ミルシネ・アフリカナ
ミルシネ・アフリカナ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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カーティス・ボタニカル・マガジンに掲載されたミルシネ・アフリカナの図版。
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分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Cape myrtle、African boxwood[1] |
ミルシネ・アフリカナ[2]あるいはミルシネ・アフリカーナ[1](Myrsine africana L.)は、サクラソウ科(クロンキスト体系ではヤブコウジ科)ツルマンリョウ属の常緑小低木の一種である。アフリカ南東部をはじめとしてヨーロッパやアジアといった広域にわたって分布し(参照: #分布)、複数の地域において駆虫薬など薬用目的での使用例が知られている(参照: #利用)。
リンネにより『植物の種』(1753年)に記載された種の一つでもある。
シノニム
[編集]The Plant List (2013) と Hassler (2018) で共通して本種のシノニムとされているものは以下の通りである。
- Myrsine africana var. acuminata C.Y. Wu & C. Chen
- Myrsine africana var. bifaria (Wall.) Franch.
- Myrsine africana var. glandulosa J.M. Zhang
- Myrsine africana var. retusa A. DC.
- Myrsine bifaria Wall.
- Myrsine microphylla Hayata
- Myrsine potama D. Don
- Myrsine vaccinifolia Hayata
- Rhamnus myrtillus H. Lév.[注 1]
- Samara potama Buch.-Ham. ex D.Don[注 2]
分布
[編集]17世紀に南アフリカからアゾレス諸島を経由してヨーロッパに移入された[2]。左記の地域のほか、アフリカ東部やヒマラヤ、中国[1](西南部、陝西省、甘粛省、湖北省、湖南省、広東省、台湾など[3])でも見られる。
ケニアでは標高1,500-3,000メートルの、特に高地の乾燥林や岩の多い丘の中腹[4]、開けた森林地帯や乾燥林の辺縁において見られる[5]。
石灰質には耐えるが、浅く乾燥する石灰質土壌では繁茂しない[1]。
特徴
[編集]高さ1-5メートルの多年生の常緑小低木あるいは小高木であり[5]、枝は灰茶色から紫色、筋があり、新芽には毛が密に生える[4]。以下は部位ごとの解説である。
葉はほぼ無柄で密生しており、堅く無毛、形状は非常に変化に富むが通常は楕円形から倒卵形であり、基部は楔形で先端は円形から鋭先形、0.5-2×0.3-1.2センチメートルで、葉縁は上半分に小刺毛が生えることが多い[4]。芳香と光沢があり、色は暗緑色である[1]。
花は3ミリメートルで緑白色からピンク色[4]、小さく3-6輪つき[1]、雄花に深紅色の葯が見られる[4]。
果実は丸い液果であり直径5ミリメートル以上、熟すと桃紫色となり[5]無毛、種子は1個である[5]。雌雄異株であるため、最低でも2つの個体が揃っていないと結実しない[6]。
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全体。
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葉と花。
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花。海老茶色の部分は葯である。
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果実。
利用
[編集]ミルシネ・アフリカナは複数の地域で薬として利用されてきた。中国では鉄仔(繁体字: 鐵仔/簡体字: 铁仔)などの名[注 3]で呼ばれ、エンベリン(embelin)などの成分を含む果実はサナダムシに対しての駆虫作用があることが知られており[2]、また下痢、リウマチ、歯痛、肺結核、出血の軽減にも用いられる(Kang, Zhou & Shen (2007))[7]。ケニアのキクユ人の間でも後述するように駆虫薬として知られており(参照: #民俗)、近年のニェリ県の報告によれば、果実のほかに樹皮も煎じ薬にされる[8]。Watt & Breyer-Brandwijk (1962) によると、南アフリカの南ソト人は雄羊に食べさせることで雄羊が適切な時期より前に雌羊と交尾してしまうことを防ぎ、ツワナ人とその1部族であるクウェナ(Kwena)は葉を煎じて「血液を浄化させるもの」として用いていた[9]。
ヨーロッパでは観賞用の植え込みとするために種子の状態から育てられる[5]。
民俗
[編集]ケニアのキクユ人のことばではミルシネ・アフリカナや同じサクラソウ科の Rapanea rhododendroides (Gilg) Mez[注 4] は mũgaita(モガイタ)、またそれらの実は ngaita(ガイタ)と呼ばれ、伝統的に虫下しの薬とされてきた[10]が、以下に挙げるような苦い薬としての特性にちなんだことわざや慣用句が数種類存在する。
- Mũkarĩ nĩ mũrĩa ngaita.「けちんぼとはガイタを食べる者のことである。」[11]
- Ngaita itirĩagĩrwo kwenda.「ガイタは好き好んで食べられる訳ではない。」[12]、あるいは Ngaita itirĩagĩrũo cama.「ガイタは美味だから食べられるという訳ではない」[13]
- kũrũra ta ngaita「ガイタのように苦い」[14]
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ Rhamnus はクロウメモドキ科クロウメモドキ属のこと。クロウメモドキ科は2016年に発表された分類体系であるAPG IVにおいてもバラ目であり、ツツジ目のサクラソウ科とは全く系統が異なる。
- ^ The Plant List (2013) は未解決状態としつつも、ミルシネ・アフリカナのシノニムであることを窺わせるデータが存在する、としている。
- ^ 「铁仔」以外にも「大红袍」、「矮零子」、「铁打杵」、「碎米果」、「豆瓣柴」といった呼称が存在する[3]。
- ^ The Plant List (2013) では独立の種とされているが、Hassler (2018) はミルシネ・アフリカナと同属の Myrsine melanophloeos (L.) R. Br. のシノニムとしている。この M. melanophloeos は The Plant List においては、Rapanea melanophloeos (L.) Mez のシノニム扱いとされている。
出典
[編集]- ^ a b c d e f ブリッケル編 (2003).
- ^ a b c 堀田 (1997).
- ^ a b 劉 (2013).
- ^ a b c d e Beentje (1994).
- ^ a b c d e f Maundu & Tengnäs (2005).
- ^ 初島・堀田 (1989).
- ^ Lall et al. (2017).
- ^ Kamau et al. (2016:9).
- ^ Liesl van der Walt (2005年7月). “Myrsine africana”. Plantz Africa. 2018年8月24日閲覧。
- ^ Leakey (1977:1330).
- ^ Njũrũri (1969:84).
- ^ Barra (1960).
- ^ Njũrũri (1969:106).
- ^ Kiruhi (2006).
参考文献
[編集]英語:
- Barra, G. (1960). 1,000 Kikuyu proverbs: with translations and English equivalents. London: Macmillan. p. 86. NCID BA28088839
- Beentje, H.J. (1994). Kenya Trees, Shrubs and Lianas. Nairobi, Kenya: National Museum of Kenya. ISBN 9966-9861-0-3
- Hassler, M. (2018). World Plants: Synonymic Checklists of the Vascular Plants of the World (version Apr 2018). In: Roskov Y., Orrell T., Nicolson D., Bailly N., Kirk P.M., Bourgoin T., DeWalt R.E., Decock W., De Wever A., Nieukerken E. van, Zarucchi J., Penev L., eds. (2018). Species 2000 & ITIS Catalogue of Life, 31st July 2018. Digital resource at www.catalogueoflife.org/col. Species 2000: Naturalis, Leiden, the Netherlands. ISSN 2405-8858.
- Kamau, Loice Njeri; Mbaabu, Peter Mathiu; Mbaria, James Mucunu; Gathumbi, Peter Karuri; Kiama, Stephen Gitahi (2016). “Ethnobotanical survey and threats to medicinal plants traditionally used for the management of human diseases in Nyeri County, Kenya”. TANG 6 (3) .
- Kiruhi, Macharia (2006). Lessons in Kikuyu oral literature: Figures of Speech in Contemporary Use. Ongata Rongai, Kenya: Cortraph. p. 89. ISBN 9966-7134-0-9
- Lall, Namrita; Kishore, Navneet; Fibrich, Bianca; Lambrechts, Isa Anina (2017). “In vitro and In vivo Activity of Myrsine africana on Elastase Inhibition and Anti-wrinkle Activity”. Pharmacognosy Magazine 13 (52): 583–589. doi:10.4103/pm.pm_145_17 .
- Leakey, L. S. B. (1977). The Southern Kikuyu before 1903. London and New York: Academic Press. NCID BA10346810
- Maundu, Patrick and Bo Tengnäs (eds.) (2005). Useful Trees and Shrubs for Kenya, p. 321. Nairobi, Kenya: World Agroforestry Centre—Eastern and Central Africa Regional Programme (ICRAF-ECA). ISBN 9966-896-70-8 Accessed online 24 August 2018 via http://www.worldagroforestry.org/usefultrees
- Njũrũri, Ngũmbũ (1969). Gĩkũyũ Proverbs. London: Macmillan. NCID BB24245091
- The Plant List (2013). Version 1.1. Published on the Internet; http://www.theplantlist.org/ (accessed 23rd August 2018).
中国語:
- 劉彬 編著『中药大辞典』青苹果数据中心、2013年。
日本語:
- クリストファー・ブリッケル 編集責任、横井政人 監訳『A-Z 園芸植物百科事典』誠文堂新光社、2003年、688頁。ISBN 4-416-40300-3
- 初島住彦、堀田満「Myrsine L. ツルマンリョウ属」 『世界有用植物事典』平凡社、1989年、702頁。ISBN 4-582-11505-5
- 堀田満ら 共著『朝日百科 植物の世界』第6巻、朝日新聞社、1997年、26頁。ISBN 4-02-380010-4
ラテン語:
- Linnaeus, Carl (1753). Species Plantarum, p. 196.
関連文献
[編集]英語:
- Kang, Lu; Zhou, Jian-Xia; Shen, Zheng-Wu (2007). “Two novel antibacterial flavonoids from Myrsine africana L.”. Chinese Journal of Chemistry 25: 1323–5. doi:10.1002/cjoc.200790245. NCID AA10791768
- Watt, John Mitchell; Breyer-Brandwijk, Maria Gerdina (1962). The Medicinal and Poisonous Plants of Southern and Eastern Africa: Being an Account of Their Medicinal and Other Uses, Chemical Composition, Pharmacological Effects and Toxicology in Man and Animal. Edinburgh: E. & S. Livingstone. NCID BA25950375