マルバトウキ
マルバトウキ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
青森県下北半島 2021年6月下旬
| |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Ligusticum scothicum L. subsp. hultenii (Fernald) Hultén (1958)[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
マルバトウキ(丸葉当帰)[6][7] |
マルバトウキ(丸葉当帰、学名: Ligusticum scothicum subsp. hultenii)は、セリ科マルバトウキ属の多年草。海岸に生育する[6][7][8]。別名、ハマトウキ[1]。
特徴
[編集]根はゴボウ状に太い直根になる。茎は直立し、上部でまばらに分枝して、高さは30-100cmになる。茎は円く、中空で植物体全体に毛はない。葉は2回3出複葉で小葉は9個、小葉は卵形から円形で、長さ4-9cm、幅2-9cm、先は鋭頭または鈍頭になり、基部は広いくさび形、縁に鋸歯があり、葉質は厚く表面に光沢がある。葉柄は長さ3-25cmになり、紫色をおび、茎の上部のものは短い。側小葉の葉柄はほとんどない[6][7][8][9]。
花期は7-9月。枝先に径3-8cmになる複散形花序をつけ、白色の花を多数密につける。萼歯片は5個で長さ0.5mmになるが不明瞭。花弁は5個で内側に曲がる。複散形花序の下の総苞片は数個あり、線形で、花柄は15-20個あり、長さ1-2cm。小花序の下の小総苞片は数個あり、線形で、小花柄は15-20個あり、長さ約3mmになる。雄蕊は5個あり、花柱は2個ある。果実は褐色に熟し、つやがあり、長さ8-11mmの長楕円形、2個の分果からなり、分果に5個の背隆条があり、脈状または翼状になる[6][7][8][9]。油管は多数あり、分果の表面側の各背溝下に2-3個、分果が接しあう合生面に6個ある[8]。
分布と生育環境
[編集]日本では、本州北部と北海道に分布し、海岸に生育する[6][7][8]。世界では、朝鮮半島、樺太、千島列島、カムチャツカ半島、ウスリー、オホーツク海沿岸、アラスカに分布する[7]。
名前の由来
[編集]和名マルバトウキは、「丸葉当帰」の意で、葉が円みをおびるセリ科植物で[7]、漢名の「zh:当帰」をあてたが、当帰(トウキ)はシシウド属に属するため系統的には無関係である[6]。
種小名(種形容語)scothicum は、「スコットランドの」の意味[10]。亜種名 hultenii は、亜種の命名者であるスウェーデンの植物学者エリク・フルテンへの献名の形になるが、これは、Ligusticum hultenii Fernald (1930)[4]と種小名が自分に献名されていた種を、エリク・フルテン自身が種から亜種 Ligusticum scothicum L. subsp. hultenii (Fernald) Hultén (1958) [1]へと階級移動させた結果である。
利用
[編集]アイヌ人は食用とし、若い茎を生食したり、茎を刻んでご飯に炊き込んだ。または冬季の保存用食用として乾燥保存した[11]。アリューシャン列島でも食用とされる[9]。
また、葉を半日ほど蔭干したものを2-3月ほど3-4倍に希釈したホワイトリカーに漬けて、黄緑色のリキュールをつくることができる。漬けた葉は40-50日ほどで容器から取り上げる[11]。
ギャラリー
[編集]-
枝先に複散形花序をつけ、白色の花を多数密につける。
-
複散形花序の下に線形の総苞片が数個あり、花柄は15-20個ほどある。小花序の下に線形の小総苞片が数個あり、小花柄は15-20個ほどある。
-
若い果実。分果に5個の背隆条があり、残存花柱の基部に柱下体がある。
-
葉は2回3出複葉で小葉は9個、先は鋭頭または鈍頭になり、基部は広いくさび形、縁に鋸歯があり、葉質は厚く表面に光沢がある。葉柄は紫色をおびる。
-
葉の裏面。
マルバトウキ属
[編集]マルバトウキ属(マルバトウキぞく、学名:Ligusticum L.)は、セリ科の属で、北半球に分布し、約60種あり、日本にはマルバトウキのみ1種が分布する。多年草で、葉は3出複葉または3出羽状複葉になる。花は複散形花序をなし、その基部に総苞片が、小花序の基部に小総苞片がある。ふつう萼歯片はなく、花弁は5個で白色。雄蕊は5個、花柱は2個あり、花柱の基部に隆起する柱下体は平たい円錐形になる。果実は分果の側面、ときに背面から圧扁を受け、油管は平たく途中で消える種がある。成熟した果実は、種子と果皮が分離する[6]。属名、Ligusticum は、ラテン語で古代イタリアの Liguria 地方(リグーリア州)の形容語 Ligusticos に由来する。Liguria 地方では栽培品の薬用のセリ科植物が多かったという[9][12]。
山崎敬 (2001) は、セリ科シラネニンジン属 Tilingia Regel について、「果実の稜の張り出す程度の違いで,マルバトウキ属 Ligusticum から区別されているが,大きな差異は見いだせないので,中国での処置と同様にマルバトウキ属として扱った」として、本属に含める見解を採る[13]。
脚注
[編集]- ^ a b c マルバトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ マルバトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ マルバトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b c d e f g 鈴木浩司 (2017)「セリ科」『改訂新版 日本の野生植物 5』p.396
- ^ a b c d e f g 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1244
- ^ a b c d e 『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』pp.20-21
- ^ a b c d 北川政夫「マルバトウキ」『朝日百科 世界の植物3』p.590
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1512
- ^ a b 橋本郁三著『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』p.215
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1465
- ^ Takasi YAMAZAKI, Umbelliferae in Japan II, 22. Ligusticum L., The Journal of Japanese Botany, 『植物研究雑誌』, Vol.76, No.5, pp.281-283, 287, (2001).
参考文献
[編集]- 北村四郎他総監修『朝日百科 世界の植物3』、1978年、朝日新聞社
- 北村四郎・村田源著『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』、1984年、保育社
- 橋本郁三著『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』、2007年、柏書房
- 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
- 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
- Takasi YAMAZAKI, Umbelliferae in Japan II, 22. Ligusticum L., The Journal of Japanese Botany, 『植物研究雑誌』, Vol.76, No.5, pp.281-283, 287, (2001).