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バクテリオファージQβ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
バクテリオファージQβ
分類
: 第4群(1本鎖RNA +鎖)
: レビウイルス科 Leviviridae
: レビウイルス Levivirus
: バクテリオファージQβ Bacteriophage Qβ

Qβファージプラス鎖RNAウイルスで、 F線毛を持つ細菌、最も一般的には大腸菌に感染する。そのゲノムは一本鎖で、直径28nmの二十面体キャプシドに包まれている[1]バクテリオファージQβは、F線毛の側面に結合した後、その宿主細胞に侵入する[2]

遺伝学

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Qβファージのゲノムは、ウイルスの配列の決定元にもよるが、約4,217ヌクレオチドである。 Qβファージは世界中で何度も分離されており、ほぼ同一のタンパク質をコードするさまざまな亜種があるが、ヌクレオチド配列としては大きく異なる。

ゲノムには、4つのタンパク質をコードする3つのオープンリーディングフレームがあり、A2成熟/溶解タンパク質、コートタンパク質、A1と呼ばれるコートタンパク質の終止コドンを読み飛ばしたリードスルータンパク質、レプリカーゼと呼ばれるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のβサブユニットである。ゲノムは高度に構造化されており、遺伝子発現を調節し、宿主のRNaseから自身を保護する[2]

コートタンパク質A1

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キャプシドは約178コピーのコートタンパク質A1からなる。

レプリカーゼ/ RdRp

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プラス鎖とマイナス鎖の両方のRNA鎖を複製するRNA依存性RNAポリメラーゼは、4つのタンパク質の複合体であり、このうちβサブユニット(レプリカーゼ、P14647)はファージゲノムにコードされ、他の3つのサブユニットであるαサブユニット(リボソームタンパク質S1)、γサブユニット(EF-Tu)、およびδサブユニット(EF-Ts)は細菌ゲノムにコードされている[3]

QβのRNAレプリカーゼの構造は解明されている(PDB: 3AGP, 3AGQ​)。2つのEFタンパク質は、レプリカーゼとRNA産物の両方のシャペロンとして機能する[4]。純粋なQβポリメラーゼは、大量に生産するには十分な可溶性がないため、代わりに、レプリカーゼと2つのEFサブユニットから構築された融合タンパク質が通常使用される。融合タンパク質はリボソームタンパク質S1とは独立して機能することができる[5]

成熟/溶解タンパク質A2

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バクテリオファージQβのライフサイクル

すべてのプラス鎖RNAファージは成熟タンパク質をコードしており、宿主の線毛とウイルスRNAに結合する機能を持つ[6]。 成熟タンパク質のアンバー変異体は宿主に感染できないか、「未成熟」であるため、成熟タンパク質と名付けられている。近縁のプラス鎖一本鎖RNAバクテリオファージMS2の場合、成熟タンパク質はウイルスRNAとともに宿主に取り込まれることが示され、その後成熟タンパク質が切断される[7]

MS2では、成熟タンパク質はウイルスRNAの最初のオープンリーディングフレームにあることからAタンパク質と呼ばれる。Qβにおいては、Aタンパク質はビリオン内により豊富にあり、感染にも必要であるため、当初はA1であると考えられていた[8]。しかし、Qβの配列が決定されると、A1は終止コドンの読み飛ばしのリードスルータンパク質であることが明らかになった。

A2はQβの成熟タンパク質であり、さらに溶菌タンパク質の機能を持つ[9]

溶菌のメカニズムはペニシリンのメカニズムと似ており、A2は、細胞壁生合成における最初の酵素反応を触媒するMurAに結合することにより、ペプチドグリカンの形成を阻害する[10]

実験

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バクテリオファージQβのRNAは、Sol Spiegelmanによる、より速い複製を促す実験に利用された。より短いRNA鎖が複製され、最終的には、Spiegelman's Monsterと呼ばれるRNA鎖になった。これは、Qβレプリカーゼによって複製できる218ヌクレオチドの最小RNA鎖である[11]

参考文献

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  1. ^ “Asymmetric cryo-EM structure of the canonical Allolevivirus Qβ reveals a single maturation protein and the genomic ssRNA in situ”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 113 (41): 11519–11524. (October 2016). doi:10.1073/pnas.1609482113. PMC 5068298. PMID 27671640. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5068298/. 
  2. ^ a b “Ongoing phenotypic and genomic changes in experimental coevolution of RNA bacteriophage Qβ and Escherichia coli”. PLoS Genetics 7 (8): e1002188. (August 2011). doi:10.1371/journal.pgen.1002188. PMC 3150450. PMID 21829387. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3150450/. 
  3. ^ “Single-stranded RNA phages. Chapter 15”. The Bacteriophages (Second ed.). Oxford University Press. (2006). pp. 175–196. ISBN 978-0195148503. https://archive.org/details/bacteriophagesed00abed 
  4. ^ “Assembly of Q{beta} viral RNA polymerase with host translational elongation factors EF-Tu and -Ts”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107 (36): 15733–8. (September 2010). doi:10.1073/pnas.1006559107. PMC 2936634. PMID 20798060. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2936634/. 
  5. ^ “Functional Qbeta replicase genetically fusing essential subunits EF-Ts and EF-Tu with beta-subunit”. Journal of Bioscience and Bioengineering 101 (5): 421–6. (May 2006). doi:10.1263/jbb.101.421. PMID 16781472. 
  6. ^ “Protein-RNA Interactions in the Single-Stranded RNA Bacteriophages”. Sub-Cellular Biochemistry (Springer Singapore) 88: 281–303. (2018). doi:10.1007/978-981-10-8456-0_13. ISBN 9789811084553. PMID 29900502. 
  7. ^ “Stages in phage R17 infection. V. Phage eclipse and the role of F pili”. Virology 45 (3): 615–28. (September 1971). doi:10.1016/0042-6822(71)90176-0. PMID 4108185. 
  8. ^ “Possible origin of a minor virus specific protein (A1) in Q-beta particles”. Nature 234 (50): 204–6. (September 1971). doi:10.1038/newbio234204a0. PMID 5288806. 
  9. ^ “Overproduction of bacteriophage Q beta maturation (A2) protein leads to cell lysis”. Cell 33 (3): 877–85. (July 1983). doi:10.1016/0092-8674(83)90030-2. PMID 6871998. 
  10. ^ “Structures of Qβ virions, virus-like particles, and the Qβ-MurA complex reveal internal coat proteins and the mechanism of host lysis”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 114 (44): 11697–11702. (October 2017). doi:10.1073/pnas.1707102114. PMC 5676892. PMID 29078304. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5676892/. 
  11. ^ Dawkins, Richard; Wong, Yan (2016). The Ancestor’s Tale. ISBN 978-0544859937