パツリバクター属
パツリバクター属 | ||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Patulibacter Takahashi et al. 2006[1] (IJSEMリストに記載 2006[2]) | ||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||
パツリバクター・ミナトネンシス Patulibacter minatonensis Monciardini et al. 2006[1] (IJSEMリストに記載 2006[2]) | ||||||||||||||||||
下位分類(種)[11] | ||||||||||||||||||
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パツリバクター属(Patulibacter)は真正細菌の放線菌門サーモレオフィラム綱パツリバクター科の属である[12][13]。
名称
[編集]Patulibacterは、ラテン語で「広がる」を表す男性形容詞"patulus"と新ラテン語で「桿菌」を表す名詞"bacter"を組み合わせた造語であり、「拡散して増殖する桿菌」を意味する[1]。
特徴
[編集]グラム陽性、好気性、非胞子形成性、カタラーゼ陽性[1]、オキシダーゼ可変性桿菌である[7]。運動性は可変である[3]。細胞壁ペプチドグリカンはmeso-DAPとアラニン、グルタミン酸を含むのが特徴であり、アセチル型である[1]。脂肪酸プロファイルではC18:1ω9cが主である[7]。ミコール酸は持たない[1]。主要なイソプレノイドキノンはDMK-7又はMK-7(H2)である[7]。GC含量は72-75 mol%である[7]。
種
[編集]パツリバクター・ミナトネンシス(Patulibacter minatonensis)
[編集]基準株はKV-614T(NRRL B-24346T、JCM 12834T、NBRC 100761T)。
minatonensisとは、新ラテン語で「"Minato"(港区)に関連する」を意味する男性形容詞である。この細菌が最初に発見されたのが東京都港区の土壌サンプルからであることに由来する。
白色または薄い黄色の透明に近い扁平なコロニーを形成する。細胞は1.2–1.5×0.6–0.7μmで、長い鞭毛を有し運動性を持つ。カタラーゼ陽性でオキシダーゼ陰性である。2%(w/v)NaClを含む培地では増殖しない。生育温度範囲は16~28℃である。主要なイソプレノイドキノンはDMK-7である。脂肪酸プロファイルではC18:1ω9cが支配的である。GC含量は72 mol%である[1]。
パツリバクター・アメリカヌス(Patulibacter americanus)
[編集]基準株はCP177-2T(ATCC BAA-1038T、DSM 16766T)である。サンプルの採取元が同じ参考株としてCP153-3(ATCC BAA-1037)が記述されている。
americanusは新ラテン語で「アメリカの」を意味する男性形容詞である。この細菌の基準株が最初に発見されたのがアメリカの土壌サンプルからであることに由来する。
コロニーは色素でピンク色を呈し、凸状で全体的に平滑且つわずかに粘液状である。運動性の有無は可変であり、運動する際は細胞を痙攣させる。カタラーゼ陽性且つオキシダーゼ陰性である。生育温度範囲は10–30℃で最適温度は25℃(37℃で生育しないことが確認されている)、生育pHはpH 5–9で最適条件はpH 7である。3%未満のNaCl濃度に耐性を持つ。支配的なイソプレノイドキノンはDMK-7又はMK-7(H2)である。脂肪酸プロファイルではanteiso-C15:0、anteiso-C17:0及びC18:1ω9cが主である[3]。
Patulibacter ginsengiterrae
[編集]基準株はP4-5T(KCTC 19427T、CECT 7603T)である。
ginsengiterraeは、新ラテン語で「朝鮮人参」を表す名詞"ginsengum"と「土」を表す"terra"を組み合わせた造語であり、「朝鮮人参の畑の土」を意味する。
0.4–0.6×0.8–1.0 µmの小型桿菌であり、極性単毛による運動性を持つ。TSA培地でクリーム系の半透明な白色の円形コロニーを形成する。オキシダーゼ及びカタラーゼ陽性である。生育温度範囲は5-37℃で最適温度は25℃且つ生育pH範囲は5.5-9.0で最適はpH 7.0である。3% NaCl濃度で生育し、5%以上では生育しない。インドールと硫化水素は発生させず、硝酸塩を還元しない。メチルレッドおよびフォーゲスプロスカウエル試験は陰性を示す。セルロース、Tweens 20及び80を加水分解し、エスクリン、カゼイン、DNA、ONPG、ゼラチン、デンプンは加水分解しない。卵黄寒天培地ではレシチナーゼ活性を示す。イソプレノイドキノンはDMK-7のみである。脂肪酸プロファイルでは、C18:1ω9cとanteiso-C15:0が支配的である。極性脂質は、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジルグリセロール、未知のリン糖脂質及び5つの未知のリン脂質を持つ。GC含量は74.6 mol%である[7]。
Patulibacter medicamentivorans
[編集]基準株はI11T(DSM 25962T、CECT 8141T)である。
medicamentivoransは、ラテン語で「薬」を表す名詞"medicamentum"と、ラテン語で「食べる」を表す形容詞"vorans"を組み合わせた造語であり、「薬を食べる」を意味する。この細菌は、薬効成分を分解する能力を持つ微生物を探索する研究で見出された。
カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、非運動性桿菌(0.3–0.4×1.0–1.1 µm)であり、TSA培地でのコロニーはクリーム系の半透明な白色で、不規則で波状の縁を持つ。至適成育条件は温度32℃且つpH 6–7.5である。1.5%(w/v)NaCl濃度では生育しない。硝酸還元能を示す。主要な呼吸キノンはDMK-7で、支配的な脂肪酸はC18:1CIS 9である。極性脂質はホスファチジルグリセロール(PG)、ジホスファチジルグリセロール(DPG)、及び4つの未知のリン脂質である。GC含量は74.1mol%である[9]。
パツリバクター・ブラシカエ(Patulibacter brassicae)
[編集]基準株はSDT(CICC 24108T、KCTC 39817T)である。
brassicaeは、ラテン語で「キャベツ」を表す名詞であり、この細菌が発見されたのはChinese cabbageの根圏土壌であることに由来する[5]。
非運動性桿菌(0.3–0.4×1.0–1.2µm)であり、TSA培地でのコロニーはクリーム系の半透明な白色で、不規則で波状の縁を持つ。生育条件は10-42℃(最適温度30℃)且つpH 5.5-12.0(最適pH 7.0)であり、3%(w/v)以上のNaCl濃度では生育しない。硝酸還元、メチルレッド、インドール生成、硫化水素生成、及びカゼインやDNAの加水分解試験では陰性であり、カタラーゼ、オキシダーゼ及びフォーゲスプロスカウエル試験では陽性を示す。イソプレノイドキノンはDMK-7のみである。脂肪酸プロファイルではC18:1ω9cが支配的である。細胞壁ペプチドグリカンには、アラニン、グルタミン酸、ロイシンとメソジアミノピメリン酸が含まれる。極性脂質はホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、及び3つの未知のリン脂質である。
系統樹
[編集]16S rRNA遺伝子配列に基づく近隣結合法により作成された系統樹を下記に示す[5]。
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歴史
[編集]- 2006年に、最初の菌種であるパツリバクター・ミナトネンシス(Patulibacter minatonensis)が東京都港区の土壌サンプルから発見されたことが報告され、同時にルブロバクター綱(Rubrobacteria)ルブロバクター目(Rubrobacterales)の新属としてパツリバクター属と新科としてパツリバクター科(Patulibacteraceae)が提案された[1]。この細菌は、細菌のコロニー形成を促進する化学因子を特定し用いれば、通常の寒天平板への分離培養ではコロニーを観測できない未発見の微生物を検出できるのではないか、この因子としてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が有用ではないかを検証する実験で検出され、このことはその仮説の裏付けとなった[14]。
- 2009年に、米国コロラド高原で採取されたBiological soil crust (BSC)からのパツリバクター・アメリカヌス(Patulibacter americanus)の発見が報告され、同時に、ルブロバクター目内の科は系統学的に深く分岐していることが明らかとなったことから、ルブロバクター目から分離されたルブロバクター綱の新目としてソリルブロバクター目(Solirubrobacterales)とサーモレオフィラム目(Thermoleophilales)が提案された。このとき、パツリバクター科とパツリバクター属はソリルブロバクター科(Solirubrobacteraceae)とコネキシバクター科(Conexibacteraceae)とともにソリルブロバクター目に割り当てられた[3]。パツリバクター・ミナトネンシスは鞭毛を持つ運動性細菌であったがパツリバクター・アメリカヌスは運動性の有無が可変であったなど、相違点があったため、パツリバクター属の記述が修正された。
- 2012年に、韓国錦山郡の朝鮮人参畑で採取された土壌サンプルからのPatulibacter ginsengiterraeの発見が報告された。オキシダーゼ陰性のそれまでの2種と異なりPatulibacter ginsengiterraeは陽性であったたなど、相違点があったため、パツリバクター属の記述が修正された[7]。
- 2013年に、ポルトガルリスボンにあるBeirolas wastewater treatment plantの活性汚泥からのPatulibacter medicamentivoransの発見が報告された。この発見は、廃水処理過程において薬効化合物を分解する能力を持つ微生物を探索する研究に基づいており、唯一の炭素源としてイブプロフェン l−1のみを添加された培地で活性汚泥中の微生物は培養され、最も分解能が高い微生物としてPatulibacter medicamentivoransは検出された[9]。
- 2017年に、中国山東省のChinese cabbage(Brassica campestris)の根圏土壌からのフタル酸エステル分解菌株のスクリーニングによって、パツリバクター・ブラシカエ(Patulibacter brassicae)が発見されたことが報告された[5]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h i Yōko Takahashi, Atsuko Matsumoto, Kurimi Morisaki, Satoshi Ōmura (01 February 2006). “Patulibacter minatonensis gen. nov., sp. nov., a novel actinobacterium isolated using an agar medium supplemented with superoxide dismutase, and proposal of Patulibacteraceae fam. nov.”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 56 (2): 401-406. doi:10.1099/ijs.0.63796-0. PMID 16449447.
- ^ a b c “Notification that new names and new combinations have appeared in volume 56, part 2, of the IJSEM”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 56 (5): 929-930. (01 May 2006). doi:10.1099/ijs.0.64327-0.
- ^ a b c d Gundlapally S. N. Reddy, Ferran Garcia-Pichel (01 January 2009). “Description of Patulibacter americanus sp. nov., isolated from biological soil crusts, emended description of the genus Patulibacter Takahashi et al. 2006 and proposal of Solirubrobacterales ord. nov. and Thermoleophilales ord. nov.”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 59 (1): 87-94. doi:10.1099/ijs.0.64185-0.
- ^ “Notification that new names and new combinations have appeared in volume 59, part 1, of the IJSEM”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 59 (4): 645-646. (01 April 2009). doi:10.1099/ijs.0.013045-0.
- ^ a b c d Decai Jin, Xiao Kong, Honghong Li, Luyun Luo, Xuliang Zhuang, Guoqiang Zhuang, Ye Deng, Zhihui Bai (01 December 2016). “Patulibacter brassicae sp. nov., isolated from rhizosphere soil of Chinese cabbage (Brassica campestris)”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 66 (12): 5056-5060. doi:10.1099/ijsem.0.001469.
- ^ Aharon Oren, George M Garrity (01 March 2017). “Notification that new names of prokaryotes, new combinations and new taxonomic opinions have appeared in volume 66, part 12, of the IJSEM”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 67 (3): 525-528. doi:10.1099/ijsem.0.001834.
- ^ a b c d e f g Kwang Kyu Kim, Keun Chul Lee, Jung-Sook Lee (01 March 2012). “Patulibacter ginsengiterrae sp. nov., isolated from soil of a ginseng field, and an emended description of the genus Patulibacter”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 62 (Pt_3): 563-568. doi:10.1099/ijs.0.032052-0.
- ^ Jean Euzéby (01 June 2012). “Notification that new names and new combinations have appeared in volume 62, part 3, of the IJSEM”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 62 (Pt_6): 1221-1222. doi:10.1099/ijs.0.043935-0.
- ^ a b c Bárbara Almeida, Ivone Vaz-Moreira, Peter Schumann, Olga C. Nunes, Gilda Carvalho, Maria T. Barreto Crespo (01 July 2013). “Patulibacter medicamentivorans sp. nov., isolated from activated sludge of a wastewater treatment plant”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 63 (Pt_7): 2588-2593. doi:10.1099/ijs.0.047522-0.
- ^ Aharon Oren, George M. Garrity (01 October 2013). “Notification that new names of prokaryotes and new combinations have appeared in volume 63, part 7, of the IJSEM”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 63 (Pt_10). doi:10.1099/ijs.0.056119-0.
- ^ “Genus Patulibacter”. List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature (henceforth abbreviated LPSN). 2023年2月3日閲覧。
- ^ (英語) Patulibacter .
- ^ Parker, Charles Thomas; Wigley, Sarah; Garrity, George M (2009). “Nomenclature Abstract for Patulibacter Takahashi et al. 2006 emend. Kim et al. 2012.” (英語). The NamesforLife Abstracts. doi:10.1601/nm.9873.
- ^ 高橋 洋子 (2015-12-20). 科学と生物 54 (1): 10-16. doi:10.1271/kagakutoseibutsu.54.7.