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二重スリット実験

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

二重スリット実験(にじゅうスリットじっけん、: Double-slit experiment)とは、粒子と波動の二重性を典型的に示す実験ヤングの実験で使われたの代わりに1個の粒子を使ったものである。リチャード・P・ファインマンはこれを「量子力学の精髄」と呼んだ。

この実験は古典的な思考実験であった。実際の実験は1961年にテュービンゲン大学のクラウス・イェンソンが複数の電子で行ったのが最初であり[1][2]1回に1個の電子を用いての実験は1974年になってピエール・ジョルジョ・メルリらがミラノ大学で行った。[要出典]1989年に技術の進歩を反映した追試外村彰らが行なっている[3]

1982年、光子1個分以下にまで弱めたレーザー光による同様の実験が浜松ホトニクスによって行われた[4]

2002年に、この実験はフィジックス・ワールド英語版の読者による投票で「最も美しい実験」に選ばれた[5]

実験

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実験

電子銃から電子を発射して、向こう側の写真乾板[6]に到達させる。その途中は真空になっている。電子の通り道にあたる位置に衝立となる板を置く。その板には2本のスリットがあり、電子はここを通らなければならない。すると写真乾板には電子による感光で濃淡の縞模様が像として描かれる。その縞模様は波の干渉縞と同じであり、電子の波動性を示している。

この実験では電子を1個ずつ発射させても、同じ結果が得られる。すなわち電子を1度に1個ずつ発射させることを何度も繰り返してから その合計にあたるものを写真乾板で見ると、やはり同じような干渉縞が生じている。

二重スリット実験の結果

1999年にはアントン・ツァイリンガーが、電子や光子のような極微の粒子の替わりに、フラーレンという大きな分子を使って同様に実験した場合にも、同じような干渉縞が生じるのを確認している[7][8]。ツァイリンガーは次にウイルスによって干渉縞を生み出すことを目標としている[9]


解説

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一つ一つの粒子の検出が干渉模様を作る様子

量子力学において粒子は、空間に広がる波動性と空間の1点で検出される粒子性を示す。標準解釈では波の振幅の大きさが、測定を行ったときの粒子の検出確率を示すと解釈される。 この種の実験以前では複数の粒子が波を構成するという考えもあったが、空間上の光子数から複数の粒子が波を構成することは困難であるとも予想されていた[10]。 二重スリット実験では1つの粒子であっても粒子性と波動性の二重性を示すことを実証した。

尚、この実験結果は、ルイ・ド・ブロイの二重解の理論やデヴィッド・ボーム量子ポテンシャル理論、エドワード・ネルソンの確率力学等の確定した粒子軌道を想定した理論とも矛盾しない[11][12][13]。 このうち、二重解の理論や量子ポテンシャル理論で計算すると、初期の位置と運動量が決まれば粒子の軌道は確定し、お互いの軌道が交叉することはなく、右側スリットを通過した粒子はスクリーン右側に到達し、左側スリットを通過した粒子はスクリーン左側に到達する[11][12][13]。これらの理論においても、粒子の通過しない方のスリットを塞いだり、通過スリットを特定する検出装置を置くと、量子ポテンシャルに影響を与えるために干渉縞は消失する[11][12]

関連書籍

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脚注

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  1. ^ Jönsson C, Zeitschrift für Physik, 161:454
  2. ^ Jönsson C (1974). Electron diffraction at multiple slits. American Journal of Physics, 4:4-11.
  3. ^ A.Tonomura, J.Endo, T.Kawasaki, and H.Ezawa "Demonstration of single-electron buildup of an interference pattern" American Journal of Physics 57,117(1989)
  4. ^ フォトン(光子)の二重性”. Photonてらす. 2021年10月7日閲覧。
  5. ^ Physics Web
  6. ^ 外村らによる実験では、2次元の電子検出装置(蛍光フィルムと浜松フォトニクスで生産されたPIAS(photon-counting image acquisition system)の組み合わせ)である。(脚注の外村らの論文p.119)
  7. ^ Arndt, Markus, Olaf Nairz, Julian Vos-Andreae, Claudia Keller, Gerbrand van der Zouw and Anton Zeilinger, 1999. "Wave-Particle Duality of C60 molecules." Nature, v. 401, pp. 680-682. オンライン・コピー
  8. ^ Nairz O, Arndt M, and Zeilenger A. "Quantum interference experiments with large molecules." American Journal of Physics, 2003; 71:319-325. オンライン・コピー
  9. ^ ハンス・クリスチャン・フォン・バイヤー著、水谷淳訳『量子が変える情報の宇宙』 ISBN 9784822282653 「第25章 ザイリンガーの原理‐実在の根底にある情報」p.303"....ザイリンガーは。六十個や七十個の炭素原子からなる巨大分子、バッキーボールが波動性を示すことを明らかにしている。次の目標はウイルスだ。"
  10. ^ コリン・ブルース(著)和田 純夫(訳)『量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在』 講談社ブルーバックス ISBN 978-4062576000 p.35
  11. ^ a b c 白井仁人, 東克明,森田邦久,渡部鉄兵『量子という謎 = Quantum Enigma : 量子力学の哲学入門』 勁草書房 2012年 ISBN 978-4326700752 p.107-129
  12. ^ a b c 大崎敏郎量子ポテンシャル理論と確率力学核データニュース,No.76(2003)
  13. ^ a b 林久史波動関数のわかりやすい説明日本女子大学紀要 理学部 第24号(2016)

関連項目

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外部リンク

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