軌道傾斜角
表示
宇宙力学 |
---|
軌道傾斜角[1](きどうけいしゃかく、英語: Orbital inclination)とは、ある天体の周りを軌道運動する天体について、その軌道面と基準面とのなす角度を指す[1]。通常は記号 iで表され、軌道の特徴を表す軌道要素の一つに含まれる事が多い[2][3]。太陽系の惑星や彗星・小惑星などの軌道傾斜角の基準面は黄道面で[3]、衛星の場合では基準面を主惑星の赤道面とする場合と黄道面を基準とする場合がある[4]。
人工衛星の場合には主星である地球の赤道面を基準とするのが普通である(人工衛星の軌道要素を参照)。i=63.4349°の軌道傾斜角はCritical inclinationとも呼ばれ、人工衛星の軌道要素において特に重要視される[5]。特に地球上においてこの軌道傾斜角で公転周期が地球の自転周期の約半分になっている軌道はモルニヤ軌道(モルニア軌道)、公転周期がほぼ地球の自転周期と等しい軌道はツンドラ軌道と呼ぶ[6]。
軌道傾斜角 iは0°≦i≦180°の範囲の値をとる。i=0の場合、その天体は基準面と同じ面内を軌道運動している。i=90°の場合、その天体の軌道面は基準面と直交している。i>90°の場合、その天体は軌道を逆行していることになる。太陽系内では多くの逆行衛星やいくつかの逆行小惑星が知られており、太陽系外では逆行惑星の存在も確認されている。似た語として赤道傾斜角があるが、赤道傾斜角は天体の軌道面と赤道面とのなす角、すなわち天体の自転軸の傾きを表す別の量である。
分類 | 天体名 | 公転軌道面の傾き | 公転周期 (年) |
自転軸(赤道) 傾斜角[9][10] |
自転周期 (日) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
軌道傾斜角[11] | 対太陽の赤道 | 対不変面[12] | |||||
地球型 岩石惑星 |
水星 | 7.01° | 3.38° | 6.34° | 0.241 | 0.01° | 58.7 |
金星 | 3.39° | 3.86° | 2.19° | 0.615 | 177°[13] | 243[14] | |
地球 | 0° 基準面 | 7.16° | 1.57° | 1.00 | 23.4° | 0.997 | |
火星 | 1.85° | 5.65° | 1.67° | 1.88 | 25.2° | 1.03 | |
木星型 天王星型 |
木星 | 1.31° | 6.09° | 0.32° | 11.9 | 3.12° | 0.414 |
土星 | 2.49° | 5.51° | 0.93° | 29.5 | 26.7° | 0.426 | |
天王星 | 0.77° | 6.48° | 1.02° | 84.0 | 97.8°[15] | 0.718[14] | |
海王星 | 1.77° | 6.43° | 0.72° | 165 | 28.3° | 0.671 | |
準惑星 小惑星 |
冥王星 | 17.1° | 11.9° | 15.6° | 248 | 120°[16][17] | 6.39[14] |
ケレス | 10.6° | — | 9.20° | 4.60 | 4° | 0.378 | |
パラス | 35.1° | — | 34.4° | 4.62 | 84°±5° | 0.326 | |
ベスタ | 7.14° | — | 5.56° | 3.63 | 0.223 | ||
衛星[18][19] | 月 | 5.15°[20] | 27.3日 | 6.69°[21][22] | =公転 | ||
ガニメデ | 0.195° | 7.16日 | 0-0.33° | =公転 | |||
カリスト | 0.281° | 16.7日 | 0° | =公転 | |||
タイタン | 0.306° | 15.9日 | 1.94° | =公転 | |||
恒星 | 太陽 | 該当せず[23] | 7.25°[24][25] | 27.3[26] |
出典
[編集]- ^ a b “軌道傾斜角”. 天文学辞典. 公益社団法人 日本天文学会. 2019年6月5日閲覧。
- ^ “軌道要素”. 天文学辞典. 公益社団法人 日本天文学会. 2019年6月5日閲覧。
- ^ a b “軌道傾斜角(キドウケイシャカク)とは - コトバンク”. コトバンク. 2019年6月5日閲覧。
- ^ 天文年鑑編集委員会『天文年鑑 2019年版』誠文堂新光社、2018年、208 衛星の表の説明(5)頁。ISBN 978-4-416-71802-5。
- ^ Xiaodong Liu; Hexi Baoyin; Xingrui Ma (2011). “Extension of the critical inclination”. Astrophysics and Space Science 334 (1): 115-124. arXiv:1108.4639. Bibcode: 2011Ap&SS.334..115L. doi:10.1007/s10509-011-0685-y.
- ^ “軌道の種類”. 宇宙情報センター. 宇宙航空研究開発機構. 2019年6月5日閲覧。
- ^ 21世紀初頭における数値
- ^ なるべく数値を有効数字3桁に揃える。
- ^ IAU, 0 January 2010, 0h TT, Astronomical Almanac 2010, pp. B52, C3, D2, E3, E55
- ^ 回転の方向を考慮した数値。
- ^ 地球の公転面(黄道面)が基準
- ^ "en:Invariable_plane" - すべての惑星の軌道を加重平均した仮想面
- ^ 180°-177.36°=2.64°(正味)
- ^ a b c 逆向
- ^ 180°-97.8°=82.23°(正味)
- ^ 180°-119.59°=60.41°(正味)
- ^ CNN.co.jp 「冥王星、自転軸の傾きと揺らぎで地表の環境が激変 観測結果」 冥王星の自転軸の傾きは数百万年の間に約20度の幅で変動している。
- ^ “Planetary Satellite Mean Orbital Parameters”. Jet Propulsion Laboratory, California Institute of Technology. 2019年1月28日閲覧。
- ^ 衛星の公転軌道の傾斜は対「ラプラス面」の値。例外は月の対黄道面。
- ^ 地球の赤道面に対しては18.29°から28.58°
- ^ 対月の公転面。対黄道面=1.54°、対地球の赤道面=24°
- ^ Lang, Kenneth R. (2011), The Cambridge Guide to the Solar System Archived 1 January 2016 at the Wayback Machine., 2nd ed., Cambridge University Press.
- ^ 太陽には公転という意味での主星は存在しないが、銀河面内で天の川銀河の中心である銀河核の周りを約2.2億年余り(銀河年)をかけて回っている。
- ^ 理科年表 平成22年版、国立天文台、丸善 「太陽、惑星および月定数表」、対黄道面。
- ^ 銀河面に対しては67.23°である(en:sunより)。
- ^ 赤道面で。緯度75度で31.8。
参考文献
[編集]- 国立天文台 編『理科年表 平成25年』丸善、2012年。ISBN 978-4-621-08607-0。