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ペガスス座85番星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ペガスス座85番星
85 Pegasi
星座 ペガスス座
見かけの等級 (mv) 5.81 / 8.89[1]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  00h 02m 10.3411392575s[2]
赤緯 (Dec, δ) +27° 04′ 54.476788744″[2]
視線速度 (Rv) -36.22 km/s[3]
固有運動 (μ) 赤経: 723.110 ± 1.482 ミリ秒/[2]
赤緯: -933.754 ± 1.341 ミリ秒/年[2]
年周視差 (π) 79.0696 ± 0.5621ミリ秒[2]
(誤差0.7%)
距離 41.2 ± 0.3 光年[注 1]
(12.65 ± 0.09 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) 5.34 / 8.42[1]
物理的性質
半径 A: 0.834 R[4]
Ba: 0.512 R[4]
Bb: 0.155 R[4]
質量 A: 0.82 M[4]
Ba: 0.54 M[4]
Bb: 0.14 M[4]
表面重力 A: 33 G[4][注 2]
Ba: 60 G[4][注 3]
Bb: 150 G[4][注 4]
自転速度 A: 1.4 km/s[5]
スペクトル分類 G5 V + K7 V[6]
光度 A: 0.613 L[4]
Ba: 0.074 L[4]
Bb: 0.003 L[4]
表面温度 A: 5,600 K[4]
Ba: 4,200 K[4]
Bb: 3,330 K[4]
色指数 (B-V) 0.67[7]
色指数 (U-B) 0.05[7]
色指数 (V-R) 0.57 / 0.95[1]
色指数 (V-I) 0.96 / 1.69[1]
色指数 (R-I) 0.43[7]
金属量[Fe/H] A: -0.66[4]
Ba: -0.64[4]
Bb: -0.53[4]
年齢 9 - 11 ×109[4]
軌道要素と性質
軌道長半径 (a) 7.65 au[3]
離心率 (e) 0.372 ± 0.009[3]
公転周期 (P) 26.31 年[3]
軌道傾斜角 (i) 49°[8]
他のカタログでの名称
ADS 17175[3]BD+26 4734, GJ 914, HD 224930, HIP 171, HR 9088, SAO 91669[2]
Template (ノート 解説) ■Project

ペガスス座85番星(ペガススざ85ばんせい、85 Pegasi、85 Peg)は、ペガスス座の方角に、約41光年の距離にある連星系である[2][9]。6等星と9等星からなる二重星でもあり、位置天文学的に軌道が求められているが、軌道から予想される2つの恒星質量と、その等級差の間に矛盾があることから、強い興味をもって観測されてきた星系の一つである[9]

発見

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ペガスス座85番星の伴星ペガスス座85番星Bは、1878年にシャーバーン・バーナムが発見した[10]。バーナムは、同時期かそれ以前に、より離れた位置にある2つの恒星、ペガスス座85番星Cとペガスス座85番星Dにも言及しているが、これらは相対的な運動の分析から、見かけ上の関係であることがわかっている[11][9]

ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bは、離角が小さい上、等級差が大きいので観測は容易ではなく、初期にはペガスス座85番星Bの等級はかなり過小に見積もられていた[9][3]。両者の運動から、バーナム自身も含め早い段階で大まかな軌道要素は求められていたが、20世紀半ばまでにヤーキス天文台などの詳しい観測で、精度の良い軌道要素が求められ、連星であることが確定した[3]。ヤーキス天文台のホールは、ペガスス座85番星Bそのものもまた連星であると指摘し、後にその確実とみられる証拠もみつかったことで、ペガスス座85番星は3重連星系と考えられるようになった[12][4]

位置

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ペガスス座85番星は、ペガススの四辺形の内側、北東角をなすアンドロメダ座α星から南南西に2程度離れた位置にみえる[9][3]。合成等級は5.8で、とても暗い夜空では肉眼でみることができる[3]赤経は0に近く、歳差の影響により、赤経順に番号が振られる星表において、ヘンリー・ドレイパーカタログ輝星星表では末尾に近い番号だが、ヒッパルコス星表では171とかなり若い番号が付いている[3][2]太陽からの距離は約41光年とかなり近く、固有運動も大きいので、19世紀の半ばには固有運動がそれなりの精度で測定されていた[2][3]

星系

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ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bは、約26.3で軌道を一周し、離心率は0.37、系の合計質量は太陽の1.49倍と推定される[3]。しかし、この星系には問題があった。軌道運動から力学的に推定した主星と伴星の質量には、あまり差がないということである[12]視線速度曲線から推定した質量も、主星と伴星がほぼ同じとされている[13]。一方、ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bの等級差は3と大きく、もっと大きな質量差がなければ明るさの違いを説明できない。その矛盾を解消するため、ペガスス座85番星Bが近接連星であるという説が考えられた[12]

ただし、ペガスス座85番星には別に問題があり、それは、化学的に特異な星系であるということだった。まず、金属が欠乏しており、水素を基準とした相対的な金属(ヘリウムよりも原子番号が上の)元素の存在量、すなわち金属量は、太陽と比較して2割程度である[4]。更に、金属だけでなくヘリウムも欠乏していたため、分光学的な質量推定は難航した[14][4]。一方で、α元素は卓越しており、その存在量は太陽と比較して2倍程度の過剰となっている[4]

このような、特有の化学特性も考慮した上で、恒星進化理論からの制限も加えることで、ペガスス座85番星系の確からしい物理量が、求められるようになった。その結果、ペガスス座85番星Aは質量が太陽の8割程度の黄色主系列星、ペガスス座85番星Bは質量が太陽の半分程度の橙色主系列星と、質量が太陽の7分の1程度の赤色矮星とからなる連星、とするのがもっともらしいとわかった[4]

3重連星系という構造と、化学的な特異性から、ペガスス座85番星は星震学的にも興味深い観測対象であり、例えばMOSTといった観測衛星の主要な目標天体となっている[4][5]

ハーシェル宇宙天文台による観測では、波長160μmの遠赤外線赤外超過がみられ、半径97au以上にの温度が25K以下の冷たい星周円盤が広がっている可能性が考えられる[15]。ペガスス座85番星に対し、この大きさの円盤だと周連星円盤となるが、離心率が0.37と比較的大きく、年齢も90億年といわれる連星系に周連星円盤が存在できる理由は、はっきりしていない[4][6]

脚注

[編集]

注釈

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  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ 出典での表記は、
  3. ^ 出典での表記は、
  4. ^ 出典での表記は、

出典

[編集]
  1. ^ a b c d ten Brummelaar, Theo; et al. (2000-05), “Binary Star Differential Photometry Using the Adaptive Optics System at Mount Wilson Observatory”, Astronomical Journal 119 (5): 2403-2414, Bibcode2000AJ....119.2403T, doi:10.1086/301338 
  2. ^ a b c d e f g h i 85 Peg -- Spectroscopic binary”. SIMBAD. CDS. 2020年10月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l Griffin, R. F. (2004-08), “Spectroscopic binary orbits from photoelectric radial velocities. Paper 177: 85 Pegasi”, Observatory 124: 258-276, Bibcode2004Obs...124..258G 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z Bach, K.; et al. (2009-09), “Evolutionary Status of 85 Pegasi”, Astrophysical Journal 703 (1): 362-369, Bibcode2009ApJ...703..362B, doi:10.1088/0004-637X/703/1/362 
  5. ^ a b Huber, D.; et al. (2009-10), “A search for p-modes and other variability in the binary system 85 Pegasi using MOST photometry”, Astronomy & Astrophysics 505 (2): 715-725, Bibcode2009A&A...505..715H, doi:10.1051/0004-6361/200912139 
  6. ^ a b Krivov, A. V.; et al. (2013-07), “Herschel's "Cold Debris Disks": Background Galaxies or Quiescent Rims of Planetary Systems?”, Astrophysical Journal 772 (1): 32, Bibcode2013ApJ...772...32K, doi:10.1088/0004-637X/772/1/32 
  7. ^ a b c Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11), “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”, VizieR On-line Data Catalog: V/50, Bibcode1995yCat.5050....0H 
  8. ^ Söderhjelm, Staffan (1999-01), “Visual binary orbits and masses POST HIPPARCOS”, Astronomy & Astrophysics 341: 121-140, Bibcode1999A&A...341..121S 
  9. ^ a b c d e R. バーナム Jr. 著、斉田博 訳『星百科大事典 改訂版』地人書館、1988年2月10日、1085-1086頁。ISBN 4-8052-0266-1 
  10. ^ Burnham, Sherburne Wesley (1880-06), “The double star 85 Pegasi”, Astronomische Nachrichten 97: 239-240, Bibcode1880AN.....97..239B, doi:10.1002/asna.18800971505 
  11. ^ Mason, Brian D.; et al. (2020-08), “The Washington Visual Double Star Catalog”, VizieR On-line Data Catalog: B/wds, Bibcode2020yCat....102026M 
  12. ^ a b c Hall, R. G., Jr. (1948), “A mass determination of 85 Pegasi”, Astronomical Journal 54: 102-106, Bibcode1948AJ.....54..102H, doi:10.1086/106146 
  13. ^ Struve, O.; Zebergs, V. (1959-07), “The Velocity-Curve of 85 Pegasi”, Astrophysical Journal 130: 134-136, Bibcode1959ApJ...130..134S, doi:10.1086/146703 
  14. ^ Perrin, M. -N.; et al. (1977-02), “Fine structure of the H-R diagram for 138 stars in the solar neighbourhood”, Astronomy & Astrophysics 54: 779-795, Bibcode1977A&A....54..779P 
  15. ^ Eiroa, C.; et al. (2013-07), “DUst around NEarby Stars. The survey observational results”, Astronomy & Astrophysics 555: A11, Bibcode2013A&A...555A..11E, doi:10.1051/0004-6361/201321050 

関連項目

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外部リンク

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座標: 星図 00h 02m 10.3411392575s, +27° 04′ 54.476788744″