スロー・ジン
スロー・ジン(Sloe Gin)とは、リキュールの1種である。蒸留酒にスモモの仲間であるスローベリーを浸漬することによって作られている。イギリスで発祥したと言われており、その原型は酒とスローベリーを使って家庭で作られた混成酒だった。
歴史
[編集]元々はイギリスの家庭で作られていた混成酒(果実酒)の1つであった。その混成酒はジンにスローベリーを浸漬させて作られたものである。この時に使用されたジンが、どのようなタイプのジンであったかはハッキリとしないものの、ここからスロー・ジンという名称で呼ばれるようになったと言われている。
イギリスでは、しばしば家庭の庭でスローベリーを栽培してジャムなどにも利用するなど、スローベリーは家庭でも手に入りやすい材料である。そして、この家庭で作られてきた混成酒を、商業的に生産するようになって、広く流通するリキュールの1つとなった。
生産法
[編集]メーカーによって細かい部分で異なっているので、ここではスロー・ジンのおおまかな作り方を記す。
商業的に作られているスロー・ジンは、ドライ・ジンのようなジンをベースとしては作られておらず、穀物を原料として生産した蒸留酒をベースとしている。この蒸留酒は中性スピリッツではなく、蒸留の操作によってアルコール度数を95%以上にしていないものである。
これに、破砕したスローベリーを浸漬することによって、スローベリーの香味を抽出する。この時、スローベリーの破砕の仕方が作り手によって異なっており、果肉のみを破砕して使用するケースと、種子もろとも破砕してしまって果肉と種子の両方を使用するケースがある。また、スローベリーだけを浸漬するのではなく、さらにストロベリー(イチゴ)やチェリー(サクランボ)なども一緒に加えたりもする。
そうして、約2ヶ月ほどスローベリーを浸漬した後、濾過を行って果実類を取り除き、そこに砂糖(液糖などの甘味料)を加えて甘味を付け、加水してアルコール度数を調節して瓶詰めされる。なお、場合によってはアーモンド・エッセンスなどを添加するといったように、浸漬法だけではなく、エッセンス法を併用して生産されるケースもある。
保存法
[編集]これはスローベリーを含むベリー系の果実を使用したリキュールに共通することだが、ベリー系の果実は、加熱によって変質してしまう香味原料の1つであるため、リキュール製造の過程で蒸留法を用いることができない。このため、ベリー系の果実を使用したリキュールは、その香味の劣化を防ぐために、開封後は冷蔵保存を必要とする[1]。
スロー・ジンの銘柄
[編集]- ゴードン・スロー・ジン (Gordon's Sloe Gin)[2][3]
- イギリスで生産されているスロー・ジン。アルコール度数は26%。エキス分21%。なお、着色料は使用していない。
- ラポニア・プオルッカ (LAPPONIA PUOLUKKA) [4][3]
- フィンランドを代表するリキュール・メーカーであるマルリ社が生産しているスロー・ジン。「ラポニア」はラップランドに、「プオルッカ」はラップランド地方に育つ果実(英語名ではリンゴンベリー)にそれぞれ命名のルーツを持つ。
- ボルス・スロー・ジン (Bols Sloe Gin)[5]
- オランダのボルス社が生産している。アルコール度数33%、エキス分16%。
- デ・カイパー・スロー・ジン (de Kuyper Sloe Gin)[5]
- オランダのデ・カイパー社が生産している。アルコール度数30%、エキス分15%。
- ヘルメス・スロー・ジン (Hermes Sloe Gin)[6]
- かつて日本のサントリーが生産していた。アルコール度数25度、エキス分25%。
などがある。
スロー・ジンを使ったカクテル
[編集]以下に、スロー・ジンを使ったカクテルの例を挙げる。
- エクスポジション (イクスポジション)
- エクスポジション(Exposition)とは、ショートドリンク(ショートカクテル)に分類されるカクテル。レシピは、スロー・ジン : チェリー・ブランデー : ドライ・ベルモット = 1:1:1。これらをシェークして、カクテル・グラス(容量75〜90ml程度)に注げば完成。
- キッス・オブ・ファイア
- キッス・オブ・ファイア(Kiss of Fire)を参照のこと。
- サンフランシスコ
- サンフランシスコ(San Francisco)を参照のこと。
- スロー・ジン・カクテル
- スロー・ジン・カクテル(Sloe Gin Cocktail)とは、ショートドリンクに分類されるカクテル。レシピは、スロー・ジン : ドライ・ベルモット : スイート・ベルモット = 2:1:1。これらを、ミキシング・グラスでステアして、カクテル・グラス(容量75〜90ml程度)に注ぎ、レモンの果皮より精油を絞りかければ完成である。
- スロー・テキーラ
- スロー・テキーラ(Sloe Tequila)を参照のこと。
- スロー・ドライバー
- スロー・ドライバー(Sloe Driver)とは、ロングドリンク(ロングカクテル)に分類されるカクテル。レシピは、スロー・ジン = 45ml を、適量のオレンジ・ジュースで割るというもの。スクリュードライバーのベースであるウォッカを、スロー・ジンに変えたので、この名称が付いている[7]。作り方は、氷を入れたタンブラー(容量240ml程度)に、スロー・ジンを注ぎ、そこに適量のオレンジ・ジュースを注いでステアすれば完成である。なお、オレンジ・スライスを飾っても良い。
- スロー・ブランデー
- スロー・ブランデー(Sloe Brandy)とは、冷たいタイプのロングドリンクに分類されるカクテル。レシピは、ブランデー = 60ml、スロー・ジン = 10ml をシェークして、氷を入れたオールド・ファッションド・グラス(容量180ml程度)に注ぎ、レモンの果皮より精油を絞りかけるというもの。
- ペイトン・プレイス
- ペイトン・プレイス(Peyton Place)を参照のこと。
出典
[編集]参考文献
[編集]- 福西 英三 『リキュールブック』 柴田書店 1997年7月1日発行 ISBN 4-388-05803-3
- 「カクテルの事典 COCKTAIL BOOK」澤井慶明監修、成美堂出版、1998年。 ISBN 4-415-08348-X
- 「リキュールで楽しむカクテル321 第2刷」小島武彦監修、日本文芸社、2004年。 ISBN 4-537-20233-5