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二重スパイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

二重スパイ（double agent、double secret agent）は、諜報活動において、組織（政府）のために敵組織（政府）をスパイしながら、その敵組織（政府）から逆に組織（政府）をスパイするよう雇われた人物のこと[1]。逆スパイともいう[2]。

二重スパイは一般に、敵組織に潜入したスパイによって新たに育成するか、スパイを寝返らせる。捕まえたスパイを処刑すると脅かして二重スパイに仕立てたり、二重スパイをリダブル・エージェントにする。二重スパイは情報を得られる部署に所属しているが、離反者はそうでないため、二重スパイとは呼ばれない。しかし離反するまで情報を得られる部署に所属していた離反者もいたりする。

二重スパイは防諜目的に敵側に偽情報を伝えることもよくある。その場合、以前から真実の情報を与えて敵側の信頼を得ておく。そうした情報は真実であるが役に立たなかったり、逆効果だったりする情報にしておく。[3]

日本ではよく混同されるが、「二重スパイ」と「逆スパイ」は別の存在で、2つの国（組織）に相手の情報を売り利益を得るのが「二重――」で、敵組織に仲間を装って潜入しネットワークを破壊したりするのは「逆――」。

二重スパイの例

[編集]
著名な二重スパイ
戦争 スパイ
コードネーム 		国籍・民族 忠誠心 潜入先 備考
清教徒革命
1639 – 1651 		サミュエル・モーランド イングランドの旗 イングランド イングランドの旗 イングランド王政復古 イングランドの旗 イングランド共和国  
リチャード・ウィリス卿 イングランドの旗 イングランド イングランドの旗 イングランド共和国 イングランドの旗 イングランド王政復古  
第一次世界大戦
1914 – 1918 		マタ・ハリ オランダの旗 オランダ ドイツ帝国の旗 ドイツ帝国 フランスの旗 フランス第三共和政  
第二次世界大戦
1939 – 1945 		マチルド・カレ（英語版）
"女猫" 		フランスの旗 フランス イギリスの旗 ダブルクロス・システム（英語版）  
ロマン・チェルニャフスキ（英語版）
"ブルータス" 		ポーランドの旗 ポーランド イギリスの旗 ダブルクロス・システム  
エディ・チャップマン（英語版）
"ジグザグ" 		イングランドの旗 イングランド イギリスの旗 ダブルクロス・システム ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア 第二次世界大戦中にドイツのアプヴェーアに潜入しMI5に情報を提供。ドイツから厚く信頼されていて、イギリス人で唯一鉄十字勲章を授与された。
ウォルター・ディケッツ
"セロリ" 		イングランドの旗 イングランド イギリスの旗 ダブルクロス・システム (1940-1943) ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア 元・イギリス海軍航空隊将校。アプヴェーアに潜入し、イギリス侵略計画を報告。"スノー"と共に暗躍。
ロジャー・グロジャン（英語版）
"フィド" 		フランスの旗 フランス イギリスの旗 ダブルクロス・システム イギリスのために働いた空軍パイロット
クリスティアーン・リンデマンス（英語版）
"キングコング" 		オランダの旗 オランダ ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1944) オランダの旗 イギリスの旗 SOE (1940-1944)
オランダ・レジスタンス（英語版） (1941-1944) 		 
アーサー・オーウェンス
"スノー" 		ウェールズの旗 ウェールズ イギリスの旗 ダブルクロス・システム  
ジョニー・ジェブセン（英語版）
"ジョニー" "アーティスト" 		ドイツ帝国の旗 ドイツ ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1939-1941)
イギリスの旗 MI6 (1941-1945) 		ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1941-1945) 反ナチのドイツ諜報将校でイギリスの二重スパイ。ドゥシャン・ポポヴを勧誘。
ドゥシャン・ポポヴ
"ダスコ" "トライシクル" "イヴァン" 		ユーゴスラビアの旗 セルビア人 ユーゴスラビアの旗 VOA (1939-1945)
ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1940-1941)
イギリスの旗 MI6 (1940-1945) 		ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1941-1945)  
イヴァン・ポポヴ
"ララ" "エースクラップ" "ドレッドノート" "ハンス" 		ユーゴスラビアの旗 セルビア人 ユーゴスラビアの旗 VOA (1939-1945)
ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1940-1944)
イギリスの旗 MI6 (1941-1945) 		ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1941-1945) ドゥシャン・ポポヴの兄弟。ゲシュタポ親衛隊中佐。
ジョン・ハーバートとニール・モー
"マットとジェフ" 		ノルウェーの旗 ノルウェー イギリスの旗 ダブルクロス・システム  
トール・グラッド
"マットとジェフ" 		ノルウェーの旗 ノルウェー イギリスの旗 ダブルクロス・システム  
フアン・プホル・ガルシア
"ガルボ" 		スペインの旗 スペイン人[4] イギリスの旗 ダブルクロス・システム  
ヨハン・ヴェンツェル（英語版） ポーランドの旗 ポーランド
〜1942

ソビエト連邦の旗 赤いオーケストラ

1942〜

ナチス・ドイツの旗 ゲシュタポ

〜1942

ナチス・ドイツの旗 ナチス・ドイツ

1942〜

ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦

ウィリアム・G・セボルド（英語版）
"トランプ" 		ドイツ帝国の旗 ドイツ
アメリカ合衆国の旗 アメリカ市民 		アメリカ合衆国の旗 FBI (1939) ナチス・ドイツの旗 アプヴェーア (1939) デュケインのスパイ網を参照
冷戦
1947 – 1991 		オルドリッチ・エイムズ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ソビエト連邦の旗 KGB アメリカ合衆国の旗 CIA (1957-1994)  
ジョン・ケアンクロス（英語版）
"リスト" 		スコットランドの旗 スコットランド人 ソビエト連邦の旗 MGB
ソビエト連邦の旗 ケンブリッジ・ファイヴ 		イギリスの旗 MI5 (1941-1944)
イギリスの旗 GC&CS (1942-1943)
イギリスの旗 MI6 (1944-1945) 		 
アンソニー・ブラント（英語版）
"ジョンソン" 		イングランドの旗 イングランド ソビエト連邦の旗 NKVD
ソビエト連邦の旗 ケンブリッジ・ファイヴ 		イギリスの旗 MI5  
ガイ・バージェス（英語版）
"ヒックス" 		イングランドの旗 イングランド ソビエト連邦の旗 MGB
ソビエト連邦の旗 ケンブリッジ・ファイヴ 		イギリスの旗 MI5 (1939-1941)
イギリスの旗 外務・英連邦省 (1944-1956) 		 
ドナルド・マクリーン
"ホーマー" 		イングランドの旗 イングランド ソビエト連邦の旗 MGB
ソビエト連邦の旗 ケンブリッジ・ファイヴ 		イギリスの旗 MI5
イギリスの旗 MI6 		 
キム・フィルビー
"スタンリー" 		イングランドの旗 イングランド
イギリス領インド帝国の旗 イギリス領インド帝国生 		ソビエト連邦の旗 MGB
ソビエト連邦の旗 ケンブリッジ・ファイヴ 		イギリスの旗 MI6  
ジョージ・ブレイク オランダの旗 オランダ ソビエト連邦の旗 KGB イギリスの旗 MI6  
オレグ・ゴルディエフスキー（英語版）
"サンビーム" "ノクトン" "ピムリコ" "オベーション" 		ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 ロシア イギリスの旗 MI6 (1968-2008) ソビエト連邦の旗 KGB (1963-1985) 1985年にモスクワで拉致。2ヶ月後、イギリスに脱出
マテイ・パベル・ハイドゥク（英語版） ルーマニアの旗 ルーマニア人 フランスの旗 DST (1981) ルーマニアの旗 DIE (1975-1982) 1981年にフランスへ亡命。
ドミトリー・ポリャコフ（英語版） ウクライナ・ソビエト社会主義共和国の旗 ウクライナ アメリカ合衆国の旗 FBI
アメリカ合衆国の旗 CIA 		ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 GRU 1988年に処刑。
ロバート・ハンセン（英語版） アメリカ合衆国の旗 アメリカ ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 GRU アメリカ合衆国の旗 FBI 映画『アメリカを売った男』は彼の事件に基づく。
オレグ・ペンコフスキー
"ヒーロー" 		ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 ロシア アメリカ合衆国の旗 NSA
イギリスの旗 MI6 		ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 GRU
スティグ・ベルイリン（英語版） スウェーデンの旗 スウェーデン ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の旗 GRU スウェーデンの旗 スウェーデン公安警察（英語版）（SÄPO） 1978年、反逆罪で終身刑。
中東戦争
1948 – 		アシュラフ・マルワーン（英語版） エジプトの旗 エジプト人 イスラエルの旗 モサド エジプトの旗 エジプト  
バスク紛争
1959 – 2011 		ミケル・レハルサ（英語版）
"エル・ロボ" 		バスク自治州の旗 バスク人 スペインの旗 スペイン防衛情報局（英語版）（CESID） バスク自治州の旗 ETA  
北アイルランド紛争
1968 – 1998 		デニス・ドナルドソン（英語版） 北アイルランドの旗 北アイルランド イギリスの旗 MI5
北アイルランドの旗 北アイルランド警察（英語版）（PSNI） 		アイルランドの旗 IRA暫定派
アイルランドの旗 シン・フェイン党 		 
"ケヴィン・フルトン" 北アイルランドの旗 北アイルランド イギリスの旗 ロイヤル・アイリシュ連隊（英語版）
イギリスの旗 イギリス陸軍情報軍団（英語版） 		アイルランドの旗 IRA暫定派  
フレディ・スカパティッチ（英語版）
"ステーキナイフ" 		イタリアの旗 イタリア イギリスの旗 FRU アイルランドの旗 IRA暫定派
アイルランドの旗 ISU 		 
ロバート・ナイラック（英語版） イングランドの旗 イングランド
モーリシャスの旗 モーリシャス生 		イギリスの旗 イギリス陸軍 アイルランドの旗 IRA暫定派  
対テロ戦争
2001 –
"エイプリル・フール（英語版）" 		アメリカ合衆国の旗 アメリカ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 イラクの旗 イラク  

リダブル・エージェント

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リダブル・エージェント（re-doubled agent）は、二重スパイとして捕まり、外国の情報機関をミスリードさせることを余儀なくされたスパイのこと。F.M. Begoumは、「元々の雇用主に二重スパイをやっていることがばれ、再び忠誠心を見せるよう説き伏せられたもの」としている[3]。

ヴィタリー・ユルチェンコはその例。

三重スパイ

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三重スパイ（triple agent）は、一方には二重スパイのふりをし、もう一方には完全に二重スパイであるスパイのこと。忠誠心の相手を変える二重スパイと違って、元の雇用主を裏切らない。また、敵対する3つの組織（政府）のために働くスパイを指すこともある。この場合、それぞれの組織はスパイが自分たちのためだけに働いていると考える。[要出典]

カトリーナ・レオン（英語版）、ドゥシャン・ポポヴ、フマム・ ハリル・アブムラル・バラウィ（英語版）など。

野坂参三はソ連のスパイであったとして日本共産党から除名されたが（野坂参三#最晩年の除名）、三重スパイあるいは四重スパイだったのではないかとの指摘がある（野坂参三#多重スパイ疑惑）[5][6][7][8]。

二重スパイが重要な役割を果たした事件

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関連項目

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出典

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  1. ^ “Definition of DOUBLE AGENT”. merriam-webster.com. 2020年5月1日閲覧。
  2. ^ “Double agentとは”. weblio英和辞典・和英辞典. ウェブリオ. 2020年5月2日閲覧。
  3. ^ a b Begoum, F.M.. “Observations on the Double Agent”. Central Intelligence Agency. 2020年5月2日閲覧。
  4. ^ García, Juan Pujol; West, Nigel (2011). “Childhood”. Operation Garbo: The Personal Story of the Most Successful Spy of World War II. Biteback Publishing. ISBN 9781849546256. https://books.google.com/books?id=KgOuAwAAQBAJ&lpg=PP1&pg=PT10 
  5. ^ 「解説座談会 野坂参三は何重スパイだったのか 立花隆/小林峻一/加藤昭」、小林峻一、加藤昭 『闇の男 野坂参三の百年』文藝春秋社、1993年、ISBN 4163479805、189-210ページ。
  6. ^ 伊藤律「三重スパイ 野坂参三」『文藝春秋』72巻1号、1994年1月、文藝春秋社、310-329ページ。 ※伊藤律による1981年10月25日付の手記を公開したもの。
  7. ^ 「野坂参三、三重スパイ説をめぐって」、ジェームス・小田『スパイ野坂参三追跡』彩流社、1995年、ISBN 4882023555、9-68ページ。
  8. ^ 「8. 四重スパイ・野坂参三」「9. 愛される共産党」西鋭夫、岡崎匡史『占領神話の崩壊』中央公論新社、2021年、ISBN 978-4-12-005453-2、566-574ページ。

外部リンク

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