余目町個室付浴場事件
余目町個室付浴場事件(あまるめまちこしつつきよくじょうじけん)とは、山形県余目町(現:庄内町)で起きた、個室付浴場 (いわゆるソープランド) の営業について、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)違反に問われた事件[1][2]。
概要
[編集]山形県知事が、個室付浴場 (いわゆるソープランド) の開業阻止のためにおこなった、児童遊園設置認可の違法性が争われた[1][2]。
事案
[編集]訴訟に至るまでの経緯
[編集]1968年3月頃、被告会社の代表者は、個室付浴場の開業を目的として、同社の設立前に先立って、用地を購入した。
また、同年5月頃、山形県土木部建設課から建築確認を受けて、工事に着手した。
しかし、周辺住民による反対運動が起こり、山形県議会でも営業反対の議論がなされた。
これを受けて、町及び県の当局も、個室付浴場の阻止を図ることとした。具体的に、同県は、児童福祉法上の児童福祉施設の周辺200 mのエリア内での営業を禁じる風営法4条の4の規定によって、個室付浴場の営業を阻止する方針を立てた。 同年6月、当該方針に基づいて、同町は個室付浴場の建設予定地から134.5 m離れた町有地(旧・余目町立常万小学校跡地)を児童遊園施設(若竹児童遊園)とする設置認可申請を行い、同県知事は認可を行った。
児童遊園施設の設置後、同年7月に、被告会社が設立され、同社は、同県知事から、公衆浴場法に基づく公衆浴場経営許可[注釈 1]を受けた。8月8日、被告会社は、個室付浴場を開業した。
翌8月9日、山形県公安委員会は、被告会社に対し、風営法4条の4違反を理由として60日間の営業停止処分を下した。また、被告会社は、風営法4条の4違反の罪で起訴された[2]。
訴訟の経過
[編集]第一審(酒田簡易裁判所)は、被告会社を罰金7000円に処する判決を下した。
控訴審(仙台高等裁判所秋田支部)も、被告会社を有罪とした[2]。
上告審(最高裁判所第二小法廷)は、原判決を破棄し、被告会社を無罪とした[1][2]。
その後、被告会社は、県に対し、国家賠償請求訴訟を提起し、勝訴した[2]。
上告審判決
[編集]最高裁判所判例 | |
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事件名 |
風俗営業等取締法違反事件 (余目町個室付浴場事件) |
事件番号 | 昭和50(あ)24 |
1978年(昭和53年)6月16日 | |
判例集 | 刑集第32巻4号605頁 |
裁判要旨 | |
個室付浴場業(いわゆるトルコぶろ営業)の規制を主たる動機、目的とする知事の本件児童遊園設置認可処分(判文参照)は、行政権の濫用に相当する違法性があり、個室付浴場業を規制しうる効力を有しない。 | |
第二小法廷 | |
裁判長 | 栗本一夫 |
陪席裁判官 | 大塚喜一郎、吉田豊、本林譲 |
意見 | |
多数意見 | 全会一致 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
風営法4条の4第1項、風営法4条の4第3項、風営法4条の7第2項、風営法4条の8、児福法35条、児福法40条 |
1978年6月16日、最高裁判所第二小法廷(裁判長:栗本一夫)は、原判決を破棄し、被告会社を無罪とする判決を下した。
最高裁判所は、「本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法40条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであ」るとし、被告会社による個室付浴場の営業の規制を主たる動機、目的とする、児童遊園施設の設置認可処分は、「行政権の濫用に相当する違法性があ」るとして、無効であると判示した[1]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 個室付浴場も、公衆浴場法に定める「公衆浴場」に当たるため、同法2条に基づく経営許可が必要となる。