コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

アレクシス・ツィプラス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
チプラスから転送)
アレクシス・ツィプラス
Αλέξης Τσίπρας
2017年9月28日
生年月日 (1974-07-28) 1974年7月28日(50歳)
出生地 ギリシャの旗 ギリシャ アテネ
出身校 国立アテネ工科大学英語版
所属政党 急進左派連合
配偶者 ピジョン・バジアナ
子女 2人
サイン

ギリシャの旗 ギリシャ
第179・180代首相
在任期間 2015年1月26日 - 2015年8月27日
2015年9月21日 - 2019年7月8日
大統領 カロロス・パプーリアス
プロコピス・パヴロプロス

ギリシャの旗 ギリシャ
野党党首
在任期間 2012年6月20日 - 2015年1月25日
2019年7月8日 - 2023年6月29日
大統領 カロロス・パプーリアス
プロコピス・パヴロプロス

在任期間 2018年10月20日 - 2019年2月15日
首相 アレクシス・ツィプラス

その他の職歴
ギリシャの旗 ギリシャ
急進左派連合党首

(2009年10月4日 - 2023年9月24日)
テンプレートを表示
ドイツ占領軍に処刑された共産主義レジスタンスの墓碑に献花するツィプラス首相 アテネ郊外

アレクシス・ツィプラスギリシャ語: Αλέξης Τσίπρας, ラテン文字転写: Alexis Tsipras1974年7月28日 - )は、ギリシャ政治家首相を務めた[1]。日本の報道ではチプラスと表記されることが多い[2]

来歴

[編集]

1974年7月28日にトルコマルマラ地方にあるクルクラーレリ県のババエスキからギリシャとトルコの住民交換でギリシャへ移ったギリシャ人の移民3世として[3]アテネ郊外で生まれる[4]。10代半ばでギリシャ共産党の青年団に入党[5]。17歳のとき、教育制度改革に反対する活動に参加、数か月にわたり仲間とともに高校を占拠した。学生運動で頭角を現し、テレビの政治討論番組にも「極左高校生活動家」のリーダーとして登場した。国立アテネ工科大学英語版メツォヴォ工科大学ギリシア語版)と大学院で土木工学都市計画を学んだ[6]

2006年、アテネ市長選挙に出馬、3位で落選。2008年2月11日の左翼運動・エコロジー連合英語版(シナスピスモス)党大会で党首に選出された[7]2009年10月4日総選挙英語版で初当選。2012年6月総選挙ではSYRIZAを第2党に躍進させ[2]欧州債務危機からギリシャ国内での緊縮財政政策への反対を訴えている。

ギリシャ首相

[編集]

2015年1月総選挙においてSYRIZAが第一党になったことにより、右派ポピュリズム政党の独立ギリシャ人と連立を組み、同年1月26日に40歳でギリシャの首相に就任し、過去150年間で最年少のギリシャ首相になった。これは欧州初の反緊縮政権となった[8]。2018年10月17日より外相代行を兼任[9]

ツィプラスは結婚はしていないが、同棲相手の女性ペリステラ・バヅィアナとの間に二人の子供が誕生している。革命家のチェ・ゲバラを崇敬しており、次男のミドル・ネームにはゲバラの本名からエルネストと名付けている。 またツィプラスは無神論者でもあり、首相就任宣誓式の時にも従来のようなギリシャ正教式の宣誓は行わなかった。また、公の場でも普段からネクタイを締めていない[10]

2015年8月中旬にツィプラスは首相辞意を表明し、9月に総選挙を行う考えをしめした。ツィプラスは自身が有権者に対して正直でありたいと述べ、2015年1月の総選挙の際に急進左派連合が提示した公約を守れなかったことを認めた[11]。2015年8月中旬にギリシャはEUからの金銭支援総額およそ860億ユーロのうちの130億ユーロをうけとっている[11]。だが例によってEUからの3度目の融資を受ける条件として、ギリシャが財政引き締めを施行するようにEUから要求されている[12]。EUからの金銭支援を承諾するかどうかについてSYRIZA内部で親ユーロ派と反ユーロ派の対立が顕在化してきており、反ユーロ派は金銭支援のための関連法案に反対票を投じている。財政引き締めによってギリシャ経済がさらに悪化することを反ユーロ派は懸念している[12]

ツィプラスとSYRIZAの親ユーロ派は1月の総選挙では財政支出引き締めに反対すると宣言して選挙に勝ったが、わずかその7か月後にその公約とは正反対の公約を掲げて有権者の信を問うことになった。ツィプラスは2015年8月20日にギリシャ大統領プロコピス・パヴロプロスに辞表届けを提出した[11]。27日夜、最高裁判所長官のバシリキ・タヌーが暫定首相に就任し総選挙までの間、暫定政権を率いることとなった[13]

2015年9月20日に行われた総選挙でSYRIZAがギリシャ議会300議席のうちの145議席を獲得し、第一党の座を堅持した[14]。SYRIZAの得票率は35.5%、第二党である新民主主義党の得票率は28.1%であった。黄金の夜明けが7%の得票率で第三党、人民連合は得票率が3%に届かず議会での議席を失うことになった。この総選挙でギリシャ有権者はツィプラスに再度チャンスを与えたことになる。ギリシャ政府はEU側からの指示で増税などを施行しなければならないが、債務減免などを交渉で引き出して改革に伴う痛みを軽減するとツィプラスは宣言した[15][14]。与党の急進左派連合が勝利した総選挙の結果により、9月21日にツィプラスは首相に再び就任して第2次ツィプラス政権が誕生した。

2019年5月の欧州議会選挙で敗北し、10月までに予定されていた総選挙英語版を7月7日に繰り上げた。中道右派の野党・新民主主義党の圧勝が確実となり、政権交代を許した[16]。7月8日に首相を退任。

2023年6月に行われた総選挙英語版では引き続き与党の新民主主義党が圧勝し、SYRIZAはさらに議席を減らす結果となった[17][18]。同月29日、SYRIZAの党首を辞任すると表明[19]

主張・政策

[編集]

グレグジット

[編集]

ツィプラスが所属するSYRIZAは2015年1月の総選挙にて、EUIMFが強いる緊縮財政に終止符をうつと国民に約束して選挙に勝った。その選挙公約を履行したいSYRIZA側は、IMFらの要求をはねつけた。そのSYRIZAのリーダーとして、そしてギリシャのリーダーとしてツィプラスはEU側の首脳と連日交渉を重ねてきたが、交渉は決裂した[20]。ツィプラスによれば、5か月以上に及ぶ厳しい交渉の末、欧州連合はギリシャの民主主義とギリシャ国民へ最後通告を突きつけたのだという。

ギリシャ政府はIMFや欧州連合から提起された155億ユーロの金融支援を拒否した[21]。金融支援の交換条件である財政緊縮プログラムによってギリシャ経済が更なる不況に陥るからである。これに関してドイツ首相アンゲラ・メルケルは、IMFとEUからの金融支援オファーは非常に寛容なものだと述べた。これに対しツィプラスは、IMFやEUがギリシャ政府に脅迫状(ブラックメール)や最後通告をつきつけてくることを非難した[21]。ギリシャは、IMFに対して債務不履行デフォルト)を行った史上初の先進国となった[22][23][24]

ツィプラスはその緊縮財政政策をギリシャが受け入れるかどうかについて、国民投票にかける意向を示した[20]。7月5日に行われるその国民投票の結果を尊重するとツィプラスは述べた。結果は緊縮反対が61.3%となった[25]

この国民投票はギリシャのユーロ離脱を問うものではなく、EUやIMFがギリシャに突きつける緊縮財政政策をギリシャ側が受け入れるかどうかを問うものである。ギリシャ側は単に主権国家としての権利を行使しているだけであるが、欧州連合はギリシャに強硬な姿勢を貫く。ドイツ副首相ジグマール・ガブリエルは、ギリシャ国民がその国民投票でYesかNoを選択することは、ギリシャがユーロ圏に残るか残らないかであると述べた[26]。フランス大統領フランソワ・オランドは、焦点はギリシャがユーロ圏に残るかユーロ圏を去るリスクをとるかだと述べた。欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケルは、国民投票でNoを選択することはギリシャが欧州に対してNoということを意味すると述べた[26]

ギリシャ財務大臣ヤニス・バルファキスは、この件についてギリシャ政府が欧州司法裁判所に差し止め請求する用意があることを示した。リスボン条約には欧州連合からの自発的脱退についての条項はあるものの、基本的に欧州連合の条約にはユーロ圏強制脱退についての条項はない。ギリシャのユーロ圏残留についての議論は交渉のテーブルにのるべきものではないとバルファキスは述べた[26]

2018年6月にユーログループは債務軽減策で合意し[27]、同年8月にギリシャは国際金融史上最大ともされる8年にわたるEUやIMFの金融支援から脱却して市場で国債を発行して資金調達することが可能になった[28][29]

イスラエル

[編集]

SYRIZAの公約ではイスラエル国に対するパレスチナ人の権利を支持するはずだった。だがツィプラスがルーベン・リブリンと会談するためエルサレムを訪問した際、大統領のゲストブックに「イスラエルの首都に来られたことは非常に光栄だ」と書いた[30]。イスラエルとパレスチナの紛争に関連して、多くの国がエルサレムをイスラエルの首都だとするのを拒否している。 欧州の首脳がエルサレムをイスラエルの首都だと認知したのは前例が無い[30]

中国

[編集]

中国一帯一路に賛同してギリシャをアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加盟させ、一帯一路国際協力サミットフォーラム英語版にも出席した[31]。EUから義務付けられた債務圧縮のためにギリシャ最大のピレウス港の管理・整備・開発の権利を中国に売却してピレウスは一帯一路の拠点となった[32]中国・中東欧諸国首脳会議英語版(16プラス1)に参加し[33]、中国政府の人権弾圧や南シナ海での立場に抗議したEUの書簡や声明をハンガリーオルバーン・ヴィクトルとともに拒否もしていた[34]

ドイツ

[編集]

第二次世界大戦さなか1944年6月に、ナチ党主導のドイツがギリシャのディストモにおいて戦争犯罪を行い、218人の民間人犠牲者がでた(ディストモの大虐殺)。1960年、ドイツは戦後賠償金として1億1500万ドイツマルクを支払った[35]。ギリシャ側の主張によれば、1960年当時の賠償では戦争犯罪のような重要な項目に対する賠償が行われなかったという。ギリシャ高裁において、ドイツが被害者遺族らに2800万ユーロの賠償金を支払うべきとする判決を下した。この判決は行使されておらず、ツィプラスはこの件での賠償をドイツに要求していく考えを示した。一方ドイツ側は、この件は1990年に決着済みであり、賠償は行わないと主張している[35]。また、戦時中に略奪された資金や歴史遺産の返還など総額で約2790億ユーロに及ぶ賠償も請求している[36]

脚注

[編集]
  1. ^ インタビュー:ギリシャ急進左派連合党首「いずれは政権奪取」”. ロイター日本語版 (2012年6月20日). 2015年2月11日閲覧。
  2. ^ a b ギリシャ:学生運動の申し子 急進左派連合のチプラス党首”. 毎日新聞 (2015年1月26日). 2015年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年2月11日閲覧。
  3. ^ ギリシャの新首相アレクシス・チプラス氏は、実はトラキアからのギリシャ移民三世だった”. TRT. トルコ・ラジオ・テレビ協会 (2015年1月30日). 2015年2月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年2月13日閲覧。
  4. ^ ギリシャ急進左派圧勝:緊縮策に疲弊 市場は危機再燃警戒”. 毎日新聞 (2015年1月26日). 2015年2月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年2月13日閲覧。
  5. ^ Α. Τσίπρας: Από ανήσυχος έφηβος στις καταλήψεις, στην αξιωματική αντιπολίτευση” (ギリシャ語). Tlife.gr (2012年7月5日). 2015年2月12日閲覧。
  6. ^ 田中素香『ユーロ危機とギリシャ反乱』岩波書店、2016年、182頁。ISBN 978-4-00-431586-5 
  7. ^ “Tsipras new SYN leader, new CPC elected”. Stockwatch. (2008年2月11日). https://www.stockwatch.com.cy/en/article/elliniki-oikonomia/tsipras-new-syn-leader-new-cpc-elected 2024年8月25日閲覧。 
  8. ^ 「急進左派ツィプラス党首が首相に、欧州初の反緊縮政権 ギリシャ」『AFPニュース』2015年1月27日。2015年9月7日閲覧。
  9. ^ ギリシャ外相が辞任、チプラス政権に打撃”. 日経電子版. 日本経済新聞社 (2018年10月18日). 2018年10月18日閲覧。
  10. ^ ギリシャ左派ツィプラス総理が宣誓”. レイバーネット (2015年1月27日). 2015年2月14日閲覧。
  11. ^ a b c Greece crisis: PM Alexis Tsipras quits and calls early polls”. BBC News (20 August 2015). 2015年8月23日閲覧。
  12. ^ a b Squires, N. (20 August 2015). “Greek PM Alexis Tsipras resigns and calls for snap election”. The Telegraph. 2015年8月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月23日閲覧。
  13. ^ ギリシャ暫定首相にタヌー最高裁長官、選挙管理内閣発足へ”. ロイター日本語版 (2015年8月28日). 2015年8月28日閲覧。
  14. ^ a b Henley, J. (21 Sep 2015). “Tsipras to form new Greek government after Syriza election triumph”. The Guardian. 2015年9月30日閲覧。
  15. ^ [FT]ギリシャ首相、救済策でIMFの不関与を要求”. 日本経済新聞 (2015年12月22日). 2015年12月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月25日閲覧。
  16. ^ “ギリシャ総選挙、保守系野党の圧勝確実 チプラス首相敗北認める”. AFPBB News. フランス通信社. (2019年7月8日). https://www.afpbb.com/articles/-/3234092 2019年7月8日閲覧。 
  17. ^ “ギリシャ議会再選挙、中道右派与党が勝利宣言 2期目へ”. ロイター. (2023年6月26日). https://jp.reuters.com/article/greece-election-idJPKBN2YB0F7 2023年6月30日閲覧。 
  18. ^ “ギリシャ再選挙、中道右派が圧勝 ミツォタキス氏、首相続投”. 時事通信. (2023年6月26日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2023062600064 2023年6月30日閲覧。 
  19. ^ “チプラス元首相、野党党首辞任へ ギリシャ”. 時事通信. (2023年6月29日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2023062900979 2023年6月30日閲覧。 
  20. ^ a b Smith, H. (26 June 2015). “Greek PM Alexis Tsipras calls referendum on bailout terms”. The Guardian. 2015年7月4日閲覧。
  21. ^ a b Greece debt crisis: Athens rejects five-month bailout extension”. BBC News (26 June 2015). 2015年7月8日閲覧。
  22. ^ Greece defaults on $1.7 billion IMF payment”. CNN (2015年6月30日). 2019年4月20日閲覧。
  23. ^ Missing I.M.F. Payment Puts Greece in Uncharted Territory”. ニューヨーク・タイムズ (2015年7月1日). 2019年4月20日閲覧。
  24. ^ ギリシャ、IMF融資でデフォルト状態―金融支援失効”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2015年7月1日). 2019年4月20日閲覧。
  25. ^ ギリシャ国民投票、緊縮反対61.3%”. 日本経済新聞 (2015年7月6日). 2015年9月7日閲覧。
  26. ^ a b c Evans-Pritchard, A. (29 June 2015). “Greece threatens top court action to block Grexit”. The Telegraph. 2015年7月4日閲覧。
  27. ^ ギリシャ債務軽減策で合意、8年続いた支援脱却へ-ユーロ圏財務相”. ブルームバーグ (2018年6月22日). 2019年4月13日閲覧。
  28. ^ ギリシャ、EUからの金融支援プログラムを完了 8年ぶり自立”. BBCニュース (2018年8月20日). 2019年4月13日閲覧。
  29. ^ ギリシャ、金融支援から脱却 市場へ復帰も改革の痛み続く”. CNN.co.jp (2018年8月21日). 2019年4月13日閲覧。
  30. ^ a b Chossudovsky, M. (28 Nov 2015). “The True Face of Greek Prime Minister Alexis Tsipras: Meets up with Netanyahu, Endorses Jerusalem as Israel’s Capital”. GlobalResearch. Centre for Research on Globalization. 2016年1月30日閲覧。
  31. ^ Alexis Tsipras to go to China for the 2nd One Belt One Road Forum”. Independent Balkan News Agency (2019年4月23日). 2019年8月27日閲覧。
  32. ^ 衝撃の事実!「一帯一路」の重要な港の経営者はみな中国人―中国メディア”. Record China (2018年8月22日). 2019年8月27日閲覧。
  33. ^ 中国経済協力にギリシャも 旧共産圏外で初 中東欧との「16+1」”. 朝日新聞 (2019年4月13日). 2019年8月27日閲覧。
  34. ^ 中国の覇権戦略、欧州まで影響力拡大「ロシアより一枚上」=報告書”. ロイター (2018年2月16日). 2019年8月27日閲覧。
  35. ^ a b Greece threatens to seize German property as compensation”. BBC News (11 Mar 2015). 2015年6月27日閲覧。
  36. ^ ギリシャ、ナチス占領の賠償算定値を公表 約2790億ユーロに”. ロイター日本語版 (2015年4月7日). 2015年6月29日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]
公職
先代
バシリキ・タヌー
アントニス・サマラス
ギリシャの旗 ギリシャ首相
第180代:2015年9月21日 - 2019年7月8日
第179代:2015年1月26日 - 2015年8月27日
次代
キリアコス・ミツォタキス
バシリキ・タヌー
党職
先代
アレコス・アラヴァノス
急進左派連合党首
2009年10月4日 -
次代
(現職)