フランソワ・スクイテン
フランソワ・スクイテン François Schuiten | |
---|---|
生誕 |
1956年4月26日(68歳) ベルギー、ブリュッセル |
国籍 | ベルギー |
職業 | 漫画家、シノグラファー |
活動期間 | 1973年 - |
ジャンル | SF、ファンタジー |
代表作 | 『闇の国々』 |
受賞 | 本文参照 |
フランソワ・スクイテン(シュイッテン)(François Schuiten, 1956年4月26日 - )は、ベルギー・ブリュッセル出身のバンド・デシネ作家(漫画家)。ブノワ・ペータース原作による『闇の国々』シリーズで知られる。
経歴
[編集]1956年、ブリュッセルに生まれる。両親はともに建築家で、5人の兄弟うちの一人ものちに建築家となった。父ロベールは芸術家気質で漫画嫌いであったが、父の描いた未来社会のスケッチはスクイテンのSF的想像力を育むきっかけとなった[1]。1975年から1977年にかけてブリュッセルのサン=リュック学院に学ぶが、ここでベルギーの漫画界刷新に貢献した人物で、同校で漫画科を教えていたクロード・ルナールと出会った。ルナールとは共同でいくつかの本を制作している。
1973年3月、フランスの漫画雑誌『ピロット』に5ページのモノクロ作品がはじめて掲載され、その4年後には『メタル・ユルラン』にも作品の掲載をはじめた[2] 。1983年、幼馴染であるブノワ・ペータースの原作のもと、『闇の国々』第一作となる『サマリスの壁』をベルギーの漫画雑誌『ア・シュイーブル』に掲載。1985年にはシリーズ第二作『狂騒のユルビカンド』で、アングレーム国際漫画祭にて最優秀作品賞を受賞。また、スクイテンは2002年には同漫画祭にてグランプリに選ばれ、同年ベルギー王アルベール2世より男爵位が与えられた。2012年には、日本で刊行された『闇の国々』の第1巻が文化庁メディア芸術祭マンガ部門において、海外作品として初めて大賞を受賞している[3]。
スクイテンはまたモーリス・ブナユンとともに3Dアニメのテレビシリーズ『Quarxs』制作に携わっているほか、プロダクション・デザイナーとして『ゴールド・パピヨン』『トト・ザ・ヒーロー』『タクサンドリア』『ライラの冒険 黄金の羅針盤』『ミスター・ノーバディ』『火星とアヴリル』などの映画制作に協力している[4]。現在はブノワ・ソーカル、マルタン・ヴィルヌーヴとともに、CGIとモーション・キャプチャー技術を用いた映画『Aquarica』の制作に関わっている[5]。
映像以外では、背景デザイナー(シノグラファー)として、パリやブリュッセルの地下鉄の駅のデザインなどを行っており、2000年のハノーヴァー万国博覧会ではメイン・パビリオンのひとつA planet of visionsをデザインし500万人の観客を集めた。2005年の愛知万博でもベルギー館のパビリオンのデザインを行っている[1]。建築関連では他に、ブノワ・ペータースと協力してヴィクトール・オルタによるアール・ヌーヴォーの建築物オートリック邸の保存・修復にも携わっている。スクイテンはまたベルギーで15種の切手をデザインしている[6] 。2004年から2005年にかけては、ルーヴェンで大規模な展覧会「ユートピアの門」が開かれ、スクイテンの活動の様々な側面に光が当てられた。
スクイテンは1980年にモニーク・トゥーサンと結婚し、彼女との間に4人の子供をもうけている。
作品の特徴
[編集]スクイテンの画風は銅版画を思わせる緻密なものであるが、『闇の国々』の作画にはアシスタントをいっさい使わず、細かい線を入れていく機械的な作業のみならず、彩色や台詞の転記、タイトルに至るまですべて一人で手がけている。作画には1ページにつき1週間をかけるという[7]。同作品は架空の世界を舞台にしているが、ペータースの文学、自然科学、スクイテンの美術、建築への興味を反映し、ジュール・ヴェルヌやフランツ・カフカ、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、オーソン・ウェルズやフリッツ・ラング、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ、ヴィクトール・オルタなどが参照されており、そのうちのいくつかは作中で暗示されるにとどまっているが、ヴェルヌやオルタなどは作中で明示的に言及されている[8]。
一方『ラ・ドゥース』では、ベルギーで運行していた実在の蒸気機関車である12形機関車を登場させており、同機関車を廃車から守ろうとする老機関士の奮闘を描いている。またこの作品はバンド・デシネとしては初めての試みとしてARシステムが使われており、本の見返しに描かれた絵をウェブカメラで撮ることにより、絵が3DCGの動画になるという仕掛けが施されている[9](このARシステムは、フランスのソフトウェア会社ダッソー・システムズによって開発されている[10])。
作品
[編集]※特記がない限りスクイテン単独名義
シリーズ
[編集]- 変容(Métamorphoses、クロード・ルナールとの共作、1980年-1982年、全2巻)
- シンビオラの中心(Aux Médianes de Cymbiola、1980年)
- 鉄道(Le Rail、1982年)
- 空洞の地(Les Terres Creuses、リュック・スクイテンとの共作、1980年-1990年、全3巻)
- カラパス(Carapaces、1980年)
- ザラ(Zara、1985年)
- ノジュゴン(Nogegon、1990年)
- 闇の国々(Les Cités Obscures、ブノワ・ペータース作、1983年-2008年、全24巻)
- サマリスの壁(Les Murailles de Samaris、1983年)
- 狂騒のユルビカンド(La Fièvre d'Urbicande、1985年)
- ユルビカンドの秘密(Le Mystère d'Urbicande、1985年)
- 古文書官(L'Archiviste、1987年)
- 塔(La Tour、1987年)
- アルミリアへの道(La Route d'Armilia、1988年)
- 今昔交通機関辞典(L'Encyclopédie des Transports Présents et à Venir、1988年)
- A・デゾンブル美術館(Le Musée A. Desombres、1990年)
- ブリュゼル(Brüsel、1992年)
- 永遠の現在の記憶(Souvenirs de l'Éternel Présent、1993年)
- エコー・デ・シテ(L'Écho des Cités、1993年)
- 闇の国々を巡って(Autour des Cités Obscures、1994年)
- 傾いたメリー(Mary la Penchée、1995年、絵本版)
- 傾いた少女(L'Enfant Penchée、1996年)
- 闇の国々ガイドブック(Le Guide des Cités、1996年)
- ある男の影(L'Ombre d'un Homme、1999年)
- ユートピアへの旅(Voyages en Utopie、2000年)
- アブラハム博士の奇妙な症例(L'Étrange Cas du Docteur Abraham、2001年)
- 見えない国境 第1巻(La Frontière Invisible - Tome 1、2002年)
- 見えない国境 第2巻(La Frontière Invisible - Tome 2、2004年)
- 可能性の扉(Les Portes du Possible、2005年)
- 砂粒の理論 第1巻(La Théorie du Grain de Sable: Tome 1、2007年)
- 砂粒の理論 第2巻(La Théorie du Grain de Sable: Tome 2、2008年)
- スクイテン=ペータースのアトリエ(L'Atelier de Schuiten-Peeters、2008年)
- パリ再訪(Revoir Paris、ブノワ・ペータース作、2014年、既刊1巻)
単巻
[編集]- 機械工(Les Machinistes、ティエリー・スモルドゥレンとクロード・ルナールとの共作、1984年)
- プラジア!(Plagiat!、アラン・ゴファンとブノワ・ペータースとの共作、1989年)
- ドロレス(Dolores、ブノワ・ペータースとアンヌ・バルテュスとの共作、1991年)
- 月の馬(Les Chevaux de Lune、2004年、絵本版)
- オートリック邸―アール・ヌーヴォー様式の家の変身(La Maison Autrique - Métamorphoses d'une Maison Art Nouveau、ブノワ・ペータース作、2004年)
- ラ・ドゥース(La Douce、2012年)
日本での出版
[編集]- 闇の国々シリーズ(古永真一・原正人訳、小学館集英社プロダクション)
- 『闇の国々』(2011年12月、ISBN 4796871012)
- 『闇の国々 II』(2012年10月、ISBN 4796871322)
- 『闇の国々 III』(2013年3月、ISBN 4796871462)
- 『闇の国々 IV』(2013年10月、ISBN 479687173X)
- 『ラ・ドゥース』(古永真一訳、小学館集英社プロダクション、2013年6月、ISBN 4796871535)
出典
[編集]- ^ a b 『闇の国々』日本語版、訳者あとがき、399頁
- ^ De Weyer, Geert (2005). "François Schuiten". In België gestript, pp. 153-155. Tielt: Lannoo.
- ^ 祝! 『闇の国々』第16回メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞!! BDfile(2012年12月13日)
- ^ Voyage à travers le Montréal de demain, article from La Presse, December 8, 2011
- ^ EXCLUSIVE: Whale archipelago tale AQUARICA in development!, article from Quiet Earth, June 17, 2012
- ^ Stamps page at the Altaplana fan site
- ^ ブノワ・ペータースインタビュー、『闇の国々』日本語版、395-396頁
- ^ ブノワ・ペータースインタビュー、『闇の国々』日本語版、393頁
- ^ あのスクイテンの細密画が動き出す! ノスタルジックな鉄道愛と衝撃の3D体験 新作BD『ラ・ドゥース』レビュー BDfile(2012年5月23日)
- ^ 『ラ・ドゥース』日本語版、4頁
参考文献
[編集]- ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン 『闇の国々』 古永真一、原正人訳、小学館集英社プロダクション、2011年