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ルーティオドン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ルティオドンから転送)
ルーティオドン
アメリカ自然史博物館・ルーティオドン復元骨格
地質時代
後期三畳紀
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Sauropsida
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
: 植竜類 Phytosauria
: パラスクス科 Parasuchidae
: ルーティドオン属 Rutiodon
学名
Rutiodon Emmons, 1856
  • R. carolinensis (Emmons, 1856) (タイプ種)
  • R. manhattanensis (Huene1913)

ルーティオドン学名Rutiodon)は、アメリカ合衆国東部の上部三畳系から化石が産出する、絶滅した植竜類[1]。タイプ種 Rutiodon carolinensisノースカロライナ州のCumnock層から多数の頭蓋骨と雑多な体骨格が発見されている。本種に分類可能な化石はペンシルベニア州ニュージャージー州およびバージニア州からも産出している。Rutiodon carolinensis は北アメリカ産の植竜類の中では最も良く記載されたものであるが、自然分類群としての本種の有効性は疑問視されている。より大型で頑強な種 Rutiodon manhattanensis を認める古生物学者もおり、本種はニュージャージー州とペンシルベニア州から歯と体骨格化石が知られている。

形態

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Rutiodon manhattanensis の骨格図。保存部位が灰色で示されている。

他の植竜類と同様に、ルーティオドンはワニと類似するが、鼻孔は吻部の先端ではなくより後方の眼窩の付近に位置する。最前部の歯は大型化しており、また顎は相対的に狭く、現生のインドガビアルを彷彿とさせる。このことから、ルーティオドンはおそらく主に魚食性であり、時には水辺から陸上動物を襲った可能性もあることが示唆される[2]。また、現生のワニと同様に、背中や側面や尾は皮骨板で被覆されていた[3]。ルーティオドンは当時の環境において最大の肉食動物の一つであり、全長は3メートルから8メートルであった[2]

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R. carolinensis

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AMNH fossil (top) and life restoration (bottom) of Rutiodon carolinensis

ルーティオドンのタイプ種は R. carolinensis である。本種はCumnock層のDeep Riber炭田から産出した化石に基づき、1856年にエベニーザー・エモンズ英語版が記載した[4]。この化石には筋の走った5本の歯と、それに関連する椎骨肋骨、および間鎖骨英語版の断片が含まれていた[4]

後に Emmons (1860) はノースカリフォルニア州で発見されたほぼ完全な R. carolinensis の頭蓋骨を発見したことに言及した。これは、当時においてはアメリカ合衆国で産出した植竜類の頭蓋骨の中で最も完全なものであった。これはルーティオドンに分類される頭蓋骨で最大のものでもあり、長さは77.3センチメートルに達する[5]。この頭蓋骨はエドウィン・ハリス・コルバートが1947年により詳細な記載を行った[6]。標本はウィリアムズ大学地質博物館に所蔵された後[4][5]国立自然史博物館に移管された[7]。これ以外の R. carolinensis の数多くの頭蓋骨と部分的骨格もノースカロライナ州で発見されており、アメリカ自然史博物館に所蔵されている[4]

R. carolinensis (AMNH 1) の骨格マウント

1963年、小さな部分的な植竜類の頭蓋骨 (AMNH 5500) がニュージャージー州のノースバーゲンに位置するグラントン採石場で発見された。この頭蓋骨はLockatong層の灰色粘土岩から回収され、1965年にコルバートが記載した。彼はこの頭蓋骨を R. carolinensis の幼体の可能性があるものとして同定した[5]。Doyle and Sues (1995) は、ペンシルベニア州ヨーク郡に分布するニューオックスフォード層英語版から産出した保存の良い植竜類の頭蓋骨 (SMP VP-45) を記載した。この頭蓋骨は以前 R. carolinesis に分類された頭蓋骨と酷似するものであった。記載者らは R. carolinensis が歯に基づいて記載されていたことから、本種について十分な標徴形質がない種であると判断し、ルーティオドンを単系統群として設立不可能な、東方の植竜類のゴミ箱分類群として扱った[7]

原記載以降 R. carolinensis はアメリカ合衆国東部から産出した様々な他の植竜類の種と融合してきた。アイザック・リー英語版はエモンズの記載の直前にペンシルベニア州から産出した複数の植竜類を記載しており、1851年には Clepsysaurus pennsylvanicus を、1856年には Centemodon sulcatus を命名した。両種はいずれもエモンズによって R. carolinensis と比較されたほか、いずれかの種についてルーティオドンのシニアシノニムとして指摘した研究者もいる。しかし、R. carolinensis の化石はより完全であり、本属の有効性が疑問視されることは稀である。ClepsysaurusCentemodon は一般にその有効性や標徴が疑問視されており、彼らの化石の分類はルーティオドンかフィトサウルス英語版あるいはPhytosauria incertae sedisとして、様々な研究者によって変化してきた[4][8][5]

1893年にオスニエル・チャールズ・マーシュコネチカット州ハートフォード郡から産出した1本の肩甲骨に基づき、Belodon validus を命名した[9]。1896年、マーシュはノースカロライナ州チャタム郡から産出した植竜類の頭蓋骨に言及した。これは当該地域から産出した植竜類の頭蓋骨として、エモンズのものに次ぐ2例目であった。マーシュはこの植竜類頭蓋骨を Rhytidodon rostratus と命名した。Belodon validus はその後疑問名と判断され[5]"Rhytidodon rostratus" (USNM 5373) は R. carolinensis に再分類されている[4]

1959年には、当時建設中であったワシントン・ダレス国際空港バージニア州フェアファックス郡)の付近から暫定的に R. carolinensis に分類された化石が産出している。この化石には椎骨と肋骨および鱗甲が含まれており、バルスブラフシルト岩の石灰質赤色泥岩から回収されている。これはルーティオドンだけでなく、植竜類全体の時代レンジをカルペパー盆地英語版まで伸ばすものである[10]

R. manhattanensis

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アメリカ自然史博物館に展示された R. manhattanensis のホロタイプ

第二の種 R. manhattanensis は1910年にストックトン層英語版から発見された[5][7]。発見地点はニュージャージー州フォートリー付近の崖の下であった。1913年にフリードリヒ・フォン・ヒューネは本標本を記載し、種小名については発見地がマンハッタンに近いことから命名した。化石は部分的に関節した後側の胴部であり、臀部、足を欠く下腿尾椎および鱗甲が含まれる。R. carolinensis とは脛骨がより大型であることと臀部がより頑強であることに基づいて区別される。R. manhattanensis は体サイズが著明に大きい。ホロタイプの大腿骨は43 - 44センチメートルに達し、ヒューネはこれまで観察したあらゆる植竜類の中で最大のものであると指摘している[11]

R. manhattanensis"Clepsysaurus"[4]あるいはフィトサウルス[8]に分類する研究者も居るが、ルーティオドンへの分類が Colbert (1965) により支持されている[5]。ペンシルベニア州ヨーク郡からは非常に大型の植竜類の歯・皮骨板・後肢の化石 (YPM-PU 11544) が産出しており、これらも R. manhattanensisに分類されている[5][7]。少数の論文著者は R. manhattanensis の有効性について懐疑的であり、2種の差異を性的二形と主張している[7]

分類

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ルーティオドンおよび他の植竜類の間の正確な系統関係は何度も見直されている[8][12]

20世紀後半の複数の論文ではルーティオドン属の範囲が拡張されており、このため本属はアメリカ合衆国東部と西部の両方の植竜類を包含するようになった。ルーティオドン属に含まれる西部の種には、レプトスクスマカエロプロソプスおよびプセウドパラトゥスに分類されたほぼ全ての種がいる[4][8][13]。しかし1995年の論文と、植竜類に関するほぼ全ての後続研究では、ルーティオドンが西部の植竜類の種を包含するという見解は否定されている[14]。研究者らはマカエロプロソプスとレプトスクスの有効性を再度主張し、またプセウドパラトゥスについてはマカエロプロソプスのジュニアシノニムとして扱っている。また、"Machaeroprosopus" gregorii は独立した属であるスミロスクス属に再分類された[14]

より新しい研究では、ルーティオドンはパレオリヌス英語版よりも派生的でレプトスクスよりも基盤的な系統的位置に置かれることでコンセンサスが得られている[1][15][16][12]。言葉を変えれば、これはルーティオドンがフィトサウルス科[1](ミストリオスクス亜科とも[16])の系統群に属し、より排他的な系統群であるレプトスクス形類英語版に属さないことを意味する[1]。2001年の学会要旨で Rutiodon carolinensisアンギストリヌスのシノニムとして提唱されているが[17]、これはアンギストリヌスがルーティオドンの直径の祖先であるという提唱を反映したものである[8]。このシノニムの解釈は論文化されていない。

2018年の植竜類の系統解析では、ミストリオスクス亜科の基底においてアンギストリヌスと Rutiodon carolinensis と姉妹群をなすことが示された[12]。その後に発表された、インドティキ層英語版から産出した2属のミストリオスクス亜科植竜類であるヴォルカノスクス英語版コロッソスクス英語版の記載論文では、アンギストリヌスとルーティオドンを姉妹群とするこの見解は支持されていない。その代わり、同論文ではアンギストリヌスはブラキスクス英語版の姉妹群に置かれ、ルーティオドンは他の論文と同じくレプトスクス形類から除外される形で近縁な位置に置かれた[18][19]。2023年のコロッソスクスの記載論文に掲載された最節約樹の半分以上では、ルーティオドンはヴォルカノスクスの姉妹群に置かれている[19]

以下のクラドグラムは Stocker (2012) に基づく[15]

植竜類 

"Paleorhinus" scurriensis

Paleorhinus bransoni

"Paleorhinus" sawini

フィトサウルス科英語版

Brachysuchus megalodon

Angistorhinus

Rutiodon carolinensis

"Machaeroprosopus" zunii

Protome batalaria

レプトスクス形類英語版

"Phytosaurus" doughtyi

TMM 31173-120

Leptosuchus crosbiensis

Leptosuchus studeri

Smilosuchus lithodendrorum

Smilosuchus adamanensis

Smilosuchus gregorii

Pravusuchus hortus

プセウドパラトゥス亜科英語版

Pseudopalatus mccauleyi

Mystriosuchus westphali

Pseudopalatus pristinus

出典

[編集]
  1. ^ a b c d Michelle R. Stocker (2010). “A new taxon of phytosaur (Archosauria: Pseudosuchia) from the Late Triassic (Norian) Sonsela Member (Chinle Formation) in Arizona, and a critical reevaluation of Leptosuchus Case, 1922”. Palaeontology 53 (5): 997–1022. doi:10.1111/j.1475-4983.2010.00983.x. 
  2. ^ a b Gaines, Richard M. (2001). Coelophysis. ABDO Publishing Company. pp. 21. ISBN 1-57765-488-9 
  3. ^ Palmer, D., ed (1999). The Marshall Illustrated Encyclopedia of Dinosaurs and Prehistoric Animals. London: Marshall Editions. p. 95. ISBN 1-84028-152-9 
  4. ^ a b c d e f g h Gregory, Joseph T. (27 June 1962). “The Relationships of the American Phytosaur Rutiodon. American Museum Novitates (2095): 1-22. https://digitallibrary.amnh.org/bitstream/handle/2246/3397/N2095.pdf?sequence=1. 
  5. ^ a b c d e f g h Colbert, Edwin H. (10 September 1965). “A Phytosaur from North Bergen, New Jersey”. American Museum Novitates (2230): 1–25. http://digitallibrary.amnh.org/bitstream/handle/2246/3324/N2230.pdf?sequence=1. 
  6. ^ Colbert, Edwin Harris (1947). “Studies of the phytosaurs Machaeroprosopus and Rutiodon. Bulletin of the American Museum of Natural History 88 (2). https://digitallibrary.amnh.org/handle/2246/395. 
  7. ^ a b c d e Doyle, Kevin D.; Sues, Hans-Dieter (1995-09-14). “Phytosaurs (Reptilia: Archosauria) from the Upper Triassic New Oxford Formation of York County, Pennsylvania” (英語). Journal of Vertebrate Paleontology 15 (3): 545–553. doi:10.1080/02724634.1995.10011247. ISSN 0272-4634. http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02724634.1995.10011247. 
  8. ^ a b c d e Gregory, J. T. (1962-11-01). “The genera of phytosaurs” (英語). American Journal of Science 260 (9): 652–690. doi:10.2475/ajs.260.9.652. ISSN 0002-9599. https://ajs.scholasticahq.com/article/58959. 
  9. ^ Marsh, O.C. (1893). "Restoration of Anchisaurus". The American Journal of Science. Series 3 45: 169-170.
  10. ^ Weems, Robert E. (16 November 1979). “A large parasuchian (phytosaur) from the Upper Triassic portion of the Culpeper Basin of Virginia (USA)”. Proceedings of the Biological Society of Washington 92 (4): 682-688. https://www.researchgate.net/publication/236107027. 
  11. ^ Huene, Friedrich R. (1913). “A new phytosaur from the Palisades near New York” (英語). Bulletin of the American Museum of Natural History 32 (15). https://digitallibrary.amnh.org/handle/2246/1411. 
  12. ^ a b c Jones, Andrew S.; Butler, Richard J. (2018-12-10). “A new phylogenetic analysis of Phytosauria (Archosauria: Pseudosuchia) with the application of continuous and geometric morphometric character coding” (英語). PeerJ 6: e5901. doi:10.7717/peerj.5901. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/5901. 
  13. ^ Ballew, K. L. (1989). "A phylogenetic analysis of Phytosauria from the Late Triassic of the western United States". In: Lucas, S. G. and Hunt, A. P., eds., Dawn of the age of dinosaurs in the American Southwest, pp. 309-339. New Mexico Museum of Natural History. Albuquerque.
  14. ^ a b Long, R. A., and Murry, P. A. (1995). Late Triassic (Carnian and Norian) tetrapods from the southwestern United States. New Mexico Museum of Natural History and Science Bulletin 4:1-254.
  15. ^ a b Stocker, M. R. (2012). “A new phytosaur (Archosauriformes, Phytosauria) from the Lot's Wife beds (Sonsela Member) within the Chinle Formation (Upper Triassic) of Petrified Forest National Park, Arizona”. Journal of Vertebrate Paleontology 32 (3): 573–586. doi:10.1080/02724634.2012.649815. 
  16. ^ a b Christian F. Kammerer; Richard J. Butler; Saswati Bandyopadhyay; Michelle R. Stocker (2016). “Relationships of the Indian phytosaur Parasuchus hislopi Lydekker, 1885”. Papers in Palaeontology 2 (1): 1–23. doi:10.1002/spp2.1022. http://pure-oai.bham.ac.uk/ws/files/19880739/Kammerer_et_al._2015._Accepted_MS.pdf. 
  17. ^ Hungerbühler, A. and Sues, H.-D. (2001). Status and phylogenetic relationships of the Late Triassic phytosaur Rutiodon carolinensis. Journal of Vertebrate Paleontology 21(3 suppl.):64A.
  18. ^ Datta, Debajit; Ray, Sanghamitra; Bandyopadhyay, Saswati (2021). Smith, Andrew. ed. “Cranial morphology of a new phytosaur (Diapsida, Archosauria) from the Upper Triassic of India: implications for phytosaur phylogeny and biostratigraphy” (英語). Papers in Palaeontology 7 (2): 675–708. doi:10.1002/spp2.1292. ISSN 2056-2799. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/spp2.1292. 
  19. ^ a b Datta, Debajit; Ray, Sanghamitra (2023). Field, Daniel. ed. “A giant phytosaur (Diapsida, Archosauria) from the Upper Triassic of India with new insights on phytosaur migration, endemism and extinction” (英語). Papers in Palaeontology 9 (1). doi:10.1002/spp2.1476. ISSN 2056-2799. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/spp2.1476.