コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ハゴロモモ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハゴロモモ科

(上)1a. ジュンサイ
(下)1b. ハゴロモモ属の1種
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: ハゴロモモ科 Cabombaceae
学名
Cabombaceae A.Rich. (1822)[1]
タイプ属
ハゴロモモ属
Cabomba Aubl. (1775)[2]
シノニム
和名
ハゴロモモ科、ジュンサイ科[注 1]
英名
water-shield family[4],
fanwort family[5]

ハゴロモモ科(ハゴロモモか、学名: Cabombaceae)は被子植物スイレン目に属するの1つであり、多年生水草であるジュンサイ属の1種とハゴロモモ属の約5種を含む[6][7][8]ジュンサイ科ともよばれる[注 1]

水中にを伸ばし、葉をつける。ジュンサイ属は主に楕円形の浮水葉をもつ浮葉植物であるが(図1a)、ハゴロモモ属は細かく分岐した沈水葉をつける沈水植物である(図1b)。は離生心皮(複数の雌しべ)をもつ3数性の同花被花萼片花弁が分化していない花)であり、水上で開花する(図1a)。ヨーロッパを除く[注 2]世界中の熱帯から温帯域にかけて散在的に分布している。日本にはジュンサイが自生し、古くから食材とされている。アメリカ大陸原産のハゴロモモ属(カボンバ)はアクアリウムでの鑑賞用に栽培され、本属のハゴロモモ(フサジュンサイ)は逸出して日本で野生化している。

特徴

[編集]

ハゴロモモ科に属する植物は、多年生水生植物である[9]地下茎は底泥中にあって節から不定根を生じ、水中へを伸ばす[3][4][9][13]菌根を欠く[13]。茎の維管束は散在する[13]。節は1葉隙2葉跡性[13]は水中茎から生じ、互生(螺生)、対生または3輪生し、葉脈は放射状(掌状脈)、托葉を欠く[3][4][5](下図2a, b)。ジュンサイ属は基本的に浮水葉(浮葉)のみをもつが(下図2a)、ハゴロモモ属は沈水葉(水中葉)を主とし、ときに浮水葉をつける[3][9](下図2b, 3c, d)。浮水葉の葉身は内巻き、ふつう楯状で葉柄が背軸面(裏面)中央付近につく[3][9][13][14](下図2a, b)。気孔は stephanocytic または不規則型[13]。アルカロイドを欠く[13]エラジタンニンガロタンニンをもつ(ジュンサイ)[13]師管色素体はS-type[13]。通気組織に富む[13]。粘液質の分泌毛をもつことがある[9][13]

2a. ジュンサイ: 右上は果実
2b. ハゴロモモ(フサジュンサイ): 右は雌しべ
2c. ハゴロモモの沈水葉

は比較的小さく両性、放射相称、3数性、水中茎の葉腋から生じた比較的長い花柄の先に1個つき、水上で咲く[3][4][5][9](上図2a, b, 下図3)。同花被花であり、外花被片内花被片は3枚ずつ輪生する[3][4][9](下図3)。花被片は基本的に離生するが、ハゴロモモ属では基部がやや合生する[13]雄蕊(雄しべ)は3–24個、輪生または螺生、花糸は細長く、離生する[4][9][13](下図3b)。葯は4花粉嚢からなり、側向から外向、縦裂開する[13][15]。花粉嚢のタペート組織はアメーバ型[3]。小胞子形成は連続型または同時型、花粉粒は単溝粒または三又溝粒[13]。花弁状仮雄しべはない[14]雌蕊(雌しべ)は離生心皮であり(基部でやや合着するものもいる)、3–24個[3][4][5][9](上図2b, 下図3a)。花柱は短く、柱頭は線状(ジュンサイ属)または頭状(ハゴロモモ属[3][4][9](上図2b, 下図3a)。子房上位であり、縁辺胎座から面生胎座、1心皮あたり胚珠はふつう1–3個[3][4][5][9]胚珠は倒生胚珠で2珠皮性、珠孔は内珠皮性[13][16]胚嚢は4細胞性(1個の卵細胞、2個の助細胞、1個の1核中央細胞)[3]胚乳(内乳)形成は遊離核型、胚乳は複相だが退化し、デンプンに富む周乳胚珠において胚嚢内ではなくそれを囲む珠心に養分が貯蔵された構造)が発達する[3][4]。果実は痩果または袋果状の非裂開果[4][9][13](上図2a)。種子は有蓋、仮種皮はない[4][9][13][16]。胚は小さい[13]

3a. ジュンサイ(雌性期): 白い部分は雌しべ
3b. ジュンサイの花(雄性期)
3c. ハゴロモモ属の1種の花、浮水葉と沈水葉
3d. ハゴロモモ属の1種の花、浮水葉と沈水葉

雌性先熟であり、雌しべ雄しべより前に成熟することで同花受粉を避ける[4][9](上図3a, b)。ハゴロモモ属内花被片上にそれぞれ1対の蜜腺をもち(上図3d)、おもにハエ目の昆虫によって花粉媒介される[3][4]。一方、ジュンサイの花は蜜腺を欠き、が揺れやすい風媒花であると考えられている[3][4]

分布・生態

[編集]
4. ジュンサイが生育する池(カナダ

ヨーロッパを除く[注 2]世界中の熱帯から温帯域に散在的に分布する[3][4]ジュンサイ北米から南米東アジア南アジアオーストラリアアフリカに分布し、ハゴロモモ属は北米から南米にかけて分布する[3][9][17](ただし下記のように世界中に帰化している)。

沈水性または浮葉性の水生植物であり、湖沼や河川などの淡水域に生育する[4](図4)。

人間との関わり

[編集]

日本では、粘液質で覆われたジュンサイの若芽を吸い物酢の物として古くから利用している[9](図5a)。この粘液質はガラクトマンナンを主成分とし[18]葉柄の裏面などに存在する分泌毛から分泌される[9]

ハゴロモモ属(カボンバ)のいくつかの種は、アクアリウムでの観賞用として金魚熱帯魚とともに栽培される[4][9](図5b)。特にハゴロモモ(フサジュンサイ)は世界中で利用されており、日本を含めて逸出して帰化した地域も多い[12]

系統と分類

[編集]

ハゴロモモ科はスイレン科に近縁であり、ともに水草で内巻き・楯状のをもつ[3][14]。スイレン科に含める(スイレン科の1亜科とする)ことも多かったが[19]新エングラー体系など)、水中茎をもつこと、花被片雄しべが3数性で輪生していること、雌しべが離生心皮であることなどの点でスイレン科のものとは異なり、2021年現在では別科に分類することが多い[3][4][5][8][10]。ただし分子系統学的研究からは、ハゴロモモ科の2属がスイレン科に含まれる可能性も否定できないともされる[20]

ハゴロモモ科とスイレン科は明瞭な単系統群を形成しており、さらにこの系統群の姉妹群ヒダテラ科である[3]。この3つの科はスイレン目にまとめられている[21]。スイレン目は被子植物の初期分岐群の1つであり、現生被子植物の中ではアンボレラ目に次いで2番目に分岐した植物群であると考えられている[3][10]

ハゴロモモ科には、ジュンサイ属の1種とハゴロモモ属の約5種の計2属約6種が含まれる[3](下表1)。

表1. ハゴロモモ科の種までの分類体系の一例[3][9][22]

ブラジル北東部の白亜紀前期(約1億1500万年前)の地層から報告されている Pluricarpellatia は、ハゴロモモ科に関係する植物であると考えられている[3](図6)。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ a b c 2021年現在、ジュンサイ科を標準名としている例も多い[9][10][11]
  2. ^ a b ただしハゴロモモ(フサジュンサイ)は世界各地に帰化しており、ヨーロッパからも報告されている[12]

出典

[編集]
  1. ^ WFO (2021年). “Cabombaceae Rich. ex A.Rich.”. World Flora Online. 2021年4月28日閲覧。
  2. ^ Eupomatiaceae Orb.”. Tropicos.org. Missouri Botanical Garden. 2022年4月15日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Stevens, P. F.. “Cabombaceae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年4月17日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Cabombaceae”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. p. 248. ISBN 978-1605353890 
  5. ^ a b c d e f Simpson, M. G. (2005). “Cabombaceae”. Plant Systematics. Academic Press. p. 143. ISBN 978-0126444605 
  6. ^ 文部省 & 日本植物学会(編) (1990). “植物科名の標準和名”. 学術用語集 植物学編(増訂版). 丸善. p. 621. ISBN 978-4621035344 
  7. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一(編) (2013). “生物分類表”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1645. ISBN 978-4000803144 
  8. ^ a b 大場秀章(編) (2009). 植物分類表. アボック社. p. 20. ISBN 978-4900358614 
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 伊藤元巳 (2015). “ジュンサイ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩(編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 45. ISBN 978-4582535310 
  10. ^ a b c 伊藤元己 & 井鷺裕司 (2018). 新しい植物分類体系. 文一総合出版. pp. 68–69. ISBN 978-4829965306 
  11. ^ 米倉浩司・梶田忠. “植物和名ー学名インデックスYList”. 2021年4月17日閲覧。
  12. ^ a b Cabomba caroliniana”. EPPO Global Database. European and Mediterranean Plant Protection Organization. 2021年4月21日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Johansson, J. T. (2013 onwards). “Cabombaceae”. The Phylogeny of Angiosperms. 2021年5月11日閲覧。
  14. ^ a b c Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “スイレン目/ハゴロモモ科”. 陸上植物の進化. 2021年4月17日閲覧。
  15. ^ Cabombaceae”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年4月20日閲覧。
  16. ^ a b Yamada, T., Imaichi, R. & Kato, M. (2001). “Developmental morphology of ovules and seeds of Nymphaeales”. American Journal of Botany 88 (6): 963-974. doi:10.2307/2657077. 
  17. ^ Brasenia schreberi”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年4月20日閲覧。
  18. ^ 角田万里子 & 三崎旭 (2004). “"じゅんさい" 多糖類の構造特性(特集 食品における多糖類の構造と物性 (3))”. 食品・食品添加物研究誌 209 (4): 298-304. NAID 40006185371. 
  19. ^ 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “種子植物門”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 224 
  20. ^ Gruenstaeudl, M. (2019). “Why the monophyly of Nymphaeaceae currently remains indeterminate: An assessment based on gene-wise plasti”. Plant Systematics and Evolution 305 (9): 827-836. doi:10.20944/preprints201905.0002.v1. 
  21. ^ APG III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 
  22. ^ Ørgaard, M. (1991). “The genus Cabomba (Cabombaceae)–a taxonomic study”. Nordic Journal of Botany 11 (2): 179-203. doi:10.1111/j.1756-1051.1991.tb01819.x. 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]