マルーラ
マルーラ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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マルーラの木
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Sclerocarya birrea (A. Rich.) Hochst. | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
亜種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
マルーラ/マルラ(Sclerocarya birrea)は、ウルシ科に属する植物。雌雄異株であり、南部アフリカのミオンボ(Miombo; Brachystegia属、Julbernardia属、Isoberlinia属といったマメ科の木本[2])林や西アフリカのスーダン・サヘル地帯、マダガスカルに分布する。世界的に知られてはいないが、地域では伝統的に食品や油、保湿にと利用されてきた。動物にもこれを食物として利用するものが多い。
生態
[編集]マルーラは1本の幹と大きく広がった樹冠を持つ。マルーラの木は灰色で斑の樹皮を特徴とする。この木は標高が低い疎林で育ち、最大で18m程度まで成長する。アフリカとマダガスカルにおけるマルーラの分布はバントゥー系民族の移動と連動しており、太古から彼らの食生活において重要な食品であったことを示している。キリン、サイ、ゾウはすべてマルーラの木を食べ、なかでもゾウは特にこの木を好む。ゾウはマルーラの樹皮・枝・果実を食べるため特に被害が大きく、実際にゾウの食害はマルーラの分布の広がりを大幅に制限している。一方でゾウはマルーラの種の含まれる糞をすることで、播種の役割も果たしている[3]。
マルーラの実は12月から3月にかけて熟し、明るい黄色の果皮と白い果肉を持つ。果肉にはオレンジの約8倍のビタミンCが含まれており、ジューシーで酸味と独特の強い風味を持つ[4]。また実の中には、クルミほどの大きさの殻の厚い種子がある。この種子は、乾燥したときに片方の端にある2個か3個の円形の栓を開けることで仁が露出する。種子には繊細なナッツ風味があるため人気が高く、動物でも栓がどこにあるか知っている小型のげっ歯類の間では特に好まれる。
名称
[編集]属名の Sclerocarya は、古代ギリシア語で「堅い」を意味する skleros と、「種子」を意味する karyon からきている。種小名の birrea は、セネガルでのこの木の呼び名である birr に由来する[5]。マルーラはマンゴー、ピスタチオ、カシューナッツと同じウルシ科に属し、マダガスカルのPoupartia属と近い。
マルーラの各言語での呼び名はマルーラ、ゼリープラム、モルーラ、サイダーツリー、マローラなどがあり、アフリカーンス語ではMaroelaと呼ばれる[6]。マルーラは南アフリカでは保護されている[6]。ケニアのスワヒリ語およびディゴ語(Digo)では mngongo、オロモ語では didissa、マサイ語では ol-mangwai、ポコット語(Pokot)では oroluo、トゥゲン語(Tugen)では tololokwo という[7]。
利用
[編集]マルーラは世界的にはほとんど知られていないが、アフリカでは伝統的に食糧として使用されており、社会経済的にかなり重要である[8]。また、この木からは酸化が遅く長期間保存可能な、高品質の食用油が生産できる。
マルーラの実は、木の生育する地方の村人によって野生の木から集められ産業的に利用される。果実の収穫は2カ月から3か月ほどしか行われないが、貧しい住民にとっては貴重な収入源となる。こうして集められた果実は加工工場に保管され、フルーツパルプ、種子油などに年間通じて加工される。
マルーラの果肉は生食が可能であり、甘さと酸味を持つ[9]。またMarula Maniaのようなジュースブレンドを作るための冷凍ピューレなどに使用されるが、もっとも利用されるのはアルコールの醸造である。ナミビアやボツワナなど南部アフリカ一帯でマルーラ酒は作られており、美味とされている[9][10]。かつてナミビアのオバンボ人の間ではマルーラ酒は王の酒として扱われ、醸造した場合一部の貢納が義務付けられていたが、現代ではこうした拘束はわずかなものとなっている[10]。オバンボ人の間ではマルーラ酒は他の酒と違い、数人が共同で醸造を行っている[10]。各村落で作られる醸造酒のほか、工場では蒸留酒も製造され、なかでも南アフリカで製造されるクリームリキュールであるアマルーラは同国の名産品として名高い[11]。日本においては2020年初より、果実の輸入は禁止されている。この措置はアルコール分が理由なのではなく、マルーラの成熟した果実にはアフリカマンゴウミバエが産卵寄生していることがあり、これが日本の栽培果実に影響を与えることを懸念しての措置である。
マルーラの種子油も食用であり、また欧米や日本などへと輸出されて化粧品の原料として使用される[12]。このマルーラオイルは、伝統的にアフリカ諸国で保湿に使われており、構成比率はオレイン酸69%とパルミチン酸約15%とが主要な脂質になっており、マルーラオイルの肌への塗布は、皮膚の水分含有量を増加させ保湿作用を示した[13]。ほかの文献では一般に以下のような範囲で報告されている[13]。
- オレイン酸 (C18:1) 70-78%
- パルミチン酸 (C16:0) 9-12.7%
- ステアリン酸 (C18:2) 5-8%
- リノール酸 (C18:2) 4-9.5%
- α-リノレン酸 (C18:3) 微量から1.1%
文化
[編集]マルーラは、アフリカ諸国の文化に不可欠で、1951年にはアフリカの守護木だと呼ばれるようになった[13]。
実からつくられる maroela-mampoer という蒸留酒は、アフリカの作家ハーマン・チャールズ・ボスマンの小説に登場する。マルーラの実は南部アフリカの様々な動物によっても食べられる。1974年のJamie Uysの映画Animals Are Beautiful Peopleにおいては、ゾウ、ダチョウ、イボイノシシ、ヒヒがマルーラの実を食べて酔っぱらう姿がえがかれる。ゾウはなんらかの効果を得るために大量の発酵したマルーラの実を必要とし他の動物も熟した実を好む。毎日ゾウが飲む大量の水によって発酵したマルーラは影響が出ないほどに希釈されると思われる[14]。しかし、マルーラの実を食べて酔っぱらったゾウの報告は絶えずもたらされている[15]。
2015年にナミビアのマルーラ果実の祭り、「oshituthi shomagongo」がUNESCOの無形文化遺産に登録されている[16]。
ギャラリー
[編集]-
ナミビアのOngwedivaで風で落ちたマルーラの実
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マルーラの種
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マルーラの仁
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ナミビアのOngwediva Annual Trade Fair 2016で販売されるマルーラオイル
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マルーラから作るクリームリキュール・アマルーラ
脚注
[編集]- ^ a b c Hassler, M. (2018). World Plants: Synonymic Checklists of the Vascular Plants of the World (version Apr 2018). In: Roskov Y., Ower G., Orrell T., Nicolson D., Bailly N., Kirk P.M., Bourgoin T., DeWalt R.E., Decock W., Nieukerken E. van, Zarucchi J., Penev L., eds. (2018). Species 2000 & ITIS Catalogue of Life, 29th November 2018. Digital resource at www.catalogueoflife.org/col. Species 2000: Naturalis, Leiden, the Netherlands. ISSN 2405-8858.
- ^ Campbell, Bruce, Peter Frost and Neil Bryon (1996). "Miombo woodlands and their use: overview and key issues." In Bruce Campbell (ed.), The Miombo in Transition: Woodlands and Welfare in Africa, pp. 1–10. Bogor, Indonesia: Center for International Forestry Research (CIFOR). ISBN 979-8764-07-2
- ^ Morris, Steve; Humphreys, David; Reynolds, Dan (2006). “Myth, Marula, and Elephant: An Assessment of Voluntary Ethanol Intoxication of the African Elephant (Loxodonta africana) Following Feeding on the Fruit of the Marula Tree (Sclerocarya birrea)”. Physiological and Biochemical Zoology 79 (2): 363–369. doi:10.1086/499983. PMID 16555195 26 October 2015閲覧。.
- ^ Wickens, G. E.; Food and Agriculture Organization (1995). “Potential Edible Nuts”. Edible Nuts. Non-Wood Forest Products. 5. Rome: Food and Agriculture Organization. ISBN 92-5-103748-5. OCLC 34529770 2008年11月10日閲覧。
- ^ “Sclerocarya birrea Sond. ssp. caffra J.O. Kokwaro”. ecoport.org (2 November 2001). 26 October 2015閲覧。
- ^ a b “Protected Trees” (PDF). Department of Water Affairs and Forestry, Republic of South Africa (3 May 2013). 5 July 2010時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月19日閲覧。
- ^ Beentje, H.J. (1994). Kenya Trees, Shrubs and Lianas. Nairobi, Kenya: National Museum of Kenya. ISBN 9966-9861-0-3
- ^ National Research Council (2008-01-25). “Marula”. Lost Crops of Africa: Volume III: Fruits. Lost Crops of Africa. 3. Washington, D.C.: National Academies Press. ISBN 978-0-309-10596-5. OCLC 34344933 2008年7月17日閲覧。
- ^ a b 「よっぱライター南部アフリカどろ酔い旅」p142-143 江口まゆみ 河出書房新社 2004年1月20日初版発行
- ^ a b c 「マルーラ酒が取り持つ社会関係」藤岡悠一郎 p266-267(「ナミビアを知るための53章」所収)水野一晴・永原陽子編著 明石書店 2016年3月20日初版第1刷
- ^ 「ゾウも大好き!? 南アフリカの人気土産 アマルーラ・クリーム」南アフリカ政府観光局 2018年12月20日閲覧
- ^ 「マルーラオイル/マルラオイル」途上国森林ビジネスデータベース 公益財団法人国際緑化推進センター 2016年 2018年12月20日閲覧
- ^ a b c Komane, Baatile; Vermaak, Ilze; Summers, Beverley; et al (2015). “Safety and efficacy of Sclerocarya birrea (A.Rich.) Hochst (Marula) oil: A clinical perspective”. Journal of Ethnopharmacology 176: 327–335. doi:10.1016/j.jep.2015.10.037. PMID 26528587.
- ^ Morris, Steve; David Humphreys; Dan Reynolds (2006). “Myth, marula, and elephant: an assessment of voluntary ethanol intoxication of the African elephant (Loxodonta africana) following feeding on the fruit of the marula tree (Sclerocarya birrea)”. Physiological and Biochemical Zoology 79 (2): 363–9. doi:10.1086/499983. PMID 16555195 2012年7月30日閲覧。.
- ^ Couper, Ross. “Elephants drunk on native fruit at South Africa's Singita Sabi Sand”. 25 April 2014閲覧。
- ^ “UNESCO - Oshituthi shomagongo, marula fruit festival” (英語). ich.unesco.org. 2022年6月7日閲覧。