, Richard (September 2012). “Australian freshwater crocodiles (Crocodylus johnstoni ) transport their hatchlings to the water”. Journal of Herpetology 46 (3): 407–411. doi:10.1670/11-056. 
  27. ^ CrocBITE, Worldwide Crocodilian Attack Database: Australian freshwater crocodile, 1 November 2013 Archived 28 January 2021 at the Wayback Machine. Charles Darwin University, Northern Territory, Australia.
  28. ^ CrocBITE, Worldwide Crocodilian Attack Database: Australian freshwater crocodile, 6 April 2006 Archived 10 March 2022 at the Wayback Machine. Charles Darwin University, Northern Territory, Australia.
  29. ^ a b Hines, K.N.; Skroblin, A. (2010). “Australian Freshwater Crocodile (Crocodylus johnstoni) attacks on humans”. Herpetological Review 41 (4): 430–433. https://www.researchgate.net/publication/257938757. 
  30. ^ How Embarressing”. aebrain.blogspot.com (2003年9月26日). 2024年11月26日閲覧。
  31. ^ Somaweera, Ruchira (2011). “A report of a probable unprovoked attack by an Australian freshwater crocodile at Lake Argyle in Western Australia”. Australian Zoologist 35 (4): 973–976. doi:10.7882/AZ.2011.049. https://publications.rzsnsw.org.au/doi/pdf/10.7882/AZ.2011.049. 
  32. ^ Invasive cane toads (Bufo marinus) cause mass mortality of freshwater crocodiles (Crocodylus johnstoni) in tropical(Australia Mike Letnic:2008)
  33. ^ “Crocodiles falling victim to cane toads”. ABC News. (2008年12月29日). http://www.abc.net.au/news/stories/2008/12/29/2456149.htm 
  34. ^ Griphobilharzia amoena n. gen., n. sp. (Digenea: Schistosomatidae), a parasite of the freshwater crocodile Crocodylus johnstoni (Reptilia: Crocodylia) from Australia, with the erection of a new subfamily, Griphobilharziinae”. Journal of Parasitology 77 (1): 65–68. (1991). doi:10.2307/3282558. JSTOR 3282558. 

参考文献

[編集]
  • 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、151頁。
  • 『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、158頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』、小学館、2004年、141頁。
  • Boulenger GA (1889). Catalogue of the Chelonians, Rhynchocephalians, and Crocodiles in the British Museum (Natural History). New Edition. London: Trustees of the British Museum (Natural History). (Taylor and Francis, printers). x + 311 pp. + Plates I–VI. (Crocodilus johnstonii, pp. 279–280).
  • Cogger H (2014). Reptiles and Amphibians of Australia, Seventh Edition. Clayton, Victoria, Australia: CSIRO Publishing. xxx + 1,033 pp. ISBN 978-0643100350.
  • Gray JE (1874). "On Crocodilus johnstoni, Krefft". Proceedings of the Zoological Society of London 1874: 177–178 + Plate XXVII.
  • Krefft G (1873). "Remarks on Australian Crocodiles, and Description of a New Species". Proc. Zool. Soc. London. 1873: 334–335. (Crocodilus johnsoni, new species, p. 335).

関連項目

[編集]
  • インドガビアル - 本種と同じく吻が細長い。本種やインドガビアルなど、吻の細長いワニを「longirostrine」と呼ぶことがある。