ロビンソン・クルーソー
『ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険』 The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe | |
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初版の扉ページ | |
作者 | ダニエル・デフォー |
国 | イギリス、ドイツ |
言語 | 英語 |
ジャンル | 長編小説 |
刊本情報 | |
出版元 | William Taylor |
出版年月日 | 1719年4月25日 |
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『ロビンソン・クルーソー』(Robinson Crusoe)は、イギリスの小説家ダニエル・デフォーの小説。主に第1作を指して『ロビンソン漂流記』などともいう。
概要
[編集]1719年に『ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険』(The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe)として刊行された。ロビンソン・クルーソーの誕生からはじまり、船乗りになり、無人島に漂着し、独力で生活を築いてゆく。この無人島には時々近隣の島の住民が上陸しており、捕虜の処刑及び食人が行なわれていた。ロビンソンはその捕虜の一人を助け出し、フライデーと名づけて従僕にする。28年間を過ごした後、帰国するまでが描かれている(第1部)。
この小説が好評だったので、さっそく続編(第2部)『ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険』(The Farther Adventures of Robinson Crusoe)が刊行された。ロビンソンは再び航海に出て、以前暮らした無人島やインド・中国などを訪れる。日本との交易の話も持ち上がるが、ロビンソン自身は行かずに済ませる。
さらに1720年にロビンソンの第3部『ロビンソン・クルーソーの真面目な省察』(Serious Reflections of Robinson Crusoe)が刊行された。これは冒険物語ではなく宗教などをテーマにした随筆で構成されている。
実在のモデル
[編集]ロビンソン・クルーソー[注釈 1]は架空の人物である。しかし、実際に無人島で生活した経験を持つスコットランドの航海長アレキサンダー・セルカーク(Alexander Selkirk) の漂流記での実話[1][2]、17~18世紀に広く出回っていた数々の航海誌等をモデルにしていたとされる[1]。
1704年10月、航海長をしていたセルカークは、船長との争いが元でマス・ア・ティエラ島に取り残された。マス・ア・ティエラ島は、チリの沖合に浮かぶ全長約20km×幅約5kmの島でファン・フェルナンデス諸島では最も大きい島である。セルカークは4年4ヶ月の間、このマス・ア・ティエラ島で自給自足生活をし、1709年2月にイングランドの私掠船長ウッズ・ロジャーズに救出された。
セルカークの特異な体験談はロジャーズの航海記で紹介されて、それをロンドンのジャーナリスト、リチャード・スティールが1713年に新聞で紹介した。この話からヒントを得たダニエル・デフォーが、ロビンソン・クルーソーの物語として1719年に初版を出した。初版本では著者名はなく、あたかもロビンソン・クルーソー自身の航海記であるかのような形式をとっていた。
1966年にマス・ア・ティエラ島はロビンソン・クルーソー島と改名され、今では約600人が住む島になっているが、実際にセルカークがこの島のどこで生活をしていたのか、具体的な事は全く分かっていなかった。
1992年に日本人探検家の髙橋大輔がこの島の調査を始め、実際に現地で自給自足生活を試みるなどしてセルカークの足跡を追った[3]。2001年に髙橋はセルカークの住居跡と思われる場所を発見した。2005年1月-2月に考古学者を含む調査隊を率い発掘調査を行った。髙橋が最初に住居跡と思っていた所は、セルカークの年代より新しいスペイン人の作った火薬庫の跡だったが、その下からセルカークの年代の焚き火や柱の跡が見つかった。そして土の中から16ミリの金属片を掘り当て、当時の航海用の器具(ディバイダー)の先端部と一致したことが決め手となった。調査結果は2005年9月15日に世界中で同時に発表された。
しかし物語は、幾つもの海賊の物語に影響されて作られた物でありセルカークをモデルにしたものではないとする見解もある[4]。
正式なタイトル
[編集]初版のタイトルは、正式には「自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述」(The Life and Strange Surprizing Adventures of Robinson Crusoe, of York, Mariner:Who lived Eight and Twenty Years, all alone in an un‐inhabited Island on the Coast of America, near the Mouth of the Great River of Oroonoque;Having been cast on Shore by Shipwreck, wherein all the Men perished but himself. With An Account how he was at last as strangely deliver’d by Pyrates)である。また「本人自筆による」(Written by Himself)と、あたかも主人公ロビンソン・クルーソー自身が執筆したかのように仮装されている。
受容
[編集]この作品は経済学的な視点からも注目を集めてきた。カール・マルクスは『資本論』の中でロビンソンを引き合いに出して論じており、シルビオ・ゲゼルは主要著書『自然的経済秩序』の中で独自のロビンソン・クルーソー物語を紡ぎ出している。また、マックス・ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中でロビンソン物語を取上げ、主人公の中に合理主義的なプロテスタントの倫理観を読み取っている。経済学者大塚久雄も『社会科学の方法』『社会科学における人間』(ともに岩波新書)などで、ロビンソンが簿記をつけ始めることなど新興のイギリス中産階級の勤勉で信仰心に篤い起業家の姿を投影していると力説している。
同時代の文人ジョナサン・スウィフトが代表作『ガリヴァー旅行記』を執筆したのも、本作の影響が大きいと言われている[誰によって?]。
同書は単なるキリスト教的な倫理ではなく、キリスト教書籍としても評価されている[5]。
日本での最初期の刊行紹介は、幕末に黒田麹廬、横山保三、斎藤了庵によりオランダ語訳書から重訳されている。黒田訳は『漂荒紀事』の題で嘉永3年(1850年)までに訳され写本の形で流布、横山訳は安政4年(1857年)9月に川上冬崖の色刷木版挿絵をつけて『魯敏遜漂行紀略』として自費出版され、斎藤訳は明治5年(1872年)に『魯敏遜全伝』という題で刊行された。子供向けの冒険物語として編集されたダイジェスト版で親しんでいる読者も数多い。
主な日本語訳
[編集]- 増田義郎訳など一部の訳書は、原書にはない独自の章、改行、約物の追加などを行っている。
- 平田禿木訳 『ロビンソン・クルーソー』 外語研究社(初等訳註全集第1巻)、1937年。第1部
- 野上豊一郎訳 『ロビンソン・クルーソー』 岩波文庫(4巻)、1946年-1950年。第1部・第2部を収録
- 吉田健一訳 『ロビンソン漂流記』 新潮文庫、1951年、のち改版2013年。第1部
- 阿部知二訳 『ロビンソン・クルーソー』 岩波少年文庫、1952年。第1部抄訳 - 挿絵作者不詳
- 平井正穂訳 『ロビンソン・クルーソー』 岩波文庫(上下)、1967-1971年、のち改版2012年。第1部・第2部を収録
- 能島武文訳 『ロビンソン・クルーソー』 角川文庫、1967年。第1部
- 坂井晴彦訳 『ロビンソン・クルーソー』 (福音館書店〈福音館古典童話シリーズ〉、1975年)、福音館文庫、2003年。第1部抄訳 - ベルナール・ピカール画
- 山本和平訳 『ロビンソン・クルーソー』 「世界文学全集13」講談社、1978年。第1部・第2部・第3部抄訳を収録。
- 鈴木建三訳 『ロビンソン・クルーソー』 集英社文庫、1995年。第1部(コメント:荒川じんぺい)
- 海保眞夫、原田範行共訳 『ロビンソン・クルーソー』 岩波少年文庫、2004年。第1部抄訳 - ウォルター・パジェット画
- 増田義郎訳 『完訳 ロビンソン・クルーソー』 中央公論新社、2007年、中公文庫、2010年10月。第1部 - 挿絵作者不詳
- 武田将明訳 『ロビンソン・クルーソー』 河出文庫、2011年9月。第1部 - ウォルター・パジェット画
- 唐戸信嘉訳 『ロビンソン・クルーソー』 光文社古典新訳文庫、2018年8月。第1部
- 鈴木恵訳 『ロビンソン・クルーソー』 新潮文庫、2019年7月。第1部
派生作品
[編集]- クルーソー (ドラマ):2008年に制作されたドラマ。
- ロビンソンクルーソー 無人島の冒険:学研制作のアニメ。
- ロビンソン・クルーソー (映画):2016年制作のCGアニメ映画。ベルギーとフランスの合作。
- スイスのロビンソン:当作品を基にした家族が漂流する物語と、これを映像化したもの。
- スイスファミリーロビンソン:映画。
- ロビンソン一家漂流記:ドラマ。
- 家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ:TVアニメ。
関連項目
[編集]- 探検家
- 無人島
- 長大語
- ミシェル・トゥルニエ - フランスの作家。『ロビンソン・クルーソー』を下敷きにした小説、『フライデーあるいは太平洋の冥界』およびそのリメイク作品『フライデーあるいは野生の生活』の著者。
- ヨハン・ダビット・ウィース - スイスの牧師。『ロビンソン・クルーソー』を下敷きにした小説、『スイスのロビンソン』の著者。
- 岩尾龍太郎 - 多くの関連研究を刊行
- マカナ - 中南米で使われていた黒曜石の刃を取り付けた木剣。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 出生名はロビンソン・クロイツネール(Robinson Kreutznaer)。
出典
[編集]- ^ a b 世界大百科事典内のアレクサンダー・セルカークの言及2017年3月18日閲覧
- ^ 増田義郎『図説 海賊』p87、河出書房新社、2006年
- ^ 調査記録は髙橋大輔『ロビンソン・クルーソーを探して』新潮社、1999年。新潮文庫、2002年
- ^ ロビンソン・クルーソー「実在神話」の真相2017年3月18日閲覧
- ^ ケネス・マクビーティ『「ロビンソン・クルーソー」に秘められた十字架』いのちのことば社
外部リンク
[編集]- ロビンソン・クルーソー at Standard Ebooks
- Robinson Crusoe - プロジェクト・グーテンベルク
- 探検家 髙橋大輔のブログ - セルカークの住居跡調査隊を率いた日本人探険家
- 『ロビンソン・クルーソー』における倫理と宗教
- 「ロビンソン・クルーソー」
(国立国会図書館デジタルコレクション。第1部。第2部を収めた(三)(四)も送信サービスにて提供あり。)野上豊一郎訳、岩波文庫