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火星 (エンジン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハ101から転送)

火星(かせい)は、第二次世界大戦期に三菱重工業開発製造した航空機用空冷星型エンジンである。社内呼称はA10、海軍略符号はMK4、陸軍ハ番号はハ101及びハ111、陸軍制式名称は一〇〇式一五〇〇馬力発動機、陸海軍統合名称はハ32

金星をベースに排気量を拡大したエンジンであり、の登場まで日本では最大の馬力を発揮したことから自社のみならず他社の機体にも多く採用された。

概要

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三菱が、本来大型機用として開発した金星が、出力不足で大型機には能力不足であるということが判明したため[要出典]、金星をベースにしてさらに大排気量のエンジンを開発することとなり、1938年(昭和13年)2月に開発に着手した。

このエンジンは海軍では十三試へ号と呼ばれ、1935年(昭和10年)2月に開発に着手した同一気筒寸法である海軍向けの一〇試空冷八〇〇馬力発動機を直接の原型とする。気筒径、行程長は以前製作していたイスパノ650馬力発動機と同じ[1][2]150mm×170mmとした。カムの前方集中配置など基本的な構造は金星を踏襲しているが、過給器は2速とし高高度性能の向上を図っている。

初号機は1938年(昭和13年)9月に完成、各種試験を経て1940年(昭和15年)に陸海軍に制式採用となった。

1940年(昭和15年)に火星一一型の量産が開始され、すぐに出力軸の減速装置を変更した火星一二型に移行する[注釈 1]。次いで1941年(昭和16年)には水メタノール噴射装置を採用し高回転化、高ブースト化した性能向上型が登場し、火星二◯型として採用されるようになる。この性能向上型に関しては、陸軍ではハ111という名称が割り当てられたものの、陸軍では火星の18気筒版とも言えるハ104を採用したため、ハ111を搭載した陸軍機は生産されることは無かった。

火星一◯型/ハ101の生産時期は、1938年(昭和13年) - 1944年(昭和19年)、総生産基数は計7,332基、火星二◯型/ハ111の生産時期は、1941年(昭和16年) - 1945年(昭和20年)、総生産基数は計8,569基であった。

型式

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火星一〇型

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一式陸上攻撃機に搭載された火星11型

初期シリーズ。

火星一一型(MK4A、ハ101相当)
最初の量産型。
火星一二型(MK4B)
出力軸の減速比を0.5に変更したもの。
火星一三型(MK4C)
雷電用に、延長軸と強制冷却ファンを装備したもの。この型から過給機インペラ径が320mmに変更されている。
火星一四型(MK4D)
強風用に、延長軸を備え二重反転プロペラに対応したもの。
火星一五型(MK4E)
火星一二型の高高度性能を向上させたもの。

火星二〇型

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一式陸上攻撃機に搭載された火星二一型

水メタノール噴射装置を搭載して回転数・ブースト圧を引き上げ出力を向上させたシリーズ。

火星二一型(MK4P)
基本型。
火星二二型(MK4Q)
火星二二甲型
二二型の燃料供給を燃料噴射装置に変更したもの。[3]
火星二三型(MK4RF)
雷電用に、延長軸、強制冷却ファンのほか三菱が自社開発した定時高圧ポート噴射式燃料噴射装置を搭載したもの。
火星二三甲型
二三型の発電機を大型化したもの。[3]
火星二三乙型
二三甲型を排気タービン過給機に対応させたもの。[3]
火星二三丙型
二三乙型の強制冷却ファンの直径を拡大したもの。[3]
火星二四型(MK4S)
紫雲用に、延長軸を備え二重反転プロペラに対応したもの。
火星二五型(MK4T、ハ111)
二一型の減速比を変更したもの。
火星二五甲型
二五型の高圧油ポンプを五一型に換装したもの。[3]
火星二五乙型
二五型の燃料供給を燃料噴射装置に変更したもの。[3]
火星二五丙型
二五甲型の燃料供給を燃料噴射装置に変更したもの。[3]
火星二六型(MK4U)
二三甲型の過給機増速比を増して全開馬力を引き上げ、プロペラ減速比を0.625に変更したもの。[3]
火星二六甲型
二六型のプロペラ減速比を二三甲型と同一(0.500)に変更したもの。[3]
火星二七型(MK4V)
二五型の高高度性能を向上させたもの。[3]

諸元

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火星一〇型諸元

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名称 ハ101 火星一一型 火星一二型 火星一三型 火星一五型
形式 空冷複列星型14気筒
内径×行程 150 mm × 170 mm
排気量 42.1 L
圧縮比 6.5
全長 1,575 mm 1,705 mm[4] 1,753 mm[4] 2,034 mm[4] 1,705 mm[4]
直径 1,340 mm
乾燥重量 700 kg 725 kg[4] 740 kg[4] 770 kg[4] 725 kg[4]
燃料供給方式 降流式キャブレター
過給機
形式 遠心式機械過給機1段2速
インペラ径 280 mm[5] 320 mm[5]
増速比 7.40、9.12[5] 7.40、9.12[4][注 1]
減速比 0.684 0.50 0.684
離昇馬力
馬力 1,410 PS (1,390 hp) 1,530 PS (1,510 hp) 1,460 PS (1,440 hp)
回転数 2,450 rpm
吸気圧 +240 mmHg +270 mmHg[6]
+250 mmHg[4]
+250 mmHg +250 mmHg[4] +250 mmHg
公称馬力
一速
馬力 1,410 PS (1,390 hp) 1,410 PS (1,390 hp)[6]
1,480 HP[4]
1,480 PS (1,460 hp) 1,420 PS (1,400 hp)
回転数 2,350 rpm 2,220 rpm[7]
2,350rpm[4]
2,350 rpm
吸気圧 +165 mmHg +180 mmHg +180 mmHg[4] +180 mmHg
高度 2,100 m 2,000 m[6]
2,200 m[4]
2,200 m 2,000 m[7]
2,600 m[8][4]
2,600 m
二速
馬力 1,250 PS (1,230 hp) 1,340 PS (1,320 hp)[6]
1,380 HP[4]
1,380 PS (1,360 hp) 1,300 PS (1,300 hp)
回転数 2,350 rpm 2,200 rpm[7]
2,350 rpm[4]
2,350 rpm
吸気圧 +165 mmHg +180 mmHg +180 mmHg[4] +180 mmHg
高度 4,000 m 4,000 m[6]
4,100 m[4]
4,100 m 6,000 m
出典 [4] [5][6] [9] [7] [6]

火星二〇型諸元

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名称 火星二一型 火星二二型 火星二三甲型 火星二五型
(ハ111相当)
火星二六甲型
形式 空冷複列星型14気筒
内径×行程 150 mm × 170 mm
排気量 42.1 L
圧縮比 6.5
全長 1,855mm[10] 1,753 mm[10] 1,945 mm[10] 1,705 mm[10] 1,990 mm[10]
直径 1,340 mm
乾燥重量 780 kg[10] 750 kg[10] 860 kg 760 kg[10] 805 kg[10]
燃料供給方式 降流式キャブレター 多点定時燃料噴射 降流式キャブレター[注 2] 多点定時燃料噴射
過給機
形式 遠心式機械過給機1段2速
インペラ径 320 mm[5] 320 mm[10][注 3] 310 mm[10][注 3]
増速比 7.00、9.12[5] 7.00、9.12[10][注 3] 7.7、10.1[11]
減速比 0.54 0.50 0.50[3] 0.625 0.50[注 4]
離昇馬力
馬力 1,850 PS (1,820 hp) 1,850 PS (1,820 hp) 1,820 PS (1,800 hp) 1,850 PS (1,820 hp) 1,760 PS (1,740 hp)[11]
1,820 HP[8]
回転数 2,600 rpm
吸気圧 +450 mmHg +450 mmHg[10] +450 mmHg +450 mmHg[10]
公称馬力
一速
馬力 1,570 PS (1,550 hp) 1,680 PS (1,660 hp) 1,600 PS (1,600 hp) 1,570 PS (1,550 hp) 1,590 PS (1,570 hp)[11]
1,510 HP[8]
回転数 2,500 rpm 2,500 rpm[10]
吸気圧 +300 mmHg +300 mmHg[10] +300 mmHg +300 mmHg[10]
高度 2,100 m 2,100 m 1,300 m 2,100 m 2,500 m[11]
2,800 m[8]
二速
馬力 1,300 PS (1,300 hp) 1,540 PS (1,520 hp) 1,510 PS (1,490 hp) 1,300 PS (1,300 hp) 1,400 PS (1,400 hp)[11][8]
回転数 2,500 rpm 2,500 rpm[10]
吸気圧 +300 mmHg +300 mmHg[10] +300 mmHg +300 mmHg[10]
高度 5,500 m 5,500 m 4,150 m 5,500 m 6,500 m[11]
7,200 m[8]
出典 [6] [12] [8] [6] [11][注 5]

諸元注

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  1. ^ 坂上茂樹 (2021, p. 459)は一三~一五型の増速比を不明としている。
  2. ^ 乙、丙は多点定時燃料噴射。[3]
  3. ^ a b c 坂上茂樹 (2021, p. 459)は不明としている。
  4. ^ 甲なしは0.625。[3]
  5. ^ 世界の傑作機 No.61 (1996, p. 18)では以下の通り。
    • 離昇馬力:1,820 PS (1,800 hp)
    • 公称馬力
      • 一速全開:1,510 PS (1,490 hp)(高度 2,800 m)
      • 二速全開:1,400 PS (1,400 hp)(高度 7,200 m)

注、表中 ? は文献に記載がないもの、不明は不明であると記述があるもの。

主な搭載機

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脚注

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注釈

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  1. ^ 火星一◯型取扱説明書に「一二型は一一型と減速装置を異にするのみにて、他はまったく同一なり」とある。

出典

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  1. ^ 松岡久光 2017, p. 91.
  2. ^ 坂上茂樹 2021, p. 458.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 海軍航空本部 1945.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 火星発動機一○型取扱説明書
  5. ^ a b c d e f 坂上茂樹 2021, p. 459.
  6. ^ a b c d e f g h i 旧 世界の傑作機 No.60 (1975, p. 42)
  7. ^ a b c d 世界の傑作機 No.53 (1995, p. 13)
  8. ^ a b c d e f g 世界の傑作機 No.61 (1996, p. 18)
  9. ^ 坂上茂樹 2021, p. 460.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 火星発動機二○型取扱説明書
  11. ^ a b c d e f g 堀越 二郎、奥宮 正武『零戦』(頁228)
  12. ^ 世界の傑作機 No.49 (1994, p. 19)

参考文献

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  • 海軍航空本部「航本機密第六〇號 航空発動機名称ノ件通知」『秘海軍広報』第4897号、20-21頁、1945年1月。JACAR:C12070516000 
  • 坂上茂樹「第III部 固定気筒空冷発動機の進化と三菱航空機・三菱重工業 - モングースから金星ファミリーまで」『三菱発動機技術史 - ルノーから三連星まで(訂正補足版)』〈大阪市立大学大学院経済学研究科 Discussion Paper No.79〉2021年8月。doi:10.24544/ocu.20171211-021 
  • 松岡久光『三菱 航空エンジン史 - 大正六年より昭和まで』グランプリ出版、2017年8月。ISBN 978-4-87687-351-7 
  • 柿健一 三菱航空発動機諸元纒め 火星発動機
  • 日本航空学術史編集委員会編 『日本航空学術史』
  • 世界の傑作機 No. 60『三菱一式陸上攻撃機』文林堂 1975年4月
  • 世界の傑作機 No. 49『2式飛行艇』文林堂 1994年11月 ISBN 978-4893190468
  • 世界の傑作機 No. 53『強風、紫電、紫電改』文林堂 1995年7月 ISBN 978-4893190505
  • 世界の傑作機 No. 61『三菱海軍局地戦闘機雷電』文林堂 1996年11月 ISBN 978-4893190581
  • 火星発動機二○型取扱説明書(火星21~25型) 第一版 海軍航空本部 昭和18年4月
  • 火星発動機一○型取扱説明書(火星11~15型) 第一版 海軍航空本部 昭和16年1月

外部リンク

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