ロピナビル・リトナビル
成分一覧 | |
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Lopinavir | Protease inhibitor |
Ritonavir | Protease inhibitor (pharmacokinetic booster) |
臨床データ | |
販売名 | Kaletra, Aluvia |
Drugs.com | monograph |
MedlinePlus | a602015 |
ライセンス | EMA:リンク、US Daily Med:リンク |
胎児危険度分類 | |
法的規制 | |
データベースID | |
CAS番号 | 369372-47-4 |
ATCコード | J05AR10 (WHO) |
PubChem | CID: 11979606 |
KEGG | D02498 |
NIAID ChemDB | 003688 |
ロピナビル・リトナビル(Lopinavir/ritonavir、LPV/r)は、HIV/AIDSの治療および予防を目的とした固定用量配合の抗レトロウイルス薬である[2]。ロピナビルと低用量のリトナビルが配合されている[2]。一般的に、他の抗レトロウイルス薬との併用が推奨される[2]。本剤は、針刺し事故やその他の曝露の可能性がある場合の予防に使用されることがある[2]。本剤は、錠剤、カプセル、または溶液として経口投与される[2]。日本では錠剤および内用液剤が承認されている[3][4]。
一般的な副作用には、下痢、嘔吐、疲労感、頭痛、筋肉痛等がある[2]。重篤な副作用としては、膵炎、肝障害、高血糖等が挙げられる[2]。妊婦にもよく使われており、安全性は高いと思われる[2]。どちらの薬もHIVプロテアーゼ阻害剤であるが[2]、リトナビルは主にロピナビルの分解を遅らせる役割を担っている[2]。
ロピナビル・リトナビル合剤の単独での使用は、米国と日本では2000年に承認されている[2][5]:3。世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストに掲載されている[6]。
効能・効果
[編集]- HIV感染症
ロピナビル・リトナビルは、米国ではHIVの初回治療に好まれる組み合わせであった[7]。しかし、他のプロテアーゼ阻害剤ベースのレジメンと比較して錠剤の負担が大きく、胃腸障害を起こし易い事から、未治療の患者には推奨されなくなった[8]。
禁忌
[編集]ロピナビル・リトナビルは、下記の薬剤を投与中の患者には禁忌である[3][4]。
- ピモジド、エルゴタミン・カフェイン・イソプロピルアンチピリン、ジヒドロエルゴタミン、エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、ミダゾラム、トリアゾラム、ルラシドン、バルデナフィル、シルデナフィル、タダラフィル、ブロナンセリン、アゼルニジピン、アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル、リバーロキサバン、ロミタピド、ベネトクラクス(用量漸増期)、リオシグアト、ボリコナゾール、グラゾプレビル
腎機能または肝機能障害のある患者では、コルヒチンも併用禁忌となる[3][4]。
副作用
[編集]- 一部では糖尿病性ケトアシドーシスが現れている。
である。
最も一般的な副作用は、下痢と嘔気である。主要な臨床試験では、中等度または重度の下痢が最大で27%の患者に、中等度または重度の嘔気が最大で16%の患者に見られた[9]。その他の一般的な副作用としては、腹痛、虚弱、頭痛、嘔吐、特に小児では発疹などが出現した[9]。
また、肝酵素の上昇もロピナビル・リトナビル投与中の2%以上の患者に見られる[3][4]。
ロピナビル・リトナビルは、CYP3AやP-gp基質である他の薬剤と、程度の差こそあれ相互作用する[10]。
心臓の構造的疾患、既存の伝導系異常、虚血性心疾患、心筋症のある患者は、ロピナビル・リトナビルの使用に注意が必要である[11]。
2011年3月8日、米国食品医薬品局は、未熟児がロピナビル・リトナビル内用液を投与された際に、プロピレングリコールが原因と思われる重篤な健康障害が報告されたことを医療関係者に通知した。未熟児への使用は避けるべきであるとしている[12]。
開発の経緯
[編集]アボット・ラボラトリーズ(現アビー)は、アルゴンヌ国立研究所の国立シンクロトロン放射光源であるAdvanced Photon Source(APS)の初期のユーザーの1人であった。APSの初期の研究プロジェクトの1つは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)タンパク質に焦点を当てたものであった。APSのビームを用いたX線結晶構造解析により、ウイルスタンパク質の構造が明らかとなり、HIVプロテアーゼ阻害剤の開発に向けたアプローチが可能になった。アルゴンヌAPSを用いたこの構造に基づく創薬の結果、アボットはプロテアーゼを阻害する事でウイルスの複製を阻止する新製品を開発する事が出来た[13][14]。
ロピナビルは、初期のプロテアーゼ阻害剤であるリトナビルの改良版として開発された。具体的には、血清タンパク結合特性(プロテアーゼ酵素阻害に対する血清の干渉を低減する)とHIV耐性プロファイル(薬剤に対するウイルスの耐性を高める能力を低減する)を考慮して開発された[14]。ロピナビルは単独投与ではバイオアベイラビリティが不充分であるが、他のHIVプロテアーゼ阻害剤と同様に、腸管および肝のシトクロムP450 3A4を強力に阻害するリトナビルを低用量で併用すると、血中濃度が大幅に上昇する[14]。この為、アボット社はロピナビルと(効果の低い)リトナビルを併用する戦略を採用し、ロピナビルはリトナビルとの合剤としてのみ製剤化され販売された[要出典]。
ロピナビル/リトナビルは、2000年9月15日に米国食品医薬品局(FDA)で[15][16]、2000年12月12日に日本で[17]、2001年3月19日に欧州で[18]承認された。
COVID-19パンデミックが発生した2020年3月、イスラエル政府はアッヴィにロピナビル・リトナビルの特許を強制的に使用許諾することを発表した。これを受けて、アッヴィは本剤の特許行使を完全に停止することを発表した[19][20][21]。
価格
[編集]タイ政府は、価格の高騰やHIV感染の拡大を受けて、2007年1月29日にロピナビルとリトナビルのジェネリック医薬品の製造および輸入に関する強制実施権を発行した[22]。これに対し、アボット・ラボラトリーズ社は、タイ政府が特許を尊重しない事を理由に、ロピナビルを始めとする7つの新薬のタイでの登録を取り下げた[23]。このようなアボット社の姿勢は、Act Up-Parisが開始したネットストライキや、フランスのNGO AIDESによるアボット社の全医薬品のボイコットの呼び掛けなど、世界中の複数のNGOによって糾弾されている[24]。
研究開発
[編集]SARS-CoV-1のデータは有望と思われたが、COVID-19における有用性は2020年3月23日までは不明であった[25]。2020年に公表された非盲検無作為化試験で、重症のCOVID-19の治療にロピナビル・リトナビルは有用ではないことが判明した[26][25]。この試験では、症状が出始めてから通常13日前後で投薬が開始された[25]。
脚注
[編集]- ^ “Kaletra Product information”. Health Canada (2019年3月19日). 18 March 2020閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k “Lopinavir and Ritonavir”. The American Society of Health-System Pharmacists. 20 December 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。28 November 2016閲覧。
- ^ a b c d e “カレトラ配合錠 添付文書”. www.info.pmda.go.jp. PMDA. 2021年6月15日閲覧。
- ^ a b c d e “カレトラ配合内用液 添付文書”. www.info.pmda.go.jp. PMDA. 2021年6月15日閲覧。
- ^ “カレトラ・ソフトカプセル カレトラ・リキッド に関する資料(審査報告書)”. PMDA. 2021年6月15日閲覧。
- ^ World Health Organization model list of essential medicines: 21st list 2019. Geneva: World Health Organization. (2019). hdl:10665/325771. WHO/MVP/EMP/IAU/2019.06. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO
- ^ “Adult and Adolescent Guidelines”. AIDSinfo (4 May 2006). 6 May 2006時点のオリジナルよりアーカイブ。6 May 2006閲覧。
- ^ “What to Start: Initial Combination Regimens for the Antiretroviral-Naive Patient”. AIDSinfo. p. Table 10. Antiretroviral Components or Regimens Not Recommended as Initial Therapy (December 18, 2019). August 26, 2020閲覧。
- ^ a b “Kaletra- lopinavir and ritonavir tablet, film coated Kaletra- lopinavir and ritonavir solution”. DailyMed (26 December 2019). 18 March 2020閲覧。
- ^ “Scientific and regulatory perspectives on metabolizing enzyme-transporter interplay and its role in drug interactions: challenges in predicting drug interactions”. Molecular Pharmaceutics 6 (6): 1766–74. (19 October 2009). doi:10.1021/mp900132e. PMID 19839641.
- ^ “FDA Issues Safety Labeling Changes for Kaletra”. Medscape (10 April 2009). 10 September 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。18 March 2020閲覧。
- ^ “Kaletra (lopinavir/ritonavir): Label Change - Serious Health Problems in Premature Babies”. Drugs.com. 2011年3月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月15日閲覧。
- ^ Foster, Catherine. “Research at Argonne helps Abbott Labs develop anti-HIV drug”. 2006年10月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月4日閲覧。
- ^ a b c “ABT-378, a highly potent inhibitor of the human immunodeficiency virus protease”. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 42 (12): 3218–24. (December 1998). doi:10.1128/AAC.42.12.3218. PMC 106025. PMID 9835517 .
- ^ “Drug Approval Package: Kaletra (Lopinavir/Ritonavir) NDA #21-226 & 21-251”. U.S. Food and Drug Administration (FDA) (20 November 2001). 18 March 2020閲覧。
- ^ “Generic Kaletra Availability”. Drugs.com. 2020年2月18日閲覧。
- ^ “再審査報告書”. PMDA. 2021年6月15日閲覧。
- ^ “Kaletra EPAR”. European Medicines Agency (EMA). 2020年2月18日閲覧。
- ^ “Drug companies should drop their patents and collaborate to fight coronavirus”. The Conversation (April 1, 2020). 2021年6月15日閲覧。
- ^ “Inoculating the world may mean reviving old curbs on patents”. Bloomberg. (14 April 2020) 16 April 2020閲覧。
- ^ Scheer, Steven (19 March 2020). “Israel approves generic HIV drug to treat COVID-19 despite doubts” 16 April 2020閲覧。
- ^ “Decree of Department of Disease Control, Ministry of Public Health, regarding exploitation of patent on drugs & medical supplies by the government on combination drug between lopinavir & ritonavir”. 2011年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月15日閲覧。
- ^ 'Abbott pulls HIV drug in Thai patents protest', Financial Times (14 March 2007)
- ^ “People Living with HIV: Let's change the rules imposed by the pharmaceutical industry!” (1 July 2007). 20 October 2007時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月16日閲覧。
- ^ a b c McCreary, Erin K; Pogue, Jason M (23 March 2020). “COVID-19 Treatment: A Review of Early and Emerging Options”. Open Forum Infectious Diseases 7 (4): ofaa105. doi:10.1093/ofid/ofaa105. PMC 7144823. PMID 32284951 .
- ^ “A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19”. New England Journal of Medicine 382 (19): 1787–1799. (March 2020). doi:10.1056/NEJMoa2001282. PMC 7121492. PMID 32187464 . "This randomized trial found that lopinavir–ritonavir treatment added to standard supportive care was not associated with clinical improvement or mortality in seriously ill patients with Covid-19 different from that associated with standard care alone."
外部リンク
[編集]- “Lopinavir mixture with ritonavir”. Drug Information Portal. U.S. National Library of Medicine. 2021年6月15日閲覧。