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ナンジャモンジャゴケ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナンジャモンジャゴケ属
分類
: 植物界 Plantae
: マゴケ植物門 Bryophyta
: ナンジャモンジャゴケ綱
Takakiopsida
Stech & W. Frey
亜綱 : ナンジャモンジャゴケ亜綱
Takakiidae
: ナンジャモンジャゴケ目
Takakiales
Stech & W. Frey
: ナンジャモンジャゴケ科
Takakiaceae
Stech & W. Frey
: ナンジャモンジャゴケ属
Takakia
S.Hatt. & Inoue, 1958

ナンジャモンジャゴケ属Takakia)は、コケ植物の1北アメリカ西部と東アジア中央部に分布する2種が属する。他のどのコケ植物とも異なる、独立したとして分類される(蘚綱に含めることもある)。分類が長い間不明であったが、胞子体が発見されたことに伴い、コケ植物として認識されるようになった。

発見

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ナンジャモンジャゴケ属の種は、1861年ヒマラヤで最初に発見された。しかし当初は単にゼニゴケ植物門に属する1種(Lepidozia ceratophylla)として記載され[1]、その後長い間その存在が見過ごされてきた。20世紀中頃になって、日本の植物学者である高木典雄が、その種に似た奇妙な植物を発見したことで、一気に注目が集まった。多くの独特な特徴を持ったその植物は、1958年ナンジャモンジャゴケTakakia lepidozioides)と記載され、新属であるナンジャモンジャゴケ属(Takakia)に分類された[2]。なお属名の Takakia は、発見者の高木にあやかってつけられた。この記載に伴い、先に記載されていた種 Lepidozia ceratophylla についても、改めてヒマラヤナンジャモンジャゴケTakakia ceratophylla)と記載された。

当初発見されたナンジャモンジャゴケは、何らの繁殖器官をもっておらず、胞子を作らない配偶体しかもっていなかったが、その後の研究で、コケ植物に似た造卵器をもつ配偶体が発見された。そして1993年には、アリューシャン諸島で見つかった生育良好なヒマラヤナンジャモンジャゴケが、造精器胞子を形成していることがはじめて報告された[3]。その造精器と胞子からは、原始的なコケ類がもつ構造が発見された。当初どの分類群に分類されるべきかを決定付ける構造が見つからず、分類をコケ植物とする意見[4]や、藻類とする意見[5]、さらには菌類とする意見[6]まであったが、この造精器や胞子の発見によって、ナンジャモンジャゴケ属は特異なコケ植物の1群であることが明らかになった。

分布

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アジアでは、ナンジャモンジャゴケ属の種はヒマラヤシッキム州ボルネオ北部、台湾、そして日本で発見されている。北アメリカでは、アリューシャン諸島ブリティッシュコロンビア州で確認されている[7]。ナンジャモンジャゴケ属は、岩盤がむき出しになっているようなところから、湿った腐植土の上までさまざまな環境で生育している[8]

形態

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ナンジャモンジャゴケ属は、あらゆる植物の中でも特殊なコケ植物である。和名につけられたナンジャモンジャの名前も、その奇異さを反映している[8]。ナンジャモンジャゴケ属は、あらゆる陸上植物の中で最も染色体数が少なく、ナンジャモンジャゴケの染色体数は n=4[9]、ヒマラヤナンジャモンジャゴケの染色体数は n=5 である。

離れたところから見ると、岩上に形成されたナンジャモンジャゴケのコロニーは、典型的なコケ植物か藻類が繁茂しているように見える。しかし近づいて見ると、地面に這った塊茎から細い芝状のシュートを展開して、岩上に拡がっていることがわかる。緑色のシュートはふつう長さ1cm弱で、指のような形をした1mm程度の葉を伸ばしている。葉は深く2裂または3裂以上する。これは他のどのコケ植物にもない特徴である[10]。シュートと葉は非常にもろい。

他のコケ植物とは違い、造卵器と造精器は花葉や他の構造に包まれて保護されていない。また、茎と葉の間に形成される配偶子嚢もむき出しになっている[10]胞子体は長い柄をもち、先端に胞子の入ったカプセルを持つ。胞子体が成熟するとカプセルが破れ、胞子が放出される。

分類

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ナンジャモンジャゴケ科
ナンジャモンジャゴケ属
ヒマラヤナンジャモンジャゴケ Takakia ceratophylla (Mitt.) Grolle
ナンジャモンジャゴケ Takakia lepidozioides S. Hatt. & Inoue.

ナンジャモンジャゴケ綱

ミズゴケ綱

クロゴケ綱

クロマゴケ綱

イシヅチゴケ綱

ヨツバゴケ綱

スギゴケ綱

マゴケ綱

コケ植物の分子系統樹における、ナンジャモンジャゴケ綱の位置[11][12]

脚注

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  1. ^ Renzaglia, K. S., K. D. McFarland, & D. K. Smith. 1997. Anatomy and ultrastructure of the sporophyte of Takakia ceratophylla (Bryophyta). American Journal of Botany 84(10): 1337-1350.
  2. ^ Hattori, S. & H. Inoue. 1958. Preliminary report on Takakia lepidozioides. Journal of the Hattori Botanical Laboratory 18: 133-137.
  3. ^ Smith, D. K. & P. G. Davison. 1993. Antheridia and sporophytes in Takakia ceratophylla (Mitt.) Grolle: evidence for reclassification among the mosses. Journal of the Hattori Botanical Laboratory 73: 263-271.
  4. ^ Murray, B. M. 1988. Systematics of the Andreaeopsida (Bryophyta): Two orders with links to Takakia. Beihefte zur Nova Hedwigia 90: 289–336.
  5. ^ Persson, H. 1958. The genus Takakia in North America. Bryologist 61: 359–361.
  6. ^ Hattori, S., A. J. Sharp, M. Mizutani, and Z. Iwatsuki. 1968. Takakia ceratophylla and T. lepidozioides of Pacific North America and a short history of the genus. Miscellanea Bryologica et Lichenologica 4: 137–149.
  7. ^ Hong, Won Shic. 1987. "The Distribution of Western North American Hepaticae. Endemic Taxa and Taxa with a North Pacific Arc Distribution". The Bryologist 90 (4): 344-361.
  8. ^ a b Schofield, W. B. 1985. Introduction to Bryology, pages 143-154. (New York: Macmillan). ISBN 0-02-949660-8.
  9. ^ Schuster, Rudolf M. 1966. The Hepaticae and Anthocerotae of North America, volume I, pages 262-263. (New York: Columbia University Press).
  10. ^ a b Buck, William R. & Bernard Goffinet. 2000. "Morphology and classification of mosses", pages 71-123 in A. Jonathan Shaw & Bernard Goffinet (Eds.), Bryophyte Biology. (Cambridge: Cambridge University Press). ISBN 0-521-66097-1.
  11. ^ Goffinet, B.; W. R. Buck; & A. J. Shaw (2008). “Morphology and Classification of the Bryophyta”. In Bernard Goffinet & A. Jonathan Shaw (eds.). Bryophyte Biology (2nd ed.). Cambridge: Cambridge University Press. pp. 55–138. ISBN 9780521872256 
  12. ^ Goffinet, Bernard; William R. Buck (2004). “Systematics of the Bryophyta (Mosses): From molecules to a revised classification”. Monographs in Systematic Botany. Molecular Systematics of Bryophytes (Missouri Botanical Garden Press) 98: 205–239. ISBN 1-930723-38-5. 

外部リンク

[編集]
  • J. R. Spence & W. B. Schofield. 2005. Bryophyte Flora of North America: Takakiaceae