元禄の大古酒
いわゆる元禄の大古酒(げんろくのだいこしゅ)とは、長野県佐久市茂田井にある大澤酒造が江戸時代・元禄2年(1689年)の創業時に醸造し、現代に至るまで封印されていた日本酒(古酒、大古酒)。1960年代後半[注 1]、当時現存していた日本最古の日本酒として開封された[1]。
概要
[編集]元禄2年(1689年)醸造。1960年代後半[注 1]、坂口謹一郎立ち会いのもと開封され、その模様が日本放送協会 (NHK) 総合テレビの朝の情報番組『スタジオ102』で放送された[1][4]。容器は白磁(古伊万里[1])の壺で[5]、ひさご(ヒョウタン)の形をしており、その口は漆塗りの木栓(桐)で塞がれ、さらに上から漆をかけて完全に封印[6]。壺は木の箱に収められ、開封は禁忌と言い伝えられてきた[4]。壺の表面にできたヒビ割れからは中身がにじみ出し、その部分は黒褐色をした糊状に固化していた[7]。
中身は固形物が混じった液体で、色は帯褐灰色を呈していた。顕微鏡で分析した結果、酵母の残骸を確認。もろみを貯蔵したものと見られる[5](醪造り)。坂口謹一郎はその香りについて、スペインで出会った100年物のシェリーそっくりだと評した[6]。また、本郷信郎が試飲したところによると、「細やかな香り、味は軽やかで、のど越しはスッキリとしていた」(引用)という[7]。
大古酒は醸造試験所(現・酒類総合研究所)へと運ばれ、分析が行われた[4]。野白喜久雄がまとめた「元禄の酒(三百年古酒)の分析表」によると、「比重 1.025 (15 ℃ / 4 ℃),アルコール 26.45 ml / 100 g [注 2],直糖 6.02 g / 100 g,総酸度 6.76 / 10 g(こはく酸として 0.399 %),アミノ酸度 2.46 / 10 g(グリシンとして 0.185 %)」(引用)で、換算日本酒度は -35.2、エキス分 14.6 であった。アルコール度数の上昇は容器の材質上、水とアルコールとで透過性が異なることによる[5]。
大澤酒造は1981年(昭和56年)に酒母室を改装し、「大澤酒造民俗資料館」を開設。大古酒の容器を「秘蔵元禄の壷」として館内に展示している[1][8]。
その他の大古酒
[編集]- 寛文4年(1664年)の大古酒 - 長野県。1810年開封[9]。信濃国松代藩家老・鎌原桐山が賞味。佐久郡岩村田の酒といわれ、黒く甘かったと自著『朝陽館漫筆』に記している[10]。
- 宝暦6年(1756年)の大古酒 - 新潟県岩船郡関川村。1998年(平成10年)開封[11]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f まゆみ (2017年5月10日). “現存する最古の日本酒が眠る資料館。銘酒「明鏡止水」を醸す長野・大澤酒造に密着【後編】”. SAKETIMES (Clear) 2020年2月2日閲覧。
- ^ 江村隆幸、岡崎直人、石川雄章 1999, pp. 726、731.
- ^ a b 吉田元 1997, p. 66.
- ^ a b c d 本郷信郎 1995, p. 403.
- ^ a b c 江村隆幸、岡崎直人、石川雄章 1999, p. 731.
- ^ a b c 坂口謹一郎 1978, § 2.4.
- ^ a b 本郷信郎. “残されていた数々の熟成古酒(Kyodo Weekly 2008年6月16日号掲載)”. 長期熟成酒研究会. 2020年2月2日閲覧。
- ^ “大澤酒造民俗資料館・しなの山林美術館”. 長野県博物館協議会. 2020年2月2日閲覧。
- ^ 江村隆幸、岡崎直人、石川雄章 1999, p. 726.
- ^ 吉田元 1997, p. 68.
- ^ 江村隆幸、岡崎直人、石川雄章 1999, pp. 726–727.
参考文献
[編集]- 坂口謹一郎『古酒新酒』(Amazon Kindle版)講談社〈講談社文庫〉、1978年。ISBN 978-4061340961。
- 吉田元『江戸の酒 その技術・経済・文化』朝日新聞社〈朝日選書〉、1997年。ISBN 4022596694。
- 本郷信郎「長期熟成清酒の現況と今後の需要開発」『日本醸造協会誌』第90巻第6号、日本醸造協会、1995年、402 - 409頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.90.402、NAID 10029389725。
- 江村隆幸、岡崎直人、石川雄章「243年貯蔵酒の性状と成分について」『日本醸造協会誌』第94巻第9号、日本醸造協会、1999年、726 - 732頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.94.726、NAID 130004306464。
関連文献
[編集]- 坂口謹一郎『古酒新酒』講談社、1974年。
- 坂口謹一郎『古酒新酒』講談社〈講談社文庫〉、1978年。ISBN 978-4061340961。