ヒメフチトリゲンゴロウ
ヒメフチトリゲンゴロウ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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ヒメフチトリゲンゴロウ成虫(メス個体)の標本
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
絶滅危惧II類(環境省レッドリスト) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Cybister rugosus (W. S. MacLeay, 1825)[9] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ヒメフチトリゲンゴロウ |
ヒメフチトリゲンゴロウ Cybister rugosus (W. S. MacLeay, 1825)[9] は、コウチュウ目ゲンゴロウ科ゲンゴロウ亜科ゲンゴロウ属の水生昆虫[10]。
日本国内では奄美大島以南の南西諸島[注 3]に分布する[11]。
特徴
[編集]南西諸島ではフチトリゲンゴロウに次ぐ大型種で[12]、体長27 - 33ミリメートルとコガタノゲンゴロウより大型である[13]。体形は卵型で比較的厚みがあり、背面は褐色か緑色を帯びた黒で強い光沢があるが、メスは光沢が弱い[10]。頭楯・上唇・前胸背・上翅の側縁部は黄色から淡黄褐色で、この上翅の黄色帯は肩部分を除き側縁に達せず、翅端部で釣り針の先端部のように広がる[10]。頭部は前頭両側・複眼内縁部に浅いくぼみがある[10]。前胸背はオスでは前縁部に点刻がある他は滑沢だが、メスでは中央部でやや弱くなるものの、全面に強いしわがある[10]。上翅には3条の点刻列を持ち、オスでは滑らかだが、メスでは翅端部を除き強いしわがある[10]。触角・口枝は黄褐色で、前脚・中脚は黄褐色で中跗節は暗褐色、後脚は黒色だが転節端部・腿節端部・脛節端部は黄褐色、後脚跗節にはオスでは両側に、メスでは内側のみに遊泳毛を持つ[10]。腹面は黒色で光沢が強く、後胸腹板・後基節は中央部を除き黄色となる[10]。腹部第1節から第5節の側方も黄色で、第1節の紋は内方に広がる[10]。オスの交尾器中央片は先端後方でわずかにくびれ、先端部は二又状で浅く湾入する[10]。
分布・生態
[編集]同属のフチトリゲンゴロウ・トビイロゲンゴロウと同様に南方系の種で[11]、南西諸島のほか中国(中華人民共和国)・東南アジア・インド・アッサム[10]・ミャンマー・インド・スリランカなどに分布する[11]。
水質良好で水生植物が豊富な池沼・湿地などに生息する[14]。池沼・放棄水田のみならず、水生植物が繁茂する水域であれば深いダムから浅い湿地まで多様な水域で見られる種で[11]、かなり富栄養な浅い水域でも生息していることがある[15]。フチトリゲンゴロウと同じく希少種であるが[15]、個体数はフチトリゲンゴロウと比較すればやや多く、特に面積の広い場所では比較的発見例が多い[16]。
生活史の詳細は不明で[17]、繁殖期は主に夏だが、沖縄県の八重山列島ではほぼ1年を通して幼虫が観察されるため、低緯度地域ほど繁殖期が長期にわたると考えられる[14]。
保全状況
[編集]過去に記録された島で絶滅した島こそないが、生息地消失・個体数減少が進行しており[14]、2018年現在は絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)に指定されている[14][18]。1995年ごろまでは沖縄本島・西表島で多くの個体が見られ[11]、西表島北部の水田地帯では容易に採集できた種だったが、近年は特に八重山列島(石垣島・西表島)で急速に開発が進行し、水田の圃場整備が行われたことで生息地が激減した[13]。鹿児島県レッドリストで絶滅危惧種1類[19]・沖縄県レッドリストでも絶滅危惧II類(VU)に指定されている[11]。
奄美大島(2013年10月1日以降)[注 4]・徳之島(2014年1月24日以降)[注 5][14]・竹富町[注 6]などでは条例で採集が禁止されており[17]、湿地環境保全により本種の生息地が守られている事例もある[14]。沖縄本島では良好な産地が複数確認されているほか、伊是名島・屋我地島・久米島・池間島および南大東島では少数個体が確認されている[11]。
人間との関係
[編集]飼育下では繁殖させやすく、採卵・幼虫育成・大型個体羽化も容易な種類である[13]。飼育方法は基本的にフチトリゲンゴロウと同一だが、本種はフチトリゲンゴロウよりさらに泳ぎが鈍いため[26]足場の水草・流木を多めに入れるほか水深を浅めにすることが望ましい[27]。成虫飼育も寿命が2年 - 3年と長く泳ぎ・捕食動作もゆったりしているため、過密飼育になっても触角・脚先跗節の欠損・共食いなどは出にくい[13]。
多摩動物公園昆虫園(東京都日野市)では2015年より沖縄県・八重山列島石垣島産の本種を飼育・繁殖する活動に取り組んでおり、2017年1月2日からは昆虫園本館1階「水生昆虫コーナー」で従来より展示しているゲンゴロウ・クロゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウの3種とともに一般公開を開始している[28]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 森・北山(2002)は「ゲンゴロウ類 Dytiscoidea は鞘翅目・食肉亜目(オサムシ亜目)水生食肉亜目に属する」と述べている[1]。
- ^ ゲンゴロウ属 Cybister および同属を含むゲンゴロウ族 Cybistrini は森・北山(2002)ではゲンゴロウ亜科 Dytiscinae に分類されているが[3]、Anders N. Nilsson の論文(2015)では Dytiscinae 亜科から Cybistrinae 亜科を分離し[5]、ゲンゴロウ族 Cybistrini を Cybistrinae 亜科に分類する学説が提唱されている[6]。中島・林ら(2020)はゲンゴロウ類の分類表(307頁)にてゲンゴロウ属・ゲンゴロウモドキ属を「ゲンゴロウ科 ゲンゴロウ亜科・ゲンゴロウモドキ亜科」として紹介している[7]。
- ^ 鹿児島県では奄美大島・徳之島・沖永良部島・与論島、沖縄県では沖縄諸島(沖縄本島・伊平屋島・伊是名島・屋我地島・久米島)、池間島、八重山列島(石垣島・西表島・与那国島)・南大東島[11]。
- ^ 「奄美市希少野生動植物の保護に関する条例」に基づく[20][21]。
- ^ 島内の徳之島町・天城町・伊仙町が2012年9月1日付で施行した「希少な野生動植物保護に関する条例」第9条に基づき、2014年1月14日付で新たに指定[22][23]。
- ^ 「竹富町自然環境保護条例」に基づき「特別希少野生動植物種」に指定され[24]、同条例が施行された2017年(平成29年)4月1日以降は町長の許可なく本種個体を捕獲・採取・殺傷または損傷することが禁止されている[25]。
出典
[編集]- ^ a b c d 森 & 北山 2002, p. 33.
- ^ 森 & 北山 2002, p. 53.
- ^ a b 森 & 北山 2002, pp. 138–139.
- ^ a b c d 森 & 北山 2002, p. 139.
- ^ A.N.Nilsson 2015, p. 7.
- ^ a b c d A.N.Nilsson 2015, p. 73.
- ^ 中島 et al. 2020, p. 307.
- ^ 森 & 北山 2002, p. 152.
- ^ a b "Cybister rugosus (W. S. MacLeay, 1825)" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2020年3月14日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 森 & 北山 2002, p. 156.
- ^ a b c d e f g h 沖縄県 2017, p. 375.
- ^ 東海大学沖縄地域研究センター 2010, p. 6.
- ^ a b c d 森 et al. 2014, p. 68.
- ^ a b c d e f 環境省 2015, p. 250.
- ^ a b 森 & 北山 2002, p. 157.
- ^ 鹿児島県 2003, p. 170.
- ^ a b 中島 et al. 2020, p. 101.
- ^ 環境省 2018, p. 23.
- ^ “レッドリスト(平成26年改訂) > 昆虫類”. 鹿児島県 (2014年5月7日). 2019年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月19日閲覧。
- ^ “希少野生動植物/鹿児島県奄美市”. 奄美市 公式サイト. 奄美市 (2013年10月1日). 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。
- ^ “奄美大島自然保護ガイドブック~奄美・琉球を世界自然遺産へ~” (PDF). 奄美市 公式サイト. 奄美大島自然保護協議会. pp. 9-10 (2013年10月1日). 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。
- ^ “徳之島町/徳之島希少野生動植物(追加指定)”. 徳之島町 公式サイト. 徳之島町 (2014年1月24日). 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。
- ^ “徳之島希少昆虫・野生植物 徳之島版レッドリスト” (PDF). 徳之島町 公式サイト. 徳之島地区自然保護協議会 (2012年). 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。
- ^ “希少野生動植物及び特別希少野生動植物の指定について”. 日本・沖縄県八重山郡竹富町: 竹富町. pp. 4,9,11. 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。
- ^ “竹富町自然環境保護条例”. 日本・沖縄県八重山郡竹富町: 竹富町. p. 6. 2020年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月22日閲覧。 “希少野生動植物保護区の区域内においては、次に掲げる行為は、町長の許可を受けなければ、してはならない。”
- ^ 都築, 谷脇 & 猪田 2003, p. 219.
- ^ 都築, 谷脇 & 猪田 2003, p. 220.
- ^ “希少種ヒメフチトリゲンゴロウの初展示”. 東京ズーネット. 東京動物園協会 (2017年1月13日). 2019年3月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月1日閲覧。
参考文献
[編集]環境省などの発表
- 北野忠・苅部治紀・中島淳 著「ヒメフチトリゲンゴロウ Cybister rugosus (Macleay, 1833)」、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物- 昆虫類』(PDF) 第5巻、ぎょうせい、2015年2月1日、250頁。ISBN 978-4324098998。オリジナルの2019年2月26日時点におけるアーカイブ 。2019年2月26日閲覧。
- 鹿児島県環境生活部環境保護課『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編-鹿児島県レッドデータブック-』財団法人:鹿児島県環境技術協会、 日本・鹿児島県鹿児島市七ツ島一丁目1番地5、2003年3月、169-170頁。ISBN 4990158806。
- 佐々木健志; 青柳克『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-』(PDF)(プレスリリース)沖縄県、2017年6月5日、358,375頁。オリジナルの2019年3月19日時点におけるアーカイブ 。2019年3月19日閲覧。
書籍など
- 森正人、北山昭『図説 日本のゲンゴロウ』(改訂)文一総合出版、2002年2月15日(原著2000年6月20日)、152-158,189-190頁。ISBN 978-4829921593。 - 原著『図説 日本のゲンゴロウ』は1993年6月30日に初版第1刷発行。
- 都築裕一、谷脇晃徳、猪田利夫『普及版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』(初版第1刷)データハウス、2003年5月1日(原著2000年6月20日)、16-18,27-28,139-159,218-220頁。ISBN 978-4887187160。 - 『水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル 改訂版』(2000年6月20日発行・原著『水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』は1999年9月20日発刊)をソフトカバー化して改めて発刊したもの。
- 森文俊、渡部晃平、関山恵太、内山りゅう『水生昆虫観察図鑑 その魅力と楽しみ方』(初版第1刷)ピーシーズ、2014年7月30日。ISBN 978-4862131096。
- 中島淳、林成多、石田和男、北野忠、吉富博之『ネイチャーガイド 日本の水生昆虫』(初版1刷発行)文一総合出版、2020年2月4日。ISBN 978-4829984116。
- 北野忠、唐真盛人、水谷晃、崎原健、河野裕美「西表島におけるゲンゴロウ類の生息状況」(PDF)『西表島研究2010 東海大学沖縄地域研究センター所報』第5号、東海大学沖縄地域研究センター、2011年、40-41頁、ISSN 2185-0011、NAID 40019261190、 オリジナルの2019年3月19日時点におけるアーカイブ、2019年3月19日閲覧。
- Anders N. Nilsson (2015) (英語). A World Catalogue of the Family Dytiscidae, or the Diving Beetles (Coleoptera, Adephaga) (Version 1.I. ed.). スウェーデン・ウメオ: University of Umeå(ウメオ大学). pp. 7, 73. オリジナルの2019-07-26時点におけるアーカイブ。 2019年6月18日閲覧。.