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ランダム化比較試験

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
証拠(科学的根拠またはエビデンス)の強さは、上に行くほど強くなる。上に向けて蓄積されていくので二次研究が一次研究を拾いきれないラグも起こりうる。また効果のみを評価し副作用を考慮していない場合もある。
  in vitro(試験管)など

(ニューヨーク州立大学作成[1]

ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:randomized controlled trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である[2]根拠に基づく医療(EBM:evidence-based medicine)において、このランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である[2]。主に医療分野で用いられているが、経済学においても取り入れられている[注釈 1][3]無作為化比較試験 とも呼ばれている[4]

改善度に関する主観的評価を避けるための尺度であるエンドポイントを用いる、効果の差を計測するための治療していない偽薬などを施した群を用意する、二重盲検法によって研究者がどちらが治療群かわからないようにし、治療群と対照群をランダムに割り当てるといった手法をとる[2]

歴史

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初のランダム化比較試験(RCT)は、イギリスにおいて、結核薬のストレプトマイシンが効くかどうかを調査するために、医学研究審議会(MRC:Medical Research Council)を代表してオースティン・ブラッドフォード・ヒル英語版らによって行われた[5]。結果は1948年に、英国医師会雑誌BMJ:British Medical Journal)に掲載された[6]。差を知りたい介入以外の介入が等しくなければ、因果関係が正しく分からないという[7]、統計学者のロナルド・フィッシャーによる統計理論が適用された[5]

米国では、1962年に連邦食品・医薬品・化粧品法において薬剤の有効性の概念を設け、適切で十分に制御された2回の適切な対照を置いた臨床試験によって有効性が示されれば、薬は承認されることとなった[8]。1990年代以降に普及した根拠に基づく医療における考え方では、RCTは、RCTを複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である[2]

条件

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ランダム化比較試験は、主観的あるいは恣意的な評価のバイアス(偏り)を避けるために、以下の点が揃っている[2]

  • エンドポイント:改善度に関する尺度。改善度に関する主観的評価を避ける。
  • 比較対照:治療を施した群と、偽薬あるいは比較のための治療を施した対照群。治療介入の効果を算出するため。対照群がない場合、何が要因なのかはっきりしない。
  • ランダム化:母集団からのランダムな抽出や、治療群と対照群のランダムな割り当てを行う。効果が出そうな対照を選ぶことを避ける。
  • 盲検化:研究者と被験者に、治療群と対照群がどちらであるかを分からないようにする。計測に主観が入らないようにする。

RCTによる効果検証・効果測定が一般に行われる以前では、いくつかの不合理な治療・投薬が存在していた。広く知られているのは、心筋梗塞の治療後に、予防的にリドカイン(不整脈を防ぐ効果がある)の投薬が行われていた事例である。しかし、心筋梗塞後のリドカイン投薬群、非投薬群の追跡調査の結果、リドカイン投与群でむしろ死亡率増加が認められたため、以後はリドカインのルーチン投与は推奨されていない[9]

社会科学におけるRCT

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政策的課題に解を与えるための研究が行われ、2000年代以降に増加している。学校の教育施策が学習に及ぼす影響、農業における新技術の影響、運転免許行政の不正、消費者金融市場のモラルハザードの影響、経済学理論の検証などに使われている[10]

2019年には、バナジーとデュフロらのRCTを用いた研究がノーベル経済学賞を受賞したことで話題を呼んだ。

RCTの限界

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臨床試験におけるバイアス

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ランダム化比較試験だけでは、まだバイアスの可能性は残っている。

1999年に公表された論説において、RCTにおける一例が紹介されている。この例のRCTでは、ある抗炎症薬が変形性膝関節症に対し、既存薬と比べて一見優れた効果を持つことが示されていたが、よく見てみると、投与量が新薬では多く対照薬では不十分という条件で試験されていた[11]

また、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得るためには、2つの肯定的な結果が出た試験が必要なだけであり、承認された薬について否定的な結果が出た試験があったとしても、(提出はともかく)公開には至らないことがある。しかし、情報公開法制に基づきこれらのデータを結合してメタアナリシスを行うと否定的な結果が示されることもある[12]

ランダム化に関連するさまざまなバイアス

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手良向(2020)[13]によれば、ある治療を受けさせるように医師が特定の対象を選択す ることによって引き起こされる選択バイアス(selection bias)や、盲検化に関わる確認バイアス(ascertainment bias)、観測されない共変量によって引き起こされるバイアスは 偶然バイアス(accidental bias)と経時的バイアス、登録患者の予後に関連する特性の分布が時間と共に変化するときに生じる経時的バイアス(chronological bias)、ランダム化エラー(randomization error)など、さまざまなRCT実施に関わるバイアスが報告されている。

ランダム化をめぐる倫理的課題

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二重盲検化を行う際には,プラセボ実験が必要となり、とくに医療分野におけるRCT実施に際しては大きな論点となっている。[14]

対照群の設定が不適切で、比較可能性が乏しいデータに、正しい統計手法を適用して誤った結論を導くことのほうが倫理上の問題がある、とする意見もある[15]

再現性の危機

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2019年のメタアナリシスでは、1990年代以降に実施された生物医学研究のRCTの約59.3%が不適切な方法で実施されていたことが判明しており、再現性の危機がある現状を鑑み、研究者たちはこのままではまた再現性の危機につながると警鐘を鳴らしている[16]

関連項目

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出典・脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、2019年のノーベル経済学賞は、開発経済学にランダム化比較試験を取り入れた業績が評価されて授与されている(Newsweek(2019年10月15日)「ノーベル経済学賞は米大教授3氏に 貧困層の子どもたち支援した実践的取り組み評価」)。

出典

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  1. ^ SUNY Downstate EBM Tutorial”. library.downstate.edu. 2004年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月3日閲覧。
  2. ^ a b c d e 津谷喜一郎、正木朋也 2006, pp. 9–12.
  3. ^ デュフロほか 2019.
  4. ^ コトバンク”. 2021年2月28日閲覧。
  5. ^ a b Yoshioka 1998.
  6. ^ Medical Research Council 1948.
  7. ^ 津谷喜一郎 2011, p. 48.
  8. ^ Laurie Burke 1999.
  9. ^ Sadowski, Z. P.; Alexander, J. H.; Skrabucha, B.; Dyduszynski, A.; Kuch, J.; Nartowicz, E.; Swiatecka, G.; Kong, D. F. et al. (1999-05). “Multicenter randomized trial and a systematic overview of lidocaine in acute myocardial infarction”. American Heart Journal 137 (5): 792–798. doi:10.1016/s0002-8703(99)70401-1. ISSN 0002-8703. PMID 10220626. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10220626/. 
  10. ^ デュフロほか 2019, pp. 第1章.
  11. ^ Randal, J. (January 1999). “Randomized Controlled Trials Mark a Golden Anniversary”. JNCI Journal of the National Cancer Institute 91 (1): 10–12. doi:10.1093/jnci/91.1.10. PMID 9890163. http://jnci.oxfordjournals.org/content/91/1/10.full. 
  12. ^ Irving Kirsch (2010年1月29日). “Antidepressants: The Emperor’s New Drugs?”. The Huffington Post. https://www.huffpost.com/entry/antidepressants-the-emper_b_442205 2012年3月1日閲覧。 
  13. ^ 手良向聡 (2020). “臨床試験におけるランダム化の意義と限界”. 計量生物学 41(1): 37-54. 
  14. ^ 田代志門『研究倫理とは何か-臨床医学研究と生命倫理』勁草書房、2011年。 
  15. ^ 丹後俊郎『統計学のセンス』朝倉書店、1998年。  p21 ISBN 4254127510
  16. ^ Catillon, Maryaline (2019-09). “Trends and predictors of biomedical research quality, 1990–2015: a meta-research study” (英語). BMJ Open 9 (9): e030342. doi:10.1136/bmjopen-2019-030342. ISSN 2044-6055. PMC PMC6731820. PMID 31481564. https://bmjopen.bmj.com/lookup/doi/10.1136/bmjopen-2019-030342. 

参考文献

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外部リンク

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