デフォルト効果
デフォルト効果(デフォルトこうか、英語: Default effect)は、認知バイアスのひとつで、予め選択されている意思決定や設定されている値などを変更することなく、そのまま受け入れてしまいやすくなる心理的傾向である[1][2][3][4]。
デフォルトが推奨された選択肢であると認識したり、それを変更した際に起こり得る負担やトラブルを回避しようとすることが、デフォルト効果の一因と考えられている[1][2][3]。
概要
[編集]選択において、デフォルトとは能動的な選択を行わない場合に、最終的に選ばれる選択肢を指す。この考え方は、コンピュータにおいてユーザーが介入することなく自動的に割り当てられる値(=デフォルト)と同様である。デフォルトの設定は人々がその選択肢を選ぶ確率に影響を与え、これがデフォルト効果と呼ばれる。より正確に記せば、ある選択肢がデフォルトとして設定されている場合、そうでない場合と比べて、その選択肢が選ばれる確率の変化である。
デフォルト効果の中には、状況により暗示されるものもある。例として社会的な場面においては、(他者がそうしている)規範的な選択が、デフォルト効果として無意識に影響することがある[5]。そのため、その人が豊富な知識を持っているという確信がなくとも、他者が選択する様子を観察し、自分も同じ選択をする傾向がある。また、正当化を必要としない選択肢をデフォルトとして扱う傾向が強くみられる。例えば、仮釈放審議におけるデフォルトの選択肢は、囚人の仮釈放を拒むことである[6]。
デフォルト効果の例
[編集]コンピュータ関連
[編集]パーソナルコンピュータやスマートフォンなどを、それほど手間のかからないカスタマイズで使用者に最適化できるにもかかわらず、初期設定のまま使用し続けるケースが挙げられる[1][4]。
また、通販サイトなど何らかのウェブサービスを利用した際に「メールマガジンの配信を希望する」がデフォルトになっていると、変更に要するごくわずかな手間を避けて、必要としておらず読みもしないメールマガジンを受信し続け、配信停止の手続きもしないといった例もこれにあたる[1][7]。
臓器提供
[編集]臓器提供の同意は、この効果が顕著にあらわれる例である[8]。デフォルトが「提供しない」であり、してもよい場合にその意思表示をするオプトイン方式の国では同意率が低く、デフォルトが「提供する」で、したくない場合に意思表示をするオプトアウト方式の国では同意率は高くなり、両者の差は歴然としたものになる[1][2][7][8]。
自身の臓器を提供するか否かという非常に重要な選択であっても、初期設定の変更を避ける傾向がみられる例である[1]。
休暇の取得
[編集]企業や公的機関において、休暇を取得する場合に申請を行うオプトイン方式から取得しない場合に申請を行うオプトアウト方式に変更したところ、休暇の取得率が劇的に上昇することも報告されている[1][9][10]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g 竹村真紀子「心にひそむ考え方のクセを徹底紹介! バイアス大図鑑」『Newton』第44巻第3号、ニュートンプレス、2024年1月26日、26-27頁、ISSN 0286-0651、JAN 4910070470343。
- ^ a b c "顧客や消費者の意思決定を誘導しやすくなる!?『デフォルト効果』". SBSマーケティング. 2023年6月22日. 2024年2月26日閲覧。
- ^ a b 秋山学. "心理学ワールド 83号 商品広告と選択 デフォルトを用いた選択を考える". 日本心理学会. 2024年2月26日閲覧。
- ^ a b "沖縄県民投票 反対7割でも5割が賛成?の「デフォルト効果」". NEWSポストセブン. 2019年2月28日. 2024年2月26日閲覧。
- ^ Young Eun Huh; Joachim Vosgerau; Carey K. Morewedge (2014年7月11日). "Social Defaults: Observed Choices Become Choice Defaults". Journal of Consumer Research (英語). 41 (3). doi:10.1086/677315. ISSN 0093-5301。
- ^ Shai Danziger; Jonathan Levav; Liora Avnaim-Pesso (2011年4月11日). "Extraneous factors in judicial decisions". 米国科学アカデミー紀要 (英語). 108 (17). doi:10.1073/pnas.1018033108. ISSN 0027-8424. PMC 3084045. PMID 21482790。
- ^ a b 池田まさみ. "デフォルト効果 | 意思決定・信念に関する認知バイアス | 錯思コレクション100". 十文字学園女子大学. 2024年2月26日閲覧。
- ^ a b Eric J. Johnson; Daniel Goldstein (2003年11月21日). "Do Defaults Save Lives?". サイエンス (英語). 302 (5649). doi:10.1126/science.1091721. ISSN 1095-9203。
- ^ 大竹文雄 (2022年5月17日). "男性育休取得率9割に急上昇 秘密は「デフォルト」設定". 日経xwoman. 2024年2月26日閲覧。
- ^ 中部管区警察局岐阜県情報通信部; 関東管区警察局静岡県情報通信部. "オプトアウト方式による休暇取得の促進" (PDF). 行動経済学会. 2024年2月26日閲覧。