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ノート:モルゴス

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問題のある記事になりつつあるかも?

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自分で書いててなんだけど、必要以上の情報を来歴部分に書いてる気がする。もっと圧縮出来ないだろうか?しかし中つ国wikiと似たか寄ったかになっちゃうのも何だしなー。ちょっと冷却期間開けて考えてみる。--暗愚丸の麻黄会話2017年4月11日 (火) 13:23 (UTC)[返信]

勢いのあるうちに書いておいたほうがいいかと思います。書くだけ書いてから、時間をおいて見直し、書きすぎたところを削れば良いのでは?--Pica会話2017年4月11日 (火) 22:25 (UTC)[返信]
そーですね。書くだけ書いて削るなり、他の項目に移植するなりすればいいですもんね。アドバイス有難う御座いました。--暗愚丸の麻黄会話2017年4月12日 (水) 10:58 (UTC)[返信]
やはり来歴以降が長すぎるなあと痛感。指輪戦争が単独頁であるように宝玉戦争もつくって、そちらに合戦関係の詳細を移植しようかと考えている。モルゴスが自ら積極的に動いてたのは、太陽の第一紀より前のことだし。あとベレンとルーシエンの部分はレイシアンの謡の名で、フーリンの子らの物語はナルン・イ・ヒーン・フーリンの名で単独頁つくって移植しようかとも考え中。--暗愚丸の麻黄会話2017年4月16日 (日) 15:03 (UTC)[返信]
暗愚丸さんが書いて、暗愚丸さんが移植する分には全く問題がないので、書けるだけ書いてからでもよいと思います。
移植する際には本項の該当部分を要約することになると思いますので、まずは本項を書ききってしまったほうが良いのでは?--Pica会話2017年4月16日 (日) 22:08 (UTC)[返信]
そうします。がえらく長いのが自分でもどーにも気になるもんでして。いいのかなーと時々迷うというか--暗愚丸の麻黄会話2017年4月17日 (月) 10:17 (UTC)[返信]

今記事を読んでいて思いましたが、これはモルゴスの来歴ではなくシルマリルの物語そのままでは…と。このページはモルゴスの百科事典の記事なので、モルゴスに直接関係ない話題は覚悟を決めてバッサリカットすべきかと思います(たぶん記事の8割ぐらい消した方が良いかと思います)。途中から百科事典ではなく小説になっているかと。 Honeplus会話2020年2月11日 (火) 04:13 (UTC)[返信]

フーリンの子

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ここはカットしようかな、考えています。 独立項としてナルン=イ=ヒーン=フーリンを作ろうかと。他の方々のご意見も伺いたいところです。--ベルシエルの猫会話2024年12月19日 (木) 15:37 (UTC)[返信]

モルゴスに関係ない部分はバッサリカットしていく予定です。ただカットした部分をノートに貼り付けて他の方が記事を書く際(例えばゴンドリンとか)役に立つようにしようかと。この先ベレンとルーシエンの話やフーリンの子らの物語もカットする予定です。--ベルシエルの猫会話2024年12月21日 (土) 09:26 (UTC)[返信]

ナルン=イ=ヒーン=フーリン作成したんですが削除されてしまいました。なのでここに貼っておきます。--ベルシエルの猫会話2024年12月21日 (土) 11:42 (UTC)[返信]

フーリンの子らの物語

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ドル=ローミンの領主フーリンの妻はモルウェンといった。この二人の間に生まれた子がトゥーリンで、彼はニアナイス・アルノイディアドが終わった時まだ8歳であった。トゥーリンにはラライスという名の妹がいたが、彼女は3つになる時病で死んだ。そしてこの時モルウェンは三人目の子を懐妊していた。ニアナイス・アルノイディアドの後、東夷たちがこの地に入り込み無法を働いたが、ドル=ローミンの奥方は東夷たちの間で、あの女は白い魔物(エルフのこと)と付き合いのある魔女だという噂が飛び交い、危険視され、彼らはフーリン家の者とその館には手を出そうとはしなかった。東夷たちはエルフを恐れていたのである。故に彼は多くのエルダールが避難場所としている南方の山岳地帯を恐れ、近づこうとはしなかった。こうしたことから東夷たちは略奪の後北へ引き上げていった。フーリンの館はドル=ローミン南東にあったからである。とは言え、今や彼女たちの生活は貧しくなっていた。彼女たちは殺されることこそなかったものの、土地・財産は奪われてしまっていたからである。もしもフーリンの縁者のアイリンからの密かな援助がなければ、彼らは飢え死にしていたことだろう。アイリンはブロッダという名の東夷の頭目に、力ずくで妻とされていたのである。しかしモルウェンはこのままの状況では埒が明かない事に気付いており、最も恐れていたこと―ドル=ローミンの正当な継承者であるトゥーリンが東夷の奴隷になることを避けるため、彼を密かに南方へ送り出しシンゴル王に匿って貰えないだろうかと考えた。なぜならバラヒアの息子ベレンは彼女の父方の縁者で、フーリンの友人でもあったからである。そこでニアナイス・アルノイディアドの翌年モルウェンは、トゥーリンに年老いた二人の下僕を付けて山の向うに送り出した。ドリアスに向かうために。この母との別れがトゥーリンの悲しみの始まりであった。

そしてモルウェンは子を産んだ。女の子であった。彼女は娘にニエノールと名付けた。その頃トゥーリン一行はついにドリアスの国境に辿り着いていた。そこで彼らは国境守備隊の隊長ベレグと出会い、メネグロスへと案内された。シンゴルは昔と違って今や、エダイン三王家に好意的になっており、トゥーリンを快く迎え入れると、驚くべきことに己の養子とした。人間の中にあって最強の者、フーリン・サリオンに敬意を表するためである。そしてトゥーリンの下僕の一人がドル=ローミンの奥方に、このことを伝えるためにと出立すると、シンゴルはエルフの護衛を付けてやった。彼らは無事にモルウェンのもとに到着し、トゥーリンのことを伝えた。この時エルフ達は女王メリアンの招きを伝えて、モルウェンにもドリアスへ来るよう促したのだが、彼女は自尊心とニエノールのことからこれを丁重に拒み、使者のエルフ達が帰還する時、ハドル家の重代の宝器の中でも最も貴重なものである、ドル=ローミンの竜の兜を託した。

トゥーリンはドリアスでの少年時代を、ネルラスという名のエルフ乙女とよく過ごした。彼女からドリアスについてトゥーリンは多くのことを学び、またシンダール語も彼女から学んだ。この頃はトゥーリンにとって明るい一時であった。しかしトゥーリンが少年から青年になると、ネルラスと会うことは次第に少なくなっていった。それでもネルラスは陰から彼を見守っていたのだが。9年の間トゥーリンはメネグロスで過ごした。彼の親族の消息は使者を通じて度々齎され、妹ニエノールが美しく成長していることや、それがモルウェンの心痛を和らげていることを伝え聞いたのである。そしてトゥーリンは人間の中で最も丈高く成長し、その膂力と勇気は国内に知れ渡るようになった。彼はベレグに弓矢の技に森の知識、そして剣術を学んだ。このように彼をよく知るものからは愛情・友情を得たが、彼自身は陽気な性質ではなく、滅多に笑うこともない陰気な所があったので、友人は多くはなかった。特に彼を嫌う者の中にサイロスという名のエルフがいた。彼はベレリアンド最初の合戦でデネソールに仕えていたものである。デネソールの死後、彼はオッシリアンドではなくドリアスに避難してきたのであった。彼はトゥーリンに巧みに悪意を隠して嫌味を言ったり、侮蔑の言葉を投げかけた。トゥーリンはこれに終始沈黙を持って答えたが、これがさらにサイロスの癇に障った。

17歳になった時、新たなトゥーリンの悲しみが起きた。ドル=ローミンから使者が戻ってこなくなったのである。今やモルゴスの覆う影はヒスルム全土にまで達していたためである。トゥーリンは家族のことを思うと思い悩んだ。彼はシンゴル王の前に参じると剣と鎧、そしてドル=ローミンの竜の兜を賜るよう願い出た。それは叶えられたが、彼が冥王を撃とうとしていることを知ると、シンゴル夫妻は忠告してそれを諌めた。そこで彼は忠言に従い北の国境へ出向き、エルフ部隊に合流し、オークや他のモルゴスの召使いたちと戦うようになった。彼は常に先陣を切って敵を屠った。その大胆さからドル=ローミンの竜の兜の再来がドリアス以外の国々でも囁かれるようになった。この頃戦士としてトゥーリンが敵わなかったのは、彼の師であるベレグ・クーサリオンただ一人であった。二人は戦友となって共に戦った。

そして3年後、トゥーリンは戦いに疲れて、休息を取ろうとメネグロスに帰ってきた。しかし荒野から戻ってきたばかりの彼は髪は茫々武具も衣服もくたびれ果てており、そんな彼が食卓についたところをサイロスが嘲って、ヒスルムの男たちがこんなにも野蛮で荒々しいのなら、女達は髪の毛以外身を覆うものもなく走り回っているに違いないと、侮蔑の言葉を投げかけた。これにはトゥーリンも激怒し、杯を取るやサイロスの顔面に投げつけた。彼はひどい傷を負い、ひっくり返った。そこへトゥーリンは剣を抜いて迫ったが、これはマブルングによって阻止された。翌日トゥーリンが国境警備隊に戻ろうとしていたところを、剣と盾で武装したサイロスが待ち伏せしており、背後から襲いかかった。しかし百戦錬磨の戦士となっていたトゥーリンはこれを躱すと、素早く剣を抜き、打ちかかった。そしてサイロスの盾を砕き、剣を持つ手を傷つけて、彼を無力化した。その上で昨日の侮蔑のお返しにサイロスの衣を剥ぎ取り、身を覆うのは髪の毛だけにすると、剣でもって追い回した。サイロスは狂ったように悲鳴を上げながら逃げまわったため、他のエルフ達も何事かと集まってきたが、二人はすごい速さで駆け抜けていったため、ついていける者は殆どおらず、追いかけられたのはマブルング他数名であった。彼は追いかけながら、必至にトゥーリンに思いとどまるよう説得したが、トゥーリンはそれを無視した。そしてサイロスはエスガルドゥインの川まで追い詰められ、恐怖のあまり跳躍を試みたものの、対岸への着地には失敗し、悲鳴とともに落ちていき、水中の大岩に当たって砕けて死んだ。その結果を見届けたトゥーリンが振り返ると、そこにはマブルング他何名かのエルフ達がやって来ていた。彼はトゥーリンにメネグロスに戻り、王の裁きを待つよう伝えた。しかしトゥーリンはこれを断った。サイロスは王の助言者の一人であったからである。マブルングは心中トゥーリンに同情していたため、友として戻るよう勧めた。しかしそれでも囚人となるのを恐れたトゥーリンは断り、立ち去った。もしトゥーリンを生きたまま捕らえようとするなら、マブルング側にも犠牲者が出るのは避けられないためである。そしてトゥーリンは逃亡し無法者となったのである。

その頃ドリアスではトゥーリンに対して裁断が下されようとしていた。シンゴル王はサイロスも嘲笑の言葉を投げかけたりと非はあるが、死に至らしめる程の罪には見合わないと考え、トゥーリンが王に赦しを請わず国を出て行ったことを聞き、養子縁組を取り消すとまで発言した。だがそこへベレグがネルラスを連れて来て、彼女が王に彼女の見たこと、即ちサイロスがトゥーリンに不意打ちを仕掛けたことを言上した。これにより審判の場は一変し、皆がトゥーリンに同情的になった。そして王はトゥーリンの過失を赦し、再び王宮に迎え入れることを許可した。しかしネルラスは泣き出し、彼は見つかるだろうかと嘆いた。王もなにか良い手立てはないものかと思案に暮れていたところを、ベレグが王に対して、自分がトゥーリンを必ず探し出して連れてくると応え、一人出立した。

その頃トゥーリンは自らを王に追われる無法者になったと信じこみ、西を目指してドリアスを抜けると、テイグリン南部の森に入った。ニアナイス・アルノイディアド以前には、ハレスの一族が点在して生活していた場所である。だが今では彼らの多くは死に絶え、生存者はブレシルへと落ち延びていた。そしてニアナイス・アルノイディアド以降は荒廃した時代となったため、付近一帯はオークと無法者が跳梁跋扈していた。敗残兵に罪人、荒廃した土地を捨ててきた人々、追放者、これらは略奪を繰り返す無法者と化していた。彼らはガウアワイス(狼人)呼ばれ忌み嫌われていた。その中の50人ほどは徒党を組み、オークに劣らぬほど嫌われていた。その悪名高い一党にトゥーリンは出会うこととなった。彼らは通行料を要求し、払えないなら死んでもらうと脅してきたが、トゥーリンはそのうちの一人を即座に殺してみせることで、後釜に入った。そして本名は明かさずネイサンと名乗った。程なく彼は一目置かれるようになった。剣の腕が立ち、森の知識も豊富で、欲が薄く、自分の取り分を殆ど要求しなかったからである。このように無法者仲間から信用されるようになったが、恐れられるようにもなった。彼らには理解できない突然の怒りのためである。トゥーリンは自尊心故にドリアスには帰れず、ブレシルのハレスの一族のもとに下るつもりもなく、かと言ってドル=ローミンには戻れなかった。冥王の影の下にある彼の地に、単独で赴くのはあまりにも危険過ぎるからであった。それゆえトゥーリンはガウアワイスの一員として留まらざるを得なかった。しかし彼らの非道な行為を見て見ぬふりをする時、憐憫の情や羞恥心から怒りの感情が頭をもたげたのである。そして春が来たが、このまま森の民の家々の近くに根城を構えるのは危険なことであった。何時彼らが団結してガウアワイスに抵抗してくるか知れないからである。そこで南へさっさと行くべきだとトゥーリンは思っていたが、それを首領フォルウェグがしないのを不審に思っていた。そんな折、散歩に出ていたトゥーリンはたまたま森の民の若い娘を襲おうとしていた首領を斬り捨ててしまう。そこを無法者の一員アンドローグ[1]に見られてしまうが、彼の命は助けた。この結果ガウアワイス内で揉めたものの、前首領に不平が溜まっていたこともあって、トゥーリンを新しい首領とすることに決まった。そして彼らはその地方を離れた。

ドリアスから幾人もの探索者が放たれ、トゥーリンが出奔した都市に探索に当たったが、探索は失敗に終わった。というのもまさか無法者の徒とつるんでいるとは、夢にも思わなかったからである。結局彼らは皆帰参した。ベレグのみがひとり孤独な探索を続けた。そしてトゥーリンに助けられた森の民の娘からついに足がかりを得たのである。ベレグは追跡を開始したが、トゥーリンは移動の際ほとんど手がかりを残さぬよう、水際立った術を用いて妨げたので、ベレグですら彼らの探索には手を焼いた。痕跡を見つけ、野生の生き物から聞き出した情報からその場へ行ってみると、既にもぬけの殻となっていた。

それから程なくオーク達がテイグリンを渡って南にやって来た。ブレシルの民の抵抗を受けながらも、オーク共は森の民の許へ略奪にやってきた。ベレグによる注意を受けていたため先に送り出していた婦女子は、ブレシルに逃れていたため助かったが、遅れて出立した男たちはオークに遭遇し、戦いとなり打ち負かされた。幾許かの者が辛うじてブレシルまで逃げ切ったが、多くの者は殺されるか捕虜となった。そしてオークは家屋敷を略奪して回ると、火を付け、西に戻って街道を使い北方へ戻ろうとしていた。これを無法者の斥候が察知した。捕虜はどうでもよく、略奪品目当てゆえである。しかしトゥーリンは相手の規模がわからない以上、無闇に襲うのは危険だと判断したが、無法者たちは耳を貸そうとはしなかった。そこで仕方なくトゥーリンはオルレグという名の無法者を伴って偵察に出た。その間はアンドローグが一党の指揮をとることとなった。だがオーク達は街道近くが、ナルゴスロンドの領域に近いことを知っており、その見張りを恐れてもいた。そのため略奪後でも浮かれておらず、用心深くなっていたためトゥーリンとオルレグは発見されてしまった。オーク達はナルゴスロンドの斥候と勘違いし、たちまち二人を追い回し始めた。トゥーリンは彼らの様子から、ナルゴスロンドのエルフを大変恐れているのを見抜き、オークを欺いて西へと逃げた。オルレグは途中で多量の矢を浴びて死んだが、俊足とエルフの鎧を身に纏っていたトゥーリンは無事逃げ果せた。オーク達はナルゴスロンドのエルフがやって来るかもしれないとの恐れから、捕虜を皆殺しにすると慌てて北へと逃げていった。

三日間たっても首領とオルレグが戻らないことから、無法者たちは出立を促したがアンドローグがこれを制していた。そんな時彼らの前に一人のエルフが不意に姿を表した。ベレグであった。彼は何の武器も持たず、敵意のないことを示すため掌を彼らの方に向けていた。しかし無法者たちは恐怖し、アンドローグの打った輪縄がベレグの両腕を絡めとった。ベレグは友として参った自分になぜこんな仕打ちをするのかと、ネイサンの名を呼んだが、ウルラドという名の無法者が彼は今は此処にはいないことを告げた。そしてアンドローグが、長らく自分たちを付け回していたのがベレグであると確信すると、彼を木に縛り付けた。彼は詰問したがベレグは、自分はネイサンと名乗る男の友人で、彼に吉報を携えてきたとしか答えなかった。アンドローグは彼を殺そうとしたが、多少は心根の良い者たちが反対し、アルグンドは、もし首領が戻ってきた時に友人と吉報を奪われたと知ったら、自分たちは後悔することになると言って制止した。だがアンドローグはベレグをドリアス王の間者に違いないと決め付けた。それから二日間が経過すると流石に男たちも痺れを切らし、エルフを殺そうとした。その時丁度トゥーリンが帰ってきたのである。彼はベレグを見ると衝撃を受け、涙をはらはらと流しながら駆け寄った。そして友を縛っている縄目を断ち切ると、ベレグを掻き抱いた。無法者仲間から事の次第を聞いて、自分の行ってきた無法無道な行為に自責の念が芽生え、今後トゥーリンは人間とエルフ以外しか襲わないと誓った。そこに縛めから解かれたベレグが、サイロスの一件は不問となったことを告げ、ドリアスに戻ってくれるよう頼むが、彼は黙りこんでしまった。翌朝もう一度ベレグはドリアスに戻るよう説得したが、トゥーリンは自尊心からドリアスへの帰還を拒んだ。それに無法者仲間に対しても愛情があることから、今更彼らを見捨てるわけにも行かないと告げ、トゥーリンは自由にやってゆきたいと、自身の手勢を従えて戦うことを決意する。そしてベレグに残ってくれるよう懇願するが、ベレグはそれは出来ないと答え、今やオーク達はディンバールにもやって来て、ブレシルの人間も難儀しているから、自分はそこへ戻るつもりだと言う。そこで自分に会いたければディンバールに来て自分を探せと伝える。トゥーリンはそれに黙って耐えたが、不意にエルフの乙女のことを口に出し、彼女に証言してもらったのに自分は彼女を思い出すことが出来ない、なぜ彼女は自分を見ていたんだろうかと独りごちる。これにはベレグも驚き、トゥーリンが幼い頃ネルラスとともに過ごしていた日のことを告げる。しかし子供の頃のことはもう朧気でよく思い出せないと答えるトゥーリンに、ベレグは大きく嘆息し、中つ国には武器によらぬ傷もあるのだと言い、エルフと人間はやはり出会うべきではなかったのだと嘆いた。そして別れの際何故かアモン・ルーズが目に入ったことから、トゥーリンはベレグに、自分に会いたければアモン・ルーズに来て自分を探せと伝え、二人は友情を懐きながらも悲しい気持ちで別れた。

ベレグはメネグロスに戻ると、シンゴル夫妻に事の顛末を全て言上した。シンゴルは溜息をつくと、トゥーリンに対してどうすればいいのかと、悩んだ。そこでベレグは暇乞いをした。彼は出来る限りトゥーリンを守り導く決心をしたのである。シンゴルはそれを許可し、別れに際して望みの品を与えると言った。ベレグは名剣を一振り所望した。今やオークの数は多すぎて、彼の大弓だけでは間に合わなくなってきたのと、ベレグの持っている剣ではオークの鎧を貫くのが難しくなっていた。それに対しシンゴルは武器庫に所蔵している剣のうちから好きなものを選べ、と言いベレグはアングラヘルを選んだ。この剣は非常な名剣で、これに匹敵するのはアングウィレルという対になる剣のみであった。この二振りの剣は隕鉄で出来ており、鍛えた刀匠は、ゴンドリンで処刑された<暗闇のエルフ>エオルである。彼はナン・エルモスの住む許可をシンゴルから得る代わりに、嫌々アングラヘルを献上したのだった。アングウィレルの方はエオルが自分用にとっておいたが、マイグリンが脱走時に勝手に持ちだした。ベレグがアングラヘルを拝領すると女王メリアンがその刃を見て、その剣には邪気が篭っており、それを鍛えた刀鍛冶の黒い心が潜んでいるため、使い手を愛することはないだろうと忠告する。それでもベレグはこの剣を選んだ。そしてメリアンからはレンバスを大量に与えられた。

ベレグはこれらの授けられた物を携え、北のディンバールへ戻っていった。そしてアングラヘルは鞘から抜かれることを喜んだ。やがてオーク共が駆逐され戦いが鎮まると、冬にベレグはそこを去り、二度と戻らなかったのである。

ベレグが去ってから、北方のオークは以前にも増して大部隊で街道を南下してテイグリンを渡るようになり、無法者一行は狩るよりも狩られることの方が多くなってきた。そこでトゥーリンはより安全な巣窟を探さねばならないと痛感し、シリオンの谷間を抜けて西へと向かった。ここまで遠出するのは一向にとっても初めてのことであった。そんな中雨宿りをしている時、3つの人影を目撃する。大声で止まるよう命じたが、人影はそれに従わず逃げようとしたため、アンドローグが矢を射かけた。2つの人影はそのまま逃げたが、1つは逃げ遅れトゥーリン達に捕まった。それは小ドワーフで名をミームといった。ミームは命乞いをし、身代金の代わりに、誰にも見つからぬ隠れ家を共にしてもよいと申し出たため、トゥーリンはそれを受け入れた。翌日彼らはミームに続いてアモン・ルーズへ向かった。アモン・ルーズは禿山でシリオンの谷とナログの間の荒れ地の外れにあり、岩を覆うセレゴンという深紅の花以外何も生えていなかった。ミームは秘密の入口に着くと、一行をバル=エン=ダンウェズと名付けた洞窟の中へと案内した。ここでミームは自分の息子キームが死んだことをもう一人の息子イブンから知らされる。アンドローグの放った矢がキームの命を奪ったのである。トゥーリンはこれを申し訳なく思い、もしも富が手に入ることでもあれば金塊で息子の命を贖おうと申し出た。ミームはこれを聞くとトゥーリンを眺め、その旨承ったことと、気持ちが少しは和らいだことを告げた。だがアンドローグに対しては、再び弓矢を手に取らば弓矢によりて死ぬという呪いをかける。こうしてバル=エン=ダンウェズにおけるトゥーリンの日々が始まる。

ある年の真冬が近づく頃、未曾有の大雪が北方から齎され、アモン・ルーズも深い雪に覆われた。アングバンドの力が増大するにつれて、ベレリアンドの冬は厳しさが増していると人々の間で噂された。そんな厳しい寒さの最中、ベレグ・クーサリオンが再びトゥーリンの許へ訪れる。ベレグは彼の竜の兜を携えてきていた。それによってトゥーリンの考えが変わることを期待したからである。しかしトゥーリンはドリアスに戻ろうとはしなかった。ベレグは彼への愛情に負け、彼もトゥーリンの仲間になることになった。無法者仲間にレンバスを与えることで活力を与え、怪我人や病人も治療した。たちまち彼らは癒やされた。ベレグは弓の腕前も優れて、力も強く、遠目も効いたので、無法者仲間からも尊敬を受けるようになった。しかし小ドワーフは過去にベレリアンドのエルフに追い立てられ、殺されたことがあったためミームはベレグを憎んだ。トゥーリンは再び竜の兜を身につけると自らをゴルソル(恐るべき兜の意)と名乗り、バル=エン=ダンウェズを拠点に戦いを開始した。オーク達は南方の地域、ベレリアンドに入る道を探っていたが、トゥーリンに率いられたガウアワイス達はそれを襲撃するようになった。竜の兜と強弓が再起したという噂は遍くに伝えられた。流離人となりつつも、モルゴスに抵抗する意思を持つ多くの者たちが、再び勇気を取り戻しトゥーリンとベレグの許へ集まってきた。テイグリン川とドリアス西境に挟まれた地域はドル=クゥーアルソルと呼ばれるようになった。<弓と兜の国>の意である。トゥーリン一党は一大勢力に膨れ上がり、アングバンドの影響は後退した。メネグロスやナルゴスロンド、そして隠れ王国ゴンドリンにすら二人の武勇の誉れは響いた。トゥーリン一党に対しナルゴスロンドからは、その秘密の場所を守るため、軍事的な支援はできないものの、必要な物は何であれ提供しよう、と申し出が来た。全てが上手く言ってるように見えたが、ベレグは先のことを考えて度々警告した。だがトゥーリンは考えを変えず、ここで力を蓄えた後にドル=ローミンへ向かう旨を告げた。やがて二人のことはモルゴスの耳にも入り、竜の兜故にフーリンの息子の存在は明らかになってしまった。彼はアモン・ルーズ近辺に間者を大量に放った。

その年も暮れる頃、ミームとイブンは冬の蓄えのため、荒れ地に赴いたところを捕らえられた。そして秘密の入口をまたも案内させられる羽目になった。こうしてバル=エン=ダンウェズは敵に売られた。ミームの案内で、オーク達は敵が寝静まっているところを襲ったのである。トゥーリンの仲間の多くは寝ているところを襲われ殺された。中には階段を使って丘の頂に逃れた者もおり、彼らはそこで討ち死にするまで戦った。アンドローグもそこで勇敢に戦ったがオークの矢で致命傷を負った。しかしトゥーリンは戦闘中に網を被せられ、身動きの取れなくなったところを連れ去られた。当たりに静けさが戻った頃、ミームが姿を現した。そして山頂に斃れた死者たちを見渡したが、一人生存者がいた。ベレグであった。そこでミームは憎悪の念からベレグを殺そうと、死者の傍らにあったアングラヘルを手に近づいたが、ベレグはよろめきながら立ち上がり、アングラヘルを奪い返すと逆にそれを突きつけた。ミームは仰天して山頂から逃げ去った。ベレグはひどい傷を負っていたが、彼は中つ国のエルフでも力強い者である上、癒やしの術にも長けていたので死ななかった。回復した彼は埋葬しようとした死者の中にトゥーリンがいないことに気付き、彼がオークたちに連れて行かれたことに気付いたのである。そこで彼は追跡を開始した。相手の足取りを追う術にかけて彼の右に出るものは、中つ国広しといえども一人もいないほどであった。彼は眠らずに急行したのに対し、オーク達は勝利に浮かれて北上するにつれ、追跡を恐れなくなっていたため、その足取りは遅かった。オーク達の居所ももはや然程遠くはなかった。そんな時ベレグは道中タウア=ヌ=フインで一人のエルフを発見する。それはナルゴスロンドのグウィンドールであった。そこでグウィンドールにレンバスを与え活力を取り戻させ、通過したオークの部隊の話を聞くと、その中にたいそう背の高い人間の男がいたと彼は言った。そこでトゥーリンを助けるために自分が来たことを話すと、彼は一端は諦めることを勧めるが、ベレグはそれでもトゥーリンを見捨てず助けにいく決心であると言うと、彼も助力を申し出た。アンファウグリスの不毛の地まで来るとオーク達は、狼を見張り番に立てて酒盛りを始めた。その頃エレド・ウェスリンに稲妻が走り、西から風が吹き始めていた。オークが眠った所でベレグはその強弓で狼を一匹ずつ確実に仕留めていった。そして二人は野営地に入ると、縛られたトゥーリンを発見し、綱を切ると抱き上げてそこから運びだした。そこから少し上った茨の茂みまで来ると、これ以上彼を運べず二人はトゥーリンをそこで下ろした。嵐は近くまで来ていた。ベレグはアングラヘルを抜くと、トゥーリンの手足の縛めを切った。しかしこの時運命の力が強く働いた。足の枷を切った時アングラヘルの切っ先が、トゥーリンの足を少し刺したのである。彼はそれで目を覚ました。すると何者かが抜き身の剣を引っさげて、自分の上に屈みこんでいたのだ!彼はオークが再び彼を苦しめに来たと早とちりし、暗闇の中で掴みかかると敵の剣を奪い取り、彼の上に屈みこんでいた何者かを斬り殺したのである。しかしその時一閃の稲妻が頭上を走り、自分が斬った者の顔を照らした。それはベレグの顔であった。トゥーリンは石と化したように動かず、それを見つめ、傍らのグウィンドールは稲光に照らしだされるトゥーリンの顔の凄惨さに言葉もなかった。オーク達は嵐のため野営地全体が大変な騒ぎとなっていたが、トゥーリンはグウィンドールの危険を告げる声にも全く反応せず、ベレグの亡骸の傍らにいつまでも座り込んでいた。朝が来て嵐も去ると、オーク達はトゥーリンの捜索を諦めアングバンドへと帰還していった。トゥーリンは魂が抜けたように呆然と座り込んでいた。グウィンドールはトゥーリンを促すとベレグを埋葬した。傍らには彼の強弓ベルスロンディングが置かれた。しかしアングラヘルはグウィンドールが取り置き、無益に土の中にあるよりはモルゴスの召使に恨みを晴らすとよいと言った。そしてこの先必要だったためレンバスも取り置いた。

こうして最も信義に篤い、ベレリアンドの森の技にかけては右に出るもののいないベレグ・クーサリオンは、彼の弟子であり親友であった者の手によって最期を遂げたのである。この悲しみは一生トゥーリンの中から消えることはなかった。

グウィンドールは自失した状態のトゥーリンを導くと、その場を離れ、彼を守って案内を務めた。二人は長い道の果て、ついにエイセル・イヴリンに到着した。エレド・ウェスリンの下にあるナログ川の水源である。ここでグウィンドールはトゥーリンにこの水を飲むことを勧めた。何故ならばイヴリンの泉にはウルモの力が宿っていたからである。その水を飲んだトゥーリンは正気を取り戻すと同時に、涙をはらはらと流した。ここで彼は亡きベレグに捧げる歌を作って歌った。そこでグウィンドールは彼にアングラヘルを手渡した。その刀身は黒々としていて大きな力を秘めていたが、今は刃は鈍っていた。そしてトゥーリンはグウィンドールの自己紹介を聞くと、父フーリンのことを尋ねたが、グウィンドールは彼の姿は見てないが、モルゴスに公然と抵抗したため、彼と彼の肉親に呪いがかけられたという噂を聞いたと答えた。彼らはエイセル・イヴリンを立ち去ると、南に旅を続け、ナルゴスロンドへとやって来たのである。

ナルゴスロンドでは王女フィンドゥイラスが、グウィンドールの恋人であったため、彼らの帰還を喜んだ。そこでグウィンドールに免じて、トゥーリンもナルゴスロンドに滞在することを許された。しかしグウィンドールが彼の紹介をしようとした所、トゥーリンはそれを遮り、自分のことをウーマルスの息子アガルワインと名乗った。即ち<凶運の息子にして血に汚れたる者>の意である。エルフたちはそれ以上問い詰めようとはしなかった。やがてトゥーリンはオロドレスの覚えめでたくなった。彼はまだ若く、母親譲りの美貌の持ち主であった上、その所作はドリアスにあって洗練されており、彼はエルフの中にあっても、ノルドールの公子と勘違いされてもおかしくはなかった。それ故彼はアダンエゼル(エルフ人間の意)と呼ばれることが多かった。ナルゴスロンドの優れた刀鍛冶たちは、彼のためにアングラヘルを鍛え直した。刀身は黒いままだが、刃は青白い火の如く輝き、トゥーリンはこの剣をグアサング(死の鉄剣)と名付けた。彼はその剣とドワーフの鎖帷子、そして敵に悟られぬよう竜の兜は身に帯びず[2]、武器庫で見つけたドワーフの仮面を身につけて戦いに出た。彼の示した武勇と剣の腕は殊に優れていたため、彼はモルメギル(黒の剣の意)とも呼ばれるようになった。敵はその剣と仮面を見ただけで逃げるようになった。

トゥーリンはオロドレス王に重用されるようになり、王の会議でも発言権を得たが、グウィンドールは常にトゥーリンの意見に反対した。彼はアングバンドに囚われていたことがあり、モルゴスの手口を多少なりとも知っているからであった。例え幾つかの勝利を勝ち得ても、モルゴスはそれによって強敵の場所を悟り、十分な力を集めて、そこに破壊の鉄槌を振り下ろすのだ、と。今や秘密の中に行動するのが最良のことであり、ヴァラールが来るまでそうやって持ちこたえることだ、と発言した。対してトゥーリンはヴァラールなどは当てにならず、小さくとも勝利を重ね、束の間であっても栄光を勝ち取るべきであり、例え最期に敗れようともせめて彼の者に一矢報いるべきだ、と主張した。また人間の命はエルフと違って短く、逃げ隠れするよりは、戦に打って出る方が良いとも述べ、それによって成された勲まではモルゴスも消すことはできないと反駁した。対してグウィンドールはキーアダンの許で船が造られて、西方へ使者が度々送られていることを述べ、トゥーリンが自分自身の誉れに執われており、そして同じやり方をナルゴスロンドの国民に要求していると非難した。結局両者の意見が相容れることはなかった。

王女フィンドゥイラスはフィナルフィン王家ならではの美しい金髪の持ち主であった。トゥーリンは彼女を目にしたり、共に過ごしたりすることに喜びを覚えるようになっていった。というのも、彼女は故郷ドル=ローミンの女性たちのことを思い出させたため、彼に肉親や縁者のことを懐かしく感じさせたためである。そして彼女の方も次第にトゥーリンに好意を抱くようになり、彼女の方から彼を探すようになった。二人で語らう時、彼女はあまり見たことのないエダインのことについて尋ね、彼は快くそれに答えたりしたが、自分の故郷と係累については一切触れなかった。フィンドゥイラスは彼を異性として好ましく思っていたが、トゥーリンは、幼いころに亡くした妹ラライスの面影を彼女に見出しただけであって、異性として見ているわけではなかった。彼はフィンドゥイラスに、あなたのような美しい妹がいればよかったと言い、それにフィンドゥイラスは彼を慕う心を隠して、自分にもトゥーリンのような頼もしい兄弟がいればとよいと思うと答えると、アガルワインの名は相応しくない上に真の名とも思えないと言い、以後彼女は彼をスリン(秘密の意)と呼ぶと告げた。これを聞いてトゥーリンはぎくりとし、それは自分の名ではないと言った。

フィンドゥイラスの想いはグウィンドールとトゥーリンの狭間で揺れ動いていたが、次第に後者の方へ傾いていった。しかしこれは彼女の心を苦しめた。グウィンドールのアングバンドでの受難のことを考えると、彼にさらに苦しみを与えることは、彼女の望むところではなかったからである。それでもトゥーリンへの愛は日増しに増していった。しかしそこではたと、ベレンとルーシエンのことが思い出され、トゥーリンはベレンのような人間ではない事に気づいた。彼がフィンドゥイラスに向ける愛情は男女間のそれではなく、別の類のものであると薄々感じていたためである。そのためフィンドゥイラスの心は曇りがちになった。それを見たトゥーリンは、グウィンドールのアングバンドに対する発言で彼女が恐れをなしたのだろう、と勘違いした。トゥーリンはフィンドゥイラスに、グウィンドールの言葉を恐れないよう、モルゴスの手のものは皆撃退してみせると励ましたが、それにフィンドゥイラスは、ナルゴスロンドが失われないか、トゥーリンの出陣の度に胸が重くなるとだけ答えた。

この頃トゥーリンは彼に対するグウィンドールの友愛が冷え始めているのを感じ取っていた。そしてアングバンドで受けた苦しみから癒やされつつあったのに、また悲哀の中へと戻ってしまったように見えるを不思議に感じた。そこで彼はおそらく王の会議で、彼の発言に自分が反対ばかりしており、王も自分の発言を重視するようになったからだろうと考えた。ただ、それでもトゥーリンの方は考えの違いはともかく、グウィンドールに対して友愛の念は変わらなかったし、アングバンドでの一件から深く彼を憐れんでいた。そこで彼はグウィンドールに励ましの言葉をかけたが、彼はトゥーリンを見つめ何も言わなかった。そこでトゥーリンはなぜそのように見るのか尋ねた上で、自分がグウィンドールの助言に反対したのは確かだが、男として自分の信義は曲げられないといった意を伝え、だが自分は彼に対する恩義は忘れてはいないとも付け加えた。グウィンドールはそれに答えて、トゥーリンは忘れてはいないと言うが、彼の行為と助言で自分の故郷と同胞は変わりつつあることと、彼の影が皆を覆い、彼のせいで自分は全てを失ったと言った。トゥーリンにはその答えがよくわからなかったが、王に重用されるようになった自分を妬んでいるのだろうと推測した。

ある時、グウィンドールは暗然としてフィンドゥイラスに言った。自分は今でも彼女を愛しているが、彼女はそれに捕らわれることなく、自らの愛の導く所へ行かれよ、と。しかし用心するべきであるとも言った。イルーヴァタールの長子と次子の間で縁組をするのは賢明ではない。彼らの命は短く、すぐにこの世を去ることになる上、ベレンとルーシエンのような例外はそうそうあるものでもなく、またトゥーリンはベレンではないと。そしてグウィンドールは彼の真の名を、フーリンの息子トゥーリンであることを告げ、フーリンとその一家にはモルゴス・バウグリアの呪いが下されていると警告した。それに対してフィンドゥイラスは今でもグウィンドールのことは愛しているものの、より大きな愛、トゥーリンに捕らわれてしまったことを告げると同時に、トゥーリンは自分を愛してはいないし、愛そうという気にもならないだろうと答えた。そこでグウィンドールはならば何故トゥーリンはフィンドゥイラスを探し求めるのかと問いかけるが、それには彼も慰めを必要としているからだと彼女は答える。そして三人の中に不実な者がいるのならそれは自分であるとも告げた。

その後トゥーリンは、グウィンドールとフィンドゥイラスの間で何が起きたかも知らずに、彼女が憂いを帯びた表情を見せていたため、よりいっそう優しくなった。が、彼女は彼に言った。何故自分から本当の名前を隠すのか、彼の素性を知れば尊敬の念は増し、より深く彼を理解できたであろうにと伝えた。そして彼女は彼の真の名を知ったことを告げる。これを聞いたトゥーリンは、激怒してグウィンドールに詰め寄った。何故自分の本当の名を洩らしたのか、自分の運命を呼び出したのか、それから隠れようと自分はしているのに、と。グウィンドールはそれに運命はトゥーリン自身の中にあり、名前にあるわけではないと答えた。

モルメギルが本当は、フーリン・サリオンの息子トゥーリンであることがオロドレスの耳に入ると、彼はトゥーリンを大いに礼遇した。そして増々王から重用されるようになった。トゥーリンはナルゴスロンドのエルフたちの戦い方、秘密の中に行動するといった戦術を好まず堂々とした合戦をしきりに懐かしんだ。そして王の会議で度々それを提案し、遂にそれが通ってしまい、ナルゴスロンドは隠密裡に戦うことを止め、フィンロドの城門からナログの川に大橋をかけ、堂々と進軍していくようになった。グウィンドールはこれを無謀だと言って反対したのだが、彼の言葉に耳を貸す者は最早いなかった。そしてナルゴスロンドの軍はアングバンドの軍を打ち負かし、モルゴスの召使どもはナログ川とシリオンの川に挟まれた全域から追い出された。モルメギルの武勲は更に名高いものとなった。しかしこれによって遂にナルゴスロンドの所在がモルゴスに知られてしまい、彼の次のターゲットとなるのである。

ナルゴスロンドの軍勢のためにモルゴス軍が一旦退いた時、モルウェンとニエノールはこの猶予期間にようやくドル=ローミンを離れ、長旅を経てドリアスにまでやって来た。しかし彼女は落胆した。既にトゥーリンはそこにはいなかったからである。またドル=クゥーアルソルが滅びて以来、竜の兜の噂も絶えて久しかった。しかしシンゴル王はモルウェン母娘を賓客としてもてなした。

その頃、ナルゴスロンドにゲルミアとアルミナスという二人のエルフがやって来た。彼らはキーアダンの許から派遣され、水の王ウルモから啓示を受け、ナルゴスロンドに災厄が迫っていると告げた。エレド・ウェスリンの山麓とシリオンの山道を探索したが、モルゴスの軍勢がサウロンの島に集結していると話した。トゥーリンはそのことならもう既に聞き及んでいると答えた。しかし使者たちは、水の王の啓示を述べた。北方の邪悪なるものがシリオンの水源を汚したこと、ウルモの力は流れる水の上流から退くこと、ナルゴスロンドの城門を閉ざし外には出ないこと、誇りである大橋は叩き壊してナログの川に落とせと。オロドレスはヴァラたるウルモの言葉に心乱れたがトゥーリンはこれに一切耳を貸さず、二人の使者をぞんざいに扱った。その扱いたるや使者たちが彼は本当にハドル家の人間なのかと疑わずにはいられなかった程であった。今やトゥーリンはそれだけ自尊心の高い人間となっており、石の橋を叩き壊すなどということは論外であった。

それから間もなくブレシルがオークの軍に襲われ、ハンディア王が殺された。ブレシルの人間たちは敗北し森の中へ敗走した。そしてついにモルゴスは集結させていた大軍を、ナログ地方に向けて解き放った。ウルローキのグラウルングもアンファウグリスを超えてやって来た。彼はシリオンの谷間を通過すると、エイセル・イヴリンを汚し、次いでナルゴスロンドの領土に入り込みナログの川とテイグリンの川に挟まれた平原を焼き尽くしたのである。対してナルゴスロンドの兵士たちは勇ましく出陣して行き、その日トゥーリンは久々に竜の兜を被った。彼とオロドレス王が騎首を並べて進むと、兵士たちの士気はいや増した。しかしモルゴスの軍勢は偵察隊の報告よりも遥かに多く、その上大竜グラウルングがいた。竜の兜に守られたトゥーリンを除いて、グラウルングの接近に耐えられるものは一人もいなかった。エルフ達は退けられ、ギングリスとナログの二つに川に挟まれたトゥムハラドに追い詰められ、その合戦で敗北を喫した。王オロドレスは最前線で討ち死にを遂げ、グウィンドールは致命傷を負った。トゥーリンが彼を助けに来たため、兜への恐怖から敵は逃げ去った。彼はグウィンドールを助けつつ戦場から抜け出した。そこでグウィンドールは、前に自分がトゥーリンを助けたことの逆になったと言いつつも、自分はもう死んで中つ国を去らねばならないから、無駄なことだと言った。そしてトゥーリンをあの日助けたことが不運で恨めしく思われると話した。それがなければ彼は愛と命脈を保っていたであろうし、ナルゴスロンドもまだ存続し得たから、と。そこで自分はもう見捨てて、急ぎナルゴスロンドへ向かうようトゥーリンに言った。死を前にした予見の力からか、フィンドゥイラスのみがトゥーリンをモルゴスの呪いから救い出せる、と彼に伝え別れを告げた。トゥーリンはナルゴスロンドへと急行したが、オークの軍勢とグラウルングは彼に先んじており、トゥーリンが到着した時には既に、ナルゴスロンドは略奪されていた。城門前にかけられた大橋を渡って、ナログの深い川を易易と渡ることが出来たからである。トゥーリンの提案した石の橋は味方にとって今や災いとなってしまった。殺害を免れたエルフの婦女子たちは、モルゴスの許へ奴隷として連れて行かれるため城門前のテラスに集められていた。トゥーリンは敵を薙ぎ倒し剣を振るいながら、囚われた女性たちの方へと進んでいった。丁度その時グラウルングが城門から姿を現した。彼はトゥーリンとその竜の兜を認めると、よくぞやって来たなと声をかけた。そしてグラウルング自身その竜の兜の魔力を恐れていたため、トゥーリンからその守りを取り去ろうと試みた。竜は彼を嘲りつつ、彼を自分の従者であり家来であると呼んだ。何故ならば自分を模した飾りを取り付けた兜を身に帯びているからだ、と言って挑発した。トゥーリンはそれに答えて、世迷い事を、この竜の飾りはお前を嘲って造られたものだと返し、さらにこの兜を帯びた者が自分に滅びを齎すのではないかと、恐れ続けることになるだろうと煽った。しかしグラウルングはそれならいま眼の前にいる者ではなく、別の名の者を待つことになるなと答え、自分はフーリンの息子トゥーリンを恐れてはいない、奴は顔を晒して自分を見ることも出来やしない臆病者だと嘲笑した。竜の恐怖は凄まじかったため、それまでトゥーリンは兜の面頬を下げて、彼の目を見ないよう注意していたのだが、自尊心から愚かにもこの嘲弄に乗ってしまい、面頬を跳ね上げ竜の目を直視してしまった。すると彼は竜の目の魔力のため金縛りとなってしまった。そしてグラウルングは彼を嘲ると共に呪言を吐きかけ、お前の母と妹はドル=ローミンで惨めな生活を送っているぞと嘘を吹き込んだ。その間にオーク達は捕らえたエルフ女達を連れて行った。その中にはフィンドゥイラスもいて、彼女は必至にトゥーリンに呼びかけたが、竜の呪縛下にある彼には届かなかった。そして竜は呪縛を解くと身内の所へ急ぐよう囃し立てた。竜の呪言の影響下にある彼は、フィンドゥイラスの呼ぶ声にも耳を貸さず、ドル=ローミンへの道を急いで行った。グラウルングは声高に笑った。主モルゴスに命じられた仕事を果たしたからである。それから大橋を叩き壊してナログ川に沈めると、フィンロド秘蔵の財宝を尽く集めて奥の広間に積み上げ、その上でとぐろを巻いた。

トゥーリンはドル=ローミンまで休むことなく歩き続けた。今やドル=ローミンは東夷の支配下にあり、彼は用心深く、頭巾を深くかぶり歩いた。そして目指すフーリンの館についに辿り着いた。だがモルウェンは既に去り、今や東夷のブロッダがその屋敷を略奪した後で、そこは廃屋となって人っ子一人いなかった。ブロッダの屋敷はフーリンの屋敷の直ぐ側に立っており、かれはそこへ赴き一夜の宿を借りた。ブロッダの妻アイリンによってそれは与えられた。彼はそこで昔の使用人と運良く出会うことができ、一端外に出て、モルウェンもニエノールもすでにここにはいないこと、その行き先はアイリンしか知らないと教えられた。そこでトゥーリンはブロッダの屋敷内にズカズカと入り込むと、自分はアイリンの縁者であるとブロッダに告げた。そしてアイリンに母と妹のことを聞いたが、立ち去ったとしかアイリンは答えられなかった。そこで酒と憤怒で真っ赤になったブロッダが、死にたくなければとっとと出て行けと脅しをかけたが、トゥーリンは黒の剣を抜き放ちブロッダに突き付けて、アイリンに真実を言うよう迫った。そこでモルウェンの館はブロッダに荒らされ、彼女は一年以上も前にドリアスへ発ったこと、モルウェンはドリアスにいるはずの息子と会う予定であったことを告げた。しかし目の前にいるトゥーリンがモルウェンの息子なら、一切が歪んでしまったようだと言った。これを聞いてトゥーリンは狂気に侵された如く笑った。グラウルングの呪言が解けて、謀られたことがわかったからである。不意にドス黒い怒りにとらわれた彼はブロッダを投げつけ、投げ落とされた彼は頸骨が折れて死んだ。そして客として来ていた他の東夷三人を切り捨てたところで、他の東夷達が向かってきたが、召使とされていた多くのドル=ローミンの民達が彼の救助に向かい、双方で戦いとなり、多数の犠牲者が出たものの、その場にいた東夷は一人残らず殺された。トゥーリンの昔の使用人も致命傷を負い、彼に別れを告げると息絶えた。そしてアイリンはトゥーリンに急いで出立するよう促した。彼が一族に死と破壊を運んできたからである。東夷達は速やかに復讐に来るであろう。彼女はトゥーリンに彼が起こした事態を自分が引き受けねばならないこと、それと彼の短慮な行いを咎めた。それにトゥーリンは叔母上の心は弱いと答えると、モルウェンの許まで連れて行こうと申し出たが、彼女は拒否した。そして再び早く逃げるよう勧めた。トゥーリンは何人かの仲間とともにブロッダの館をぬけ出すと、東夷の山狩りを遁れて遠くまでやって来た。その時遥か遠くに火の手が見えた。アイリンが館に火を放って自害したのである。それを見たトゥーリンに、仲間はアイリンは決して弱くなかったこと、辛抱強くドル=ローミンの生き残りに出来ることをしてくれていたことを告げる。そして一行は山中の隠れ家まで辿り着き、備蓄されていた食料をトゥーリンに手渡すと、シリオンの谷間へと南下する下り道で別れた。今やトゥーリンが来たことで、ドル=ローミンの生き残りは狩られる身となったからである。

トゥーリンは生まれ故郷を去り、苦い思いを懐いてシリオンへと下っていった。彼が戻ったがゆえに、生き残っていた同胞に、更に大きな苦しみを与える羽目になったからであった。唯一の慰めは黒の剣が南方で振るわれていた頃、そのためにモルウェンとニエノールがドリアスに脱出する猶予が出来たのだ、ということであった。トゥーリンは二人はこのままシンゴル夫妻に預かってもらおう、彼処なら安全だし、自分は行く先々に影を投げかける人間なのだからと独りごちると、彼はドリアスには向かわず、遅まきながらフィンドゥイラスを探すことにした。彼は用心深くフィンドゥイラスを探し求めた。北に続くシリオンの山道でオーク達を待ち伏せしようとも試みたが、全て無駄な努力であった。そんな最中テイグリンの川を南に下っていたトゥーリンは、ブレシルの森のハレスの一族と遭遇した。彼らはオークとの戦いの最中で、包囲されていた。オークのほうが数が勝っていたため、彼らが助かる見込みは殆どなさそうだった。そこでトゥーリンは大人数の伏兵がいるように見せかけて、オーク達を襲った。オーク達は算を乱して逃げ出した。トゥーリンのグアサングはそれだけ恐れられていたからである。そこでハレスの族は攻勢に出て、トゥーリンと共にオーク達を殆ど討ち取った。その水際立った腕前を見たハレスの族は、トゥーリンに是非とも住まいを共にして欲しいと頼み込んだ。しかし彼はナルゴスロンドの姫君を探しているのでそれは出来ないと断った。すると彼らは痛ましげに彼を見つめ、ドルラスという男が、もう彼女を探す必要はないと告げた。理由を尋ねるトゥーリンに、オークの軍勢が捕虜を引き連れ、テイグリンの渡り瀬を通過しようとしたところを、彼女たちを救出するために、ブレシルの男たちが待ち伏せを仕掛けた際に、オークどもは卑怯にも捕虜の女達を皆殺しにしたと答えた。そしてオロドレスの娘フィンドゥイラスは、槍で木に磔にされたとも付け加えた。トゥーリンは衝撃を受け、なぜそれが姫とわかったとだけ尋ねた。ドルラスは姫が息を引き取る前に、モルメギル、フィンドゥイラスはここにいる、とモルメギルに伝えて、そう言い残すと彼女は事切れたと答えた。そこで彼らはその場所、テイグリンの畔に塚を築き姫を葬った。それから既に一月を経ていた。トゥーリンは自分をそこへ連れて行ってくれるよう頼んだ。そのため彼らは姫が葬られた塚へと彼を案内した。トゥーリンはそこで悲しみの余り、倒れ伏し気を失った。その時ドルラスは彼の持っていた黒の剣と、ナルゴスロンドの姫君を探していたという彼の用向きから、この男こそモルメギル、即ちフーリンの息子トゥーリンであると気付いた。それ故彼らはトゥーリンを担ぎ、彼らの住処へと運んでいった。

その頃ハレスの族は繰り返される戦闘で、その数を大きく減らしていたため、ブレシルの森深くに住処を築いていた。ハンディアの息子ブランディアが族長となり統治していたが、彼は幼い頃より足が不自由であったため、武人ではなく、代わりに癒やしの術を身につけていた。ブランディアは担ぎ込まれたトゥーリンを見て、不吉な思いに捕らわれたが、それでも彼を自分の家に引き取って癒やした。春が巡り来た頃、トゥーリンはようやく元気を取り戻し、病床から起き上がれるようになった。彼は自分の所業と過去を思い、その暗い影と縁を切り、ここで平和に暮らそうと思った。名前と絆を断ち切ることで、それが出来ると考えた。そこで彼は今までの名を全て捨て去り、自らをトゥランバールと名付けた。クウェンヤで<運命の支配者>の意である。そして他の者達に自分をブレシルの人間と思って欲しいことと、他にあった名前はもう忘れてくれるよう頼み込んだ。とは言え、名前を変えたからといって性格まで変わるわけでもなく、モルゴスに対する怨みは忘れられなかったため、彼は志を同じくする仲間と時々オーク退治に出かけた。だがこれはブランディアの気に召さなかった。彼は隠れ潜むことによって、己が民の存続を図っていたからである。トゥーリンはトゥランバールの新たな武勇が、ブレシルに復讐を招くようなことが無いよう気をつけるため、黒の剣と竜の兜を仕舞い込み、弓矢と槍を使って戦った。しかし彼はフィンドゥイラスの眠る塚、今やハウズ=エン=エルレス(エルフ乙女の塚)と名付けた地に、オークが近づくようなことは断じてさせなかった。

一方その頃、モルウェンとその娘ニエノールはドリアスで、シンゴル王と妃メリアンの庇護の下、安全に暮らしていた。だがそんな時ナルゴスロンドからの知らせがドリアスに達した。トゥムハラドの合戦で生き残った者たちが、シンゴルの許へと避難してきたからである。彼らの言うことは様々であったが、黒の剣がドル=ローミンのフーリンの息子トゥーリンだ、ということだけは一致していた。これを聞いたモルウェン母娘の悲しみは大きかった。モルウェンはこのような疑念を抱かせることこそまさにモルゴスの仕業であり、真実を知ることもままならないのかと嘆いたが、トゥムハラドの合戦で彼が竜の兜を身に帯びていたことを聞くと[3]、真実だと悟り居ても立ってもいられず、メリアンの忠告にも耳を貸さずに、我が子を探すためにドリアスを発った。ただ娘のニエノールにはドリアスに残るよう言いつけた。シンゴルはマブルングを始めとした一隊を呼び集め、モルウェンを追い彼女を警護するよう、そして可能なら連れ戻すよう申し付けた。マブルング一隊はシリオン川の傍で彼女に追いつき、帰る意志はないか問うたが、モルウェンは物狂いのようになってそれを撥ね付けた。そのため仕方なく共に川を渡ったが、その時に彼女の娘ニエノールも一行に紛れ込んでいたことが露見した。モルウェンは即刻戻るよう命じたが、彼女は従わなかった。実の所ニエノールはトゥーリンを探そうと思ったわけではなく、自分が母親の行くところについて行くと言うことで、娘にも危険が振りかかる恐れが生じる事を案じさせ、出来得ればモルウェンをドリアスに引き戻そうと考えたのである。しかしモルウェンはその自尊心故に戻ることを拒否し、ついてくるよう娘に言った。マブルングはそれに呆れつつも、王命故に彼女らを警護せざるを得なかった。こうしてモルウェン一行は三日間進み続けてナログ川の東方にまで近づいた。そこでマブルングはアモン・エシアという山にモルウェン母娘と護衛騎士を残し、自らは偵察隊を率いて隠密裡にナルゴスロンドの方へ近づいて行った。しかしグラウルングはとうに彼らの接近に気づいていた。竜の眼は遠目の利くエルフのそれを上回り、アモン・エシア山頂に幾人かが残っていることまで見抜いていた。マブルングたちがナログ川の激流を渡れるところを探している最中に、突如グラウルングは打って出た。竜はナログの流れに身を浸したため辺りはたちまち蒸気で包まれ、マブルング達は盲になるほどの蒸気と竜の悪臭にたまらず、殆どの者がアモン・エシアの方角へ逃げ出した。だがマブルングは豪胆であったため、グラウルングがナログ川を乗り越えた際に、脇に退き隠れてその場に留まった。彼はトゥーリンに関しての事実を集めよとの王命も受けていたので、グラウルングが去ったら直ぐ様ナルゴスロンドの王宮内を探索しようと決意した。ナログ川を渡ったグラウルングはそのまま東へと進んだ。竜の来襲に気付いた護衛騎士達は、慌ててモルウェン母娘を連れて東へ全速力で逃げ戻ろうとした。しかし竜が起こした蒸気と悪臭が風に乗ってアモン・エシアに到達し、彼らを包み込んだため、馬たちが混乱して制御できなくなり、てんでバラバラに逃げ出す羽目になってしまい、そのためモルウェンが娘の名を叫びながら、霧の中に消えていっても何も出来なかった。以後彼女は行方知れずとなる。しかし娘の方は、落馬したものの幸い無傷ですんだ。彼女はそこで考えアモン・エシア山頂に戻るのが賢明だと思われた。いずれマブルング達が戻ってくるだろうと考えたからである。彼女は臭気と濃霧の中、山の方へ見当をつけて登り始めた。そのうちにようやく霧も薄れ明るい日光の中、頂に着くことが出来た。そして西方を見ると目の前にグラウルングの巨大な頭があった。丁度竜は反対側から這い登ってきていたのである。そして彼女は竜の邪眼を見てしまった。彼女はハドル家の血を引く強い意思の持ち主であったため、暫くの間竜に抗った。しかしグラウルングは持てる力を発揮し、彼女の目的と素性とを知った。竜は笑うとその邪視の魔力で彼女の心を闇で覆い、そして忘却の呪いをかけた。そのため彼女は意思を奪われ、自分が何者かさえもわからなくなり、身動きすることも出来なくなってしまった。そうするとグラウルングは満足したように己の巣へと戻っていった。一方マブルングはこの間フィンロドの館を探索していたのだが、竜の戻ってくる気配に気付くと直ぐ様そこから撤退した。しかし、途中で竜の嘲りとニエノールがどうなったかを聞かされて、急いでアモン・エシア山頂へ向かった。そこには様子のおかしくなったニエノールが一人佇んでいた。彼女は何の反応もせず、手を引けばただ大人しく付いて来るだけであった。マブルングはこの探索行の結果に臍を噛む思いで山を降りていった。ドリアスへと戻る途中、マブルングの仲間だった三人が二人を見つけ、一行はのろのろと進みようやくドリアスの国境付近にまで来た。そこで一行は疲れから眠り込んでしまった。そこを折悪しくオークの一隊に襲われた。オーク達は北方の暗黒の力が増大するに連れ、最近ではドリアスの境界近くをも徘徊するようになっていたのである。オークのおぞましい声にニエノールは目を覚まし、恐怖に駆られて逃げ出した。オークどもは彼女を追ったが、目が覚めたエルフたちも追いかけ、オークたちと戦闘になった。そして残らずオークを斬って捨てた後、二エノールを探したが彼女は最早見つからなかった。

その頃トゥランバールことトゥーリンは、数人の仲間とともにオーク退治に出かけた。その帰りに南方から稲妻と豪雨を伴った嵐がやってきたので、彼らはテイグリンの渡り瀬を使って近くの宿場へと道を急いだ。その時稲妻の閃光に照らしだされ、フィンドゥイラスの塚の上に横たわる乙女の亡霊らしきものが見えたため、トゥーリンは思わず震え慄いた。しかし仲間たちが駆け寄って見ると、それは人間の娘でまだ息があった。彼らは彼女を担ぎ上げ、トゥーリンは自分のマントを彼女に着せかけて(どういう理由か彼女は何も身に着けていなかった)、自分たちの小屋まで連れて行った。そこで彼女を介抱すると、彼女は意識を取り戻した。彼女の視線は彷徨うように彼らに向けられていたが、トゥーリンを眼に止めると表情に光が差し、彼女の心は安らぎを覚えた。彼女は彼から離れたくないと思った。そしてトゥーリンは彼女に食べ物を与え、彼女が食べ終えると、氏素性やどうして彼処にいたのかなどと色々尋ねた。だがそれらに彼女は何も答えられず、さめざめと泣いた。そこで彼は無理にそれ以上問い詰めるようなことはせず、彼女を仮の名前としてニーニエル(涙の乙女の意)と呼んだ。以後ブレシルの民から彼女はそう呼ばれることとなる。翌日、彼らは彼女を伴って、彼らの住処であるエフェル・ブランディアへと向かった。しかしその途上ニーニエルが瘧にかかったように震え出し、高熱を発した。彼らが住処に到着するとそこで彼女は長いこと病の床につくこととなった。その間に彼女はブレシルの婦人から言葉を習い覚え、ブランディアの癒やしの術により快癒した。しかしハウズ=エン=エルレスの塚の上にいた事や、それ以前のことは何も思い出すことが出来なかった。ブランディアは彼女に物を教えるため、二人で森を歩くことが多くなり、次第に彼女に惹かれていったが、彼女の心は常にトゥランバールに向けられていた。やがてトゥーリンもニーニエルを難からず思っていたので、向けられる好意に応えるようになっていった。この頃ブレシルの民たちはオークに悩まされることがなくなってきていたので、トゥーリンも戦いには行かずその平和を享受しているうちに、ニーニエルに結婚を申し入れた。しかしニーニエルは彼を愛しているにも関わらず、この時はその申し入れを一旦断った。というのもブランディアが引き止めたからであった。それは決して恋のライバルとしての妬みからではなく、何とも言えぬ不吉な予感がしたからであった。そして彼はトゥランバールと名乗っているが、真の名はフーリンの息子トゥーリンであると明かした。何故かその名を聞いた時、彼女の面には影が差した。トゥーリンは振られるとは思っていなかったので、意気消沈したが、彼女からブランディアに待つよう忠告を受けたからだと聞くと不愉快になった。しかし翌年の春トゥーリンは再度求婚し、もし受け入れられねば自分はここを去り、荒野の戦いに戻ると断言した。彼女はついに受け入れ婚約し、夏至の当日に式を挙げた。ブレシルの民は二人のために美しい家を建てて送った。二人は幸せの内にそこに住んだ。だがブランディアは苦しみ、彼の心は影に覆われた。

トゥーリンがブレシルに来て三年の後、ナルゴスロンド王国全域を支配下に置いたグラウルングは、竜王のごとく振る舞い、オークを招集するとブレシルへの攻撃を開始した。グラウルングの主たるモルゴスは、エダイン三王家の最後の一つが、未だブレシルに留まっていることを知っていたからである。モルゴスが彼らの存在を見逃すはずがなかった。結局ブランディアの隠れ潜んで民を存続させる、という考えは所詮無駄な足掻きであった。しかしオーク達が来襲した際、トゥーリンは戦には出なかった。ニーニエルの懇願に負けたからであった。彼は本拠地が攻撃された時のみ出陣すると、彼女に約束していたからである。だが今回のオークの来襲は今までと違い、ブレシル攻略を目的としたものだったから、ドルラスや彼の仲間は苦戦した。そこでドルラス達はトゥランバールに対して、ブレシルの民の一人であるならオークと戦うべきであると非難した。止む無くトゥーリンはグアサングを取り出すと、ブレシルの男たちを大勢率いてオーク共を完全に敗北せしめた。生き残った少数がナルゴスロンドに帰り着き、グラウルングに事の次第を報告した。竜はそれを聞いて激怒したが、黒の剣がブレシルにいるというオークの報告についてつらつらと考え、しばらく伏したまま動かなかった。その年の冬は平和のうちに過ぎ、トゥランバールの武勇を皆讃えた。しかしトゥーリンは坐して思案に耽った。今や黒の剣の所在は明らかとなった。これが吉と出るか凶と出るか。試練の時である。真にトゥランバール―<運命の支配者>となって、定めに打ち勝つか、それとも敗れるか。何れにせよグラウルングは殺す。彼は決意した。己の運命に逃げず立ち向かうことを。

翌年の春ニーニエルは身籠った。その頃エフェル・ブランディアに、ナルゴスロンドからグラウルングが出撃した、という噂がもたらされた。トゥーリンは偵察隊を送り出した。今やハレスの族は彼の差配に従い、ブランディアに注意を払うものは殆どいなかった。夏が近づく頃、竜はブレシルの国境近くで横たわり、住民たちに恐慌をもたらした。グラウルングは北のアングバンドへ帰るのではなく、ブレシルを襲うつもりでいることが明らかであったからである。だが使者の報告で、グラウルングがナルゴスロンドからこちらへ向かって一直線に進んで来ていることを聞くと、トゥーリンの心に望みが生じた。もしこのまま真っ直ぐにブレシル目指して竜が進むのなら、途中にある深い峡谷を超えなければならないからである。トゥランバールはブレシルの民に、全軍でこの竜にあたっても勝ち目はないこと、必要なのは狡知と幸運と少人数の腕利きだけだと述べ、他の者達には最悪の状況、竜にこの地が蹂躙されるのに備えて避難の準備をするよう言った。不安に惑う民たちに、トゥーリンはグラウルングがアザガールの一撃で逃げ帰った故事を引き合いに出し、彼はこれからグアサングを持って全力で竜の腹を狙うことを告げた。グアサングを引き抜き、高く掲げたトゥランバールは、ブレシルの黒き刺と呼ばれ喚声を受けた。そして自分と行動を共にする強者を募った。ドルラスがすぐに前に進み出たが、他に名乗り出るものはいなかった。そこでドルラスは人々を非難し、民の面前でブランディアの助言など役に立たぬと嘲りつつ、ハレス家の誉れのために働こうというものはいないのか、と叫んだ。ブランディアはこれに対して苦い思いを味わいつつも黙って耐えた。だがブランディアの身内であるフンソールがドルラスを叱責し、ブランディアにハレス家のために自分が彼の代わりに行くと言った。トゥーリンは三人で十分だろうと言いつつ、自分はブランディアを蔑ろにしているわけではなく、彼の賢さと癒やしの術は後々必要になるだろう、とフォローした。だがこれらの言葉はブランディアの苦い思いを一層強くさせただけであった。彼はフンソールにトゥランバールと行ってもよいが、許しは与えない、彼の影はフンソールに禍を呼ぶだろうとだけ言った。それからトゥランバールはニーニエルに別れを告げた。彼女は不安と悲しみで泣き崩れ、彼に取り縋った。しかしトゥーリンは自分は決して死なないと彼女に告げ、ドルラスとフンソールを伴って出立した。三人は遠くに竜から立ち上る煙を認める場所まで来た。卸も最後の斥候が待っていて竜はテイグリンの縁まで来ていることを伝えた。それを聞きトゥランバールは喜んだ。竜が迂回してテイグリンの渡り瀬に向かっていたなら、望みは潰えていたからだ。そして連れてきた二人に向かって、黄昏時になったらテイグリンに忍び寄り、気取られぬよう川までいけたなら、峡谷の底へ降りて激流を渡り、竜が動くときに通る道に出る、と言った。今やグラウルングは巨体であるゆえに、カベド=エン=アラスの峡谷を飛び移ろうとしているであろうから、そこを下から竜の土手っ腹を狙うという作戦であった。これを聞きドルラスは尻込みした。カベド=エン=アラスの峡谷は危険な場所だったからである。胆力のある健脚な男なら日中は渡れるかもしれないが、それを真夜中に渡河しようなどとは、この上なく危険なことであった。だが反対しても無駄であった。そして夕闇が落ちると彼らは行動に移った。

残されたニーニエルは不安の余り、このまま坐して待つ気にはなれず、結果を見届けるためトゥランバールの後を追った。そしてブレシルの民の多くも彼女に賛同し、彼女とともに出発していった。ブランディアは無謀であると言って止めたが、一団は聞き入れなかった。このため怒った彼は領主の地位を放棄し、トゥランバールを後釜に据えるがいいと言って、自分を歯牙にもかけなかった民への愛情を捨て去った。そしてニーニエルへの愛のためだけに松葉杖と滅多に挿さぬ剣を腰に、彼女たちの後を追ったが、足が不自由な彼は一団から遥かに遅れてしまった。

辺りが闇の帳に覆われた頃、ついにトゥーリン一行はカベド=エン=アラスに到達し、激流の流れる音が、他の音を消し去ってくれることを期待して、峡谷を這い降りて底に到着した。だがそこでドルラスの心は怯んだ。テイグリンの川は激流であり、しかも川には大きな石や岩が突き出していたからだ。それでもトゥーリンは先頭に立って進み、ついにこの流れを渡りきった。続いてフンソールも渡りきった。彼はハレスの族の中でも武勇において人後に落ちない者だったからである。しかしドルラスは渡ることが出来ず、引き返して森に隠れ潜んだ。テイグリンを渡りきった二人はドルラスに構わず、グラウルングの寝ている場所に向かって北上する道を探り始めた。峡谷は暗く狭くなり、手探りで進む中、二人はついに上方に火のちらつきを見つけると同時に竜の巨大な鼾を聞いた。そこで崖っぷちに近づくため、闇の中手探りで登り始めた。竜の腹を狙うためである。その時大きな音がし峡谷に谺した。グラウルングが眠りから覚め、ついに動き始めたのである。ブレシルを襲撃するために。だが事はトゥーリンの思い通りに運んでいた。竜は火を吐きながら、まず頭の部分を峡谷に渡し、その鉤爪で向こう岸になる崖をしっかり掴むと、次いでその長い体を向こう側に引きずり始めたからである。二人は大胆かつ迅速に動く必要に迫られた。というのも、竜の吐く炎は免れたものの、グラウルングの進路からは逸れた所にいたため、竜の真下まで急いで崖を横断しなければならなくなったからである。危険も顧みず、トゥーリンはよじ登って竜の真下まで行こうとしたが、その熱と悪臭に足がよろめき、崖から落ちそうになった。しかし後に続くフンソールが彼の腕を掴んで落下を防いでくれた。トゥーリンは思わず、大した胆力の持ち主だと彼を賞賛し、彼をパートナーにしたことが幸いしたと言った、その直後に大岩が崩れ落ちて来て、フンソールを直撃し彼は水中へと落ちていった。これが彼の最期であった。トゥーリンは自分に投げかけられた影が、新たな犠牲者を生んだことを嘆きつつも、一人竜に立ち向かうことを決心した。彼は持てる限りの意志と力を奮い起こし、そして竜とその主への憎しみから、グラウルングが峡谷を渡り終える前に、崖の横断に成功し、竜の真下まで来た。その時丁度竜の体の中央部が上を通り過ぎようとしているところだった。その巨体は重さの余り、トゥーリンの頭上すれすれまで撓んでいた。そこでトゥーリンは黒の剣を引き抜くと、竜の腹に柄まで通れとばかりに深く刺し貫いた。グラウルングはその致命的な一撃に、絶叫を発した。竜が断末魔の苦しみにのたうった際、トゥーリンの手からグアサングはもぎ取られた。竜は苦しみの余り向こう岸にまでその身体を投じ、悶え咆哮を上げると、その苦悶から暴れ回り、周囲を火と巨体で破壊すると、ようやく煙と焦土の中に長くなってピクリとも動かなくなった。トゥーリンは凄まじい疲労を覚えたが、這うように再度渡河すると、もと来た崖をよじ登った。そして竜の断末魔の場に来ると、ついに仕留めた仇敵をつくづくとうち眺めた。そこで彼は竜に近寄ると、腹に足をかけ、グアサングの柄を握り引き抜こうと力を入れた。その際にナルゴスロンドの城門前で、彼を嘲弄したグラウルングの言葉をもじって竜を嘲ると同時に、別の名の者を待つ必要はなかったなとも蔑んだ[4]。そして彼は剣を引き抜いたが、その時竜から吹き出した黒血が、その毒で彼の手を焼き、痛みに思わず彼は声を上げた。そこへ、まだ死んでいなかったグラウルングが邪眼を見開き、トゥーリンを凝視したため、彼は意識を失って、死んだように竜の側に打ち倒れた。

グラウルングの断末魔の叫びはニーニエルたち一行のもとにまで響いた。そこで皆恐怖し、竜が襲撃者を打ちのめし、勝利を収めたのではないかと疑った。しかしその場から敢えて動くようなことはしなかった。というのも、グラウルングが勝利したならばブレシルの拠点、エフェル・ブランディアへと向かうだろうと聞いていたからである。そこで彼らは竜の気配を伺っていたが、様子を探りに行くほどの剛の者はいなかった。ニーニエルはグラウルングの声を聞くと同時に、心が闇で覆われただ身を震わせるだけだった。そこへブランディアがやって来た。彼はようやく一団に追いついたのである。その場で、竜が川を渡ったことと、ブレシルの黒い棘と他の二人は死んだのだろう、という話を聞いた彼はニーニエルを憐れんだ。だがふと、黒の剣は死んだがニーニエルは生きている、そして竜はブレシルの拠点へと行ってしまっただろうと考え、彼はその間にニーニエルを連れて、共に逃げ出そうとした。自分を蔑んだ民のことはどうでも良かった。そこで彼女の手を取ると、テイグリンの渡り瀬に続く道を下っていった。その時彼女は立ち止まり何処へ行くのか尋ねた。ブランディアは竜から逃げるために遠くへ一緒に逃げるのだ、と答えたが、彼女は夫の元へ連れて行くのだとばかり思っていた、自分は夫を探すからブランディアは好きな様にすればいいと言うと、彼を置いてさっさと竜の渡河した方向へ進んでいった。ブランディアは呆気にとられていたが、一人で行ってはいけないと制止しつつ、慌てて自分も彼女の後を追った。だが彼はその足の不自由さ故に引き離された。どんどん先を進む彼女はハウズ=エン=エルレスに着いた。すると不意に恐ろしさに襲われ、一声叫ぶと背を向けマントを脱ぎ捨てて、白い衣装を月光に煌めかせながら、川沿いに南方向へ向けて走りだした。ブランディアは山腹からその姿を認め、彼女の通る道と出会う方向へと向かった。それでも彼はまだ彼女に追いつけなかった。そしてニーニエルはついに竜と彼女の夫が横たわっている場所にやって来たのである。月は冴え冴えとした光を投げかけ、辺りを照らしていた。彼女は竜の体と側に倒れている男を眼にした。彼女は恐怖も忘れて、最愛の夫であるトゥランバールの許へ駆け寄ると必死に声をかけ介抱した。だが応えはなかった。彼女の叫びを聞きつけたブランディアもその場に辿り着いた。しかし彼は動けなかった。というのも、ニーニエルの声に反応してグラウルングが身じろぎしたからである。竜はその邪眼を彼女に向けると断末魔に喘ぎながら言った。また会ったな、フーリンの娘ニエノールよ、喜ぶがいい、ついに兄妹が相見えたのだからと。そしてここにいるのが彼女の兄トゥーリンに他ならず、様々な禍事を行く先々で齎す者で、その中でも最悪の行為は、彼女自身が肚の中に感じているであろうと告げた。こうしてグラウルングは死んだ。ニーニエル、今やニエノールは愕然として座り込んだ。竜の死とともに忘却の呪いが取り払われ、すべての記憶が戻ってきた。彼女は恐怖と苦悩で震えた。それを聞いていたブランディアは恐ろしさの余り、木に縋り付いた。それからニエノールは突如跳ね起きると、トゥーリンを見下ろして別れを告げた。さようなら、二重に愛するお方よ、と。そして彼女は半狂乱になってその場を離れた。ブランディアは待つよう制止したが、彼女はもう全てが遅いと答えて彼の前から走り去り、カベド=エン=アラスの崖の縁に来ると、テイグリンの川に向かって呼ばわった。水が自分を抱きしめてくれるよう、ニエノール・ニーニエルを海まで運び去ってくれるよう。そうして彼女は崖から身を投げ、轟く激流の中へ消えたのである。

ブランディアは恐ろしさの余りその場を離れた。道中ドルラスと出会い、この男が仲間を見捨て、森に隠れ潜んでいたことを知り激高した。そして黒の剣をそそのかし、竜を呼び寄せ、フンソールの死を招いたのはお前のせいだと詰ると、ドルラスを斬り殺した。そして民のもとへ戻ると、竜とトゥランバールが死んだことを吉報だと述べ(これに民は彼は気が触れたのではないかと疑った)、さらにニーニエルも死んだことを伝えた。そして二人が実はフーリンの子で兄妹であったことも。そしてニエノールは川に身投げしてしまったから、トゥーリンの墓を作ろうと一団はその場を離れた。

ニーニエルが走り去るのと同時にトゥーリンは身じろぎした。彼女の声が聞こえたような気がしたからである。だが彼は疲労の余りこんこんと眠り続けていた。そして暁頃に眼を覚ました。ふと竜の毒血で焼かれた手を見やると手当がしてあった。それなのに地面に置き去りにされていたのが彼には解せなかった。そして疲れきった身でグアサングに縋りつつ、もと来た道を戻っていった。その時に彼を埋葬しようとしていたブランディア一行と行き会ったのである。人々は彼を見ると驚き恐れて後退った。亡霊ではないかと思ったのである。それにトゥーリンは自分は生きていること、竜は倒したことを言うと、誰かがブランディアを愚か者と呼んだ。彼が偽りの話をしたと思ったのである。しかしトゥーリンは、毒血で負った傷の治療をしてくれたのがブランディアだと勘違いし、愚か者呼ばわりした者を叱責した。そして知りたいことはたくさんあるが、まずニーニエルはどこにいるのかと尋ねた。しかし皆それに答えられず、ブランディアがここにはいないと答えた。彼女は死んだのだと告げた。それに対してブランディアに好意を持たないドルラスの妻が、ブランディアは気が触れているから聞き流せ、とトゥーリンに言った。トゥーリンの死を吉報だと言ったりしたのだからと付け加え、ニーニエルの話も何処まで本当やらと疑問を呈した。そこでトゥーリンはブランディアに近づくと、自分の死がいい知らせとはどういうことだと詰め寄り、ニーニエルのことで自分に嫉妬しているのか曲がり足めと侮辱した。ブランディアの心は怒りの方が憐れみに勝り、ニーニエルは身投げして死んだと言い、しかしそれはトゥーリンのせいであり、彼から逃げるため、彼に二度と会わぬためだからだと言った後、彼女がフーリンの娘ニエノールだと明かした。そしてグラウルングの死の間際の言葉を再現してみせ、トゥーリンに対して彼は彼の身内にも、彼を匿った者達にも禍をもたらす者だと言い返した。これを聞いたトゥーリンは、グアサングを握ると残忍な眼でブランディアを見た。というのもブランディアの言葉に、自分に追いつこうとしている運命の足音を聞いたからである。けれども彼の心はそれを認めようとはしなかった。ブランディアは己の死を予感したが怯まずに、自分は死を恐れはしない、愛するニーニエルを探しに行き、彼女を再び見出すのだと言った。激怒したトゥーリンは、偽りを吐くお前が見出すものはグラウルングだ、お前の魂の友である長虫とともに闇の中で朽ちるがいい!と叫びブランディアを斬殺した。それから彼は走り去るとハウズ=エン=エルレスにたどり着き、フィンドゥイラスの名を呼び良い智慧を授けてくれるよう叫んだ。これからドリアスに向かってグラウルングの最期の言葉を確認すべきか、それともどこか戦場に死を求めるべきか、何れがより禍をもたらすのか彼にはわからなかったからである。丁度そこへマブルングが完全武装した一隊を引き連れてやって来た。彼らはブレシルの黒い棘を目指してグラウルングが出撃した事を聞き及び、力を貸すためにやって来たのであった。しかしトゥーリンから竜を斃したことを聞き及ぶと、エルフ達は驚嘆し大いに彼を褒めそやした。しかし彼はそれに構わず、ドリアスにいるはずの肉親について尋ねた。エルフ達は答えなかったが、ようやくマブルングがモルウェン母娘に訪れた凶運について話した。こうしてついに運命がトゥーリンを捕らえたこと、ブランディアを殺したのは不当なことであったことを彼は知った。トゥーリンは憑かれたように高笑いして、全くひどい冗談だと叫んだ。そしてマブルングたちに自分の前から失せろと繰り返すと、 ああ、呪われよ、呪われよ、呪われよ!メネグロスも、マブルング達の用向きも呪われてあれ!と狂気に侵された如く叫び、彼らの前から走り去った。後に残された者達は呆気に取られたが、マブルングはなにか恐ろしいことが起きたに違いないと考え、トゥーリンを助けるため彼を追いかけた。しかしトゥーリンは彼らの遙か先を走り、追いつけなかった。彼はカベド=エン=アラスにまで来ると、グアサングを引き抜き、剣に向かって問いかけた。グアサング、死の鉄よ!汝は如何なる血にも怯まぬであろう。汝、トゥーリン・トゥランバールを受けるや?速やかに我が命を奪うや?すると驚くべきことに、黒き剣は答えを返した。然り、と。汝の命を速やかに奪ってやろう、と刀身から冷たい声が響いた。そこでトゥーリンは地面に剣の柄を立て、グアサングの切っ先に身を投じた。黒き剣は彼の命を奪った。そこへマブルング達がやって来て竜とトゥーリンの亡骸を眼にした。ブレシルの民も来たことで彼らから一部始終を聞き、トゥーリンの狂気と死の原因を知って、驚きに打たれた。やがてマブルングが悲痛な口調で、自分もまた運命の網に捕らわれてしまった。こうして自分の言葉でトゥーリンを死に追いやってしまったのだから、と言った。それから彼らがトゥーリンを担ぎあげると、黒の剣が粉々に砕けているのを見た。エルフと人間は多くの木々を集めると、竜の骸を焼き灰にした。そしてトゥーリンが倒れていた所に高い塚山を築くと、彼をそこに葬った。グアサングの破片も傍らに埋められた。それら全てをなし終えるとエルフと人間の詩人が哀悼の唄を歌い、大きな灰色の石を塚山の上に立てた。そこにはドリアスのルーン文字で、

              トゥーリン・トゥランバール ダグニア グラウルンガ
                      ニエノール・ニーニエル

と刻まれた。しかしその塚山に彼女はいない。テイグリンの激流が、彼女を何処かへと運び去ってしまったからである。

かくしてベレリアンドの全ての物語詩の中で、最も長いフーリンの子らの物語は終わる。

以下カット部分

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  • エルフと人間との出会い

ノルドールがベレリアンドに来て300年以上経った平和な時代に、ナルゴスロンドの王となったフィンロドはシリオンの東に旅をし、青の山脈(エレド・ルイン)の山並みに向かった。夕闇の訪れる頃、彼はそこでベレリアンドにやってきた人間、ベオルらの一族と出会った。彼らはそこで親交を結びフィンロドを主君としフィナルフィン王家に忠誠を尽くすこととなり、アムロドアムラスの国に住む場所を定めた。しかしオッシリアンドのエルフらは人間を嫌い彼らを冷遇した。そのため次にやって来たハラディンの一族は北上してカランシアの収めるサルゲリオンに定住した。カランシアは人間の存在を殆ど歯牙にもかけていなかったからである。マラハ(Marach)の一族が最後にやって来たが、彼らは背が高く好戦的な輩だったので、オッシリアンドのエルフ達も手が出せなかった。しかしマラハの一族はベオルの一族と友好関係にあったため、そちらの近くへと移り住んでいった。人間の来訪はエルフにとっても興味深いことで、フィンロド以外の様々なエルフ達が人間のもとを訪れた。しかしシンゴル王は人間の来訪を歓迎せず、ドリアスは人間に対しては閉ざされたままであった。そして<第二の民>という意味であるエダインという言葉が彼らに使われ、後にエダインはエルフの友である三氏族についてのみ使われることとなる。フィンゴルフィンはノルドールの上級王として彼らを歓迎したため、多くの人間の若者がエルダールの王侯貴族に使えた。その中のマラハ(Malach)は14年間ヒスルムに定住しアラダンの名を与えられた。そして約50年後には何万という人間が西方のノルドール三王家の土地に入った。ベオルの一族はドルソニオンに来てフィナルフィン王家の土地に定住した。マラハの一族は後にはハドルの一族と呼ばれるようになり、ドル=ローミンに定住することとなる。またハラディンの一族は後にオークに襲われたことで、ハレスという名の女性に導かれてブレシルの森へと移っていった。しかし人間の間には不平分子もいて、エルダールを恐れかつ彼らに使えるのを良しとしないものも多かった。西の地に光明があると聞いて来てみれば、実際は暗黒の王とエルフたちの戦争の真っ最中であったため、それを厭うてエレド・ルインを再び超えてエリアドールに戻っていくものや、遥か南の方へと去っていった者たちも多くいた。こうした者達を除いて、エルダールのもとに集った人間たちは知識と技能を教授され、その智慧と技は勝っていき、ついにはエレド・ルインの東に住み、エルダールに会ったことも教えを受けたことのない、他の全ての人類を凌駕するに至ったのである。

  • ゴンドリン

この頃隠れ王国ゴンドリンはアマンのエルフの都ティリオンにも比す程の美しい都となった。しかしゴンドリンの中でも、最も美しいものはトゥアゴン王の娘イドリルであった。環状山脈の中ではゴンドリンの民も増え栄えていったが、200年ほど経つとトゥアゴン王の妹アレゼルはゴンドリンに倦み、広大な大地と森林に強く心を惹かれるようになった。そして彼女は王の許しを得ると、昔の友人フェアノールの息子ケレゴルムに会いに行こうとした。しかしそこへ行くにはドリアスを通らねばならず、彼女はフィナルフィン王家の者ではなかったため通行は許されなかった。そこでアレゼルは無謀にもナン・ドゥンゴルセブの危険地帯を通過しようとした。そこは昔バルログらから逃れたウンゴリアントが一時期棲み着いていた場所で、今も彼女の子孫の大蜘蛛達が徘徊する所であった。ここで大蜘蛛に襲われたアレゼルは護衛のものとはぐれてしまったが、運良く窮地を脱しケレゴルムとクルフィンの住んでいた場所に到着した。しかし折り悪く、二人は留守であった。そのため二人が帰ってくるまでそこに留まっていたが、ある時遠くまで馬を進めすぎた時、<暗闇エルフ>と呼ばれるシンゴル王の縁者エオルに見つかり、彼女に魅入られ我が物にしたいと思ったエオルは、魔法を用いて彼女を自分の住まいに引き寄せた。アレゼルはそのままそこに留まった。二人は結婚したからである。アレゼルにとっては意外なことにこの婚姻は不本意なものではなかったようで、そこでの生活もそれなりに気に入っていたようであった。そして4年後に二人の間に子が生まれる。この子はアレゼルから密かにクウェンヤでローミオンと名付けられ、エオルは息子が12歳になったのを機にマイグリンと名付けた。マイグリンは外見は母方のノルドール族に似ていたものの、内面は父方の性格を濃く受け継いでいた。しかしマイグリンは父よりも母を慕っており、母からノルドールの話を聞かされてはそれに憧れていた。マイグリンは父に母方の同族と会ってみたいと言ってみたが、エオルはノルドール族を嫌っていたため許されなかった。またアレゼルの方も縁者に再び会いたいという気持ちが募ってきた。やがて長の年月が経ち、ある時ドワーフ達の祝宴に呼ばれてエオルが出かけた際、マイグリンとアレゼルは脱走を図った。二日後に帰ってきたエオルはこれを知ると直ちに追いかけ、必死になって二人を探した。そして運の悪いことにアレゼルとマイグリンが乗り捨てた馬の嘶きから、エオルは隠れ王国に通ずる秘密の通路を探しだすことに成功し、ゴンドリンに連行されてきた。エオルはマイグリンを連れて出て行く権利を主張したがそれは聞き入れられなかった。隠れ王国に通ずる道を知ってしまったからである。トゥアゴン王はエオルにここに永久に留まるか死を選ぶか迫った。エオルは後者を選ぶと同時に、隠し持っていた投槍をマイグリンに投じたが、アレゼルが息子の盾になった。大した傷は追わなかったものの、この槍には毒が塗られていたため、アレゼルは命を落とした。それ故エオルは切り立った絶壁から投げ落とされ処刑された。しかしこのマイグリンが後にゴンドリンの破滅のもととなるとはこの時誰も予想し得なかった。

  • フーリンとフオルの少年時代

この頃ブレシルに移住していたハレスの一族は、最初のうちこそ北方の戦の影響を受けずにいたが、第四の合戦後はオークたちも南にまで姿を現すようになり、屡々戦闘が行われた。ハレスの一族はシンゴル王はともかく、ドリアスの国境警備隊とは親交を保っていたため、警備隊長のベレグがシンダールの大部隊を率いて救援に駆けつけ、ハレスの一族と共にオーク軍を壊滅させた。このためオークはそれから暫くの間南方には攻め寄せてこなかった。丁度この時ハドルの一族のフーリンとフオルは、ドル=ローミンではなくブレシルにいた。母親がハレスの一族出身だったからである。この兄弟もオークとの戦闘にわずか13歳で従軍したのだが、共にオークに捕らえられるか殺されるかの危機に陥った。しかしシリオンの川にはウルモの力が強く働いていたため、濃霧が立ち昇り二人を間一髪のところで脱出させたのである。その後二人は大鷲王ソロンドールに見つかり、配下の大鷲によって救助され、隠れ王国ゴンドリンへと運ばれた。彼らはそこで一年の間暮らした後、王に暇乞いを告げた。彼らは空からやってきたため、秘密の入口を知らないことからトゥアゴン王も許しを与えた。王と異なり二人を嫌っていたマイグリンは当て擦りを言ったが、兄弟はここで過ごした一年は決して他言しないと王に誓った。そして二人は来た時と同じように大鷲に運ばれてゴンドリンを去った。二人は一年もの間何処にいたのか、一族縁者両親からも聞かれたが決して答えなかったため、父親のガルドールはそこで尋ねることをやめて、推測し本当のことを考え当てた。この兄弟の不思議な話はモルゴスの間者の知るところとなった。

  1. ^ 彼にはアンドヴィーア(Andvír)という息子がいて、彼も無法者の一員にいたと『中つ国の歴史』にはある。彼は後のバル=エン=ダンウェズにおける虐殺を生き延び、シリオンの港へと避難し、そこでディーアハヴェルがナルン・イ・ヒーン・フーリンを作るのを手伝ったとある。おそらくドリアス出奔後から無法者としての生活、その後ゴルソルとして活動するまでのトゥーリンのことを話したのだろう。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins, 311頁及び314から315頁
  2. ^ 刊行された『シルマリルの物語』では竜の兜はバル=エン=ダンウェズの虐殺以降登場しない。しかしトールキンはこれを後々まで登場させる意図があった。だがそのためにはトゥーリン救出の際に、兜も取り戻されていることにしなければならない。この点に関しては些かの問題はあるが、ここではトールキンの意図に従うこととする。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 215-216頁
  3. ^ これも『シルマリルの物語』と展開が異なるが、トールキンが意図していたものに従った。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 216頁
  4. ^ これも『シルマリルの物語』と展開が異なるが、グラウルングを退治した際も彼は龍の兜を身に帯びていて、竜の死の際に別の名の持ち主に関して竜を嘲るとの意図があったようである。ここではそれに従う。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 216頁