二度漬け禁止
二度漬け禁止(にどづけきんし)[注 1]は、主に串カツを提供する飲食店で見られるルール。串カツを一度ソースにつけて食べている途中で二度目はつけてはいけないというもの。
店の看板や張り紙、ソースの容器などで注意書きが見られ、衛生上の観点などから禁止されている。
破ると法的に処罰を受ける可能性もある。
概要
[編集]大阪を中心とする西日本の串カツは、小ぶりに切られた牛肉や魚介類、野菜などの食材を揚げ、串に刺した料理を指す[1]。こうした串カツを提供する飲食店では客席に調味用としてステンレス製の容器やトレイに入った薄い特製のウスターソースが置かれ、客が銘々に串カツをソースに漬け、調味して食す。その折に串カツを介してソースに唾液が混じる恐れがあり、衛生上の問題から「二度漬け禁止」のルールが誕生した[1]。この「二度漬け禁止」はほぼ全ての串カツ店で共通のルールとなっており、今日では大阪の串カツの代名詞的存在となっている[2]。また大阪府の吉村洋文知事は、「『2度漬けアカン』は大阪の文化」とも述べている[3]。
なお、大半の店では突き出しとしてざく切りのキャベツが無料で提供されているが、一度口をつけた串カツに追加でソースをつけたいときに、このキャベツでソースをすくって串カツにかけるという方法も存在する[1][2]。
理由
[編集]二度漬けが禁止される理由として、衛生面や、店のこだわりによるものがある。
衛生面
[編集]- 一度口をつけた串カツにソースを二度漬けすることで、串カツについた唾液が共用のソースに混入する。健康な人であっても口内には数十億の細菌が存在するため、ソースの劣化につながり、最悪の場合、客の健康被害につながる。そのため大半の店では「二度漬け禁止」が明示されている。
こだわり
[編集]- 皿には他の揚げ物や料理が乗っていることもあり、食べかけの串カツでは中の具材が露わになっている。二度漬けすることでソースに別の具材や衣が混ざってしまい、ソースの味が変わり、風味が損なわれるため、二度漬けを禁止している店もある[4]。
変遷
[編集]最近では「二度漬け禁止」のルールに変化が見られる。
2018年(平成30年)6月より串カツ田中では、来店客ごとにソースを提供し、その都度廃棄するというシステムに変更を行った[5]。これにより二度漬けは可能となったが、メニューにも書かれているとおり、あくまで店側は「二度漬け禁止」を推奨している[5]。
2020年(令和2年)5月16日、串カツだるまが新型コロナウイルス感染症感染防止の観点からディスペンサーでの個別ソースの提供を開始した[6]。同年6月12日、串カツ田中でも従来のつけるソースの提供をやめ、かけるソースディスペンサーでの提供を開始した[7][8]。この方式では注文後に人数に応じてソースディスペンサーが提供され[7]、二度がけや三度がけが可能となった[8]。また、希望することで従来の提供方法も受けることができ、その場合はソースディスペンサーと空き容器が渡される[8]。
2021年(令和3年)4月1日、日本串カツ協会が串カツの2度漬け禁止ルールを明文化し、「K2K公式ルール」として発表した[9]。
法的措置
[編集]飲食店においては、店が客に対して飲食物や飲食する場所を提供するという飲食物提供契約があり、客の「申し込み」と、店側の「承諾」のもと、初めて契約が成立する[10]。
店側がソースの「二度漬け禁止」というルールを明示したうえで客が同意した以上法的な拘束力が生じ、明示されていない場合にも「二度漬け禁止」という慣習が認められれば法的な拘束力が生じる[11]。店側と客の間には「二度漬け禁止」という合意がなされるため、「違反したら退店」と明示された店に入店し、破った場合にはそれまでの飲食代が損害賠償として請求されることがある[11]。
また、そのようなことが明示されていない場合においては、その店のソースの継ぎ足しの有無で措置が変わる。継ぎ足しを行っている店においては、例えば二度漬けすることでそのソースが使えなくなってしまい、さらに「ルールを守らない客がいて、店側もそれを容認している」という風評が立ち、客足を遠のける要因になるなど営業に支障が出ると店側が判断した場合には、退店させられる可能性が高くなる[11]。継ぎ足しを行っていない店においては重大な契約違反とはみなされず、退店させられる可能性は低い[11]。
なお、店側から退店を命じられたにもかかわらず従わない場合には、不退去罪や威力業務妨害罪が成立する可能性がある[11]。
諸文化
[編集]2020年5月7日にデイリーポータルZライターのほりが投稿した記事では、二度漬けしようとするカメラが感知し蓋を自動的に閉じることで、物理的に「二度漬け」が出来なくなる装置「ソニキン」の開発過程が書かれた[12]。また、株式会社チョコレイトが展開する「6秒商店」とFOLIOのコラボでも同様の機能を持つ機械「二度漬け防止ソース入れ」が紹介された[13]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 表記揺れとして、「二度漬け禁止」、「二度付け禁止」、「二度づけ禁止」、「2度漬け禁止」、「2度付け禁止」、「2度づけ禁止」がある。
出典
[編集]- ^ a b c 「二度づけ禁止はなぜ?「串揚げ」とは違うの?関西風串カツのあれこれ。」『近江やWabisukeブログ』近江や、2014年4月4日。2020年9月10日閲覧。
- ^ a b 「【二度づけ禁止問題、ついに解決】超有名串カツ店に学ぶ“追いソース”の裏ワザとは?」『LIVEJAPAN』2020年8月4日。2020年9月10日閲覧。
- ^ 「吉村知事「ちょっと寂しい」串カツ2度漬け禁止変更」『日刊スポーツ』2020年5月16日。2020年9月13日閲覧。
- ^ 石原亜香利「退去命令でウワサの串カツ 「二度漬け厳禁ルール」の理由って?」『ねとらぼアンサー』ITmedia、2015年7月1日。2020年9月10日閲覧。
- ^ a b SAI「「串カツ田中、二度づけ解禁」の噂を実地検証。アスパラの根元にソースがついた!」『ファビー』favy、2019年8月9日。2020年9月10日閲覧。
- ^ 「消えた串カツ2度漬け禁止「調子でないな」客戸惑い」『日刊スポーツ』日刊スポーツ新聞社、2020年5月16日。2020年9月10日閲覧。
- ^ a b 臼田勤哉「「串カツ田中」ソースを“かける”方式に変更、“新しい生活様式withコロナ”対応で」『食品産業新聞社ニュースWEB』食品産業新聞社、2020年6月21日。2020年9月10日閲覧。
- ^ a b c 「新しい生活様式 withコロナに対応!串カツ田中 ソース提供方法を変更します!」『お知らせ』串カツ田中、2020年6月12日。2020年9月10日閲覧。
- ^ “人と人の繋がりを育むSDGs推進の令和時代の公式串カツ 「一般社団法人日本串カツ協会」が『K2K公式ルール』発表”. atpress. (2021年4月1日) 2022年1月27日閲覧。
- ^ 「飲食店で勝手に出てくる「お通し」の代金や説明なく請求される「チャージ」は支払う必要あり?」『リーガラス』2017年3月23日。2020年9月10日閲覧。
- ^ a b c d e 大達一賢「串カツ店の「ソースの二度づけ禁止」…違反したら退店しなければならない?」『シェアしたくなる法律相談所』アシロ、2016年12月11日。2020年9月10日閲覧。
- ^ ほり (2020年5月7日). “串カツのソース二度づけ絶対させないマシンを作る”. デイリーポータルZ 2020年9月24日閲覧。
- ^ “【大阪編】意外っ!大阪の土地の2つの底力、その秘密を解く!”. FOUND (FOLIO). (2019年4月4日) 2020年9月24日閲覧。
関連項目
[編集]- 5秒ルール - 衛生に関する世界共通のルール。